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第一話:新生活 (三)

小豆島の店はどこも閉まるのが早い。うちの茶餐廳が夜の八時半に店を閉めるのは、これでもかなり遅い方だ。


仕事を終え、家へと向かう。


家は店からすぐ近くにある。土庄町の住宅街は路地が入り組んでいて、まるで迷路のようだ。よそ者が入り込めば簡単に迷子になり、二度と抜け出せないような、そんな場所である。初めてここへ物件を見に来たときも、どうしても道が覚えられなかったのを記憶している。それでも私は、ここの6階建てマンションの1室を自分用に購入し、さらに下の階のもう1室を「社員割引価格」で張楽茵に貸し出すために買い取った。もし彼女が仕事を辞めるようなことがあれば、他の人に貸すか、あるいは民泊にでもすればいいと考えてのことだ。


600平方フィート(約55平米)を超える広さがありながら、価格はわずか350万日本円ほどだった。東京や大阪などの大都市に比べれば、言うまでもなく桁違いに安い。初めて場所選びでここへ来たときは、その安さに驚かされたものだ。おまけに、小豆島にはまだまだ多くの荒れ地が格安で売りに出されている。


一人暮らしは確かに少し退屈なので、猫を飼い始めた。名前は「魚蛋仔フィッシュボール」という。


つみれは私の帰宅に気づくとすぐに足元へ寄ってきて、大きな目を丸くしてじっとこちらを見つめた後、またぷいと気ままに去っていった。


汚れた服を脱ぎ捨てて浴室へ向かい、湯船に浸かって一日の疲れを洗い流す。リビングに戻ってキャットフードを用意すると、匂いを嗅ぎつけたつみれが足早に駆け寄ってきて、おいしそうに食べ始めた。


冷蔵庫から缶ビールを取り出し、パソコンの前に座る。香港にいるお袋との、不定期のビデオ通話が始まった。


「そういえば、親父は? 今日は何か用事でもあるの?」


たまに親父もこの家族通話に参加するのだが、今日は姿が見えない。


お袋は「友達とご飯食べる約束があるからって、今夜は家で食べないのよ……」と言った。


「そうなんだ」と、私は特に気に留めず続けた。「兄貴や弟は最近どう?」


「お兄ちゃんは仕事がすごく忙しいみたいで、奥さんを連れて実家に帰ってくることも減ったわね。弟はデートのことで頭がいっぱい。あなたね、もういい大人なんだから、そろそろいい人を見つけたらどうなの!」とお袋が言う。


「そういうのは縁に任せるよ」と、私は生返事を返した。


「私だって早くお嫁さんの淹れたお茶が飲みたいわよ。日本の女の子は好みに合わないの? 三人兄弟の中で、あなたのことが一番心配なんだから」とお袋はなおも続ける。


「バカ言え、心配することなんて何もないって。一人のほうが気楽でいいよ」


前の彼女と別れて以来、次の恋愛に踏み出すことはなかった。別れて半年後、私は香港を離れてこの小さな島へやってきた。大半の時間を仕事に費やし、毎日接するのはほとんど客ばかり。新しい出会いなど、あるはずもなかった。


「ここ数日、仕事は大変じゃない?」お袋が話を戻した。


「いつも通りだよ。あ、でも今日、レスリー・チャン(張國榮)の日本人ファンに会ってさ。ちょっと驚いたな」


「へえ、そんな偶然もあるのね。あ、そうそう、お兄ちゃんが今度、家族みんなで四国へあなたを訪ねに行きたいって言ってたわよ」


「それ、もう何度も聞いてる。口ばっかりで一度も実現したことないじゃん」


「じゃあ、あなたはいつになったら香港に帰ってきて、私たち老夫婦の顔を見せてくれるの?」


考えてみれば、もう一年以上も香港に帰っていない。最後に帰省したのは去年のイースターだった。


「旧正月には帰ると思うよ」


その後もお袋と他愛のない世間話を続け、30分ほどでビデオ通話を終えた。


パソコンを閉じ、スマホをスクロールしてメッセージをチェックする。いくつかのグループチャットがあるものの、私が発言することはめったにない。香港の友人たちとは、どんどん疎遠になっていくような気がする。気がつけば、誰々が結婚しただの、誰々が昇進しただの……。たまに「おめでとう」とメッセージを送ると、日本での暮らしを羨む返信が来て、私は礼儀正しく「ぜひ遊びに来てよ」と返す。もちろん、今に至るまで、実際に訪ねてきた友人は一人もいない。


振り返ると、つみれはすでに私のベッドの上で丸くなって眠っていた。窓の外へ目をやると、いつの間にか静かに霧雨が降り始めている。私はこうした静かで、心地よい夜がとても好きだ。


突然、激しい言い争う声が響き、その静寂が破られた。やがて声はぽつりぽつりと小さくなり、それほど経たないうちに、またすべてが静寂へと戻っていった。

どこかの近所が、日常の些細なことで喧嘩でもしていたのだろう。日本人は内向的な性格だと言われるが、たまには家の中で喧嘩もする。それはどこの世界でも変わらない光景だ。


夏とはいえ、ここの気候は香港の蒸し暑さとは大きく異なる。夜になると少し肌寒ささえ感じられ、雨が降ったことで気温がさらに下がったため、今夜はエアコンをつけずに済みそうだ。羽アリが少し飛んでいるが、まあいい、電気を消してしまえば問題ない。睡眠の邪魔にはならないだろう。


つみれを起こさないよう、その隣にそっと横たわり、眠りについた。

かつて香港で、何かに追われるように過ごしていた日々に比べれば、私はこの平穏な暮らしを心から愛している。

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