○第五話 「取引」
第五話
「取引」
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<ルノータ・ファミリー>と<シークル・ウィッカー>の抗争が開始された。街のあちらこちらで抗争による死者が発生していた。
攻勢側は意外にも奇襲を受けた<ルノータ・ファミリー>側であった。過激すぎる猛攻により本来の計画通りの攻撃ができずに、<シークル・ウィッカー>は防戦一方に陥っていた。
そんな中で、攻撃ではなく厳重な防衛を行なってきた場所が存在していた。それは倉庫であった。千騎達に貸し出された拠点であった。
4人の新人構成員達が守る倉庫には、多数の酒が運び込まれていた。
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●第三世界●
●倉庫【03倉庫】●
「いかがですか?ドン・カポーネ。我々は約束を守りましたが」
「こりゃあ驚いた」
ルノータの目の前には多数の酒が入った酒樽が並べられていた。千騎が仕入れた商品達である。
「銅葡萄酒45樽に、サービスで安物ですがエール樽を5樽ご用意させていただきました。代金は6万7500共和国ドルになります」
「くはっ、素晴らしい‼︎全て買い取ろう‼︎」
<ルノータ・ファミリー>の構成員が千騎に金の入った袋を手渡す。義景と真一が素早く確認を行うと、6万と8000共和国ドルが入っており、少々多いことを千騎に報告する。
「500共和国ドル分は継続購入のための顔繋ぎ代と思っておけ。まあ、エール樽の分考えたら少ないくらいだが。それと銅葡萄酒ら仕入れられるだけ仕入れてくれ。こんなんじゃあすぐになくなるからな」
「すでに手配しております。来週には同数か少し多いぐらいは仕入れられるでしょう」
「このエール樽は?」
「ご要望であれば1樽130共和国ドルでご用意いたしますが?」
「ふむ。まあ、これを飲んでから決めよう」
<ルノータ・ファミリー>の構成員達が酒を運び出し始める。千騎からすればレトロと言うべきか?ビンテージと言うべきか?古い型の車に積み込んでいく。
「(6万と8000共和国ドルか。まだイマイチ通貨感覚が分からんが…カフェのモーニングセットが60共和国セントで1共和国ドルしないから、かなりの金額であることは間違いないな)」
地球で安く仕入れた胡椒を売り、それで仕入れた酒を売る。それでこれだけ儲かるのであれば悪くないと、千騎は内心で考える。
「そういえば、お前ら人を雇う気はないか?」
「人をですか?」
「ああ、何かとこれからは人手がいるだろ?手伝いに護衛。俺らもいつまでも新人を貸しておけねぇからな」
「といっても、募集なんてどうすれば…」
「この前のおいたした連中がな。組織に捨てられたのを理解したのか、対価を支払う代わりに鞍替えしたいって言っててよ。流石にウチじゃあまずいってんで、今回声をかけたってわけだ」
「ああ、この前ボコった連中ですか」
「その連中だ。どうだ?」
千騎は少し考えてから義景と真一の顔を見る。問題なさそうであった。
「是非こちらで雇いましょう。おいくら程でしょうか?」
「リーダーは月給200共和国ドル、他は向こうでも新人の下っぱだったみたいだから、1人頭月90共和国ドルだな。5人だから月560共和国ドルだな。たまにボーナスでもやれば一生懸命働くだろうよ」
「(となると、月700〜800共和国ドル程度もあれば足りるか)」
千騎が頷く。
「よし、そしたら裏で待たせてるから、この後でもこっちに来させよう。ああ、武器は返してやれよ?この街の治安じゃ武装してないと危険だからな」
「それについてなんですが、武器の購入はどうすれば?その伝手を我々は持ってなくて」
地球での手配はほぼ不可能。第二世界ではそもそも銃がない。となると銃器の手配はこの第三世界となる。
「ん?ああ、そうだな。俺が贔屓にしてる武器商人を紹介しよう。無論仲介の金は貰うぞ?前払いで100共和国ドルだ」
「ではこれで」
ポンと千騎が金を手渡す。
「ふふっ、商人には良品を手配させよう。次回の商談に連れてきてやる」
「ではそのように」
千騎達が拍子抜けするほど簡単に取引が終わると、ルノータはボソリと呟く。
「それとお前らの組織名についてだが、<太陽の民>はこっちじゃ馴染みのない呼び方だ。武装したギャングの手下も雇うんだから、多少ギャング風にしたほうが舐められないぞ?」
「いい名前のアイデアはありますか?我々はこちらの組織名に疎いので」
「そうだな…いや、こういうのは自分達で考えるべきだろうな」
「そういうものですか?」
「ああ、そういうもんさ」
ルノータは肩をすくめる。
「お、気が効く部下が例の連中を連れてきたようだぜ」
千騎の前に、明らかにリンチされた跡がある5人のギャングが並ぶ。
「よかったなお前ら。センキの坊主はお前らを雇うってことだ。お前らへの仕置きもそれで終わりだ。懸命に働けよ?」
「「「「…うっす」」」」
義景が回収しておいた武器を、少し名残惜しそうに返してゆく。
「ああ、ドン・カポーネ。組織名ですが今決めました」
「ほう?聞いておこうか?」
「この街風のいい名前ですよ。
ーーー<皆既日食>」
「へっ、悪くなさそうだな。そっちの2人はどうだ?」
ルノータが義景と真一に確認を行う。
「元々の名前の<太陽の民>は正直微妙だったしな。俺はそっちのが好みだぜ」
「う、うん。ぼ、僕もその方がいいかな」
「決まりだな」
ルノータがニヤリと笑みを浮かべる。
「んじゃ、新人も入ったところで新たな門出ってわけだ。期待してるぜ?<皆既日食>」
