○第九話 「会談」
第九話
「会談」
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サラによる千騎襲撃から1週間。両者の姿は深夜の閉館したプラネタリウムにあった。
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●旧プラネタリウム館●
落書きだらけの壁に、瓦礫やゴミが散乱する床。すでに廃墟に近いプラネタリウムの上映室の中で、まだ比較的綺麗な椅子に腰掛けた千騎はコンビニで買ったコップコーンをつまむ。
「ここも昔は人気の施設だったらしい。とはいえ、娯楽が多くなったことで客足が途絶え、3年前に閉館。その後はまともな管理もなくご覧の有り様。それが故に、こういう話し合いの場にはうってつけというわけだ」
一昔前のアメリカギャング風のスーツ姿の千騎が、隣に座るサラに説明を行う。説明を受けるサラの表情は少し不快そうである。
「女の子を呼ぶなら、もう少し場所を選んだほうがいいと思うけどね?防音とかなら高級料亭とか」
「こっちはただの学生なんだ。無理言うな」
千騎が食べ終わったコップコーンの袋を、背後に控えていた、日本人の少女にしか見えないスーツ姿のホムンクルス兵が回収する。
「彼女ら2人も<皆既日食>構成員かい?瓜二つだけど双子?」
「言う必要があるか?」
「興味本位だよ」
「…まあ、そんなもんだと思ってくれていい」
なお、この翼や武装のないホムンクルス兵は護衛用に作らせた特別製である。翼や武装は体内に隠されており、この日本であっても不審がられない仕様になっている。千騎達は【特務ホムンクルス兵】と呼んでいた。
「さて、先に物を貰っておこう。一応まだ敵対中ではあるんだ。さっさと和解するに限るだろう?」
「そうだね」
和解の金の入った封筒が手渡される。
「確認しろ」
「はい…紙幣は全て本物。金額も問題ありません」
そのまま千騎から、札束の入った封筒を渡されたホムンクルス兵が、一枚だけ取り出すと眼球のセンサーで偽造紙幣の確認と枚数の確認を終える。
「よろしい」
「え?一枚しか確認してなくない?」
「そういうもんだ」
千騎が手元のバックに金を収納する。
「さて、一応これで本題は終わった訳だが…」
「このまま解散はつまらないよ。雑談でもしないかい?例えば君ら<皆既日食>の行動理念とかね」
「行動理念?」
千騎が訝しげにサラを見る。サラとしても、千騎達の行動理念は要確認事項であった。味方になるか敵になるか。それすらも現状分からないのだから。
「んなもんねぇよ」
「…え?」
その言葉にサラは呆気に取られる。そう、<皆既日食>には行動理念らしい理念がなかった。強いて言うならば、千騎達が楽しむ。それくらいであった。
「組織とは理念がなければならないものか?同胞が同志が友人が組織という形を作ってはならないのか?それがスキルという特異なものを保有したことで変わらねばならないのか?」
「つまり、<皆既日食>は仲良しこよしのための組織と?」
「簡単に言えばな。まあ、全員この世界で生きづらい人間ばかりだ。排他的組織ではある」
千騎の言葉にしなかった「だからなるべく関わってくるなよ?」という意思を、サラは察する。とはいえ、はいそうですかと話を終わらせるわけにもいかない。
「それは日本では生きづらいということかな?」
「社会との不適合、性格と秩序の乖離、そして孤立。我々は己の居場所を己達で作っているに過ぎない。故に、<特務現象対策室>に与する気もない。連中との諍いは好きにやるといい」
「別に争いたくて争ってるわけじゃないんだけどね。まあ、独自路線を行くならそれもいいけど。今回は<特務現象対策室>も面子に泥を塗られたからそう簡単に引き下がらないと思うよ?」
「知ったことじゃないな。そもそも当人達の自認がどうであれ、テロリストと繋がりのある警察官を告発することは公的に悪か?秩序の守り手がテロリストと繋がりがあるのはまずいだろうよ。社会常識的に考えて」
「まあ、そこを突かれるとね。でも彼はあれでも海外のスキル保持者組織と上手く立ち回っていたんだけどね」
「そここそ知ったことないな」
千騎が肩をすくめる。
「それにもしも、それで我々に敵対するのなら我々は抵抗するさ。相打ち覚悟なら、国民の数百万人は道連れにできるからな」
「随分な自信だね?」
千騎が少し考え込む。
「うーん、まあ…名前だけならいいか。我々は兵器名【鉄の王冠】を保有してる。まあまあ破壊力のある兵器だ」
「アイゼンクローネ?なにそれ?」
