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MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

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第22話 依頼料は真実

「レイラには差し出さない。だから正直に話せ」

「ちょっと!バージル……」

 レイラは思わずバージルを制止する。


 ジーンは喉を鳴らす。

 ライブ配信のタイムラインを戻してもう一度シアンを見る。この声は間違いない。

 配信チャット欄に「アーデルハイト・アイゼンクランツ」の文字が流れた。

 

 顔を上げるとバージルがレイラを正面からなだめていた。

 いつもレイラ刑事の顔を見るのを避けていた所長が。

 ジーンは覚悟を決めた。


「あの子は僕の妹です。そして僕は……レイラさんの仰る通りオイゲン・アイゼンクランツです」

「認めるのね?」

「はい」


 レイラはペンと手帳を取り出しメモを取る。

 手帳をめくる音が病室に響く。


「妹さんも捜索願が出てるのよね」

「おいおい、差し出さないって言っただろ。16なら本人に決定権がある。ジーンはここにいたがってる」

「あんた、オイゲン君はドイツ人なの分かってる?向こうの保護者は誘拐扱いで動いているのよ!」

「だから、責任は全部取る」

「具体的にどうする気?」

 

 レイラとバージルが口論を始める。

 ジーンは「これ以上は言えません」と話を打ち切った。

 せっかく向き合うようになった二人を険悪にしたくなかった。


 

 トントン。

 

 気まずい空気を破るかのようにドアのノック音がした。

 口論がぴたりと止む。ジーンがドアへ歩み寄ると外側から声が聞こえてきた。


「所長、話があります」

 その場にいる誰もが聞き慣れた声。


「レフか。無事だったか」

 レフは答えない。

「……まあ入れ」


 病室のスライドドアが開く。

 血塗れの手で石を抱え、バージル所長と大差ない程髪の乱れたレフが入ってきた。


「こりゃ大変だったな……カティサはどうした?」

 レフは無言を貫く。

「……そうか」


 バージルが目線を落とすと今度はバタバタ廊下を走る音が聞こえてきた。

「レフー!一人で行っちゃダメ!」

「なんだ、無事じゃねえか」

 元気よく入室してきたカティサを前にバージルは苦笑いをする。

 その表情に安堵があるのをジーンは見逃さなかった。


「で、用件はなんだ?さっきの事件の事じゃなさそうだな」

 バージルはレフがチラチラ何度もレイラを見ている事に気が付く。


「……私は外すよ。本庁に戻る」

 レイラはバージルと目線を交わし筆記用具をしまった。

「バージルは退院したら、そのまま自由の身だよ」



 レイラの退室後、レフはようやく口を開いた。

「姉エレーナ・アレニエワの捜索を依頼します」

「助けてください」


 カティサはマフラーの包みを手にレフの横に立っていた。

 彼女の表情にジーンはただ事ではないのを悟る。

 病室が静まり返る。

 

 バージルは棒付き飴をくわえた。

 深く息を吐いた後、バージルは答えた。


「依頼料はお前の事情全部だ。全て話せ」


 レフは拳を握りしめた。

 怪我したままの手が痛むが、それを合図に腹をくくった。


「姉はAdapt英国支部長です。コードネームはクローフィ」

「俺がいた当時から変わったな。前の支部長は?」

「前任者はヒーローに倒されました」

「あれ?所長って元Adaptだっけ??」

 

 会話に割り込んだカティサをジーンが袖を引っ張り止める。


「所長は元潜入捜査官」

「……聞こえてるぞジーン」


 ジーンは袖を離した。

 狼の耳の感度を舐めていた。


「お前はパソコンで対話ログを取れ。漏れが無いようにだ」

「はい」

「カティサは俺が言うまで口出しは控えろ」

「はい……」

 

 しょげたカティサを横目にレフは話を続ける。

「その姉と連絡が取れません」

「いつからだ?」

「さっきからです」


 バージルは袋から新たな棒付き飴を取り出しレフに向けた。

  

「まあ落ち着け。もう少しだけ待て」

「待てないです。こんな事今まで無かった」


 飴を受け取りそのままカティサに渡したレフは手元の石に目を落とす。

「これは相棒のまーくんです。石化して戻りません」

 狼の目はレフの顔が暗くなる節目を見届ける。

 

