○第十一話 「台湾渡航」
第十一話
「台湾渡航」
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台湾。いや、中華民国は常に紅い中国こと中華人民共和国に狙われている。しかし、中華人民共和国は3つの理由から侵略を行えないでいた。
1つは米国の介入の恐れ。1つは自国の経済悪化。そして最後の1つ…1人の強力なスキル保持者による台湾の要塞化である。
台湾限定という制限と、膨大な宝石を使うという高コストを支払うことにより、台湾軍戦力の何倍の戦力であっても、それを海の藻屑に変える力を持つ。そんなスキル保持者であった。
そんな台湾に突如として密輸されたものがあった。後に他の宝石と呼び分けるため、【黒市宝石】と呼ばれることになるそれ。それは台湾にとって軍事物資たる逸品であった。
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●第一世界●
●台湾●
●とある執務室●
『報告いたします』
『例の宝石の件だな?話せ』
報告を始める若手女軍人の報告を、上官たる軍服姿の中年男の指揮官が促す。
『密輸の仲介者であった日本ヤクザとの交渉に成功しました。生産元の組織の幹部が交渉のために明日入国するとのこと』
『よし‼︎あの宝石があれば、我々の国防力はさらに高まる。おまけにスキル行使に必要となる宝石代もかなり節約できる。安い上にスキルの能力を向上させる宝石がブラックマーケットにあるとは、蒼天の霹靂ってやつだな』
『日本の諺ですね』
『ああ。それで交渉場所は?』
『場所は林森北路。店はこちらに任せるとのこと。一応、名義を借りているマフィアの名前で、まあまあのランクの店を取りましたが』
そう、本来あってはならないことであるが、ブラックマーケットに踏み込むため。台湾軍は台湾マフィアと秘密協定を結び、その名義を使っていた。契約上は軍の名前は完全に隠蔽されている。
『日本の組織だから、日本人街の林森北路は適切だな。どの便で来るか分かるか?』
『一番可能性が高いのは、朝5時半頃出発の羽田発桃園国際空港行きの飛行機でしょうか?しかし、特に最近は日本人旅行者も多いので身元の特定は難しいかと』
『まあ、無理に踏み込んで取引を台無しにされても困る。日本人のことだ。しっかりと誠意を持って取引をすれば、向こうから我々を裏切ることはあるまい。奴らはそういう民族だ』
女軍人は報告に幾つかの事項を追加する。
『ついでに、補足として彼方の人員は…交渉役1名、その護衛と補佐2名とのことでした。交渉役は【K】と名乗っております』
『Kか。そういえば組織名を聞いてなかったな』
『Kの組織で良いと。正式名称を出す気はないようです』
『徹底的に姿を隠すつもりか。まあいい』
中年男の指揮官が机の脇に置かれたアタッシュケースに目をやる。
『金はある。スパイを摘発した時に、そのスパイが横領してた金だ。帳簿上には載らない金だ』
『黒い取引には黒い金で…ということですね?』
『警察とは話がついている』
紅い中国の軍事的威圧は日に日に増している。台湾有事が起きるのも時間の問題だ。
『我々には時間がない』
『…』
台湾。いや、中華民国は備えなければならない。いつか押し寄せる紅き洪水に。
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●第一世界●
●台湾●
●とあるホテル●
「思ったよりも広い部屋だな」
荷物を置いた千騎が、部屋の中を確認してから呟く。
「南京虫もいないみたいだな」
「な、南京虫?」
「あー、最近だとトコジラミ?とか言うんだっけか?海外だと注意した方がいいぞ。まあ、台湾ならいなさそうなイメージだけどよ」
「あ、あれ?義景君って、台湾よく知ってるんだっけ?」
真一の問いかけに、義景は懐かしそうに答える。
