第十四話 お坊ちゃま集団の実力
お疲れ様です。
本日の投稿になります。
馬の懸命な走行によって縦にそして横に複雑に揺れる体から見る景色は何とも言えないモノへと変化してしまっている。
あっと言う間に後方へと流れて行く木造建築物の数々は微妙に歪み、鼓膜を刺激する馬の蹄の力強い音が鼓膜を通して脳を揺らしそして。
「お、おいおい。国王親衛隊に抱えられている人が居るぞ……」
大きく目を見開いて俺の変わり果てた姿を見つめている者等々。
人の脇に抱えられて馬で移動する景色はこんな風に見えるのかと。
人生をより豊かにするかも知れない貴重な経験を半ば強制的に味わっていると隊の先頭を勇猛果敢に駆け続けているヘインズ隊長が隊の移動音に負けない声量を正面に放った。
「レイド君!! あそこから王宮内の城門に入るよ!!」
あそこと言われましても抱えられた状態じゃあ前を向くのはかなり難しいのです。
首の筋肉にンっと力を籠めて、丁度室内の天井を見上げる要領で前方を捉えるとそこにはヘインズ隊長が仰った様に木製の堅牢な城門が見えた。
城壁の下に構えている城門は何人も通さぬと金剛不動の姿勢を維持しており、城壁の上の見張り台には今も複数の衛兵が弓を背負い北大通りに睨みを利かせ城門脇には鉄製の槍を構えた衛兵が戦士の圧を纏いお手本にしたくなる警戒を続けている
城門前は特に用が無ければ足を踏み入れる事も許されない言わば聖域みたいなものだ。
一般庶民はあの中は一体どんな造りになっているんだろうなぁっと。頭の中でアレコレと想像を膨らませて今日も雑踏の中を進んで行く。
その中の一人が俺であり本来であれば門前払いを食らう身分なのですけども……。
ヘインズ隊長の勇断?? のお陰で本日は半ば強制的に王宮内にお邪魔させて頂く事となった。
この事が軍部にバレたら一体どんな処罰が下るのでしょうかね。
数か月減給?? 停職数か月?? それとも軍法会議??
頭の中で己の身に降りかかって来る災難の数々を想像していると馬の歩みが徐々に遅々としたモノへと変化。
馬の足が完全に停止するとヘインズ隊長が城壁の上に居る衛兵に向かって大声を張り上げた。
「お――い!!!! 城門を開けてくれ!!」
「先ずは副隊長が抱えている人物の説明を願います!!!!」
そりゃそうでしょうね。
国王親衛隊の隊員が街に向かって見回りに出発していざ帰還したのなら正体不明の男性を抱えているではありませんか。
先ずはその者の素性を確認するのが良く出来た衛兵なのです。
まかり間違って此処で退散出来ないだろうか?? ほら、不審な者を入れる訳にはいきませんとか正当な理由で入場拒否を受け取れば帰られるでしょう??
ほんの少し、蟻の目玉程の淡い期待を胸に秘めて彼等の会話をいつもの様に地面と平行では無く。美しい青が占める天へ向かっている右耳で聞いていた。
「この者はかの地から乾坤一擲となる敵の情報を持ち帰って来た英雄だ!! 本日!! 私達は彼から指導を受ける為に行動を共にしている!!!!」
ヘインズ隊長が仰々しく特殊作戦課第四分隊の功績を叫ぶと。
「「「「おぉぉおおおおおお!!!!」」」」
衛兵達が感嘆の吐息を漏らしてしまった。
ヘインズ隊長?? もしかして機密情報をアチコチに話して回っているのですか??
情報漏洩は罪に問われますのであの城門の様に堅牢な姿を保持して下さいまし。
「分かりました!! おい!! 門を開けてくれ!!」
城壁の上の衛兵が後方に向かって指示を出すと硬く閉ざされていた城門が腹の奥を刺激する重低音を響かせながら左右に開いた。
いや、開いてしまったというべきか。
「よし!! 行くぞ!! ハァッ!!!!」
相も変わらず元気一杯なヘインズ隊長が馬に指示を出すと俺の体に再び不規則な上下運動が襲い始める。
何とか理由を付けて立ち去りたかっけど……、もう何でも好きにして下さいと諦めの気持ちが徐々に勝り始めてしまった。
脇に抱えられたまま城門を潜るとヒヤリとした空気が漂う上下左右に広い通路の中を突き進んで行く。
左右の石造りの壁には照明用の松明が備わり淡い橙の光を灯して国王親衛隊の進むべき道を照らす。
馬の足で数十歩進むと通路内に再び門が現れるが、その内門は既に開かれており隊は素晴らしい速度を保持したまま奥へ奥へと只々突き進む。
薄暗い通路の城壁に向かって視線をじぃっと送っていると……、壁の中に四角形の空洞がちらほらと確認出来た。
通路内に何度も現れる内門、漆黒の闇が跋扈する四角形の枠。
恐らく何度も現れる内門は城門を突破した敵性勢力を足止めする役割を持ち、四角形の枠は中から矢で通路内の敵を穿つ機能を持っているのだろう。
城内に侵入した敵を少しでも減らそうとする機能性に富んだ造りに一人静かに感心していると通路の脇で警備を担当していた人達が彼等に向かって迎えの言葉を放った。
「お疲れ様です!! ヘインズ隊長!!」
「あぁ!! お疲れ!!」
「本日の見回りお疲れ様です!! これから訓練ですか!!」
「その通りさ!!」
「本日もお元気そう……、と言いますか!! ヘインズ隊長――!! 不審者を連れ込んではいけませんよ――――!!!!」
あ、あはは……。自分もその考えには賛成しますよ??
