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蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
十六. 重臣たちの真意

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堀秀政ー④:天下の器と影――秀吉の思惑

秀政の思う未来ー濃姫のたどる道

「狙っております。三法師様を後継に据えたのも……織田家を守るためではなく、織田家を“押さえる”ためにございましょう」


言葉は明瞭で、揺らぎがない。事実を事実として置く。その冷静さが、この男の本質である。


「名目は正統、実は掌中……というわけか」

「はい。信長公の御威光、御血筋、その全てを掲げることで人心を束ねる。その上で実権は己が握る。それが秀吉殿の描く形にございましょう」

「……他の者らは、どう動くとそなたは見るか」


秀政は一つ息を整え、順を追うように言葉を選ぶ。


「柴田殿は兵を集めておりますが、今は雪解けを待つような状態にございます。無論、秀吉殿に天下を渡すくらいならば自らが、という思いは強い。されど動きは鈍い。丹羽殿は中立を崩さず、局面を見極めようとしております。前田殿は諸将の間を取り持ち、均衡を保とうとしている」


そこまで言い、秀政はわずかに視線を落とした。


「ただ――」

「ただ、何だ」

「勝つのは、早く動いた者にございましょう。そして今、誰よりも早く、誰よりも鋭く動いているのが、秀吉殿です」


簡潔であるが、重い断定であった。蘭丸が眉をひそめる。


「秀吉様は……お方様のご存命を知れば、どう動かれますか」


秀政はすぐには答えず、僅かに思案する間を置いた。そののち、逃げることなく言葉を置く。


「……御台様。秀吉殿は、貴女様を害しはなさいませぬ。しかし、“用いよう”とはされるでしょう」


その一言で、空気が張り詰める。私は背筋を伸ばし、秀政を見据えた。それはすでに、私自身も感じていたことだ。私を討てば「信長の仇を討った」という大義が揺らぐ。ゆえに手は出せぬ。だが、だからといって無視することもできぬ。


「……用いる、とは」

「御台様のご存命は、織田家を束ねる象徴となり得ます。秀吉殿は、それを己が権威の内に取り込もうとされるでしょう。表向きは保護と称し、実のところは御台様の存在そのものを旗印とする」

「三法師と同じ構図、か」

「はい。御血筋と御名を掲げ、実を握る。秀吉殿は、その形を崩しませぬ」


私は喉の奥で、小さく息を鳴らした。なるほど、あの男らしい。力だけで押すのではない。人の心を束ねる“形”を整え、その上で掌を閉じる。だが、それは裏を返せば、秀吉にとって私もまた“使い道”がある駒であるということでもある。


「秀政。そなたは、私が秀吉のもとへ行くべきだとは思わぬのだな」


秀政は一切のためらいなく答えた。


「御台様。秀吉殿はいずれ、この天下を握る器にございましょう。ですが、信長公が目指した天下とは、異なる形になると見ております」


その言葉に、わずかな熱が宿る。


「御台様がどの道を選ばれるか。それを決めるのは、御台様ご自身にございます」


秀政は深く頭を下げた。


「ただ私は、信長公に仕えし者として。御台様がいかなる道を選ばれようとも、お支えする覚悟にございます。あなた様は信長様が認めておられた唯一でございます」


蘭丸がはっと顔を上げる。


「秀政殿……!」

「蘭丸。そなたも同じであろう」


問うまでもない、といった声音であった。蘭丸は一瞬の迷いもなく頷く。


「はい。お方様は……我らが最後にすがる灯にございます」


その言葉に、胸の奥がわずかに熱を帯びる。若い。だが、この混沌の中でなお誠を失わぬ。その真っ直ぐさは、眩しくすらある。私は二人を見やり、静かに息を吐いた。


「よい。では秀政よ。そなたの見立てを、さらに詳しく聞かせよ。この先、秀吉、そして家康。それぞれ、いかに動くと読む」


秀政は姿勢を正す。だが、すぐには語り出さぬ。一度、視線を落とし、言葉を選ぶように間を置く。やがて、僅かに柔らいだ表情を浮かべた。


「……御台様。時勢の話に入る前に、ひとつ。殿にまつわる昔語りを、お聞きいただいてもよろしゅうございますか」

「聞かせよ」


即座に応じる。


「そなたの見てきた殿の姿。それを私も知りたい」

お読みいただきありがとうございます。

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