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MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

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第27話 逃げる気はない

 ——あんたは大企業を敵に回してるのよ。

 ——オイゲンを探しているのは何も御曹司という理由だけじゃねえ。

 ——人狼化抑制薬?

 ——そうだ。人狼化抑制薬の流出。Adaptとの関連が強く疑われる中、その証拠が俺の手元にある。

 ——しかし、あのシアンという魔法少女はやらかしてくれたなあ。オイゲンを取り戻しに手先が来るだろう。

 

 

「……所長、バージル所長!」

 レフは自席でうたた寝をしていたバージルをゆすり起こした。


「何だ?依頼か?」

 のんきに起きたバージルの額に冷たいものがあたった。

 

「……は?」

 

 バージルの視界が拳銃で覆われる。

 目の前にスキンヘッドとサングラスのいかつい男が銃を手に立っていた。


「すみません所長」


 レフは手を上げ、目線を横へずらし所長に訴える。

 その方向には髪をツンツンにした男と、その男に羽交い絞めにされ銃を突き付けられたカティサがいた。

 

「……いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」

「オイゲン・アイゼンクランツ様を探している」

 わざとらしく普段通り振舞ったバージルに、スキンヘッドは銃口を下げぬまま答える。


「ジ……オイゲンは今ロンドン警視庁に行ってるの!」

 カティサが代わりに答える。

 咄嗟に出した嘘だとレフは理解した。ジーンは今日は休みのはずだ。


 男達が目くばせをする。

 ツンツン頭がカティサのこめかみに銃口を押し付けた。

「嬢ちゃん、嘘だロ?ウエストミンスターは我々の仲間が見張ってるんダ」

 なまった英語でツンツン頭が答える。

 

「アーデルハイトさマもまだ見つかっていなイ」

「うぐぐぅ」


 カティサは恐怖より、バレてしまったというような表情をしていた。

 足の動きは反撃を伺っていた。勇者の片鱗は見せている。

 バージルへの銃口がその動きを妨げている。


「……カティサ、黙ってろ」

 バージルは手を上げた。


「お話を聞きましょう。まずは助手の銃を下げていただきたい。依頼料負けますので」

「言える立場か?」

「私の元に人探しに来られる方は皆お客様です」


 スキンヘッドが右手の銃をバージルに向けたまま左手でハンドサインをする。

 それを見たツンツン頭は銃を下げ、カティサを突き放した。


(所長は何を考えてる……?)

 カティサに駆け寄ったレフは、小声で「今は下手に動かない方がいい」とカティサに耳打ちする。


「立ち話も何です。応接ルームへどうぞ」

 バージルは応接ルームに全員を通し、男達にソファへの着座を進めた。


「お前が先に座れ」

 スキンヘッドはバージルを先に座らせる。

 バージルの隣にツンツン頭が立ち、ツンツン頭がバージルのこめかみに銃口を向けたのを確認してからスキンヘッドは正面に座った。

 

「あっ!、お、お茶用意しますね!」

「必要ない」

 カティサが慌ててバックルームに行こうとするが、スキンヘッドが止めた。


(スキンヘッドの方が立場が上か)

 バージルがメモ帳を出そうとして諦めるのを前にレフはスキンヘッドを分析する。

(今の所長は男達の反応を図っていた。銃の腕もツンツン頭よりスキンヘッドの方が上)

 

 銃を向けられているのは所長だけだった。

 しかしこちらが動けばツンツン頭が動くより先にスキンヘッドが動くだろう。


「率直に言おうバージル・カーティス。貴様の助手、ジーン・ウィッシュマンが我々の探すオイゲン様だ」

「成程。私の助手でしたか。生憎今日は休みでしてな」

「呼べ。ここで待たせてもらう」

「……今日はアウトドア用品買い出しに行くと言っていたな?」

 

