第二部「皇帝はダッシュボードを覗き込む」・第二話「若手を透かし見る皇帝」
若手エリートたちと話すとき、私はできるだけ迷いのない声を出すようにしている。
彼らの前で「分からない」と言ってしまえば、それは組織全体に妙な安心感と不信感を同時にばらまいてしまうからだ。
AIが出した提案を説明する場では、私はあえて専門用語を繰り返す。
「アルゴリズム」「予測モデル」「最適化」。
彼らの世代にとって、それらはもはや新しい言葉ではないが、トップの口から出ると、少しだけ重みを持つらしい。
実際には、私が理解しているのは、その仕組みの全体ではなく、「このグラフが右肩上がりなら安心していい」という程度の枠組みにすぎない。
会議で提案をする新堂のような若手を見るとき、私は二つの目を同時に使う。
一つは、AIが評価する「数字を動かす可能性」としての目。
もう一つは、古い経営者が好んで使った「この顔は上に向いているかどうか」という目だ。
彼らの中には、AIの提案を信じ切っている者もいれば、どこかで「結局は陛下の一言だ」と割り切っている者もいる。
その割り切り方の違いは、発言の後にこちらの表情を確認する視線の長さに、ささやかに表れる。
私は、彼らの将来に対して、意地悪な希望を抱いている。
自分を超えてほしいと口では言いながら、自分を完全に置き換える存在として成長してほしいとは、まだ思えていない。
AIを自在に操り、現場も理解し、外部の目線も取り込み、私よりも軽やかに組織を動かす次の世代──それが本当に現れたとき、自分の椅子がどこへ行くのかを、想像しきれていないからだ。
だから私は、彼らの前では「冷静で計算高い皇帝」であろうと努める。
迷いの多い人間くささは、古参側近の前にだけ、こっそりと残しておく。
AIは、その使い分けをきっと見抜いているだろうと思いながら。




