第五話 ゲテモノ料理を食べながら山村の惚気話をする
千賀:山村への愛が重い
山村:やめろおおおお!!
「すみません。あの、この街の町長から次の街に行く為の許可をもらうにはどうしたら良いですか?」
「あぁ、町長はいつも『アッシュグレイ』という居酒屋で飲み明かしているので、一緒に酒飲んで仲良くなれば許可がもらえると思います」
俺は教えてくれた冒険者ギルドの女性に礼を言い、村黒に心の中で別れを告げ、昼ご飯を食べる店を探した。
「ここなんかどうかな?」
俺が選んだのは、大学の側にもあったトンカツ屋だ。
サクサクでジューシーな揚げ物は、人間でないと口にできない贅沢品だ。
俺は喜び勇んでトンカツ定食を頼んだ。
「うまい!」
「いい食べっぷりだねぇ」
食堂の女将さんは俺を見てニコニコしている。
俺はヘビーなトンカツ定食をぺろりと平らげた。
もう40を超えた位から揚げ物は胃にもたれていたのだが、今日は普通に食べられた。
暫く、夜まで時間が空いてしまった。
俺はどうしようかなと地図を広げていると、女将さんがやって来た。
「どうした? どこか行きたいとこがあるのかい?」
俺は、町長と酒を飲むまでに時間がある事を伝えると、女将さんは「公園に池を見に行ってみるのもいいんじゃない?」と勧めてくれた。
「成程。ちょっと行ってみます」
俺は勧め通りに、広々とした公園に足を踏み入れた。
入り口に、まずはレンタル自転車屋があった。
「大体の人はここで自転車借りて行くよ」
俺は頷いて、自分のサイズに合った自転車を借りてみた。
「おおおおお!!」
自転車が通れる様に舗装されてはいたが、たまに人を振り落とす様なカーブや下り坂があり、俺は久々の自転車に振り回されながら公園内を回った。
途中、[クラウドジャンプ]と書かれた看板の先に、人が跳ねて回れる遊具が置かれていた。
年齢制限や、他に遊んでいる人がいない事を確認し、試しに少し跳ねてみるととても楽しくて、笑いながらはしゃいで遊んでしまった。
「山村……」
俺が楽しい事をする度に、山村の顔が過ぎる。
俺は何ともなしにメッセージに目を向けた。
[好きに楽しめ。それが俺にとっても幸せだよ、千賀]
「山村!」
俺は一際高く飛び上がった。
これはやはり、山村を連れてまた遊びに来るしかない。
そう心に誓った。
自転車でそのまま進むと、広々とした草原があった。
俺は何とも無しに、枕を出して寝てみた。
雲がゆっくりと、形を変えながら流れてゆく。
時折吹く風に、前髪が少し攫われてしまう。
本当に平和だった。
岩のオブジェや、田んぼ、水車等を見ていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
自転車を返してから、俺は繁華街をうろうろとする。
すると、一際賑わっている店を見つけた。
店名は「アッシュグレイ」。
「すみません、町長さんはいますか?」
「あぁ、町長さんに用事? あそこの頭が寂しい人がそうだよ」
お店の人ではなく、常連さんが教えてくれた。
「そうは言ってやるなって!」
「また髪の話をしている……」
やいやいと囃し立てる雰囲気は、あまり得意なものではなかった。
「君ぃ、ゲテモノとかイケる口だったりしない?」
開口一番、町長は俺に絡んできた。
「いけます」
サルまでは食べた事があったので俺はあっさり答えると、「じゃ、店変えるか」と町長はカードで支払いをし、俺を連れて店を出た。
「えっ」
「こっちだ」
右へ左へ、薄暗い路地を超えて行った先は、一風変わった店が待ち受けていた。
入り口には様々な動物の骨や羽根が飾られており、受付の奥には見た事もない程巨大な魚拓があった。
「おっ、町長じゃないっすか。今日はお二人で?」
「そうだ。君は個室とそうじゃないの、どちらがいい?」
突然そう聞かれた俺は戸惑いながらも「個室が落ち着きます」と答えた。
最近は、個室にできる店は個室にして、例えば新鮮なレバー等を楽しんでいるからだ。
悲しいかな、それ位しか、吸血鬼がまともに消化できるものが無いのだ。
「じゃ、いつもので」
町長はそう注文し、俺は町長について二階へと上がって行った。
「君、名前は?」
「千賀です」
「やっぱりそうか。隣町の町長から聞いている」
町長はおしぼりで手と頭を拭きながら答えた。
「グリフォン、連れて来てくれたんだって? ありがとね」