アイゼンクローネ。日本語で鉄の王冠と呼ばれるその兵器は、種別とすると純粋水爆と呼ばれるものに分類される兵器であり…簡単に一言で言うならば"核弾頭"であった。
「詳細までは話す気はない」
「それはそうだろうね」
千騎は足を組み直す。
「まあ、干渉してこないならこちらも非干渉だ。俺らとて無闇な争いは望まない」
「そう上手く問屋が下すとは思えないけどね」
「その時はその時だ」
千騎が時計を確認する。
「そろそろ別の用事の時間だ。組織としての会談はここまで。個人的な食事くらいなら付き合うのはやぶさかじゃないが、以後は組織としての会談はしない」
「…個人としてだけでも上々だよ」
千騎が席を立つ。
「次は美味い飯でも期待しておこうか?」
「期待を裏切らないようにするよ」
特務ホムンクルス兵を引き連れた千騎が建物を立ち去る。
「さて、次の会談に向かうとしよう」
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●第三世界●
●サンシネマ●
サンシネマの裏手。裏取引のための談話室で千騎は黒人の女と会っていた。
「お初にお目にかかります。【ルル・ミネルバ】殿。ドン・ミネルバとお呼びしても?」
「ええ、勿論よ。ドン・センワ」
「ドンと呼ばれる程の者ではないのですが…それは置いておいて」
千騎が笑みのまま問いかける。
「<ミネルバ・ファミリー>の新進気鋭の若きボスが、私のような行商人もどきに何のご用でしょうか?」
そう、目の前のルルは<ミネルバ・ファミリー>のトップとなったばかりの、新進気鋭のギャングボスであった。
「随分と儲けているようね?映画の件も酒の件も耳に入っているわ」
「いやはや、そこまで噂になっているとは。お恥ずかしい限り」
「銅葡萄酒も悪くないけど、私は映画の方が好みね。特に【赤い王冠】は気に入ったわ。裏社会で生き抜く女ボスの恋愛劇。あれほど私に刺さる作品もないでしょうね」
ルルは柔らかい笑みで映画の感想を述べる。
「そこで、一つ提案があるわ。私の元でも映画館を作りたいのよ。今後は映画事業部を作って専門的に営業する気」
「映画館ですか?酒場よりは儲けがあまり出ないかと思いますが」
「こっちは設備面を高級志向にするわ。サンシネマでは庶民向け過ぎて行きずらい金持ちも多いから、客の取り合いにはならないでしょ?」
「成程、金のあるところから高額を取ると」
「ええ。そちらは質素で低価格。こちらは高品質の高価格。悪くない話でしょ?」
「まあ、こちらとしては問題ありませんが、どうしてわざわざこちらに話を?」
別に勝手にやったところで、客層の違いから問題ないはずである。しかし、ルルはわざわざ千騎との会談の場を持った。
「1つは合法的稼ぎが欲しいのよ。最近警察の動きが怪しくてね。密造酒だけじゃあリスクが高いの。その辺り、ドン・カポーネは危ない橋を渡ってると言えるわね。そして、この事業で私達は揉め事を起こして警察に目をつけられたくないの。<皆既日食>は良い関係でいたいのよ」
確かにサンシネマは合法である。まあ、その裏の人員が真っ黒な訳だが。
「2つ目は、ノウハウが欲しいの。映画の上映機に放映する映画作品。箱はあっても映画館の機能を満たす機材が一つもないのよ」
「つまり、上映機と作品を買いたいと?」
「ええ。一先ず1台の上映機と赤い王冠含めた2.3作品程度。3000共和国ドルでどうかしら?上映ノウハウを教えてくれるなら、3500共和国ドルほど上乗せしてもいいわ」
「ふむ」
千騎は少し考える。悪くない話ではある。
「サンシネマと同じ機材で良ければ、お売りいたしましょう。ただ、新品を手に入れられるか分からないので、手に入れられた場合は手間賃としてある程度の金額を追加していただけますか?」
「疑うわけではないけど、オンボロの機材を売る気じゃないでしょうね?」
「心外ですね」
ルルの疑いの言葉に、千騎が少し機嫌を損ねる。しかし、これは仕方ないことである。ただでさえ共和国と呼ばれるこの国は、取引の穴を突く詐欺行為が蔓延していた。裏社会ともなればさらにである。ルルが疑うのも仕方ない話であった。
「我々は良い商品を、良い相手に、良い金額でお届けしております。相手が明らかな不義を働いていない場合は、と但し書きが付きますがね」
「まあ、銅葡萄酒の取引は悪い話聞かないし、そんな真似したらドン・カポーネが黙ってないわね…OK。疑って悪かったわね。その条件でお願いするわ」
「それでは契約成立ですね。商品が到着次第、うちの構成員がノウハウと共に商品を持ってお伺いいたします」
「いい取引になることを祈るわ」
両者が握手を交わす。
「ところで、抗争はどうなったかご存知ですか?本人達に聞くわけにはいかないので、情報が限られておりまして」
