○第十話 「軍拡」
第十話
「軍拡」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
旧F軍団こと<皆既日食>AI軍は軍拡の最中にあった。軍工場は全力稼働状態に近く、次々と兵器が生み出されていく。
さらに、電子精霊率いるAI軍団が<バベル>支配地域へと侵攻。支配地域を3倍近くに拡大した上、その地域のAI軍団を全て傘下に組み入れた。
支配地域を拡大してもなおばら撒かれる電子精霊の支配汚染。<バベル>は圧倒的劣勢を理解。現状維持での和平を申し入れた。
<皆既日食>はそれを快諾。合わせて対<マドラ・アドラー>戦線の同盟が結ばれることとなった。
*********
*********
●第四世界●
●国境都市地帯●
多数のAI軍団が戦列を成している。空中には旧<マドラ・アドラー>軍空中空母【ヨルムンガンド級空中空母】群と、地上には<バベル>軍ホバー式移動要塞【ヒスン・ジュンナ】群がホムンクルス兵達を周囲に侍らせている。
<皆既日食>のホムンクルス兵が、1人の青年に報告を行う。
「我が軍及び<バベル>より盟約の軍勢が合流いたしました。いつでも進撃可能です」
「ぜ、全軍進撃を開始してください。ま、<マドラ・アドラー>を交渉のテーブルに、つ、着かせるまで、も、猛攻を仕掛けます」
「かしこまりました、我らがご主人様」
人機連合軍が<マドラ・アドラー>支配地域への侵攻を開始する。単純戦力だけでも艦艇30隻、ホムンクルス兵20万。そう簡単に阻止できる戦力ではない。
ーーーさらに。
「で、電子精霊達」
「ギャハハ‼︎燃えろ燃えろ‼︎鉄屑に帰してやる‼︎」
「光よ」
支配地域は、わずかな被害と戦力の大幅拡大という結果を残しながら、炎が燃え広がるかの如く拡大していく。長年<マドラ・アドラー>に対して劣勢であった<バベル>が呆気に取られるほど、それはあっさりと進んだ。
「万歳‼︎ <皆既日食>万歳‼︎」
「我々人類に救いを‼︎」
これに呼応したのは各地に潜んでいた人類であった。彼ら彼女らは次々と<皆既日食>に加入した。ある者は救世主と呼び、ある者は神々の再臨の奇跡と偉業を讃えた。
「我々の軍門に降った人間達が我らがご主人様を神格化しております。神格化を加速させ、支配体制を確立させますか?」
「ふん、ほっておけ。だが全滅されても目覚めが悪い。支援だけはしてやれ」
「了解」
指示を受けたAI達は人類を人道的に"管理"した。つけ上がり過ぎず、しかし己の主人達に忠義を捧げるように。
「報告。大型都市【メルヘブン】【メッサー】【ドルメイ】の制圧完了。他中型都市10と小型都市20を占領。さらに電子精霊様により、我らの軍勢は40万にまで膨れ上がっております」
「そろそろ停戦の使者が来てもいい頃合いだが…こりゃあ、国家総動員戦争になるか?」
長期戦の不安を抱える中。AIである<マドラ・アドラー>は合理的判断を下した。
ーーー停戦を提案する。
ーーー条件は現在占領している土地の半分をそちらに割譲。残りの半分は返還。
ーーーそれと20年の不可侵条約と他AI対策同盟を求める。
「どうする?」
「ま、まあ、だ、妥当だと思う、よ?」
「まあ、いつまでもやるわけにはいかんわな」
開戦からわずかに1週間。3者により停戦と講和が結ばれ、同時に3勢力による対他AI同盟が発足。<マドラ・アドラー>と<バベル>に領土を囲われた<皆既日食>は安寧を手に入れることとなる。
「こりゃあ、完全に国家だな」
「今更だろ」
「だ、だね」
*********
*********
●第四世界●
●ムンパラ●
●大神殿●
<皆既日食>に降った人々から大神殿と呼ばれるその場所。そこは<皆既日食>の支配者3人のために作られた、まさに支配者達の居城である。
