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第六話 山村が介抱してくれる

千賀:やまむらぁ……

山村:ここが試される地か

 俺はへべれけになりながら、何とかベルトを外してベッドに倒れ込んだ。

 こんなに酔ったのは久々……と言うより、吸血鬼には酔うなんて概念がほぼなかった。

 唯一、我を忘れたのは星の注文したものだけで、あれも厳密には酔うとは違う現象だ。

 俺は二日酔いになってはまずい、と水差しから水を汲もうとして、ドスンと床に落ちた。


「何やってんだよ、お前は」


「やまむりゃ……?」


「そうだよ、お前の山村だよ。ったく、こんなんなるまで飲みやがって」


 山村は俺を抱えて椅子に座らせて、水を注いで少しずつ飲ませて来た。

 俺は素直に身を任せていた。


「なんだよ、あのグダグダ、グダグダとした惚気は。もっと要点をまとめろよな」


「ぴゃっ!」


 俺はびっくりして水を吹きこぼした。


「なんだよ」


「き、きいてたの?」


「そうだが。一部始終な。お前な、俺がどんな思いでッ! あれを見てたと思うんだ! 俺が見てたの知ってただろ?!」


 山村はブチギレて俺の髪をわしゃわしゃとしている。

 スンスンと匂いを嗅いで「汗の匂いが強いな」とかまで言い始めた。


「ふろ! ふろてつだって!」


「はぁあ? 嫌に決まってんだろ」


 山村は「知るかボケ」と俺を風呂に放り込んだ。

 ここはシャワーだけだったが、別に構わない。

 俺はふらふらと服を脱ごうとするが失敗し、「たすけて、やまむら……」と力無く風呂の壁に寄りかかった。


「あのさぁ、こんなん無理だろ! 耐えられんわ!」


 山村が声を荒げながら風呂に入って来たと思えば、俺の生理的に流していた涙をペロリと舐めた。


「ぐっ……」


 山村は必死に何かに耐えている。

 そして、恐る恐る俺のスーツのボタンを外し始めた。


「やべっ」


 山村は力加減を誤ったのか、ボタンを二つばかし飛ばしていた。

 山村がこんな事になるなんて珍しい。


 何とか俺が服から這い出して下着まで脱ぐと、山村はなるべく俺と視線を合わせない様にして服を回収して風呂場から出て行った。


「やまむらぁ……」


「後は頑張れよ、お前今いくつだよ」


「41」


「じゃ、頑張れるな。ここにいてやるから」


「ふぇぇ……」


 俺はのろのろと立ち上がろうとして、失敗し、壁に手をついた。

 振り向くと、山村は風呂の扉を開いてこちらを無言で眺めていた。

 あれ、いつもより山村の目の色が薄い気がする。


「わーったよ! 丸洗いだ! そこに丸くなれ、流すぞ!」


 山村は容赦なく丸まった俺にシャワーをかけて濡らしていった。

 すると、途中で山村の動きが止まった。


「千賀、悪いが俺はここまでだ、後は頑張れ」


 山村はすごくぎこちない動きでえっちらおっちらと風呂場から退出して行った。


「どうして……」


「とにかく今の俺には無理だ。頑張れ。タオル持って待っていてやるから」


 山村がそう言うので、俺はぐわんぐわんとする頭で何とかかんとか自分を丸洗いした。


「ほらよ、服着な」


 山村は俺にタオルを投げつけて、自分はそのまま椅子に倒れ込んだ。


「きっつ……あー、しんど……」


「やまむら、大丈夫?」


 俺がふらふらと山村に引き寄せられると、「まずは服を着ろ! 目の毒だ!」と押し飛ばされて尻餅を突いた。


「あっ、千賀……違うんだ、これは、その」


 山村は裸の俺に目を合わせない様にして、しどろもどろになっている。

 俺が「やまむら」と手を伸ばすと、凄い力で引き上げて立たせてくれた。


「やまむら、いつもと何かちがう?」


「そうだな、そうだよ」


 山村は諦めて俺に寝巻きを着せながらそう認めた。


「いんだよそれは。俺がお前のために選んだことだからな」


「それは」


「はい終わり! はいお水飲む!」


 山村は俺に飲みかけのコップを手渡して来たので、俺は躊躇わずに口をつけた。

 お水美味しい。


「あのさ、千賀。一つ頼みたい事があるんだが」


「なぁに、山村?」


「ぐっ……」


 俺がふわふわとした頭でふにゃふにゃと答えると、山村は首を押さえて蹲った。

 そしてすくっと立ち、


「俺に、お前の充電をさせてくれ」


 と言って、俺を抱きしめた。


「えっ、えっ?」


 俺はあまりの事に驚いて身動きが取れなくなった。

 山村の力は強いし、何故か山村が冷たい。

 俺が風呂に入ったから、外は寒かったのだろうか。


「やまむら、あったかい?」


「あぁ、死ぬほどあったかいよ」


 山村は名残惜しそうに俺の背中を撫でると、「またな」と一言告げて部屋から出て行ってしまった。


「やまむら……」


 俺は山村が一緒に寝てくれなかった事をとても残念に思いながら、一人寂しくベッドで寝た。


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