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蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
十六. 重臣たちの真意

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丹羽長秀ー⑧:秀吉の動き――陰謀か忠義か

読めぬ真義ー納得できない読み

「わしが秀吉に従ったのは、光秀が信長様を討ったと聞かされ、家臣として“討つべき逆臣”という大義が立ってしまったからです。その仇を取るべく場所に一番近いところに秀吉がいた。ただそれだけです」


長秀の中に兎に角、早く成敗しなければいけい、そういう思いもあったのであろう。


「家中もまた光秀を逆臣と断じ、世の流れは完全に秀吉へ傾いておりました。そこでわし一人が異を唱えれば、こちらも逆賊の一味と捉えられかねませぬ。さすれば丹羽の名そのものが危うくなりましょう」

「丹羽家を守るため、か」


乱世の世ならば当然の選択であった。誰に与するかで、一族の命運は決まる。


「はい。一番の理由は我が家のため、家臣のため。だがそれだけではありませぬ」


長秀は拳を握りしめ、静かな座敷にかすかな音を立てた。


「秀吉の本心を見極めるためでもありました。近くに仕え、戦の後の振る舞い、その一挙手一投足を見て、光秀討伐が真の義であったのか、それとも別の意図によるものか、確かめたかった」

「……それで、何を見た」

「中国大返しの最中、秀吉は“勝家に先んずるように”と、何度も触れを出しました。まるで敵は光秀ではなく、北陸に在る勝家であるかのように」


その言葉に、蘭丸が思わず息を呑む。


「勝家殿が敵などと……そのような、馬鹿な……!」

「いや、秀吉からしたら勝家は目の上のたん瘤。信長亡き後は、真っ向から対立する相手であろう。先に手柄を上げねばと思うは道理よ」


勝家と秀吉、その間に横たわる見えぬ刃。その存在を、私は以前から薄々と感じ取ってはいた。


「まず……本能寺急襲の報が入った折、わしは秀吉より“至急戻れ”との文を受け取りました。その時すでに、秀吉は大返しの仕度を整えておった。さすがにあまりにも周到に過ぎ、わしも思わず疑念を抱き申した」


長秀は声を落とし、苦渋を滲ませながら続けた。その表情から、彼もまた私と同じ胸騒ぎを抱えていたことが伝わってくる。


「山崎の戦でも……秀吉の兵は、光秀の退路を異様なほど正確に塞ぎました。まるで、光秀の動きをすべて読んでいたかのように。お方様……あの戦は、出来すぎておった、と感じるのは深読みでございましょうか?」

「いや……」


私は思わず息を詰めた。しかし光秀の陣中に秀吉の間者が潜んでいたとしても、不思議ではない。秀吉は人を容易く信じぬ男であり、常に先を読み、裏を疑う。その性質を思えば、光秀が何か企てぬかと探りを入れていたとしても辻褄は合う。それは必ずしも信長への裏切りを意味するものではない。むしろ、信長を守るための監視であった可能性すらある。


「では……そなたは秀吉が裏におったと考えておるのか。本能寺での出来事も含めて」


長秀は、すぐには答えず、静かに首を振った。


「そこまでは申せませぬ。ただ……“本能寺後の秀吉の動きが、あまりに速すぎた”こと。そして……“光秀の敗走と死に至るまでの流れが、秀吉にとって都合よく整いすぎていた”。わしは、その一点だけを申し上げたいのです」


長秀は両膝の上で拳を握り締め、その指先に力を込めた。


「さらに……」


声を潜める。


「本能寺の前夜、秀吉の使者と見られる者が、明智家臣の動きを探っていたという噂を耳にしました。また、“秀吉が妙に本能寺からの報を待っていた”と語る者もおります」


蘭丸が思わず拳を握り締める。


「……では、光秀を裏切りへと追い込んだのは、秀吉殿なのですか」

「まだ断じることはできませぬ」


長秀は即座に否定した。


「光秀の動きを危ぶみ、探りを入れていただけ……その可能性も捨てきれませぬゆえ。それに、疑わしきはあれど、わしは秀吉が信長様の命を狙ったとは、どうしても思えぬのです」

「ほう……」


私の声は、思いのほか低く響いた。

お読みいただきありがとうございます。

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