その居城の中にある大食堂にて、3人の支配者はコック業務専門のホムンクルス兵に作らせた食事をとっていた。
メニューは鹿肉のステーキにコーンスープ。それと試験的に人間達に作らせた硬いパンであった。
「まあ、致し方ないと言えばそれまでなんだが」
「めちゃくちゃ硬い。これが主食かぁ…」
「こ、小麦粉を水でこねただけのパンだからね。は、発酵もしてないし、食べられるだけマシだよ」
千騎はため息を吐き出す。
「こりゃあ、他の世界では売れんな。別のものを考えんとな」
そう、千騎達は人間達に労働という対価を支払わせようとしていた。しかし、そもそも人類文明が崩壊しているため、売れるものを作ったりする技術体系そのものが無くなっていた。
人間達にとって、この世界はそれほどまでに過酷であったのだ。
「君」
「はっ」
千騎の背後に控えていた中東系の少女の見た目をしたホムンクルス兵が、千騎の真横に移動する。
「後ほど酵母を買ってくるから、保護してる連中に与えて、発酵パンの作り方も教えてやれ」
「了解」
全員が食事を終えると食堂が暗くなり、3人の前にスクリーンが現れる。
「では、会議を開始いたします。先ずは第二世界から」
ホムンクルス兵のセリフと共に、スクリーンに第二世界の情報が提示される。
「現在、<皆既日食>第三世界構成員のロンド、ウック、ラナウェイが冒険者として活動中。補助戦力としてホムンクルス兵3機が同行。銃弾の消費が激しいようですが、今のところ大きな怪我等の報告は入っておりません。宝石の入手量もかなりの量になっております」
「誰だ?」
「ど、ドン・カポーネから雇った人達だよ」
「ああ、捨て石にされた連中か」
次に取引記録が開示される。
「商売取引に関してですが、塩や胡椒の売り過ぎで大幅な値崩れが起きつつあります。ただ、酒類の輸入に関しましては、アルターエゴ商会を通した獣人酒の輸入により、第三世界との取引分は確保されております」
「やっぱり売り過ぎか」
「つっても、あれが高値になりやすくて楽だったからなぁ」
「べ、別の商品を考えないと…」
「そこで提案なのですが、いっそのこと商会を作ってしまうのは如何でしょうか?」
ホムンクルス兵の提案に3人は少し考え込む。そこにさらにホムンクルス兵が情報を投げ込む。
「どうせ、売るだけではなく買う必要もあるのです。ならば、どこかを仲介せずに、原価で仕入れた方が得ではないかと」
「しかし、あちらで我々はよそ者。そう簡単に馴染めるとは…」
「馴染む必要はありません。値崩れを起こしているとはいえ、それは一時のもの。塩も胡椒も<皆既日食>しか安く手に入りません。安く提供する<皆既日食>直営の商会を無視はできない」
「…やはり無しだ。効率的ではあるが、恩がある<アルターエゴ商会>の商売敵にはなりたくないからな」
「かしこまりました」
ホムンクルス兵が提案を引き下げる。
「では、塩と胡椒を絞り、砂糖や石鹸などの商品を売るのは如何ですか?特に石鹸であれば、保護した人員を使って生産も可能です。ただ与えられて生きるよりは、彼ら彼女らにも仕事を与えるべきと考えます」
「ふむ。それは悪くないな」
「賛成だな。あとで買うものに砂糖も追加だな」
「そ、そうしようよ」
「では、人間達に依頼書を発行して、人員を集めます」
次に第三世界が表示される。
「第三世界に関しては、獣人酒とサンシネマの売り上げ合わせ、今月は30万共和国ドルに到達予定です。純利益は20万共和国ドル程度と見込まれます」
「思ったよりも儲かってるな。この調子で稼げるなら、サンシネマの正式な土地購入を考えてもいいな」
「それか、サンシネマを潰して新しいところでやるのはどうだ?」