 バージルはレフに目配せした。

「は、はい」

「お客様を案内しろ。確かサリー・キーズだ」

「……呼べと言っただろう?」

 

 スキンヘッドの顔色が変わる。

 しかしそれに動じずバージルは淡々と会話を続ける。

「その理由は、私にもう一つ頼みたい事があるからですよね?」

 

 チッという舌打ち音が聞こえた。

「そうだ。オイゲン様が横流しする人狼化抑制薬。受取人は貴様のはずだ」

 バージルは顎に手をやり目を細める。どう答えるか考えているようだ。

 目が開いた。

 

「確かに私が受取人です」

「薬を寄越せ。まずは回収する」

「ええ構いません。保管場所は自宅です。……いや、待てよ」

 

 バージルは目線を天井に向け腕を組んだ。

「最後に戻したのは昨日か」

「置いたのは事務所だったかな」

「やっぱり自宅だったかも」

「……ふざけるな」

 

 バージルは腕を解き、目線をスキンヘッドに戻した。

「自宅……は上なんですが、ちょっとごちゃついてましてねえ」

 天井を指差す。


「カティサには事務所を探させます。私はあなたを自宅へ案内しましょう」

 そしてバージルは苦笑いをする。

「私はごちゃついてるとは思ってないんですけどね」

 

 スキンヘッドはバージルのノリにイラついていた。

 彼はツンツン頭の方を向いた。

 

「……ルッツ、お前がオイゲン様を迎えに行け。俺は薬を回収する」

「了解」

 ツンツン頭の名はルッツと言うらしい。

「逃げるなヨ。逃げればバージルと嬢ちゃんはズドンダ」

 

 レフはルッツと共に事務所前に駐車する車に向かった。

 事務所の扉を後ろ手で閉めようとした際、背後から「カティサ、くまなく探せ。無ければ裏庭や階段を見ろ」という所長の声が聞こえた。

 

 

「ナビに従ったら車が動かない。なア」

「……そうですね」


 左手にセント・パンクラス駅の豪勢な駅舎がある。

 正面の大通り、ユーストン・ロードに入ろうとしているが先程から左側の光景が駅舎である。

 ルッツの運転する車は渋滞に巻き込まれていた。

 

「返事はまだカ?」

 助手席のレフに運転席のルッツが問いかける。

 レフはスマホを取り出した。

 

 “今どこにいる?”

 “予定通り買い物中”

 “今から写真の男と一緒に迎えに行く”

  

 意を決して男達の写真を添えていたジーン宛てメッセージ。

 既読は付いていたが返事は付いてなかった。


「まだです」

「待ち合わせ場所を変えロ」

 ルッツがハンドルをトントン叩き出す。


(このまま時間稼ぎをしてジーンを逃がす時間を作るか?)

(いや、車ルートは俺も詳しくはない)

 車列が一台分動いてすぐ止まった。

 

(銃を持ったこいつらを前に所長は交渉を選んだ。ジーンも交渉するかどうか本人に任せよう)

 結局レフはジーンの判断に任せ、ルッツに従う事にした。

  

 “セント・パンクラス駅付近で渋滞にハマっている。待ち合わせ場所を変えたいがどこがいいだろうか”

 程なくして通知音が鳴った。

 “リンカーンズ・イン・フィールズ。中のカフェで待ってる”


 レフはどきりとした。


「返事きたカ?」

「……リンカーンズ・イン・フィールズのカフェです」

「よシ」

 待ち時間の合間にルッツはカーナビの地図を確認する。

 ようやくユーストン・ロードに差し掛かった車は通りに入らずそのまま直進し脇道に入った。


(ジーンが指定した場所はヘルハウンドが若者三人を襲撃した公園だ。間接的に、二人を殺めてしまった公園……)

 

 カフェで待つ事を選んだジーン。逃げる気はないのだろう。


(俺もまた罪から逃げる気はない)


 ルッツの車がリンカーンズ・イン・フィールズに到着した。

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