表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
十六. 重臣たちの真意

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

190/204

堀秀政ー③:理と情の狭間――清須の余波

正統なる跡目ー秀吉の思惑

「殿と共に刃を振るい、あの場で果てると思うたか」

「あ……いえ……」


一瞬、言葉に詰まる。その躊躇に、秀政という男の律儀さが見える。


「私も出来ることなら、殿と共に散りたかったよ……」


座敷の空気が、わずかに沈む。


「なれど、こうして生きているのも、殿の御心であろう。そう思わねば、足が前へ出ぬ」

「御台様……ご無事であられたこと、これに勝る吉報はございませぬ」


震えを含んだ声であったが、そこに偽りはない。秀政は飾らぬ。ゆえに、言葉の重みがそのまま胸に届く。信長がこの男を重んじた理由が、改めてよく分かる。


「顔を上げよ、秀政。此度は、そなたの話を聞きに参った。信長様亡き後、秀吉や他の臣下らがどう動き、何を狙い、何を恐れておるのか。そして、そなた自身が何を思うておるのか」


秀政はゆるりと顔を上げ、真っ直ぐにこちらを見据えた。その眼差しには、揺らぎと覚悟が同居している。


「私に分かることであれば、全て包み隠さずお話しいたします。この乱れた世がどこへ向かうのか、未だ定かではありませぬ。ですが……信長公に仕えた身として、見誤ることだけは避けねばなりませぬ」


その言葉は静かであるが、芯が通っていた。情に流されぬ。だが、情を知らぬわけでもない。秀政とは、そういう男である。


「では、聞かせよ。私は、この先の行く末を見届けねばならぬ身だ」


自らに言い聞かせるように、言葉を置く。生き延びた以上、ただ嘆くことは許されぬ。見て、知り、刻む。それが、残された者の務めであろう。秀政は姿勢を崩さぬまま、静かに口を開いた。


「……まずは、御台様にお伝えすべきことより。清須にて評定が開かれ、三法師様が織田家の後継と定められました。信長様の御血筋を継ぐ正嫡として、という形にございます」

「うむ……そのことは既に勝家より聞き及んでおる」


あくまで名目は正統。しかし、その裏に何があるかは見えている。


「実際には、秀吉殿の働きが大きく影響しております。諸将が迷う中、議の流れを整えたのは、他ならぬあの方にございます」

「抜かりない男よ」


私が低く呟くと、秀政はわずかに目を伏せた。


「信長公の急死により、家中は大きく揺れました。誰もが迷い、恐れ、殿を失った喪失に沈む中で……秀吉殿のみが、殆ど動じることなく、次の一手を見据えておられたのです」


その光景は、目に浮かぶようであった。あの男は、常に一歩先を読む。いや、読むというより、先を“作る”。蘭丸が、悔しさを噛み殺すように唇を引き結んだ。そして喉奥から声を絞り出す。


「……その場に……もし信忠様がおられたなら。多くの者が、道を見失わずに済んだものを……」


その言葉に、座敷の空気がわずかに揺れる。信忠。あの者が生きていれば、確かに流れは違っていたであろう。蘭丸にとっては主になり、私にとってもまた、次代を託すべき存在であった。秀吉とてそうそう簡単に、織田の後見などに収まれなかったであろう。


 しかし、秀吉がいつまでも信忠の下におったかどうかは、危うい。信忠が上に立つは、まだ時期尚早であった感も拭えない。


 秀政は蘭丸へ視線を向け、静かに首を振る。


「蘭丸。その言葉が誰より胸に刺さっておるのは、御台様と、そしてそなた自身であろう。だが、亡き者の影を追い続けても、前へは進めぬ」


声音は厳しい。だが突き放すものではない。情を知るがゆえに、敢えて断つ。その覚悟がにじんでいる。


「……」


蘭丸は答えぬ。ただ、拳を握りしめていた。私はひとつ、息を整える。過去を悼むことと、先を見ることは、同時に背負わねばならぬ。


「秀政よ」


静かに名を呼び、次の問いを投げる。


「秀政。秀吉は……天下を狙っておるのか」


問うまでもないことではあった。あの男がこの機を逃すはずがない。すでに手を打ち、布石を置いていることも見えている。それでもなお、他の者の目にどう映っているのか、それを確かめずにはいられなかった。秀政はわずかに間を置き、はっきりと頷いた。

お読みいただきありがとうございます。

リアクション・評価・ブックマーク&感想コメントなど頂けましたら大変励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