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MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

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第32話 旅立ちの朝

 AHへの旅立ちの朝。身支度中のレフは仮面を前に考える。

 自分はカローリの勅命を受けたプリズラクとして行くのか。

 それとも父を救いたいレフとして行くのか。

 

「レフ……仮面付けるんだ」

 プリズラクとして部屋から出てきたレフを見てカティサが声を掛けた。


「今はプリズラクだ」

 勅命を受けた時の姿はこの姿だった。

 ならば、プリズラクとして行く。

 

 ふと、俺は仮面は使わんと言った所長を思い出した。


「だが、レフでもいい」

 否定はしない。仮面を被った俺も俺だ。


 カティサはじっと見てきた。

 そして近寄って来るとプリズラクの仮面に顔を寄せてくる。


「な、なんだ?」

「仮面、私の前で取ってみせて」


 いきなりの要求にプリズラクは困惑する。

 

「何故だ?」

「あなたが本当にレフなのか確かめたいんだ」


 カティサの要求がよく分からなかった。

 しかしもう既にバレている身の上。

 問題は無いだろうとプリズラクはカティサの目の前で仮面を外した。


「……レフだね」

 カティサはレフの顔をじっと見つめる。

 彼女の真っ直ぐな目線にレフは気恥ずかしくなる。


「もう……いいだろうか?」

「うん」


 顔の火照りを冷やすかのようにレフは仮面を顔に当てた。

  

「おい、準備できたか?」

 リビングでジーンと缶コーヒーを飲んでいたバージルが声を掛けた。

 パーツを追加したトレンチコートの下にカーゴパンツとブーツを履いている。


「カティサはそれでいいの?」

 続けてジーンが声を掛ける。

 彼は黒のインナー、ショートパンツ、タイツとブーツに白ジャケットのアウトドアスタイルだ。


「ちょっと早いかな?」

 カティサの服装は白Tシャツに水色の袖無しジャケットとショートパンツ、黒のニーソックスに茶色のブーツ。

 首には黒のチョーカーを巻いている。


「寒暖差に対応できる格好の方がいいよ」

「ま、AHにも服ぐらい売ってるだろ」

「うん。売ってる……このテの外の世界の服は高価で」

「思い出したのか?」


 プリズラクの問いにカティサははっとし、こめかみに人差し指をあてた後目を見開いた。


「忘れた」

 カティサは笑った。


「お前の記憶が戻るといいな」

 プリズラクの仮面の下でレフも笑った。


「……時間だ」

 腕時計の7:00を確認したバージルはソファから立ち上がった。


「レフ」

「はい」

 

 所長もレフ呼びかと思いつつプリズラクは立ち上がった。


「レーナと会うまで仮面とマント外せ。プリズラク乗せてる所、撮られたら厄介だ」

「え?」

「目立つから後で着ろ」

「しかし……」

 

 狼狽えるプリズラクを前にバージルは呆れた顔をした。


「今のお前は一人じゃねえんだ」


 そう言うとバージルは背を向け玄関に向かった。

 しょげたプリズラクにカティサが声を掛ける。

 

「支部はロンドン塔の近くにあるんだよね?中心部抜けていくし、しかたないよね」


 まーくんを入れた懐に手を添えた後、仮面とマントを外した。

 プリズラクはレフに戻った。



 

「この車レイラさんのよね?所長のヤリスクロスどうしたの?」

 事務所を出発し、しばらくしてから後部座席のカティサが質問した。


「5人乗るにはきついからな。こっち借りた」

「姉さんを乗せる?」

「そう。途中で合流だ」

 ハンドルを握りながらバージルが答える。

 この通りはキングス・クロス駅に繋がる通りだ。


「キングス・クロス駅で待ち合わせですか?」

「駅までは行かんぞ。分かってるだろ」

 そう言うと、バージルは車を左折させる。

 少し走らせた所で車を止めた。

  

 ルッツの車で巻き込まれたセント・パンクラス駅近郊の渋滞を思い出す。

 キングス・クロス駅もその隣だ。

 

