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MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

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第31話 旅立ち前夜

「片付かない」

 

 レフはバージルが物置として使っていた部屋の片づけに追われていた。

 ルームシェアを引き払ったカティサとジーンの寝床を作らねばならないのに捗らない。


「旅立つまでのほんの数日だし、寝袋のスペースあればいいよ」

 カティサが手伝いながらレフに声を掛ける。

 

「それより準備できた?」

「何が?」

「AHに行く準備」


 カティサに問われレフははっ、とした顔をする。

  

「ああ。出張用の鞄がある。これ一つ持てば動ける」

「私はTシャツ持ってく。確かロンドンより暑かったような気がするんだよね」

 カティサはこめかみを抑える。


「……ごめん。役立つこと、何か思い出そうとしたけど無理っぽい」

 カティサはレフが何か言いかける前に立ち上がると、部屋の片づけを再開した。

「ん?これカメラかな?」


 カティサは部屋の片隅で埃まみれになっていたカメラのようなものを手に取った。


「ロシア語っぽい文字がある。レフ、なんて書いてある?」

「……空間収納装置試作機第7号」

 

 レフはピンときた。

「父さんの発明品だ」

 

 部屋の主に入手経路を聞きたいが生憎今は外出中だ。

 レフはゴミ袋を縛っていたジーンに声を掛けた。

「ジーン、所長がこれをどこで手に入れたか知ってるか?」

 

 ジーンは顔を上げた。

「知らない」

「父さん……フョードル博士の発明品なんだ」

「それなら多分、潜入捜査官時代に手に入れたんじゃないかな」


 ジーンは歩み寄ると、カティサの手にある空間収納装置を確認する。

「ちょっと触らせて」


 ジーンは空間収納装置の上下左右を見る。

「ファインダーが無いね。カメラに似てるけどカメラじゃない」

 

 中央のリングを捻ると、ぱかっと開いた。

「蓋だね」

「中にあるの電球?光るのかな??」

 カティサは興味津々で覗き込む。

 

 ジーンはPOWERと書かれたスイッチを押した。

 するとカティサの予想通り中央の穴から淡い光が漏れたし、操作パネルに「CAPACITY」「IDLE」の文字が表示された。

 

「名称プレートだけロシア語で他は英語。転送装置のようでちょっと違う。レフ、心当たりはある?」

「CAPACITY……」


 ジーンの問いにレフは顎に手をあて考え出す。

「思い出した。これは位相空間に物を転送して収納する装置だ」

「おおお。なんかすごそう」


 カティサは指をぱちんと鳴らした。

 そしてその辺にあったプラスチックの入れ物を手にする。

「試しに使ってみてよ」


 頷いたジーンは一旦スイッチを切り、レフに手渡す。

 レフはスイッチを入れ直した。

「確か使い方は……」


 レフは淡い光に入れ物を近づけた。

 するとまるで穴に吸い込まれたかのように一瞬で入れ物が消えた。

 CAPACITYの数値も上がっている。

 

 続いてレフは空間収納装置のモードを「RECALL」にする。

 入れ物が出てきた。

  

「早速使えるねこれ」

 どうやらカティサはAH行きの荷物を入れる事を考えているらしい。


「使えるって、荷運びか?」

「うん」

「拠点は電気が通ってる話だから使えなくはないが……」

 だが装置の作動を見ていたジーンは懐疑的だ。

 

「空間収納装置はまだ実用化されてないだろ?何か問題点がある代物なんじゃないか?」

「そう。長期保存に向かない。父さんは位相空間を安定させる事ができなかった。中の物は時折出さないと消失してしまう」

「ええ……」

 

 カティサはしょんぼりする。

「それにこの装置そのものが熱に弱く、一度使うとクールダウンが必要だ」

「で、でもAH行きのあの大荷物抱えてガサ入れの最中走れる?」

 