「ええ、ご期待に添えるよう働かせていただきます。ドン・カポーネ」
「ところで」と千騎が話を切り出す。
「この建物の所有者はドン・カポーネですが、使用権は私にあるという理解でよろしいですか?」
「ん?どういうことだ?」
「いえ、人手も手に入ったので、隠れ蓑代わりに何か始めようかと思いまして」
「ああ、そりゃあいい考えだ。別に酒造してるわけでもないから、表で別の家業してても問題ないだろうしな。流石の俺らも隠れ蓑の商売にまでは口出ししねぇから、好きにやるといいさ」
「ありがとうございます。ドン・カポーネ」
ルノータが倉庫を出ていく。
「行ったか…てか、商売ったって何する気だ?俺らに店の運用ノウハウなんてないぞ?」
「いーや。俺らがよく知る業態さ」
千騎は「それはそれとして」と、新たな構成員達に声をかける。
「初めまして…は違うな。2回目だし。なら、ようこそ我々<皆既日食>へ。我々は諸君を歓迎する」
千騎の宣言に、義景はニタニタと笑みを浮かべながら、真一は普通に笑みを浮かべて拍手する。
「まずは自己紹介だな。俺はヨシカゲ・クオン」
「ぼ、僕はシンイチ・サガラ、です」
「んで名目上の代表をしてるセンキ・センワだ。基本この3人は同格と思ってくれてかまわない」
「元<シークル・ウィッカー>構成員の【ロンド】です。<シークル・ウィッカー>では新人の教育担当をしてました」
「【ウック】っす」
「【ラナウェイ】」
「【スパーク】」
「【フリュー】だ」
新人の挨拶を聞いた千騎は、一度頷く。
「一先ずは俺らがどういう存在か、だな」
木箱に腰掛けた千騎が説明を始める。
「俺らは一言で言えば密貿易組織だ。他国からの酒等の密輸入密売が主な収入源となる」
「さっき運び込んでた木箱の中身ですか?」
「その通り。それとこれから始める表の商売にも参加してもらう。上手くいけばそれなりのボーナスも出そう」
義景が倉庫の中を見渡してボソリと呟く。
「先ずは倉庫の片付けからだな」
「で、でも、こ、ここまでボロボロだし、す、少し休ませてあげたら?」
「ふむ…よし」
千騎は分厚い封筒から札を抜く。
「これは入社祝い金…みたいなもんだ。同時に3日間の休みをやる。家で休むもよし、ここを寝れるようにして休むもよしだ」
「組織を抜けて別の組織に寝返った以上。脱退組織の知ってる寝ぐらは危険だと思うがね」
義景がクックックと意地悪く笑う。
「とはいえ、<ルノータ・ファミリー>とは取引関係であるが、別に<シークル・ウィッカー>とやらと敵対してるわけでもない。あちらも無闇に敵を増やすような真似はしないだろう。一先ずはここでやり過ごすことを考えろ」
「んじゃ、解散」と告げると、千騎が真一に声をかける。
「確かプロジェクターとビデオを流すためのDVD機材あったよな?」
「え?あ、う、うん。あ、あるけど?」
「義景んところは発電機あったよな?」
「かなり古いけどあるぞ?…って、お前もしかして」
「ああ、やろうぜ」
千騎がニヤリと笑みを浮かべた。
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●翌週●
●第三世界●
●元03倉庫●
元倉庫の奥に積まれた木箱が次々と車に運び込まれてゆく。その量は前回以上の55箱である。
「上手くやってるようじゃねぇか、センキ」
葉巻の煙を吐くルノータが、隣に立つ千騎にニタニタと笑みを浮かべながら声をかける。
「ええ、次回も同数程度は輸入できるかと」
「そっちもだが、表の方だ」
「ああ、シネマの方ですか」
「【サンシネマ】だったか?随分と客を集めてるようじゃねぇか」
「ええ、おかげさまで」
そう、千騎の選んだ仕事は小規模映画上映。その人気は営業数日で鰻登りであった。
家庭用プロジェクターと自家発電機を使い、古いアメリカ映画を上映。入場切符代と軽食飲料販売を行うことで、それなりの収益を得ていた。
「クックック、あんなもんを気軽に始まるとはな。やっぱり俺の見立ては悪くなかった訳だ」
「お褒めいただきありがとうございます」
「ところで、<皆既日食>は俺らと同じギャング扱いでいいんだよな?」
「ギャングのつもりはないですが、実質そのような形になりますかね?」
違法な酒の密輸入を行い、部下達は銃器で武装している。はたから見ると完全にギャングのそれであった。
「クックック。ギャングである俺にギャングであることを認めるとはな」
「問題がありますか?」
「いや?お前らはウチと半ば同盟関係の友好組織だ。ギャングだろうと問題ないし、なんならもう少しくらいなら大きいほうが助かるな」
「そうですか」
「ってことで、人材雇用をしたほうがいいんじゃないか?人手足らんだろ?」
「ええ、まあ…しかし、雇用の伝手が」
実際、営業数日であるが既に人手不足が明白になっていた。あと2.3人は雇わねば、シフトが回せないと千騎も自覚していた。
「クックック。ここは悪徳の街だぜ?ギャングになりたい人間なんていくらでもいるさ」
「そんなもんですか?」
「そんなもんさ。それに抗争の関係で敗残連中がいくらか出てる。ロンドならそこら辺も詳しいはずだ」
「後で聞いてみます」
ルノータが外へと向かう。
「ああ、それと今度俺の傘下のギャングにも紹介するから、なんか売れそうな酒を持ってこい。勿論、銅葡萄酒以外でな」
「かしこまりました」
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エンド
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