あっと言う間に後方へと下がって行き全く見えなくなってしまった衛兵さんの考えに至極同意していると松明の人工的な光では無く自然本来の光が徐々に見えて来た。
「到着だ!!」
「此処まで来れば逃げる事もしないだろう!!」
国王親衛隊の隊長殿が威勢の良い声を張り上げるとヴァイゼルさんが俺の拘束を解き、約十分ぶりに地面に足を突き立てて周囲の様子を確かめた。
此処は国王親衛隊の隊員達が汗を流す訓練場なのだろう。
石造りの壁に四方を囲まれた訓練場は一辺約四十メートルとかなり広い。青き空から降り注ぐ陽光は今も訓練場の中央で汗を流す隊員達を照らし続けており彼等の汗が光を反射して俺の瞳に音も無く侵入して活気を生み出してくれる。
対人戦闘を想定した木偶、弓矢の練習用の的、仮想戦闘用の木剣が所々の壁に添えられており彼等は来るべき時に備えて無言を貫いたまま待機し続けている。
入り口の正面の先には頑丈な門が、右手側にはそれよりも一回り小さな門、そして左手側にも門が確認出来る。
そして壁の二階部分には一切の曇りが見当たらぬ硝子窓があり、薄暗い向こう側に人の存在は確認出来なかった。
へぇ……。此処が国王親衛隊の訓練場か。
当たり前だけど機能性に富んだ施設に思わず感嘆の吐息が漏れてしまう。
「私達が入って来た門の左右にも通路があってね?? 右手側の通路はあそこ……。ほら、王宮内に入る二階部分に続く階段があるんだよ」
ヘインズ隊長が俺の側に来ると二階部分の窓に指を差す。
「訓練場の右手の門の先には武器庫、左手側の門の先には厩舎と私達が使用する宿舎がある。そして真正面の門には近づかない様にね??」
「それは何故ですか??」
「あの門の先にも王宮に続く通路があって使用出来るのは王族関係の方々のみ。門に手を触れる事態も罪に問われる恐れがあるから」
お、おぉ……。良かった、事前に聞かせてくれて。
興味本位でパっと門を開けたら一生牢屋の中で過ごさなければならない所だったぞ。
「さて!! 施設の説明はこれでお終い!! 早速だけど私達に指導を施して貰おうかな!!」
急に指導を施せと言われても一体何をしたら良いのやら。
「は、はぁ。指導と仰いましたけど具体的に自分は何をすれば良いのですか??」
体に纏う甲冑と兜を脱ぎ、身軽になったヘインズ隊長に問う。
「そうだね……。それじゃあ先ずは隊員達と徒手格闘の組手をして貰おうか。おい!! イシュラン!!」
「はっ!!」
ヘインズ隊長が訓練場の中央で汗を流して木剣を振っていた女性隊員を呼び寄せる。
「今からこの者と徒手格闘の模擬戦闘を始める。先ずはイシュランから始めるぞ」
「了解しました!! ――――。ですが、この者は一体何者ですか?? 予定の無い部外者の訪問は禁止されている筈です」
此処に来るまで何度も聞いて来た台詞を女性隊員が述べると。
「この者はかの地から帰還した英雄だ」
彼もまたほぼ同じ答えを返した。
「ほ、本当ですか!? 隊長から武勇伝を聞いた時は眉唾ものだと考えていましたが……。まさか御手を合わせる日が来るとは思いませんでしたよ!!」
「は、はぁ……。どうも……」
イシュランさんが喜々とした表情を浮かべて俺の左肩をバシバシと叩くものだから目を白黒させてしまいますよ。
「で、では早速御手を合わせましょう!! 此方へどうぞ!!」
「痛いですぅ!!」
彼女が俺の右腕を中々の力で掴むと此方の意思を全く汲まず訓練場の中央へと連行されてしまう。
ヘインズ隊長然り、この方然り……。
国王親衛隊の隊員の方々は自分の我を貫き通す人達ばかりなのかしらね?? 貴方達はそれ相応の家名を持つ者なのですからも――少しだけお淑やかに過ごすべきだと思います。
「組手の取り決めは可能な限り寸止め、金的の禁止、投げ技組技寝技は可能で宜しいでしょうか!!」
「あ、はい。それで構いませんよ」
込み上げて来る高揚感を誤魔化す様にその場で軽く弾んでいる彼女に対して同意の意味を籠めて軽く頷く。
