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蝶の舞 ー濃姫ー  作者: 麗 未生(うるう みお)
十六. 重臣たちの真意

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丹羽長秀―⑤:門前の小競り合い――現れたのは……

胡蝶の名ー門前にて

「行くしかあるまい。長秀は信長に誠を尽くした武士。邪推で客を追い払う男ではない。誰が何をしに参ったのか、真意を確かめもせずに追い払うようなことはないであろう」


そしてそれこそが、先を見る武人という者。長秀はそれをよく心得ている者である。そう自らに言い聞かせるようにして、私は門前へ進んだ。門兵たちの視線が一斉に集まる。


「おい、そこの者。止まれ」


槍を横に構えた門番が声を荒げる。


「名を名乗れ」

「丹羽殿に取り次いでほしい。“蝶”が参ったと伝えよ」


やや沈黙の後、門番は鼻で笑った。


「蝶、だと?」


まあ、無理もなかろう。この姿では蝶というより蛾の方が相応しい出で立ちだ。


「戯言を。ここはそのような名遊びをする場所ではない。早々に立ち去れ」


蘭丸が一歩前に出る。


「このまま追い返せば、後で困るのはそちらだ」

「何を偉そうに!」


張り詰めた空気の中、私は一歩踏み出した。


「大切な話がある。織田信長様に通じる話だ。それでも追い返すか」


門番の表情が、僅かに揺れた。信長の名は未だ重い。私はその変化を見逃さず、黙して待った。ここから先、丹羽長秀がどちらを向いているのか。それを確かめるための、最初の関門であった。


「早うせい。でないと後悔するぞ」


蘭丸が一歩踏み出し、門番を睨み据えた。その声は女のものに偽っていながら、芯に鋼を含んでいる。


「子娘が偉そうに。下がれ!」


門番が槍を構え、刃先が私たちへ向けられた。その冷たさに触れた瞬間、胸の奥に沈めていた怒りが静かに燃え上がる。


「……取り次げぬというのなら、それもよい」


私は声を荒らげず、淡々と言った。


「だが、先程からの私の言葉を一つも伝えぬまま追い返したと後で分かったなら、そなたたちはただでは済まぬ。それでもよいか」


視線を真っ直ぐに向けると、門番は思わず眉をひそめた。虚勢ではないと、本能が悟ったのであろう。


――何だ、この女……ただの百姓ではない。追い返してよい相手か……。そうした心の揺らぎが、空気に滲む。そのとき、奥から足音が響き、中間が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「何事だ、騒がしい。……どうした、その者たちは」

「殿に取り次がねば後悔すると、この者らが申しておりまして」


中間は私たちを一瞥したが、私が視線を逸らさず見返すと、僅かに言葉を失った。


「……ただの百姓女、ではなさそうだな。伝えるだけ伝えたほうが良かろう。念のためだ」


中間は複雑な顔を残し、奥へ走っていった。門番はなお疑いの目を向けていたが、槍は下ろした。その間にも、胸の鼓動が一つずつ重なり、時が引き伸ばされていく。やがて直垂をまとった武士が数名、門前に姿を現した。丹羽家の重臣であろう。彼らの視線は鋭く、私の一挙一動を測っている。


「……名を名乗れ」


一瞬の躊躇いののち、私はその名を口にした。


「胡蝶」


この名を、かつてそう呼んだ者は三人しかいない。父・道三、母の小見の方、そして信長。すでに皆この世を去ったが、信長が私をそう呼び続けたことは、家中に知れ渡っている。


「戯言を申すな。その名は亡き信長公の……。お前のような下賤の者が騙るとは、ただでは済まぬぞ」

「胡蝶を騙る気はない。私は、信長がそう呼んだ女だ」

「その方は亡くなられた。本能寺で焼死したのを、この目で見た者もおる!」


その言葉に、蘭丸が思わず前へ出た。


「見たというのは、焼け跡に女性の遺骸があったというだけであろう。本当に胡蝶様だと確かめた者など、誰もおらぬ!」

「黙れ。ぬしはこの女の娘か。母娘で我が殿をたばかりに来よったか!」


罵声と怒号が飛び交い、兵たちの手が刀の柄へ伸びる。空気が張り詰め、今にも血が流れかねぬ、その刹那。

お読みいただきありがとうございます。

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