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MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

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第33話 裏側へ

「クローフィが来た。まだ協会からGOサインは出ないのか?」

 

 Adapt英国支部を地上から隠す不動産会社クラウン・ゲート・エステーツ本社ビル。

 ビルから見えない位置で待機する警察車両の中で武装警官達はやきもきしていた。

 強制捜査の開始を告げるのはヒーロー協会側の役目だった。


「今、クローフィが中に入った。部下らしい者が数名ついている」

「まだ連絡は何も」

「あれは……バージル先輩?」


 クローフィに続いてビルの中に入っていったトレンチコートの男に武装警官の一人、ウィルは見覚えがあった。


「あの赤髪間違いない。昔世話になったバージル先輩だ」

「何でクローフィと一緒にいるんだ?」

「確か怪人にされて警察辞めたって話だろ。寝返ったんだよ」

「先輩は今探偵やってるはずだから、何か考えがあるんだと思う」


 ウィルは立ち上がり窓から身を乗り出した。


「先輩……どう出ますか?」



 

「……まだですか?」


 オールハローズ・バイ・ザ・タワー。

 ロンドン塔に近い歴史あるこの教会で大我はバーンブレイカーの衣装に着替えていた。

 ヒーロー協会職員、キャロラインはなかなか出てこないヒーローにしびれを切らしていた。

 

「あっ、はい……まだです。引き続きAdaptの動向を監視していてください」

 

 警察からの催促電話を切ったキャロラインはため息をつく。

 キャロラインは扉を叩いた。


「大我!また寝てないでしょうね?入りますよ!」

 キャロラインは扉を開ける。

 

 案の定大我は中の長椅子で横になって爆睡していた。


「起きなさい!!!」


 キャロラインは大声で叱った後、一気に落胆する。

 バーンブレイカーの装備にはまだ袖も通してなかった。


「ん?ああ、おはようキャロ……」

 大我はようやく起きた。

 

「おはよう、じゃありませんよ。もう9時です」

「二度寝が気持ちよくて」

「早く着替えてください。クローフィが到着したんですよ!」

「ちょっと待って。トイレいってから」

「もう!」


 キャロラインを部屋に残したまま、大我は扉の外に出る。

 クローフィと共にレフ達は来たはずだ。

 

 トイレを済ませ、今度こそ着替えようとした矢先、大我のスマホが鳴った。


「はい」

「大我さん、聞こえますか。監視班です」


 てっきりキャロラインかと思っていた大我は目が覚める。

 監視班が見ていたのはクローフィではなかった。

 

「クローフィに続き、龍牙隊がビルに入っていきました。彼らは後を追っていたようです」

「あ」


 その名を聞いて大我は強制捜査を遅らせる計画が破綻した事を理解した。

 計画に入れてなかった。じっとしてるわけなかった。


「ガリェーチ……」

 大我の眼差しが鋭くなる。


「そういう事か」

 

 中国人のグループが、受付を特に咎められることなく突破していく。

 ガリェーチ直属の精鋭部隊——龍牙隊だった。


 

 

「おかえりなさいませ。エレーナ様」

 社長室に入るとカティサと同年代らしいスーツ姿の少女が会釈をした。

(テニか)

 仮面を外した秘書官、エージェント「テニ」ことミリーはレフと「社長のお連れ様」にも会釈してきた。

 

「留守番ありがとう。今、社内の様子はどうなってる?」

「不満が高まってます。龍(ロン)……ガリェーチ派は我らの振りをして暴れ、責任はこちらに全部投げてきます」

 

 暗い顔で俯いたミリーにエレーナが近づいた。


「頑張ったわね」

 そう言うとエレーナはミリーの肩に手を回し抱擁した。

「貴女は人質だった。抵抗できなくてごめんなさい。無事で良かった」


 俯いたままのミリーの表情はレフにはよく見えない。

 ただ肩を震わせているのが分かった。


「本部に案内して。弟をAHに送る」

「はい」


 抱擁が終わると、エレーナは仮面を被りクローフィへと変わった。

「彼らは私の仲間よ」


 「社長のお連れ様」とエレーナを交互に見ていたミリーは、その言葉に促されスーツの内ポケットから目元だけの仮面を取り出した。

 ここから先はAdaptの世界だ。

 レフも仮面を取り出した。

 

