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MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

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第24話 鷲と狼の密約

「こちらこそ。ミス・クローフィ。いいね、店のセンスは」

 

 バージルが挨拶に応じるとクローフィの口角が上がった。


「弟がいつも世話になっているわ。それで貴方の事気になってたの」

「その弟を使い俺を処刑しといて随分と厚かましい女だ」

 

 バージルは嫌味たっぷりに返す。

 目の前の女は探偵事務所襲撃事件の主犯。

 辛うじて人として生きるバージルを狼に揺り戻した仇。


「お前さんは因縁の相手だ。だが俺の助手から捜索依頼を受けてるんでな。仕事だ」


 目元だけ隠れた仮面でクローフィの目つきは分からない。

 ただ再び口角が上がったのだけは分かった。


「私は貴方が平常心のまま協力してくれる事に賭けていたのよ」

 そう言うと、クローフィは立ち上がりコートを脱いだ。


「恨みなら買うわ。この体、好きにしていい」

「おいおい。俺を呼びつけた理由はそうじゃないだろう?」


 クローフィの体を見る。

 彼女はいつも体のラインが分かる白いスーツを着用している情報を得ている。

 しかし今夜の服装は着込んだ黒い服だ。


「幹部が自分を安売りするもんじゃないぜ」

「私は既に、アクィラよ」


 クローフィはコートを折りたたんで座った。

 

「アクィラって事は、鷲か」

「ええそうよ。因子覚醒型の貴方に対して私は融合型」


 クローフィは再び微笑むと仮面を外した。

 仮面の下からレフと同じ青い瞳が出てくる。


「エレーナ・アレニエワ。レーナでいいわ」

「……じゃ、俺もバージと呼んでくれ」

 

 バージルはエレーナの隣に座った。

 ブランデーを注文し、ライターとタバコケースを取り出す。

   

「違法に乗るのね?」

「お前さんに会う事が既に違法だ」

 

 一本取り出し口にくわえ火を付ける。

 直ぐにタバコが燻りだし煙が漂い始めた。

 

 ブランデーが注がれる。

「乾杯しましょう」

 二人はグラスをチン、と合わせた。


 バージルはグラスに軽く口を付けると、直ぐにタバコに戻る。

「吸い終わるまでまあ、失踪理由を話すの準備しててくれ」


 エレーナはバージルの方を向き、自分のグラスに目線を向けた。

「準備はできてる。今でもいいかしら」

「構わない」


「……ガリェーチにハメられたわ。あいつはヒーロー協会に密偵を忍ばせてでも私を失脚させようとしている」

「カーミニも密偵か?」

「いいえ。彼は私の部下よ。でも極東支部への派遣に積極的だった時点で気付くべきだった。あいつに寝返った」

 エレーナはブランデーをぐい、と飲む。


「ビッグ・ベン事件は私のせいになった……ガリェーチの罠がどこに仕掛けられてるか分からないから逃げてきたの」

「最愛の弟も信用できない状態か?」

 バージルの問いにエレーナはグラスを置く。

 

「万が一、利用されている可能性がありますもの。リョーヴァには悪い事をしたわ」

 バージルは吸い殻を灰皿に置いた。


「リョーヴァはガリェーチに利用されている形跡はない。駒は別の所に用意されている」

 バージルは二本目のタバコに火を付けず指でくるくる回す。


「俺の見立てでは協会側のバーンブレイカーだ。今度あるのだろう?ガサ入れ」

 

 タバコ芸を見ていたエレーナはそのまま青い目をバージルに向けた。


「そこまで読んでいたのね。面白い男」

 エレーナはふふと笑い、それから目を伏せた。

 

「……ええ。バーンブレイカーを先陣として、警察(ヤード)は私を逮捕しようとしている」

 

 バージルは回していた二本目のタバコの回転を止めた。

「大胆だ。合同作戦は俺がいた時代にもやってない。協会に委ねるしかない警察(ヤード)の不満を上手く利用したな」

 二本目のタバコに火が付いた。


「そこで……」

 エレーナは言葉を紡ぎかけて一瞬詰まる。


 二人の間に紫煙が流れる。


「リョーヴァを貴方に、バージに預けたい。罪は全て私が背負う」

 エレーナは目を瞑り、胸に手をあてた。


「あの子には……自由に生きて欲しい」


 バージルは吸い終えるにはまだ早いタバコを灰皿に落とした。


「あいつはもう19だ。大人だ。お前さんこそ自由に生きろ」


 えっ?と顔を上げたエレーナをよそに、バージルはようやくブランデーを嗜む。


「その前に一つ任務があるんだったな。AHの魔剣入手任務。カティサも連れていくんじゃ口出させてもらう。段取りはどうなってる?」

「……探偵は怖いわね」


 エレーナはAH任務の概要を語りだした。

 バージルは三本目のタバコをケースから出しかけのまま話を聞いている。

 

「魔王が復活しては魔剣を取り戻しに来てんのか」

「そう。そして歴代勇者は封印の維持管理を担っている」

「それで解除に勇者がいるのか」

「解除の旅は勇者クロムの旅を追う形になるわ」

「なるほど。記憶喪失のカティサにとって一理はあるわけか」

 

 エレーナはグラスを傾け残っていたブランデーを空にする。


「AHには調査で使ってる拠点が各地にある。リョーヴァ達にはそこを使ってもらうつもり。ただ……」

 グラスの氷を突く。


「転送装置は私でなければ動かせない。リョーヴァは任務の意味でも困っているはずよ」

 

 バージルはタバコをくるくる回転させ始めた。

「管理者の承認がいるらしいな。直接立ち会わなければ無理なのか?」

「プリズラクのスマホに権限を与えること自体は可能ね」

「ああ、そりゃダメだ。プリズラクのスマホとやら、まーくんなるペットに飲ませているがそれが石になったままなんだとよ」

 

 エレーナの表情が一瞬で驚愕の表情になった。


「なんてこと……つまり、リョーヴァ達はビッグ・ベン事件に巻き込まれたのね!?」

 驚愕の表情から段々目つきが鋭くなっていくのをバージルは見逃さなかった。

 怒りが彼女を獲物を狙う鷲の目にする。


「あいつも一緒にいたカティサも無事だ。庇われたんだと」

「……まーくんは、科学者の母が作った形見なの。あの子が幼い頃からずっと一緒にいる」

 エレーナの拳がぎゅっと握りしめられる。


「お母さんから大事にしてねと渡された。あれからリョーヴァは片時も離れない」

「……直す方法はあるか?」

「それもAHに行かなければダメなの。現地の石化解除魔法がいる」

「カティサの話と一致するな」


 タバコの回転を止めたバージルは、吸わずそのままカウンターの上に置いた。


「俺に考えがある」

「何かしら?」

「レーナに協力する。但し条件がある」

 

 バージルは続けて、条件を述べ出す。

「1つ目はAHの旅に俺とジーンを加える事」

 

 バージルは残ったブランデーを飲み干した。


「2つ目はAHの拠点使用権を探偵事務所メンバー全員に付与する事」


 次にカウンターの上に置いてた三本目のタバコに火を付けた。

 再びタバコの煙が漂う。


  

「最後の3つ目」

 

 灰皿に吸い殻が落ちる。

 

「俺をAdaptに戻せ」


 

 エレーナの鋭かった目が丸くなった。

「本気なのね?」


 エレーナは思わず笑みを浮かべた。

「バージに会えて良かった。ただ、確認させて頂戴」

  

 バージルはタバコをくわえ直した。

 

「貴方が今も警察(ヤード)に繋がってない保証はあるのかしら?」

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