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MASKED ー獅子と一角獣の異界譚ー【悪の組織で仮面を被る俺は、記憶喪失の勇者を監視する】  作者: muipla
ロンドン編

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第21話 届かない祈り

「せっかくカッコ可愛く登場したのに、みんな固まっちゃって聞いてもらえないじゃない」

「どうしようかなーこれ」

 魔法少女シアンと名乗ったツインテール少女はホバーボードの上であぐらをかく。

 どうやら真下の石像達を元に戻す方法を考えているようだ。

 遠くから緊急車両のサイレンが混ぜこぜで聞こえてくる。


「ねえ、あなたー!」

 カティサがシアンに声を掛ける。

 カティサとシアンの目が合う。

  

「もしかして……クロム様!!」

 ホバーボードを旋回させてシアンはカティサの元へ降りて来た。


「初めまして!シアンと言います。うわー、会っちゃったー!」

 ホバーボードから降り、握手を要求してきたシアンにカティサは握り返した。


「助けてくれてありがとう。ヒーローはいつもすごいね」

 勇者クロムの事を知っているようで聞きたいが、何故か一瞬目を逸らしたのを見て今は聞くのを止める。

 シアンは握手している右手に左手を添えてこう言った。

 

「そうだ!クロム様ならこの石化、直せますよね?」

 今度はカティサが真顔になった。

(えーっと、浄化の風で直せるかなあ……)

 

 シアンの瞳がキラキラ輝きだす。期待が重い。

「成功するかどうか分かんないけど、やってみるよ」

「さすがクロム様。じゃ、任せましたー!」

 言うなりシアンは手を解き、後方に「矢印」を飛ばした。


「第二ラウンド開始、かな?」

「えっ、あ……レフ!」

 

 落下し潰れたはずのカーミニが、体を再生させながらレフに近づいていた。

 カーミニはシアンの攻撃を回避し、再びレフの方に歩みだす。

 レフは石化したまーくんを抱えたまま動かない。


「ちょっとー!相手しなさいよー!」

 ホバーボードに飛び乗ったシアンは庇うようにレフの前に躍り出た。

「クロム様ー!時間稼ぎしてますから早く!」

 

 はっとしたカティサはレフに寄る。彼は俯いていた。

 大事に抱えている石の塊——まーくんに涙が垂れた痕跡がある。

 カティサは石の塊にそっと手を添え目を瞑る。

 

「浄化の風よ、石の檻を払え」


 風がカティサを中心に回りだす。しかしつむじ風は形成されず止んでしまった。

 人々もまーくんも石化したままだ。


「そんな。何で?」

 

 もう一度祈る。


「浄化の風よ、石の檻を払え!」


 再び風が回って、そして止んだ。


「何で?何でなの??」

「うー、思い出せ思い出せ私……」

 

 カティサはまーくんの欠片を拾い、額に当てる。

 石の冷たさが額に伝わる。カティサはそのまま遠い記憶の蘇りを願う。

 すると勇者クロムの記憶が流れ込んできた。


 ——ミモザは石化解除魔法使えないの?

 ——それは星振教団員じゃないと使えない。当のバルトロがこれじゃ……


 カティサの脳裏に眼鏡のボーイッシュな少女が浮かんだ。

 懐かしさに襲われながらどうも自分では石化解除できない事を悟る。


「他に何か思い出せ……っ」

 無理に思い出そうとしたカティサは頭痛に襲われしゃがみ込んだ。

「カティサ……」

 視界に入ったカティサを見てレフはようやく顔を上げた。


  

 ビッグ・ベンが午後3時45分を告げる。

「どきなさい」

 カーミニが小さな黒球を飛ばす。

「こっちの方が早いよ!」

 シアンは矢印を飛ばす。

 ぶつかる力と力。

 

「もう一発ぅ!」

 二発目の矢印が発射される。

 今度の矢印は黒球にへばりついた。

 黒球がカーミニに跳ね返る。


「そんな、バカな……!」

 カーミニに黒球が当たった。

「が……体が……固まっていく……」

 カーミニの体が本物の石と化していく。生物的だった肌が無機質な光沢を放ち始める。

「やりい!……おっ?」


 シアンはカーミニの背後に一人の男の姿を見る。

 怒りに満ちた男、レフ。彼の手には石の塊。

 石化した友を地面にそっと置いた彼は拳を強く握りしめ、一歩を踏み出した。


「まーくんを」

 

 右手を高く掲げた。


「Mercuryを返せえええ!!!」

 

 ドガッ!