 カティサは部屋の外を指差す。


 ジーンが買い込んだアウトドア用品。

 当面の食料を詰めたクーラーボックス。

 着替えや身支度品の入ったスーツケース。

 レフのリュックにはお守りのように大事にくるまれた「まーくん」が乗っている。


「まーくんは俺の懐に入れるつもりだけど……」

 レフは空間収納装置に目を落とす。


「……時折出さないと消失してしまうのが判明してるなら、時折出せばいいよ」

 大荷物に目線が向いていたジーンは、空間収納装置に振り向きざまこう言った。


「現実問題として僕達はその装置を使えれば大変便利だ。所長も反対はしないだろう」

「……むしろ率先して使うだろうな」

「想像できる」


 バージルには事後承諾を取ることにして三人は空間収納装置を使う事でまとまった。

 

 

  

「異世界といっても元は魔女の隠れ里だから規模は小さいんだ。国は一つしかない」

「そんなに広くはないのか」

「冒険が成り立つくらいには広いよ!コッツウォルズのような村があって」


 空間収納装置の発見から3日後。

 夜のリビングでレフ、カティサ、ジーンはこれから行く異世界の事を語り合っていた。

 助手が揃ってから毎夜語り合い、最後となる今夜は所長が先に眠りについている。

 

「思い出した?」

「ああっ!思い出したかもしれない……っ!」

「無理するな」


 頭を抱えたカティサをレフが介抱する。

 そんな二人をジーンは意味深に見つめ、直ぐに目を逸らした。

 

「まーくんだって直さなきゃね。星振教団の人達に会わなきゃ」

「その星振教というのは独自に発展した宗教なんだろうか。あ、カティサは無理に思い出すな」

「だろうね。AHを作った大魔女を讃えているらしい」

「……お前ら、うるせえ」


 寝室のドアが開き、眠気まなこのバージルが顔を出した。


「明日は早いぞ。さっさと寝ろ」

「すみません」


 レフが謝罪すると、バージルはあくびを一つして寝室に引っ込んだ。

 助手達の思惑通りバージル所長は率先して興味を持ち、散々テストした後充電とメンテをレフに投げてきた。


「メンテがまだだから俺はもう少し残るよ」

 レフは小声で言う。

   

 明日はAHに旅立つ日。

 そしてAdapt英国支部で激戦が予定されている日。


「お休み。ジーン、レフ」

 

 レフが何とか空けた元物置部屋にカティサが引っ込んだ後、続けてジーンが入る前にレフに振り向いた。


「AH調査はクローフィ派の仕事なのに、何故やらせてもらえなかったんだい?」

「どういう事だ?」

「心情的に処刑より楽だと思うんだよね」

「姉さんにも考えがあったんだろう」

「もし意図的に情報を与えられてなかったとしたら」

 ジーンはレフに背を向けた。


「……また所長に怒られちゃうね。お休み」

 ジーンは扉を開けて中に入っていった。


「メンテするか」

 ジーンが中に入るのを見届けたレフは先程まで会議してたテーブルの椅子に座り直す。

 リュックの上に乗った「まーくん」に目を向ける。

「生体はダメだったはずだけどまーくんはどっち判定だろう……?」



  

「カティサ、起きてる?」

 寝袋で眠るカティサの横で同じく寝袋に包まるジーンはカティサにささやいた。


「起きてる」

「あいつ……レフのことだけど」

「レフがどうかした?」


「僕達を襲ったプリズラクと同一人物とは思えない」

 ジーンは寝袋をぎゅっと握りしめた。


「これから見知らぬ場所に行くってのにろくに知ろうともしない。事務所襲撃はもっと念入りだったはずなんだ」

 カティサはジーンに顔を向けた。


「そういえば……そうだね」

「レフはね」


 ジーンは寝袋から手を離し再び拳を作った。

「AHの情報へいの一番にアクセスできる立場のはずなんだ。なのに何で僕が彼にAHの情報を教える立場になってるんだ?」


 扉の隙間からリビングの明かりがまだ入り込んでいた。

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