表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/31

第29話 一角獣の選択

「扉、開けましょうか?」


 レフは混乱していた。

 神出鬼没のこの少女、こちらを禍の者と呼んできたかと思えば今度は近寄ってくる。

 探偵事務所襲撃事件時あの場にいたようだが、様付けまでしたカティサを守るどころかむしろこちらの策に乗っていたようだ。

 

「君は何がしたいんだ?」

 ヴァーミリオンは手を組み祈りを捧げていた。


「目的は何だ!」

 レフは立ち上がり思わず声を荒げる。

 視界がぐるっと揺れた。


「っ……!」

 

 目頭を押さえた後、瞬きをする。

 めまいは一瞬で終わった。

 レフは周囲を見渡す。景色は変わらないのに違和感がある。

 葉っぱの色はこんなに青かったか?

 

「切り貼りしました。二人だけの空間ですよ」

 ヴァーミリオンは立ちあがった。


「君はヒーローか?」

 

 警察の面子で真実は追及されなかったが、探偵事務所襲撃事件は当時の近隣住民の証言と現場の被害状況が食い違っていた。

 プリズラクの道路封鎖があったとはいえ、カティサの覚醒で轟いた後誰も狼男を目撃してない。

 マダム・ベスは赤い服の少女と遭遇し、事務所には誰もいなかったと証言する。

 所長の推理ではその状況を作り出していたのは赤い服の少女——ヴァーミリオン。


「いいえ。私は魔女」

 ヴァーミリオンは微笑んだ。


「クロム様を禍から守り、目覚めの時を待つ魔女」

「ならば、俺の前に現れるのは何故だ?」

「禍の仮面の下に……一角獣の対たる獅子が眠っているから」


 要領を得ない物言いの娘だ。レフは思った。

 しかしどうやらAHの者である事、カティサの力と記憶が完全に戻るのを待っている事、そしてレフがプリズラクなのを理解しているのは分かった。


「扉はどこにあるんだ?」


 レフがそう言うとヴァーミリオンは近づいてきた。

(近い……!)

 彼女の顔が顎の下にある。上を向いた少女の翠眼とレフの碧眼が合う。


「レフ……とヴァーミリオンちゃんだよね?」


 いつの間にか、カティサが二人の横に立っていた。


「カ、カカカティサ!?」


 あわててヴァーミリオンから離れる。

 ヴァーミリオンはクスクス笑いだした。

「お二人の邪魔はしませんよ」

 カティサに振り向くとスカートをつまんで会釈した。

 

「さっき二人だけの空間って……」

「クロム様と二人だけの空間、という意味ですよ」

「空間?」

 

 よく分からない顔をするカティサを前にヴァーミリオンは再び微笑んだ。

「ついてきてください」

 

 ヴァーミリオンは茂みに入っていく。

 レフとカティサも続くと、そこにはぽつんと木製の扉だけがあった。

「今は切り貼りで固定していますが、本来はほんの数分しか現れないのです」


 ヴァーミリオンはドアノブに手をかざす。ドアの古さに対しいやにノブだけが新しい。

「アルカナの結界を守りし扉よ、魔女を前に鉤を開けよ。真実の開扉(トゥルーアンロック)

 

 かざした手のひらが淡く光り出す。

 カチリ、という音がして光は治まった。


「さあ、行きましょう」

 ヴァーミリオンはドアノブを押す。

 扉が開いた。


 扉の先には峡谷が広がっていた。

 切りだった崖と澄んだ川の流れ。上部は霞が掛かっている。

 どこからともなくピャァー!という鳴き声が聞こえた。


「ドラゴンだ……!」


 カティサが扉に顔を突っ込む。ポニーテールが揺れる。

 レフも彼女の後ろから顔を突っ込んでみた。


「本当だ……!」


 渓谷の合間を巨大な灰色のドラゴンが翼を広げ旋回している。

 再び、ピャァー!という鳴き声が響く。

 同じく灰色をした小さめのドラゴンが現れた。

 不慣れな感じで飛び回っている。どうやら子供のようだ。


「来た事あるような気がする……」

 レフが息を呑む真下でカティサはこめかみを抑える。

 

「ええ。ドラゴンの生息域です」

 ヴァーミリオンは答える。

「……ここがAHなんだな?」

 レフはようやく口を開いた。


「はい」

「君と、カティサはここから来たのか?」

「この扉は使ってません」

「あいつも、カローリも」

「うう……」

 

 記憶が戻りかけているのかカティサがしゃがみだした。

(この絶景を前に、カティサにとっては苦痛でしかないのか……?)