「姉なら直せるんです」

「それ以外に直す方法はあるか?」

「あ、あのー……異世界に行けばあります」

 飴をポケットにしまったカティサがぼそりと呟く。


「俺が言うまで控えろと言っただろ。まあいい、続けろ」

「すみません所長」

 カティサはレフの顔を見る。


「私がいた異世界、アーケインホロウにあります。そしてレフはそこに用事もあるんです」

「用事とはなんだ?」

 レフは前に出る。

「笑わないで聞いてください」


 ジーンのパソコンの打鍵音とバージルの飴を砕く音が響く。

 対話ログに漏れが無いか確認しつつ、次々話すレフの言葉をまとめていく。

 

 ————————————————————

 Prizrak's Mission

 《プリズラクの任務》

 Obtain the magic sword in Arcane Hollow(AH).

 《アーケインホロウで魔剣を入手する。》

 Make Katisa break the six seals.

 《カティサに6つの封印を解かせる。》

 ————————————————————

   

「カローリ直々プリズラクに下された魔剣入手任務」

 バージルは飴の棒を回しだす。

「今更笑うものか。AdaptがAHに出入りしてる事まで把握済みだ」

  

 ふいに、飴の棒の回転が止まる。

「カローリとは改造された時に会った」

 

 棒がテーブルの上に置かれる。

「ありゃ確かに異世界の魔王だ」


 バージルは俯いた。

 右手で三日月型の痣を撫でる。

「人間を、お前の父親を乗っ取ってるのか……」

  

 バージルは顔を上げレフに同情の言葉を投げた。


「辛かったな」


 その時だった。

 レフの頬を涙が伝った。


(そうだ。この人は探偵だ。だから)

 

「だから、探してください」


 声が震える。

 さっきから泣いてばかりだ。

 レフは必死で言葉を紡いだ。


「家族を失いたくないんです」


 

 カティサは涙を拭うレフを見つめる。

「正直、魔剣なんとかは納得してないけど」

 カティサは深呼吸をし、堰を切ったように話し出した。


「レフを助けたい。まーくんを直したい」

「クロムの事知りたい。記憶を取り戻したい」

「だから異世界に行きたいです」

「……カティサ、いやお前ら、事務所の仕事はどうすんだ?」

 バージルが水を差してきた。


「それとも……辞めるか?」

「辞めません」

「辞めません」

 レフとカティサの声がハモった。

「……僕も辞めません」

 ジーンも小さく手を上げる。


「有給ください」

「カティサ、有給まだつかねえぞ」

「境井 緑の捜索範囲をAHに広げます。それでいいですか?」

「レフ、そりゃいいな経費で落とす」

 バージルは笑い出した。


「何かおかしなこと言いましたか?」

「Adaptが支部間を移動するのに使ってる転送装置、それで異世界にも行けるんだったな」

「そうです。カティサにも説明しました」

「いや、探偵業しながら勇者と魔剣巡りの旅なんて面白すぎるわ」

 

 ひとしきり笑ったバージルはそれから真顔に戻った。

「依頼料はこれでOKだ。本題に戻ろう」

 飴の棒をごみ箱に捨てた。

 

「エレーナ・アレニエワの捜索依頼を引き受ける」

 レフの顔が明るくなる。


「ありがとうございます」

「今回の依頼はAdapt内部に入り込む」

 バージルはレフの顔を見る。

「そして助手を辞めない以上、お前も捜索に加わる。俺の受けた案件は事務所一同全員で共有する」

 続いてカティサとジーンの顔を見た。


「いつも以上に危険だ。覚悟はいいな?」

「はい!」

「了解です!」

「勿論です!」


 レフに続き、カティサとジーンが承諾する。


「上出来だ。できる範囲で救える者は救え」

 バージルは助手達の頼もしさにニッと笑った。

 

「一つ質問いいか?」

「なんですか?」

「ガリェーチは今何をしている?」


 レフは声を詰まらせた。

 幹部同士で派閥があり情報は寸断されている。


「姉から部隊を借り、現在英国入りまでしか知りません」

「親父の扱われ方に反して権限無いみたいだな」

 バージルは顎に手をあてた。


「まずは失踪までのクローフィの行動を追うか。ジーン、調査を頼む」

 ジーンは笑顔で頷いた。

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