「<ルノータ・ファミリー>と<シークル・ウィッカー>の抗争ね。かなりド派手にやってるわ。白昼堂々の撃ち合いよ。一般人に被害が出てないのが奇跡よ」
「よくそれで警察が動きませんね?」
「買収済みだからよ。まあ、一般市民に被害が出れば、流石にある程度動くとは思うけどね」
「ということは…」
「普通なら手打ちを考え始める頃合いね。これ以上は他のギャングから非難を浴びることになるわ」
「成程」
千騎が頷く。
「それにしても、ここまで不快にならずに話せるギャングのドンは初めてだわ。普通なら皮肉の10や20飛んでくるもの。貴方、とっても好印象よ」
「一応ギャング寄りのでも、本質は行商人のつもりなのですがね。商人としては相手に皮肉を飛ばすなど…それこそあり得ませんよ」
「すでに小規模ながら、武装した元ギャングの手下を雇ってる。それに部下を増やしてる話は私達の耳にも入ってるのよ?立派なギャングよ。まあ、商人気質が残ってると付け加えるべきかしら?」
「これは手厳しい」
実際のところ<皆既日食>は、非合法行為で収益を得て、さらに武装した人員を持つため、間違いなくギャングの扱いであった。
「自覚はした方がいいわよ?ドン・カポーネと取引があるから見逃されているけど、警察は間違いなく貴方達をギャングとして見てるんだから」
「…肝に銘じましょう」
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●第一世界●
●日本●
●コンビニ前●
買い物を終えた義景が、テンション高めにスキップしながらコンビニを退店する。
「あんた…」
「ん?テメェ…」
鉢合わせた少女に義景のテンションは真逆に振り切れる。
「これはこれは。幼馴染を裏切った裏切り者が、ノコノコと俺の前に出てくるとはな」
「久遠。少年院から出てきたの?」
「おいおい、どんな噂が広がってるんだ?ちっと家庭の事情で、フィリピンに留学に行ってただけだっつうの。んで、終わって帰国してきたと」
「最悪。2度と戻ってこなくてよかったのに」
「いや?戻ってきて正解だったぜ。こんな裏切り者だらけの場所に、味方無しってのは心細かったろうからな」
義景がニヤニヤと笑みを浮かべる。しかし、それは友好的な物でなく、敵対心剥き出しのそれであった。
「…千騎は転校生をいじめてたのよ。幼馴染の縁を切ったって当然じゃない?」
「その転校生の証言だけだろ?証拠がないから退学にもならず停学になった訳だし。それに逆に聞くが、千騎が転校生をいじめて何の利益がある?しかも、幼馴染のお前が近くにいて、バレずにそんな真似ができるのか?」
「そ、それは…」
「あー、成程成程。そういうことか」
義景は邪悪な笑みで言葉のナイフを突き立てる。
「お前らグルだった訳だ」
「な、何を言って…」
「転校生に虚言を言わせて千騎を追い込み、学校を退学にさせる。成程成程。それなら千騎の言葉をまるで信じなかったことにも納得がいく。理由は分からんが、どうせくだらない理由だろ?」
「そんな訳ないじゃない‼︎何の証拠があって」
「証拠?いらんだろ?証拠もなしに追い詰めて、千騎を停学に追い込んだお前ら相手に」
思わず少女が絶句する。
「ああ、でも感謝はしてるぜ?お前らは千騎にとっての楔だった。平和な日常っていう楔だった。それを一つ一つ取り除くのは爆弾処理よりも難しい。
ーーーだが、お前らは己でその楔を解いた」
ニタァと義景の口元が割れる。
「もう止まらない。止めさせない。アイツは俺ら側の人間であるべきだ。優しい平和な世界に浸って満足できる人種じゃねぇんだよ」
「な、何を言って…」
「お前らは平和の中で平和ボケして生きるがいいさ。まあ、日本にも過激思想のテロリストが入り込んでるらしいから、案外すぐに崩れる平和かもしれんがね」
義景がエコバッグから新聞を取り出す。そこには警視更迭の文字。
「テロリストと内通とは悪い警察官もいたもんだ」
「…ッ‼︎」
少女の顔が歪む。
「というか、いくら昔から正義感が強かったとはいえ、ここまで転校生をも盲信するのは疑問が残るがな。そうまるで」
ーーー催眠術でもかけられたみたいだな。
「ッ⁉︎」
「ま、俺の知ったこっちゃないがな」
義景が肩をすくめる。
「さて、俺はこれで失礼するぜ。こう見えてまあまあ忙しい身分でな」
義景はその場を立ち去った。
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エンド
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