第二部「皇帝はダッシュボードを覗き込む」・第四話「外部コンサルを覚えている皇帝」
外部コンサルタントのプレゼンを聞くとき、私は二重の時間を感じる。
今、この瞬間に示されているスライドの中の未来予測と、五年前、彼がこの会社で若手として走っていた頃の記憶とが、頭の中で重なり合うからだ。
かつての篠原恭──今は別の会社の名札をつけた彼が、AIのシミュレーションと投資回収のグラフを流暢に説明するのを見ながら、私は「この会社は、彼を手放した」とも、「この会社は、彼を育てた」とも言えるのだろうと考える。
外資のコンサル会社から見れば、古巣へのプロジェクトは、それほど「花形」の仕事ではないことも、私は知っている。
だからこそ、彼がこの場に立っていることは、彼のキャリアの一つの節目でもあるのだろうと、勝手に推測する。
彼の中には、きっと「勝った」という感覚と、「そろそろ限界かもしれない」という予感とが、同居しているはずだ。
私は、その両方を利用しようとしている。
古巣をよく知る者の洞察と、外から見た冷静な分析。その二つを同時に引き出せるのは、今このタイミングだけかもしれないから。
会議後の廊下で、彼が若手の新堂と話す姿を見かける。
距離感のある敬語と、かすかな懐かしさの混じった空気。
ここにはもう、自分の知らない会話がある。
AIはその断片をログとして残しているだろうが、私はその内容をすべて知る必要はないと、自分に言い聞かせる。
外部コンサルとして戻ってきた彼を前にするとき、私は最も「老獪な皇帝」として振る舞う。
過去を持ち上げ、現在を評価し、未来の協力をほのめかす。
その一方で、「この場所に戻ってきた」という事実が、彼にとってどんな意味を持つのかを測ろうとしている自分の浅ましさも、自覚している。
AI時代にふさわしいトップであるかどうかを、私は自分で決めることができない。
ただ、AIの出す答えと、彼のような人間の物語と、その両方を利用して、もう少しだけこの椅子に座り続けたいと願っていることだけは、隠しきれない。