「し、初代映画館は重要だよ‼︎れ、歴史だよ歴史‼︎」
「お、おう、そうか…」
「そういえば、映画の話した時めっちゃ乗り気だったな」
構成員の映像が映される。
「新たに元殺し屋【リー】とボディーガード経験の豊富な【ゾイ】を雇い入れました。それと元娼婦の【リンダ】【マートル】を表の人員として雇い入れました。リンダとマートルは販売員として精力的に働いております」
「え?いつの間に…」
「あ、わりぃ。報告忘れてたわ」
「よ、義景君…」
さらに映像が切り替わる。この第四世界の情報だ。
「現在保有艦艇60隻。ホムンクルス兵に至っては40万機を超えております。もはや、我々<皆既日食>は誰も無視できない一大勢力として確立しております。人間に関しては1108人が正式に<皆既日食>に参加。2001名が組織外協力者として働いております」
「我々<皆既日食>のおかげで殺されずに済んでるんだ。ある程度は働いてもらわねばな」
「食糧生産も軌道に乗っており、第四世界に関して不安事項は何もありません。
ーーー以上で報告を終わります」
ホムンクルス兵が壁際に控える。
「まあ、こんなもんか」
「一番問題の大きそうなのは第二世界と日本か。皮肉だな。生まれた日本が一番うまくいってない」
「それは挑発か?」
「いや、ただの感想」
3人の前に珈琲が置かれる。
「不思議だな。日本のコンビニで買ったインスタントコーヒーなのに、飲む場所ひとつでこんなにも味が変わる」
「お前、紅茶派じゃなかったか?」
「趣味も変わるさ。何せ人生がこんなにも変わるんだからよ」
「そ、それもそうだね」
ふっと腕時計を確認した真一が立ち上がる。
「あ!も、もう時間‼︎」
「ん?時間?」
「ほら、真一の最近の推しの」
「ああ、Vtuberってやつか。この前の猫キャラのゲーム配信は面白かった」
「俺はアイドル系の音楽メドレー良かったな。おすすめされた時は何をと思ったけど、案外悪くねぇ」
「そ、それじゃあ‼︎ぼ、僕はこれで‼︎」
真一が大急ぎで立ち去る。
「どこ行く気だ?アイツ」
「ほら、異世界だと日本の電波受信できないから、日本の自分の部屋で見る気だろ」
「そういえばそうだったな。しかし、Vtuberねぇ。真一がいなきゃまず関わりのない業界だなぁ」
「まあ、オタクだからな」
「そうなんだけどよ。だけど意外だよなぁ。ああいう奴ほどぶちんとキレると怖いんだからよ」
「そういえば、昔キレた真一に怪我させられてたよな?お前」
千騎の視線が、その時の怪我である義景の右頬に向かう。そこには縦線の古傷がある。
「いくら悪ガキの俺でも、弱気のいじめられっ子っぽい奴が、五月人形の日本刀持ってくるとは思わんじゃん?しかも、それを躊躇いなく振り下ろしてくるし」
「完全に躊躇なかったからな。つか、よく生きてたなお前」
「頭かち割られてもおかしくなかったからな。野生の勘に感謝だぜ」
「野生じゃねぇくせに」
「言えてる」
2人はゲラゲラと笑った。
*********
*********
●第一世界●
●日本●
●東京湾●
「んで、俺は俺で仕事と」
夜遅くの東京湾。タクシーで人けのない海岸に来たギャングスーツ姿の千騎は、ペットボトルに入った炭酸飲料を飲む。
「始めるか。
ーーー門よ」
東京湾の海底に異界門が開く。門の向こう側は第四世界の海軍基地である。
「東京湾で待機してろ。もしもがあるかもしれないからな」
千騎はニヤリと暗い笑みを浮かべた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エンド
最後までお読みいただきありがとうございました‼︎
ブックマークや感想をいただけると、とても励みになります。
次回も是非よろしくお願いします‼︎




