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MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

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第35話 ヒーローが来た

「はい!こちら、クラウン・ゲート・エステーツ社ビル前です。Adapt英国支部と噂されるこのビル前、大勢の警官隊が待機しています」

「今やロンドン市民の注目を集める日本からやってきたヒーロー、バーンブレイカーの到着はまだですかねー」

 

 

「バーンブレイカー……」

 ロニはベッドに寝転がりAdapt英国支部強制捜査ライブ動画を見ていた。


「……っ」

 

 不意に左肘が痛んだ。

 彼の左腕は肘から先がない。

 あの夜、公園で怪人ヘルハウンドに襲われた。

 

 スティーブは首を噛みつかれて死んだ。

 ジェシーは背骨を砕かれて死んだ。

 

「……痛ェよ」


 スマホを放り投げうずくまる。

 結局落としたスマホは見つからず新しく買い直した。

 

「行かなきゃよかった」

 一人生き残った彼は悔恨に襲われる。

 

「時刻は午前10時……あっ、動きがあったようです!」

 ベッドの上でもだえ苦しむロニを前に、放り投げたスマホから軽快なレポーターの声が聞こえてきた。

 

 

 カメラがぐるりと回りビル屋上を映し出す。

 ドン!という音と共に炎が吹きあがった。

 

「バーンブレイカー!」


 レポーターが興奮した声を上げる。

 炎の柱に囲まれ、彼は仁王立ちしていた。

 その瞬間、どこからともなくナレーションが流れ出した。


「ロンドン市民の前に、今再びあの男が現れた!」

「その名も――バーンブレイカー!!」

 

 ナレーションの絶叫と共に歌が流れ出した。

『や・みーを割いてー か・のー者は来るー』

 歌詞は日本語だ。

 

「とうっ!」

 バーンブレイカーは跳躍した。

 体を丸めた状態で回転し、やがて足を半歩前に出した状態のまま華麗に着地した。


『燃えろ! 燃えろ! 正義の炎!』

 

「ロンドン市民の皆さん!お待たせいたしました!」

 立ち上がると足を軽く広げ、右手を前に、左手をこめかみにあてる。


『明日を!切り!開け!』

 

「正義のヒーロー!バーンブレイカー!!」

『バーーーンブレーーーイカーーーーー!!』


「見参!」

 

 ドン!ボボン!


 再び炎が吹きあがった。


「バーンブレイカーの決めポーズ、でましたね」

「今回はロンドン警視庁とのコラボレーション。クラウン社の地下に潜むAdaptを彼は果たして壊滅できるのか。見どころです」

「バーンブレイカーのボディカメラに切り替えます」


 

 知らず知らずのうちにロニは放り投げたスマホを掴んでいた。

 決めポーズを取るバーンブレイカーのリプレイを見ていた。


「バーンブレイカー……あいつらを、あいつらを倒してくれ」




「フッ、勇ましいな」

 執務室のモニターに大きく映るバーンブレイカーを前にガリェーチは口の端を上げて笑う。


「敵の目標はクローフィ殿だ。全体指揮は私が取ろう」

「……随分舐められたものね。ここは私の支部よ」

「おや。自分が動ける隙ができたと思わないのですか。敵は大将のいるこの執務室を目指してくるのですよ」


 クローフィは仮面の下からガリェーチを睨んだ。

 そんな彼女にバージルが小声で囁いた。

「あいつの言う通りだ。指揮を取るあいつはここから動けない」


 バージルはガリェーチに向き合った。

「お前さんの部下はそれでいいが、クローフィの部下は動いてくれんのか?陣営の勝負中、お前さんに素直に従うか?」

「問題無い」


 ガリェーチは即答した。

「まあ、見てもらった方が早いでしょう」


 ガリェーチはモニターのチャンネルを変えた。

 モニターは社内に侵入したバーンブレイカーと、彼に続く武装警官隊の交戦を映し出した。


「バーンブレイカーが切り込み、できた道を武装警官隊が進む。武装警官隊は2グループ。交戦を担当する前方、逮捕を担当する後方」

 ジーンが戦況を分析する。

 

 バーンブレイカーを通すまいと立ちはだかるゴブリン怪人。

 銃を持ち警官隊と対峙する仮面のAdaptエージェント。

 オフィスを銃弾が飛び交う。仮面達は負傷しても引く気配がない。

 カティサは傍らで息を呑んでいた。

 

「姉さん?」

 プリズラクは姉の様子がおかしい事に気が付いた。

 テニがプリズラクに進言した。

「プリズラク様。彼らを、今一度見てください」

 

「あ。ああ!」

 画面を注視したプリズラクは理解した。

「この首輪は……!」


「クローフィ殿の部下は、命令が無くとも戦います」


 ボン!


