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蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
十六. 重臣たちの真意

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丹羽長秀ー⑪:尽日の行方――変えられぬ未来

忠を尽くす者ー案じる行く末

「お方様。私にできる限りの力をお貸し申します。そして……必ずお守りいたします」


私は静かに頭を下げた。


「心強い……長秀、その忠、深く感謝する」


長秀の真っ直ぐな眼差しを受け止め、私はゆっくりと頷いた。世はすでに動き始めている。私が真相を追い、たとえ全てをを知り得たとしても、この流れそのものを変えることはできぬだろう。それでも、信長が志半ばで倒れたという事実、その重みだけは、誰かが背負わねばならぬ。私は、それを背負ってなお歩く覚悟を、知らぬ間に決めていた。


 本能寺の真相へ、わずかに踏み込んだ。だが、核心にはまだ遠い。次に会わねばならぬ人物の名が、自然と胸に浮かぶ。


 前田利家。そして、黒幕かもしれぬ影に最も近い女――秀吉の正妻、寧々。だが、寧々との密会は容易ではない。今はまだ、秀吉に私の存在を知られるわけにはいかぬ。あの男がこれからどう動くかで、こちらの見るべき景色も変わる。その時を、見誤るわけにはいかなかった。一息つくと、長秀ははっとしたように姿勢を正し、改めて膝をついた。


「これは……つい長々と語ってしまいましたな。まさかこの世で再びお目にかかれるとは思わず、驚きと喜びに心が浮き立ってしまいました。それに、お尋ねいただきたいことが胸の内に溢れており……」

「構わぬ。私も、こうして長秀と語らい、少し気が落ち着いた」

「部屋を用意させます。どうかお体をお休め下され。湯殿の支度が整い次第、お知らせいたします。今宵は腕の立つ者に料理をさせましょう」

「世話になる。さすがに私もしばし休息が欲しい。案ずるな、長く逗留するつもりはない」


そう告げると、私は立ち上がった。夜はまだ深くなる。だが、その闇の中にも、確かに次へ進む道は続いている。


「何を仰います。いっそ別宅を整えて、そこにずっとお住まいくださっても構いませぬ」

「そのようなことをすれば、周りに“新しい側女でも囲ったか”と怪しまれようぞ」

「お方様!?」


蘭丸は目を見開き、長秀は張り詰めていた緊張が切れたように、慌てて額の汗を拭った。


「め、滅相もないことにございます。恐れ多い……」


恐縮しきる長秀の様子に、場に張り詰めていた空気がふっと緩むのを感じた。信長がいた頃、こうしたやり取りの後には、決まって叱声か豪胆な笑いが続いたものだが、今はもう、そのどちらもない。代わりに残るのは、気遣いと沈黙ばかりだ。


 それから三日ほど、私は長秀の屋敷で身を休めた。長旅で擦り切れていた足の裏も、夜ごと疼いていた古傷も、少しずつ落ち着いていったが、心だけは休まらなかった。世の情勢は刻一刻と動いている。誰が敵で、誰が味方か、その境は曖昧になり、昨日の忠は今日の罪に変わる。立ち止まること自体が、すでに危うい。


 四日目の朝、私は屋敷を発つことにした。長秀は何度も思い直すよう言葉を尽くしたが、このまま安寧の中に身を置くことは、私にはできなかった。否、本当はそうする方が良いのかもしれぬ。それでも、あの冷たい土の奥深くで眠る、かの人の首に、どうしても真実を持って行きたいという思いが、どうにも抑えられなかった。


 その前夜のことである。私は蘭丸に静かに語りかける。


「のう、蘭丸」

「はい、お方様」

「そなたは……ここに残ってもよいのだぞ。長秀なら、そなたの身を必ず守ってくれよう。武士として身を立たせることもできる」

「何を仰います!私は――」

「私に仕えておれば、そなたはずっと“影”のようなもの。まだ若い。新しい主君に仕え、才を活かす道もあろう」

お読みいただきありがとうございます。

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