 レフはスマホを取り出した。

 ジーンに連絡しなければ。

 

「それ、繋がりませんよ?」

 

 ヴァーミリオンはスマホを指差した。

「園外……ここ、やはり普通じゃないのか」

 

 仕方なく記録でもしようとレフは扉の撮影に掛かる。

 カティサには申し訳ないがしゃがんだままの彼女も含めて扉全体を撮る。

 次に向こうの景色を撮ろうと扉に近寄った時、カティサが突然立ち上がった。

「ヤバっ!」


 カティサはドアノブを掴みこちら側に一気に引いた。

 キィィという音がして扉が閉まった。

 その直後ドン!という音が響いた。


「ドラゴンがこっちを見た。突撃態勢になってた」

 カティサは軽く息を切らしていた。

「さすがは、クロム様ですね」

 ヴァーミリオンは褒める。

 

「……御覧のようにこのルートは少々リスクを伴います」

(少々どころじゃない)

 レフは突っ込みたいのを飲み込む。


「カーティス探偵事務所全員で行く事を決めているんだ」

「レフ、いきなりここは無理……」

 ヴァーミリオンの代わりにカティサが答えた。

 またこめかみを抑えている。


「残念ですね」

 

 そう言うと、ヴァーミリオンは片手を振った。

 視界がぐるっと揺れて、扉が消えた。

 どうやら元の世界に戻ったらしい。


「この扉は不安定です。ですが、もし通りたくなったら協力しましょう」

 ヴァーミリオンは公園出口の方へ去っていった。


「クロム様、私はいつでも貴女の味方です」

 

 

「カティサ、大丈夫か?」

 レフはこめかみを抑え、体を屈めるカティサに声を掛ける。

 カティサは体を起こした。


「少し良くなった。まだちょっと響くけど」

 カティサの顔色が青白い。レフは不安に襲われる。

 

「正直……お前を連れて行っていいのか、分からなくなった」

「ごめん。でも、でもね」

 カティサはこめかみから手を離し、レフの正面に立った。


「痛みを伴ってでも、記憶を取り戻したいんだ」


 カティサの真っ直ぐな瞳。


 ——断片的に思い出してる様を見る限り、目を背けたくなるような光景を見てきている。


 バージル所長の言葉を思い出す。


 ——皆を救おうとしなくていい。あいつ一人だけ救えばそれでいい。


「さっき見たドラゴンと、いずれ戦う事になるかもしれない」

「だよね」

「その時は戦い方を教えて欲しい」

「もちろん!思い出してれば、ね」


「俺も……お前を守れるよう強くなる」

 レフは微笑んだ。

「あっ、珍しー!」

 

 カティサが声を張り上げた時、遠くからジーンの声が聞こえた。

 そのままカティサはジーンの方を向く。

「扉見つけたよ」


 

「それで、扉はどこだ?」

 扉発見の報告に集結した6人。

 証拠を要求するオスカーにレフは扉の写真を見せた。


「カティサが最初に発見した」

「写真は信用ならない。フェイクの可能性がある」

「これはフェイクじゃないよ。信用できないかもしれないけど」

 ジーンは写真を覗き込んだ。


「僕のITスキルは分かっているだろ?」

「……」

「バレずにフェイクを混ぜる方だからね」

「……その娘の言う事を聞こう」


 カティサはオスカーの正面に立った。

 

「ジーンは渡せない。帰って欲しい」


 オスカーは沈黙したまま動かない。

 ルッツが先に口を開く。


「このまま帰るのはもったいなイ。なア?」

「そんな!約束が違う!」


 動揺するカティサを前にオスカーはサングラスを上げた。


「オイゲン様からは手を引く。扉捜索はしばらく続ける」

「俺達はるばるドイツから来たからねェ」

「お。まとまったみたいだな」


 いつの間にか傍らのベンチに座ったバージルが一同を見ていた。


「んじゃあ、地下鉄で事務所に帰るか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