「あっ!」


 カティサが声を上げるやいなや爆発音と共に画面が煙で覆われる。

 煙が晴れると、そこには首の無い男の死体があった。

 床に倒れ呻き声を上げる武装警官を仲間の警官が引きずっていく。

   

「うぐ……」

 

 仮面がついたままの生首と目が合ったカティサは思わず口を押さえた。

 倒れ掛かるカティサをジーンは支える。

 プリズラクの仮面の下でレフは真っ青な顔になった。


 クローフィの静かな、しかし怒りに満ちた声が響いた。

 

「ガリェーチ。貴方、私の部下を……盾にしてるのね!!」

「ご名答」


 ボン!


 ガリェーチの声と重なるように再び爆発音。

 先程の爆発より小規模だったが、「爆弾」となった仮面の女は首が飛んでいた。

 血飛沫を浴び、後ずさりする警官達。


 ガリェーチは手を叩いた。

「まずは雑魚で敵の戦力を削ぎます。大型爆弾を仕掛けた怪人は切り札です」

「ちっ」

 バージルは舌打ちした。


「お前さんに逆らえば死ぬしかない。戦って生き残るしかない……」

 バージルは語気が荒くなる。


「そりゃあ動くよなあー!?」


 バージルの怒りの表明にジーンは身震いする。

 クローフィは仮面ごと手で顔を覆っていた。

 一方で、ガリェーチは微動だにしない。

 

「ええ。ご質問の答えは以上になります」

 彼は冷静に返答すると非道な戦術の語りを再開する。


「私の部下の方が強いですからね。これは理に適った布陣……」

 プリズラクはガリェーチに歩み寄ると、左手でその首根っこを掴んだ。


「首輪は……生体爆弾は処刑道具だ!離反者以外に使うな!!」

「私は使えるものは使う主義です。向こうは命懸けで来るのですよ?」


 ガリェーチはプリズラクに首を傾げた。

「それに爆弾を使用する場合は社会への牽制を兼ねる、なのは貴方が一番知っているでしょう?」

「くっ……」


 プリズラクの脳内を過去の罪が駆け巡る。

 ヘルハウンドに爆弾を仕掛けた時の事。

 その爆弾が爆発した時の事。

  

「ヘルハウンドの件は残念でしたね。爆発で死者が出ればAdaptの脅威はもっと示せたはずです」

「……あれで十分だ」

 

 プリズラクはカティサの方を向く。

 カティサはジーンにもたれかかっていた。

 隣にいる姉は顔を押さえたまま。

 テニは沈んだ表情をしながらも彼女らと距離を取っていた。

   

「テニ、もしかして君も爆弾を?」

 カティサの介抱をしつつジーンが問うた。

「はい……」

 

 テニはカッターシャツの襟のボタンを外し襟を引いた。

 細い首筋から首輪が見えた。

 

 ガリェーチからくくく、という声が漏れる。

「容易に触ってはいけませんよ」

 彼はプリズラクのなすがまま不気味な表情を浮かべた。


「プリズラク、動くな。気持ちは分かるが動くな」

 バージルはプリズラクの肩に手を掛けた。

 

 いつの間にかプリズラクの右腕は高く上がり、殴る態勢になっていた。

 プリズラクは無言でガリェーチから手を離した。


「……クソが」

 プリズラクを自陣に引き寄せつつバージルは鋭い一瞥をガリェーチにくれた。

 モニターの右上にウィンドウが現れる。

    

「报告!(報告!)バーンブレイカーがエレベーターに到着しました」

「誘導しろ。警官は乗せるな」

「是!(はい!)」

「……ガリェーチ」


 部下の報告に割り込むようにクローフィは口を開いた。


「先に行かせてもらうわ。私達が勝ったら……バーンブレイカーを倒したらすぐにその席から降りるのよ?」

「約束しよう。バーンブレイカーさえ倒せば彼奴(きゃつ)らは直ぐに撤退するでしょうから」


 ガリェーチは薄ら笑いをした。

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