「いやいや、道すがらですから」
そんな話をしていると、店の人が料理を持って来てくれた。
「これドジョウ。なかなか良いでしょ」
「これはこれは」
ドジョウの卵とじと、当たり前の様にビールジョッキも二つ来た。
「で? 君はどうして旅をしているのかな?」
「俺は、魔王城で待つ山村に会いに行きます」
「おうおう、勇者様だったのか。そんじゃ、新たな勇者様の門出にかんぱーい!」
「乾杯」
俺と町長はジョッキを当てた。
「こっちは焼きキジと合鴨かな。好きなんだよな」
運ばれて来た焼き鳥の串を、町長は豪快に頬張った。
俺も試しに食べてみると、滋味と呼ぶべきか、凄まじい野生味と旨味が口の中に広がって、圧倒された。
「うまいだろ?」
俺は町長の姿に、亡き叔父を重ね合わせた。
叔父は、今考えればあの家族の兄弟とは思えない程にまともな人だった。
時折息が詰まりそうな俺を外に連れ出しては、両親に怒られていたのを覚えている。
それでも、黙って叔父と静かに過ごせる時間は、俺の大事な息継ぎの場所であった。
「はい、美味しいです」
そんな叔父はもういない。
八年前に脳梗塞で亡くなってしまった。
俺は、焼き鳥と叔父との思い出に挟まれて、また泣いてしまった。
「どうしたどうした、何か悲しいことでもあったんか?」
「いえ……あなたが死んだ叔父さんによく似ていて、それと、この焼き鳥があまりに美味しくて、俺は、受け止めきれなくなってしまっただけです」
俺は泣いていては楽しめる料理も楽しめないと、覚悟を決めてドジョウを食べてみた。
不思議な味に驚いて涙が引っ込んだ。
「でよ、何か最近の話してくれよ。好きな人とかいるんじゃないか?」
「す、好きなひ、人……?」
俺はあまりの情報量にパンクした。
町長は、「落ち着け落ち着け」と、カエルの丸焼きにレモンを絞って渡してくれた。
「カエル?!」
「そうだ。うめぇぞ?」
町長はカエルの脚の身をほぐしてパクパクと食べている。
俺も恐る恐る箸をつけて食べてみると、それは、確かに魚と鶏肉の間の様な、引き締まった身に確かな旨味を感じた。
俺はもう一口、落ち着く為にビールを飲んだ。
あぁ、久々のビールは美味しいな。
「俺には、大事な人がいます」
新しく来たモロッコインゲンの炒め物を突きながら、俺は話し始めた。
「最初はどうとも思っていなかった。未来ある若者だという位で。ただ、その人は俺を受け止めてくれた。困っていた俺にその身体を差し出してくれた。それが堪らなく嬉しくて、俺はその人が大好きになってしまったんです」
町長は俺の話を静かに聞いてくれている。
ただ酒を飲むスピードは落ちず、既にジョッキの半分が空になっていた。
「その人の事を知る内に、その人も一人の人間だと分かって来ました。特別ではない、人間。不器用で、自分を大事にできず、割り切れている様で中身には熱い思いが渦巻いている。次第に俺は、その人の内面にまで、惹かれていきました」
俺はそこで、ビールをもう一口飲んだ。
「だけど、俺が生きる為に、俺はその人を削ってしまう。その人の命を食べて、俺は生きている。それがどうしようもなく罪深くて、同時に、この身体が大事な人でできていると思うと、どうしようもなく嬉しくなってしまう。俺は、おかしいんでしょうか?」
「いやいや、全然だよ」
町長はそこで「すんませーん、キジ酒二合とホヤの刺身とヘビのスープで」と注文をした。
ヘビ?!
「その人は、別に嫌がっちゃいないんだろ? 何か言ってきてんのか?」
俺はちらりとメッセージを見ると、先程の言葉が目に入った。
「俺が楽しむ事が、その人にとっての幸せだと言っていました」
「そりゃ、愛されてるなぁ兄ちゃん。良かったじゃねぇか」
町長は「人の幸せを肴に酒を飲むのはうまい!」と楽しんでいた。
「良かったらもっと惚気を聞かせちゃくれねぇか?」
俺は、夜が更けるまで、町長に山村の素晴らしさを語って聞かせた。
「やまむらはぁ〜」
「そこまでにしといてくれ。お前の惚気に俺もお腹いっぱいだよ」
町長はそう言って、俺に肩を貸してくれた。
「おら、一名様ご案内だ。よろしく頼むぞ」
「あいあいさー」
町長は適当な宿屋に俺を放り込んだ。
「じゃ、明日から橋を通れる様にしとくから。お前と酒が飲めて楽しかったよ。またな」
そう言い残し、「二次会じゃ〜」と夜の街に繰り出して行った。