「小学生の頃2回ほど来てるぜ。まあ、あの頃は色々とうまくいってたからな。土産も渡したろ。ショットグラス」
「あ〜あったな。今でも棚にあるぜ」
「それより、これからどうする?取引までかなりの時間があるぜ」
義景は千騎と真一に問いかける。
「て言われてもな。正直、航空機のチケットの手配とかでギリギリで、台湾を調べる暇もなかったからな。観光地も何もわからん。強いて言うならパイナップルケーキが有名ってところか?」
「う、うん。ぼ、僕もあまり知らないな…」
「まあ、そうか…一先ず、昼飯行くか」
3人が食事を取るためホテルを出る。そして裏路地に入った瞬間であった。
「っと」
『ッ⁉︎』
突然走ってきた小学生くらいの少女が、路地に入った千騎にぶつかる。
「大丈夫か?怪我ないか?」
「千騎、翻訳機」
「あ、そうだな」
千騎が喉を触ると、一瞬一部が虹色に輝く。これぞAIの作り出したシール型翻訳機である。千騎がそのスイッチを入れたのだ。
『あー、大丈夫かい?言葉は通じるかい?』
『は、はい。すみません、急いでるので』
少女の後を追うように、数人の明らかにカタギではない男達が現れる。
『もうこんなところまで…‼︎』
『チッ、一般人か』
男達が懐から拳銃を抜く。
「穏やかじゃねぇな」
『え?』
千騎達が少女の前に出る。
『邪魔する気か?』
『勿論。悪党とはいえ、自分よりも年下の少女を見捨てるほど外道には堕ちてないんでな』
『一般人のくせによく吠える。なら、その対価は命で支払ってもらおう』
男達の1人が発砲する。銃弾が義景に吸い込まれるように着弾する。
『…な、に?』
義景が被弾したところから、ボボボッと炎が漏れ出す。出血どころか悲鳴すら漏れてこない。
『悪いな。俺も一般人じゃねぇんだよ』
義景の両手が炎に包まれる。
『我が身は炎の上位精霊‼︎我こそが炎‼︎』
ーーースキル【炎の上位精霊化:Lv6】。それが義景のスキルである。己を炎の上位精霊へと転換する能力であり、その身は炎で構成されているため、銃弾などの物理攻撃は無効化する。
ある意味、一番無駄な相手に射撃を行っていた。
『事情は知らんが、こんなところで拳銃を取り出すような相手だ。まともな連中じゃないだろ。君はどこかで隠れてるといい』
『は、はい』
少女が建物の影に隠れる。
『スキル保持者だと?国民党軍の連中か?』
『悪いな。国民党じゃなくてただの悪党だよ』
千騎が両手に光の短剣を生み出す。
『た、ただ、げ、外道じゃないけど、ね』
真一が周囲に水魔法で生み出した水球達を待機させる。
『スキル保持者が3人⁉︎』
『お前らも運がないな。ただの日本人旅行客なら、こんな目に遭わずに済んだのによ』
『舐めるなよ小日本人‼︎』
リーダー格らしき男が両手に炎のような赤い気を纏う。
『俺とて【気功術:Lv3】のスキル保持者‼︎3人相手だろうと問題ない‼︎』
『スキル保持者とやり合うのは2回目だな。さて、Lv3がどれほどのものか。是非見せてもらおうじゃないか』
千騎が身体能力任せに男達の集団に踏み込み、男の1人の首元に光の短剣を当てる。
ーーー≪放電≫。電気魔法が光の短剣から男の首に流れる。男が悲鳴すら上げられずにその場に倒れる。
「(光魔法の方が使い勝手いいが、一撃で殺しちまうからな。気絶させるなら電気魔法が便利だ)」
『(なんだコイツ⁉︎党の精鋭たるこの俺が目で捉えられなかった⁉︎)』
瞬時に動き出そうとする男達に、千騎が追撃をかける。
ーーー≪超放電 ≫。
周囲に電撃が放たれ、感電した男達がその場に次々と倒れ伏す。一応生きている…一応は。
『流石スキル保持者。雑な範囲攻撃は回避するか』
『くっ、電気系のスキル保持者か』
電撃から逃れたスキル保持者の男が、冷や汗を流しながら構えをとる。
『こちらは3人。そちらは1人。しかも、手下は全員気絶。まだやるのか?』
『無論だ。命令は絶対だからな』
『チッ、無駄に強硬な…』
スキル保持者の男が千騎に距離を詰める。近接格闘戦である。千騎が身体能力で力押ししようとするが…。