「よぉし!! やるぞぉ!!」
隊服だろうか?? ちょっとだけ汚れが目立つ半袖の濃い青のシャツと黒色のズボンをお召しになり、軽い弾みを続ける彼女の体に視線を置く。
軽い運動を継続していてもその芯は揺るがずシャツから覗く二つの腕には一般女性よりも遥かに多い筋肉量が積載されている。上下に弾む度に黒みがかった茶の髪が楽しそうに揺れていた。
一般人から見れば鍛えられたと頷けるものだが、彼女の姿を捉えた狂暴龍はこう言うでしょうね。
『はっ、何よあの腕は。餓死寸前の鶏の足の方がまだ太いっつ――の』
貴方達、傑物と普通の人間を比べたらそう見えるであろうさ。
ふぅむ……。普段から彼女以上の体付きの方々から熱烈な痛みを受けているのでそこまで脅威を感じ無い。
しかし、我が師から口を酸っぱくして言われている通り驕りや油断は負けに直結してしまいますので此処は一つ。気を引き締めて組手に臨む事にしましょう。
此方も軽い柔軟を終えて地面の上に脱いだ上着をキチンと折り畳んで置いてその時に備えた。
「それでは始めましょう!! ヘインズ隊長――!! 審判役をお願いしても宜しいですか――!!」
「あぁ勿論だ!!」
「此方こそ宜しくお願いしますね」
対峙したイシュランさんに向かって礼儀正しく頭を下げた。
「それでは組手を始める。双方、構えて」
ヘインズ隊長が静かに、しかし緊張感を籠めた硬い口調でそう話すと。
「……」
イシュランさんが戦闘の構えを取った。
ほぉっ、中々良い構えですね。
体を正面に構え両手は相手の攻撃に直ぐ対応出来る様に顎下まで上げ、下半身は前後左右に動ける様に軽く落とす。
ヘインズ隊長が以前仰っていた『お坊ちゃん集団』 という肩書は忘れないと怪我の一つや二つは負ってしまうでしょう。
さてと、向こうはやる気十分ですので此方も構えましょうかね。
師匠から受け賜った世界最強の構えを取ると。
「……ッ」
あからさまに彼女の顔色が刹那に曇ってしまった。
武に通ずる者は相手の構えを見るだけである程度の力量や圧を敏感に感じ取る事が出来る。つまり、彼女は俺の実力を拳を交わさずともある程度掴み取ってくれた様です。
「健闘を祈る。それでは……、始めッ!!!!」
ヘインズ隊長から覇気のある開始の合図が訓練場に轟くとほぼ同時。
「ハァァアアアア――――ッ!!!!」
イシュランさんが俺の間合いに何の遠慮も無しに踏み込み素晴らしい拳を突き出してくれた。
「んッ!!」
「……っ!!」
眼前に迫り来る己の移動速度と拳の速さを合力させた素早い右の拳を左手の甲で軽く弾くと相手の防御態勢が整う前に此方の右の拳を…………。
っとぉ!! 直撃させたら駄目だったんだ!!
「はいっ、先ずは一本ですね」
「うっ!?」
彼女の女性らしい顎の下に右の拳をピタリと置いてあげた。
あ、危ない……。初手で隊員の方に怪我を負わせてしまう所だった……。
いつもと同じ力加減で組手に臨むと大怪我を追わせてしまう蓋然性がある為、腹ペコ龍達との組手の十分の一程度の力加減で組手に臨むべきだな。
「は、はぁ……。凄い圧ですね。顎の骨が砕かれるかと思いましたよ」
たった一度のやり取りで既に大粒の汗を額に浮かべている彼女が此方から数歩下がって話す。
「それでは連撃はどうですか!? 速さには自信があるんですよ!!」
イシュランさんが気合の籠った声を出すと再び俺の間合いへと素早く侵入し、人体の各急所へと向かって連撃を放つ。
空気を切る拳の金切り音、急所へと向かい来る一切の躊躇の無い決意の籠った拳、そして敵を倒すという闘志の炎が灯った瞳。
ヘインズ隊長はお坊ちゃま集団と己の隊を揶揄していたがこの一連の連続攻撃を見る限りパルチザンの兵士達と何ら遜色の無い武力を持っていると判断出来るんですけどね。
「確かに速いですね!!」
丹田の位置に放たれた左の拳を弾き相手の攻撃の範囲外へと逃れつつ話す。
「私の攻撃速度は親衛隊の中で最も速いんですから!!!!」
当然、そう来ますよね!!
