表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
十六. 重臣たちの真意

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

169/194

丹羽長秀ー⑦:手際が良すぎる帰還――疑惑の胸中

長秀が知る本能寺前後の不穏な動き

「……信じられぬ。いや、信じたい……あの本能寺の災厄より、生き延びておられたとは……」


言葉を切り、深く息を整えてから、改めて頭を下げた。


「……まずは、ご無事で何よりにございます」


その誠意に胸の奥が熱くなり、私は静かに座した。蘭丸も私の横に膝をつき、背筋を正す。


「しかしながら……ならば、なぜすぐに私を頼っては下さらなかったのか」

「すまぬ。まずは、この者の身内を訪ねておった」


その言葉に、長秀は私の傍に控える蘭丸へ視線を向ける。


「この者は……お方様の侍女にございますか」


まだ女人の姿のままであったことに気づき、私は思わず微かに笑った。長秀は首を傾げる。蘭丸は一つ咳払いをし、頭を覆っていた布を外して深々と頭を下げた。


「お久しぶりにございます。森蘭丸にございます」


その名に、長秀はしばし言葉を失い、まじまじと蘭丸を見つめた。


「森……蘭丸。そなたも本能寺にて討死したと聞いておったが……」

「信長様の命を受け、お方様をお守りするため、旅のお供をしております」

「……そうであったか」


長秀はしばし沈黙し、やがて苦笑を含んだ声を漏らした。


「いやはや……見事な変わりようよ。娘御と言われても疑わぬ。姫と申しても、十分に通りましょうぞ」


その言葉に、張り詰めていた空気がわずかに和らいだ。


「そちも、そう思うか?」


私の問いに長秀が静かに頷くと、蘭丸は少し気まずそうに視線を逸らし、耳まで赤く染めた。


「お方様も、長秀様も……どうか、そのように揶揄わないで下され」


ほんの束の間、座敷の中で張りつめていた空気が、一瞬だけ緩んだ。あの夜以来、重く沈みがちであった蘭丸の声に、かすかな若さが戻ったのを、私は確かに感じ取った。私は改めて背筋を正し、居住まいを改めて長秀と向き合う。


「長秀。急な訪れであったにもかかわらず、こうして迎えてくれたこと、心より感謝する」


ひと呼吸置き、胸の奥に溜め込んできた言葉を選ぶ。


「本能寺の真相を探るため、そなたの助けが要る。あの夜より、私の胸に降り積もった疑念――秀吉の動きについて、そなたの考えを聞きとうてな」


長秀の表情が、ほんの一瞬だけ陰る。その変化は僅かであったが、長年人の顔色を読んできた私の目には、はっきりと映った。


「……やはり、そこをお聞きになりますか」

「無論よ。信長の死、そして間を置かぬ光秀討伐。その裏には何もなかったのか、私は真実が知りたい。そなたは秀吉と合流し、山崎へ向かったであろう」


長秀は静かに目を閉じ、短く息を吐いてから頷いた。その仕草は、迷いと覚悟を同時に抱え込む者のそれであった。


「本能寺の変を知ったのは、中国より引き返す直前でした。羽柴秀吉は“毛利と和睦が成った、直ちに畿内へ戻る”と触れを出しました……」


言葉を切り、長秀は私をまっすぐ見据える。


「お方様、あれは、あまりにも手際が良すぎました」


その一言で、胸の奥に沈めていた感覚が静かに浮かび上がる。


「そなたも、同じように感じておったか」

「はい。秀吉は、本能寺の変を、まるで“起こると知っていた”かのような速さで動きました。その後の采配も、あまりに手際が良すぎた」


長秀は畳に指を置き、押さえつけるようにして声を落とす。


「光秀の挙兵に驚いたというより……“待っていた”かのような動き。備中高松からの撤退も、軍勢の乱れ一つなく、すでに決められていた道を進むようであった」

「そのような思いを抱いておったのに、そなたはなぜ秀吉に与した」


問いは厳しく響いたが、責めるつもりはなかった。

お読みいただきありがとうございます。

いいね・評価・ブックマーク&感想コメントなど頂けましたら大変励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