 レフは素手でカーミニを殴りつけていた。

 

 その後もドガッ、ドガッと殴打音が響く。

 自身の血が飛び散るのも構わずレフは殴る。

 石化したカーミニはただ殴られるままになっていた。

 

 体にヒビが入りだしたカーミニはトドメに蹴りを入れられ倒れた。

 ガシャンという音がしてカーミニは真っ二つに割れた。

 

「はあはあ……」

 レフは膝をつく。

 カーミニが割れた音を合図に石像達が色を取り戻していった。


  

「なーんだ!倒したら解けたんだ!」


 ホバーボードを上昇させ、シアンは辺りを見渡す。

 石像が人に戻っていくのに比例し、ざわめきの声が大きくなる。

 上空の自分に目線が注がれている事に気が付いたシアンは、改めて名乗りを上げた。


「魔法少女シアンでーす。そこのお兄さんのご協力で事件は解決しましたー!」

 カメラが自分に向けられている事を確認したシアンは、息を大きく吸う。

 

「オイゲーン!見てますかー!」

 

 シアンの声に答えるかのように、ビッグ・ベンの鐘が4回鳴った。


 

 午後4時。

 続々現場入りする車両の中にHero Association《ヒーロー協会》のロゴ車があった。

「あっ、バーンブレイカー来たみたい。それでは前座のあたしは帰るね」

 

 シアンはカティサに視線を移す。しかし彼女はうずくまったまま反応が無い。

 別方向を見た後、再びカティサを見たシアンは別離の挨拶を述べた。

「それではクロム様、またね」

   

 

 ——石化は術者の死亡でも解除できる。

 ——本当?

 ——ただ、その場合欠けてたら駄目。


 石化魔法を浴びた者の中でまーくんだけが銀色に戻らなかった。

 “ミモザ”の言葉を思い出したカティサはまーくんの欠片を集める。

「アーケインホロウにいる星振教団ならまーくんを戻せる……」

 

 カティサはレフを見る。

 石から肉片に戻ったカーミニの再生を許さないが如く更に殴りつけていた。

 顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

 

(あれがプリズラクの正体だったんだね)

 カティサはレフに近づき彼の肩に手を乗せた。

 

 レフは殴るのを止めた。

 カティサの方は見ぬままその視線はまーくんに向けられる。


『助ける!』

 

 ポケットからスマホを取り出し電話アプリを開く。

『レーナ姉さん、出てくれ……』


 プリズラクのスマホはまーくんが飲んでいる為クローフィとは連絡が取れない。

 だが「姉エレーナ」とは連絡が取れる。

 

「レーナ?」

 カティサにロシア語は分からない。

 ただ、誰か親しい人に助けを求めてるのだけは分かった。

 

 スマホを耳にあてるレフをカティサが心配そうに見つめる。

『……くそっ!』

 悔しそうな顔して電話を切った彼を見てカティサは繋がらなかったのを理解した。

 

 

  

「また遅刻した」

  

 バーンブレイカーは事件が既に解決していたことに落胆する。

「寄り道するからです」

「はい」

 ヒーロー協会の職員、キャロラインが彼に説教する。


「少女は協会未登録のようです。はあ、協会の面目が……」

「あのー、要望通り速報になりますが鑑定結果いいですか?」


 警官が説教中のキャロラインに声を掛ける。

 バーンブレイカーから助かったと日本語が漏れるのを横目にキャロラインは資料に目を通す。


「事件の首謀者は怪人の自称通りクローフィの可能性が高い、か」

 バーンブレイカーが資料をのぞき込む。

 彼女は日本語で答えた。

『ロンドン警視庁とヒーロー協会合同作戦になりそうですよ』


 


 バージルの病室の時計が午後4時を過ぎた。

 バージルは窓の外を、レイラとジーンはテレビ局の配信に切り替えたノートパソコンを見ている。

 

「知り合い?」

 レイラがジーンに話しかける。ジーンは真っ青になっていた。

 配信は「オイゲーン!見てますかー!」と叫んだ少女を流している。

 バージルが振り返った。


「説明しろ」


 ジーンは何も答えられなかった。

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