勝気にそして当て気に逸った彼女が俺の体を己の間合いに収めようとして下腿三頭筋を駆使して素早く踏み込む。
相手を倒そうとする攻撃の姿勢は頷けますけど防御を疎かにするのは宜しくありませんよ!?
「んっ!!」
相手の踏み込みに合わせて此方もイシュランさんへと向かい、彼女のソレよりも素早い踏み込みを披露。
「うっそ!?」
「――――。はい、また一本ですね」
後方へと下がると予想していた彼女は俺の踏み込みに対して対処出来ず、相手の防御態勢が整う前に彼女の左の脇腹に右の拳を優しく置いてあげた。
「攻撃速度は確かに素晴らしいの一言に尽きます。ですが、攻撃の合間の微かな隙や防御に対する姿勢。敵の行動の先の先を読む思考能力に若干の陰りが見えます。速さを武器に敵の行動の頭を抑えて苛烈に攻め込み常に先手を取るのは悪く無い考えですが相手が己より速い場合、又は思考に富んだ敵の場合には通用しない可能性が高まります。攻撃面と防御面と思考。常にこの三位一体を意識すれば更なる高みへと昇れるかと思われます」
イシュランさんから数歩下がり相手に対してキチンとお辞儀を放った後に組手の感想そして彼女に足りないモノを端的に伝えてあげた。
勿論?? 俺も足りない所ばかりですよ??
『お主はいつから人の上からモノを言う様になったのじゃ??』
何を偉そうに、と。師匠はこわぁい顔を浮かべて腕を組んでそう仰るだろうがそれを自覚しての所見なので見逃して頂ければ幸いです。
「はぁ――……。まさか私の速さが一切通用しないとは。少しは掠るかと思ったんですけどね」
彼女が己の拳を見下ろしつつ残念そうに言う。
「何度か危ない場面はありましたよ?? 只、それだけではこの先通用しない可能性があるかと」
「そう、ですよね……。うん!! これからも精進して参ります!! 有難う御座いました!!」
「あ、いえ。此方こそ有難う御座いました。それでは失礼しますね」
礼には礼を。
武に携わるものであれば誰しもが大切にする礼節に則り、素晴らしい角度でお辞儀を放ったイシュランさんに対して此方も相応の礼で応えてあげた。
何はともあれ相手を傷付けずに組手を終える事が出来たな……。手加減ってやっぱり難しいですよ。
師匠達のお力を人知れず改めて再確認して王宮を後にしようと画策するが、どうやらそうは問屋が卸さぬ様である。
「次は俺だ!! 俺と勝負しろ!!」
「ずるいですよ副隊長!! 俺だって自分の力を試したいんですから!!」
「俺の腕力なら奴を打破する事が出来るかも知れないだろうが!!!!」
「へへ、じゃあ間を取って俺が……」
「「「「そうはさせるかッ!!!!」」」」
俺の行く手を阻む様に人の輪が完成してしまい、その中央に取り残された俺は彼等が放つ喧噪によって肩身がギュウっと狭くなる思いが募って行ってしまった。
あ、あはは。こりゃ暫くの間解放されそうにないな。
まぁでも戦地へ出発までの間、何もしないと体が鈍ってしまいそうだし。鍛錬に向けての丁度良い運動になるので此処は一つ、国王親衛隊の皆様達と共に汗を流しましょうかね。
後、副隊長殿??
「防御に徹した腕を砕き!! そこから生まれた隙を突いて奴の頭蓋を砕く!! その為に俺は日々筋力鍛錬に臨んでいるのだ!!!!」
他の隊員達さんはあくまでもこれは訓練だと位置づけているのにどうして貴方は俺の体の骨を砕こうとしているのでしょうか??
そればかりは甚だ疑問が残る次第でありますっ。
己の筋力を仰々しく周囲に披露する彼に対して若干の辟易にも似た感情を抱きつつ、徐々に狭まりつつある歓声の輪の中で一人静かに次なる相手の出現を待ち続けていたのだった。
お疲れ様でした。
さて、ゴールデンウィークは後半に突入しましたが読者様達は如何お過ごしでしょうか??
私の場合はそうですね……。お出掛けとプロット執筆を交互に続けているといった感じですね。それに加えてちょっと遠くのスーパー銭湯に出掛けて筋肉を癒している次第であります。
普通過ぎる休日の繰り返しでちょっと飽きたのなら全く初見の御飯屋さんに足を運んで舌鼓を打つ。これだけで満足出来てしまう安い自分にちょっと情けない感情を胸に抱いてしまいますよ。
そして、いいねをして頂き有難う御座いました!!
それでは皆様、引き続き良い大型連休をお楽しみ下さいませ。