「キングス・クロス駅には魔法学校に行ける9と4分の3番線があって」

 ジーンが話し出す。世界的なベストセラーになった魔法使いの少年の話だ。


「魔法使いしか入れない」

「AHとは違う世界?」

「僕たちの世界と重なってる世界だよね。特急はスコットランド方面らしいし」

「ふーん」


 後部座席でカティサとジーンが話を続けている。

 英国はAHに最も近いと姉さんが言ってた事をレフは思い出した。

 魔法世界との親和性が高い国ではあるのだろう。


 ふいに、窓ガラスが叩かれた。

 レフが振り向くとそこにはサングラスの、しかし見慣れたアッシュブロンドヘアの女がいた。

「姉さん」

「お前ら、寄れ」

 

 密会の時と同じ黒い服を確認したバージルがカティサ達を促す。

 道路側にいたジーンが座席中央に寄った。


「モーニング」

 軽く会釈をしてエレーナが乗り込む。

「出して」

 扉が閉まると同時にバージルは車を発進させた。


 

「ロンドン塔から少し離れた駐車場に止めて、そこからセント・ダンスタンで待機しましょう」

 次の信号待ちでエレーナはようやく口を開いた。

 

「開始は9時だな」

「ええ」

「あ、あのー……Adapt英国支部って具体的にロンドン塔近くのどこなんでしょう?」


 バージルの背後から打ち合わせを行うエレーナにカティサはおずおず質問した。


「外観は不動産会社のオフィスビル。その地下に本部がある」

 レフが答える。

「じゃあ、お姉さんの表向きの職業は社長!?」


 カティサは隣のエレーナをらんらんとした表情で見つめる。

 エレーナは口角を上げた。


「そうね」

「かっこいい」

「レフが地価の高い中心部で一人暮らしできたのもそういうわけか」

「まあそうなる」


 ジーンの問いにレフは答えた。



 

 セント・ダンスタン・イン・ザ・イースト。

 廃墟となった教会を生かした、シティの一角にある小さな庭園。

「ここで時間まで待機だ」

 バージルはそう告げるとベンチに座りスマホを取り出す。

 

「うわー!映画みたい」

 SNS映えするそのスポットで、カティサは写真を撮りまくっている。

「ロンドン大火と大空襲を経て、再建されないままこうして庭園になったらしい」

 ジーンは解説しながらカティサの撮っての声に答える。


『リョーヴァ』

 ツタの絡まる廃墟の壁を眺めていたレフに姉が声を掛けてきた。

『何だ?』

『お父様直々の命だから仕方のない事だけど……』


 エレーナはサングラスを外し、それからレフに顔を向けた。

『本当に行くのね?』


 姉弟二人、悪の組織で必死で生きてきた。

 このロンドンでの生活資金も出してくれたし、親代わりの姉には本当に感謝している。

 ただ、もう大丈夫だ。


『心配するな。やり遂げてみせる。それに……父さんを救う手立ては考えている』

 レフは微笑んだ。

『俺はもう父さんの変容に何もできない子供じゃないんだ』


 エレーナはしばし弟の顔を見つめ、そのまま口を開いた。

『貴方には力が無い。だから……』

 エレーナは言葉を詰まらせる。

 そのまま下を向いた。


『……姉さん?』

 しばらくしてエレーナは顔を上げた。


『ううん。なんでもないわ。リョーヴァ、例えどんな困難があろうとも……乗り越えて』

 

 エレーナは微笑んだ。

 その言葉にレフは引っかかりを覚えつつも、姉の言葉に相槌を打った。

『全てが終わったらこのロンドンに帰ってくるよ。そして復学する』


「おい、時間だ」

 バージルが姉弟に声を掛けてきた。

 時刻は9時ちょうど。カティサとジーンはバージルの後ろで待っていた。

「行くぞ」


 レフは姉を見た。

 エレーナは無言で頷く。

  

「ええ。行きましょう」

 レフはバージルに返答した。


 バージル、カティサ、ジーン。

 そしてエレーナとレフは庭園を出てAdapt英国支部に向かった。

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