○第十二話 「中国破壊」
第十二話
「中国破壊」
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林森北路。そこは台湾人からも日本人向け観光地と認識されている日本人向け歓楽街である。
そんな場所の元ホテルの廃墟にて、マフィアの名を借りた中華民国軍と<皆既日食>の取引が行われようとしていた。
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●第一世界●
●台湾林森北路・元ホテル●
『初めまして、Kと申します。本日はお招きいただき、感謝いたします』
『取引担当の【林】と申します。本日は時間を割いていただき感謝します』
握手を交わす、質素な仮面をしたギャングスーツ姿の千騎と、スーツ姿の中華民国軍指揮官の中年男。林と千騎がソファーに腰掛ける。
『それにしても、4人ほど人数が増えているようですが…』
『台湾に到着して早々に、少々問題に巻き込まれましてね。一応追加の護衛です。お気になさらず』
部屋の中には特務ホムンクルス兵4機が追加で警備に当たっていた。昼間の事件による対応であった。
『まあ、その方が安全ですね。特に今は』
『それはどういう…?』
『本当はマフィアの名を語って、宝石の取引をゆっくりと進めるつもりでしたが…どうやら情勢がそれを許してくれないようなのです』
『名を語る?一体どういう…』
千騎の不思議そうな顔に、林が敬礼で答えを叩きつける。
『自分は中華民国陸軍少将です』
『は?し、少将?というか、陸軍⁉︎』
千騎が思わず腰を上げるが、林がそれをジェスチャーで抑える。
『貴方達を摘発に来たわけではありません。警察とも話は済んでます。軍は貴方達と宝石の取引をしたいのです。それも大至急、大量に』
『…随分とお急ぎですね?事情をお伺いしても?』
『勿論』
林が説明を始める。
『スキル保持者のことはご存知で?』
『ええ、勿論』
『我が国の独立は、スキル保持者によって守られてきました。限定条件下において絶対の力を発揮するのスキル保持者です』
「(成程。特定条件下という制約のあるスキルもあるのか)」
何気に真実を聞いた千騎が話を続けさせる。林が言葉を続ける。
『スキルには宝石を使う。その宝石は貴方達の黒市宝石が最も効果を発揮しています。国防のために必要なのです』
『読めてきました。だから、裏でしか取引をしていない我々に接触するために台湾のマフィアを名乗ったと?』
『その通りです。しかし、状況が変わってしまった』
林の表情が曇る。
『日中にスキル保持者の身内が襲われました。共産党の工作員のやったことです。幸い無関係の勇気ある観光客のおかげで、何とか無事でした。
ーーーしかし、先程共産党の海軍の大艦隊が台湾に向けて出航したとの情報が届きました。戦争に陥る可能性があります』
『艦隊ですか』
『はい。迎撃には黒市宝石が大量に必要です』
千騎にとっては、ある意味納得の理由であった。
『成程。事情は理解できました。しかし、こちらとて商売。中立的にお話しさせていただく』
『勿論。一先ずルビーとサファイアを30組ほどいただきたい』
『30ですか…』
用意できない数ではなかった。しかし、千騎もそれなりに取引をこなした商人としての顔も持っている。弱みのある相手につけ込めるくらいには。
「(ふむ。とはいえ、弱みにつけ込むというのは、利益の代わりに反感を買う。ここはどうするべきか…)」
少し考えたあと、千騎が頷く。
『いいでしょう。それでは1カラットづつの1セット150万円でいかがでしょう?勿論、台湾近海までの輸送費は込みの値段になります。支払いは日本円でお願いします』
『4500万円。輸送費込みならば的確な金額ですね』
『その様子ですと早急にご入用でしょう。明日の朝にはお届けいたしましょう。お届け先はどちらに?』
『近くに漁船を出しますので、そちらにお願いします』
『かしこまりました』
両者が握手を交わす。
『ところで、これで我々と中華民国は取引相手であり、その取引を邪魔する相手は敵と捉えても問題ありませんよね?』
『それは、中華人民共和国のことですか?』
『ええ、我々も少々苛立っているのですよ。取引相手に侵攻を仕掛けようとし、あまつさえその土地で人攫いのような真似をしようとする。
ーーー我々は悪党だろう。しかし、外道ではない』
それは千騎達の僅かな、本当に僅かに残ったプライドであり、矜持であった。
『だから、もしも戦争になるのであれば、我々も参戦しましょう。これは軍事同盟と思っていただいて構いません。対中華人民共和国戦線です』
『ふっ、貴方達にどこまで出来るか分かりませんが…いえ、それなら宝石を安くして欲しいですね』