『コォオオオ‼︎』
『ごふっ⁉︎』
男の方が技術が上であった。おまけに気を纏った両手は電撃を通さなかった。
ーーー故に、腹に手を当てられた瞬間。一気に気を送り込まれ、千騎の内臓が破壊される。
『がはっ⁉︎ごふっ⁉︎』
内臓の破壊という事態にしかし、千騎は頭を冷静に回す。今は血反吐を吐きながらも回復すべしと。
ーーー≪慈悲深き 聖癒≫。
『ごふっ…ふぅ、やってくれたな。ぺっ』
内臓をなんとか回復させた千騎は、血を吐き出すと光の短剣を構え直す。
『回復スキル、だと?』
『珍しいか?まあ、スキルの副産物の副産物だがな。クソ、口の中が血の味で気持ち悪りぃ』
千騎が短剣を周囲に振るうと、十数本の光の短剣が生み出される。
ーーー≪神聖なる短剣≫
『もう、手加減はねぇ』
空中に待機していた光の短剣がガトリングガンのように発射される。おまけに、光の短剣は発射されると同時に生み出されていく。
『ガァアアア‼︎』
驚くべきことに、その全ての短剣を男はひたき落としていく。しかし…。
『ぐっ、がっ⁉︎』
3本の短剣を捌ききれず、左肩両足に1本づつ刺さる。動きが封じられた。
『チェックメイト、てところか?』
地面に倒れた男の喉元に、千騎が光の短剣を突きつける。周囲には光の短剣が待機しており、妙な動きをすれば蜂の巣は確実であった。
『ぐっ…』
『安心しろよ。殺しはしねぇさ』
電撃で男を昏倒させた千騎が、真一に声をかける。
「ここから警察署までの距離は分かるか?」
「ま、まあまあってところだね。よ、呼ぶ?」
「ああ、悪いが呼んできてくれ」
「り、了解」
真一が立ち去ると、千騎が義景に視線を向ける。
「義景、水くれ。口の中が血だらけで気持ち悪い」
「おう」
ペットボトルの水を受け取った千騎が、水を一気に口に含みガラガラとうがいする。
「ぺっ…クソまだ気持ち悪い。あの気功術とかいうの、光魔法の回復がなかったらやばかったな」
「おいおい、大丈夫かよ」
「一先ずだがな。しかし、成程…少し自身の力を過信していたかもな」
「いい教訓じゃねぇか。んで、どうする?この連中」
千騎が肩をすくめる。
「台湾警察に投げちまえばいい。どうせ、こんな真似をする連中だ。まともな連中なわけないさ」
「ギャングか半グレか、それとも共産党の工作員か…どちらにしろ国に任せてしまった方がいいわけだな」
「それより銃を回収しておけ。万が一電撃に耐性があると困る」
「だな」
義景が拳銃やナイフを手際よく回収していく。
「紐買ってしばっておくか?」
「警察が来る方が早いだろ。それにこれ以上抵抗するなら殺して異世界に投げておくだけだ」
しばらくすると警官達がやってくる。
『こいつは…共産党の』
警察がボソリと呟いたのを聞かないフリをし、千騎が代表して事情を伝える。
『成程、助かりました。スキル保持者のようですからどこかの組織に所属しているのでしょう。お礼というわけではありませんが、身元の確認とかはしません。それが双方のためでしょう』
『こちらとしても、子供を助けただけでそちらの争いにまで首を突っ込む気はありませんので。では、我々はこれで』
3人は少女を警察に託し、その場を離れる。
『あ、ありがとうございました』
少女のお礼に3人が片手で答えると、そのままタクシーに乗り込み、移動を開始する。
『台北駅まで頼む』
タクシーが台北駅に向かう。
「台北駅に行ってどうするんだ?」
「あそこなら何かはあるだろ?つか、飯食えるか?」
「問題ない。内臓は完全に回復済みだ。どちらかというと血の補充のための飯が必要だ。多少金がかかってもいいから、大量に食うぞ」
「り、了解だよ」
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エンド
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