「……カティサ、ちょっとあっち向いててくれないか?」

 仮面を装着する様子をカティサが観察している事に気が付いたレフは、思わず顔を真っ赤にした。


「え、でも……」

 言いかけたカティサをジーンが促し二人は後ろを向いた。

 バージルは既に扉の近くに移動していた。

「所長、空気読むの早!」

「しっ!」


 バージルが人差し指を立てた。

「足音が3人。つけられてるな」

 そう言うと扉のロックを確かめる。

「少しは時間稼げそうだ」


「その通りですね」

 仮面を装着し、テニとなったミリーがタブレットで監視カメラを確認する。

 緊迫感が走る中、レフも仮面とマントを装着しプリズラクとなった。


「隠しの方を使いましょう」

 クローフィの言葉に頷いたテニは、社長室に繋がる資料室の扉を開けた。

「どうぞ」


 パチンという音がして明かりがつく。

 資料室の中は天井までそびえたつ本棚で四方が囲まれ、棚は書籍とファイルでびっしり埋まっていた。

 

 全員が部屋の中に入った所でテニが扉の鍵を閉める。

「えっと、ここだったかしら……」

 

 クローフィが本の背表紙を出しては戻す。

 プリズラクは思い出す。

 確かどこかの本棚の後ろが通路になっていた。


「これだ」

 

 プリズラクはチャールズ・ダーウィン著「ビーグル号航海記」の背表紙を引っ張り出した。

 奥にあるスイッチのカバーを開けボタンを押す。

 ガタン、という音が本棚の裏から鳴り響いた。


「正解ね」

 クローフィは本棚を押す。

 すると、本棚は手前にゆっくりとせり出した。


「あら?やり方が違ったかしら?」

「……クローフィ、ここまでは合ってます」

 

 プリズラクは本棚の側面に回り込んだ。

「あとは横です」


 プリズラクは側面に両手をつき押した。

 レールの上を流れるかのように重い本棚が動く。

 本棚はスライド式の扉だった。

 奥から暗い空間が現れた。


「すごい。悪の組織っぽい」

 カティサの目が輝いている。


「知ってました?所長」

「いや、初めて見た」

 

 後ろで話す二人をよそにジーンは喉を鳴らす。

 

「ライトが要るね」

「はい」

 テニの返答にジーンはリュックをまさぐり始めた。

 

 弟に一歩取られたクローフィは苦笑した後、手袋を外した。

「ヴィーちゃん、出てきて」

 

 手首にはレフと似たようなバングルがハマっていた。

 バングルから金色のスライムが飛び出る。


「おおお!」

「うお!」

 再びカティサが目を輝かせる。

 バージルまで同じリアクションをしていた。


「質量保存の法則はどうなっているんだろう……?」

 一方でジーンは冷静な瞳でヴィーちゃんを見つめていた。

 そういえばCDA(カーティス探偵事務所)のメンバーにはまだまーくんを出すところを見せてなかった。

 

『どのようなご用件でしょう?』

『サーチライトになって』


 ヴィーちゃんは慣れたようにクローフィの肩に飛び乗ると、目を光らせた。

 プリズラクは思わず懐に入れた、石化したままのまーくんに手を添える。


「……プリズラク、まーくんはそこにいるのね」

「はい」

「ビッグ・ベン事件は把握してるわ。カーミニの裏切りを見抜けなかった私の責任でもある」

「そんなことないです。悪いのはカーミニです」

 

 プリズラクは明瞭に答えた。

 そんな部下であり弟の頼もしさにクローフィは安堵する。


「まーくんを直してきます」

「……承知」

 クローフィの口角が上がった。


『弟をよろしくお願いします。リョーヴァ』

 クローフィの肩口からヴィーちゃんがロシア語で頼みこむ。


『姉さんをよろしく』

 ちょっと考えて金色のスライムにロシア語で返した。

 クローフィはヴィーちゃんを撫でると再び口角を上げた。

 

「行きましょう。クローフィ様、皆様」

 ライトを持ったテニが先頭に立ち、空間に入っていった。

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