『残念ながらそれは別の話ですので…その代わりにですが』
千騎が合図を送ると、真一がノートパソコンを操作し始める。
『彼ら彼女らの電子システムを破壊してやろうかと』
『え?』
『我々は台湾と日本で見届けましょう。中華人民共和国が構築した電子システムが破壊されるその様を』
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その日。中華人民共和国艦隊が台湾の威圧…または侵略のために軍事演習を行おうとしていたその日。
ーーー中華人民共和国政府電子システムは大規模なハッキングを受けた。
『クソッ‼︎全システムが反応を示さない‼︎データはどうなってる⁉︎』
『データはシステムごと削除されてる‼︎おまけに軍だけじゃなくて、公安やその他のシステムもやられてる‼︎国民の統制にも支障が出てる‼︎』
『何だと⁉︎秘密情報が流出してる⁉︎止めろ‼︎何としてもだ‼︎』
軍事システムにまで侵入したそれは、軍官双方のシステムやデータを破壊していった。さらに最悪だったのが、軍の機密情報まで大量に流出したこと。
軍事行動どころか内政にも支障を出し、統制のために使うシステムまで破壊された。それは中華人民共和国の急激な治安の悪化と、地位の失墜を招いた。
中華人民共和国は国家非常事態宣言を発令。その様子はもはや戦時そのものであった。
ーーー中華人民共和国はまだ知らない。
ーーーこれらの破壊工作が、たった1人のスキル保持者によって引き起こされた災害であることを。
ーーー知る日が来るかは、神のみぞ知る。
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●翌朝●
●第一世界●
●台湾●
●とある執務室●
『少将‼︎』
『遅いぞ。もう耳に入っている』
林の机の上には多数の新聞が並んでいる。その全てが中国の悲劇を書き殴っていた。
『これがKの力…』
『こちらのスパイの報告では、核兵器の発射コードも破壊されており、再度発射できるようになるまでかなりの時間がかかるだろうと…』
『なんという…は、はは…』
林が座り込む。
『我々はとんでもない相手と軍事同盟を結んだらしい。凄腕ハッカー集団を抱えてるとは思わなかったが』
『今後いかがなさいますか?黒市宝石の取引がある以上は敵対はできませんが…』
『敵対?ありえんな。全面的に友好姿勢だ‼︎奴らを特権で雁字搦めにする‼︎ 黒市宝石だけでなく、これほどの電子戦を行える同盟相手がいるのは心強い‼︎ヤクザだというのは残念だが、情勢的にそんな贅沢は言えん‼︎』
『はっ‼︎その通りです‼︎』
林は高速で懐柔策を考える。
『ところで、Kは?』
『グルメを楽しむと言ってました。我が国の美食で楽しんでいただけると良いのですが。日本人の一部は八角が苦手と聞きますし』
『ふむ。まあ、それは我が国の料理人達の腕を信じよう』
そういえば、と林が若手女軍人に問いかける。
『重要な宝石の方は?』
『回収しました。大変素晴らしい品質であるとのことです』
『これで血迷って共産党軍が攻めてきても何とかなるな』
林が安堵の息を吐き出す。
『…共産党連中はどのくらい動かないと思う?』
『正確なものまでは。まだ翌朝ですし』
『核も奪われ、統制を失い、積み上げたデータとシステムを失った。これは膨大な損失だ。そう容易く取り戻せるものではない』
林は真顔で不安なことを告げる。
『共産党は迂闊に軍事行動を起こせなくなった。となれば友好を打ち出した外交政策を行う可能性がある』
『我が国を含めた南シナ海諸国の団結が必要になりますね』
『その通りだ。騙されてはならない。
…まあ、それは我々軍ではなく、外交官の仕事だがな』
林が窓の外を見る。
『一先ず、私が現役の最中は安全。そう信じたいものだな』
『その為には…』
『ああ、Kにはそれなりの土産を持たせてやれ。我々を気楽に見捨てられない程度にはな』
『何を用意しましょう?』
『ム、そう言われると…金か?』
『確かに手早いかとは思いますが』
『ビジネスライク過ぎるか?では何が…』
『拠点を与えては?』
『拠点…建物と土地ということか?』
林の問いかけに、若手女軍人が頷く。
『ええ、彼らも我々と取引する以上は必要ですし。この際ドーンと』
『ふむ。軍で確保している土地ならばまあ』
こうして、千騎達に拠点が与えられることとなった。
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エンド
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