第十話 時に交渉は強引に その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
彼女に引きずられるままくらぁい闇が蔓延る洞窟に突入すると体にジメっとした湿気が襲い御鼻ちゃんに土と埃っぽい匂いが入って来る。
視界のそこかしこに居る暗闇は私達の様子をじぃぃっと窺う様に静かに佇みその先にある漆黒は存在し無い筈の魑魅魍魎を彷彿とさせた。
あ、相変わらず怖い雰囲気を醸し出す洞窟じゃねぇか……。
史上最強の私の心を揺さぶるとか本気で洒落にならねぇんだけど??
取り敢えず立ち上がりましょうかね。
このまま引きずられたままだとお尻の皮がズルっと向けちゃうし。
「ユウ!! いい加減に手を放せや!!」
「ん――。此処まで来たらもう逃げねぇだろ」
私の親友が右手をパッと放すと同時に立ち上がりお尻ちゃんにギュっとしがみ付く砂と小石ちゃんをパパっと払い。
「ってな訳で失礼するわね!!」
洞窟の奥へと向かってノッシノシと進み続けているユウの背中にギュっとしがみ付いた。
はぁ――……。やっぱこういう時はユウの背中よねぇ。
何だかメチャ頼れるし、安心出来るし。それと何より彼女の匂いが私の荒んだ心を癒してくれるのよ。
んっ、今日も良い匂い。
「だぁぁああ!! 鬱陶しい!!」
このまま何んとか進めないかと甘い考えを持っていたがそれは悲しいかな。ユウが私の拘束する腕を邪険に払ってしまいおじゃんになってしまいましたとさ。
「ちょっ!! くっ付いて歩くくらい別に良いじゃん!!」
「この前来たからもう慣れただろ。我慢して歩けって」
「じゃ、じゃあ右腕借りるわね……」
並みの悪魔程度なら余裕で尻窄ませられる怖い顔を浮かべているユウの右腕にギュっとしがみ付いて随分と前を先行するカエデの後に続く。
ってか、あの海竜ちゃんちょっと冷た過ぎじゃね??
私達を置いてズンズン歩いて行ってんじゃん。
「カ、カエデ。もう少し光量を上げなさい」
前を歩く彼女の小さな背に懇願するものの。
「御断りしますっ」
クソ真面目な優等生は私の願いをほぼ秒で拒絶してしまった。
「何でよ!? 暗過ぎて足元が見えないから危ないじゃん!!」
「こういう所は雰囲気を大切にすべきなのですよ」
それ、只あんたが楽しみたいだけでしょ。
前歯の裏側にまで出掛かった言葉を必死に喉の奥に引っ込めると右手に淡い光球を浮かべている彼女がふと足を止めた。
「おや?? これは…………」
カエデが足元の何かに向かって足の裏を乗せた刹那。
「「「ッ!?!?」」」
私の右方向の壁の小さな穴から鋭い鏃の付いた矢が、ユウの左方向からは槍が、そしてこの罠をワザと発動させたカエデの頭上からは細い剣が降り注いで来やがった!!
「ふんっ!!」
私は右の昇拳で矢を弾き飛ばし。
「フンガッ!!」
ユウは御自慢の膂力を生かした左手の裏拳で。
「ふむっ。侵入者撃退用の新しい罠ですねっ」
お前さんは何故そうも高揚しているのかと首を傾げたくなる鼻息をふんすっ!! と漏らしたクソ真面目な海竜ちゃんは瞬きよりも速い速度で結界を局所展開して剣を防いだ。
全員が素晴らしい所作で罠を迎撃した。
私達はちゃあんと成長しているんだなぁっと。
襲い掛かって来た罠がそう実感させてくれて心が温まるものの、何故奴は罠をワザと発動させたのだろうと微妙な苛つきが心の安らぎを揺るがしてしまう。
「カエデ、何で罠を発動させたのよ」
罠の発動箇所の前でちょこんとしゃがみ込み、微妙に窪んだ箇所をじぃっと見つめている藍色の髪の女性に問う。
「どういった罠なのか知りたかったからです」
あらまっ、端的且クソ正直に話してくれたわね。
「その興味本位であたし達が傷付いたらどうするんだよ」
ユウがヤレヤレといった感じで話す。
「ユウ達はこの程度の罠じゃ死にません。まぁ傷付くかも知れませんがね」
「「分かっているのなら罠を発動させるな!!!!」」
ユウと一字一句同じ憤りの言葉を放つが当の彼女はどこ吹く風。
「さっ、シシリョウさんの研究所まで後少しです。先を急ぎましょう」
私達の怒りを嫋やかな言葉と所作で華麗に受け流すと微妙に腹の立つ明るい歩き方で洞窟の奥へと向かって進んで行ってしまった。
「ったく……。物好きにも程があるでしょ」
「カエデはそういうのが大好きだからな。引き続き警戒しながら進んで行こうや」
「ん――」
ユウが私の頭をポンっと優しく叩くと藍色の髪を左右にフルっと揺らして進んで行く彼女に続いた。
洞窟の奥から微妙に吹いて来る風には悪霊が放つおぞましい邪気の様なくらぁい匂いが含まれておりそれが鼻腔から体の中に侵入を果たすと私の心臓がバックンバックンといつもより強い鳴動を放つ。
洞窟内の薄暗さが人の心に恐怖心を齎し、地面の砂利を踏む音と風のヒュゥゥゥゥっという音が更にそれを装飾。
史上最強最高の私の心に容易く恐怖を植え付ける環境の中をひた進んでいるとカエデがふと歩みを止めた。
「到着しました。シシリョウさん、居ますか??」
薄汚れた木製の扉を三度優しく叩くものの。
「「「……」」」
待てど暮らせど中から返事は返って来なかった。
普通の人間なら居留守は通じるのだが生憎私達は相手の魔力を探る術を持ち合わせている。
土の壁の向こう側には以前会敵した時よりも強力になった一つの魔力が静かに佇んでおり、この無言の間は恐らく。
『私は忙しいからさっさと帰れ』 という意味でしょうね。
「もう!! シーちゃん!! カエデさん達が尋ねて来てくれたんだから立ち上がりなさいよ!!」
ほら、あの鏡の中に居たゆ、ユ、ゆぅ……。幽霊じゃなくて!!
魂だけの存在になった名前は確かソラアムっだけ??
色白姉ちゃんの憤る声が扉越しに聞こえて来たのでそれが私のすんばらしい推理を確定付けた。
「チッ、面倒だな……。一体此処へ何をしに来た」
薄汚れた木製の扉がキィっと歪な音を立てて開かれると相変わらず顔色が悪いシシリョウが狭い扉の隙間から顔を覗かせた。
しなしなの猫背は人に言いようの無い心配を引き出し、細い肩と異様に白い肌がそれに拍車を掛ける。
蓬髪気味の色素の薄い黒髪の間から覗く緋色の三白眼の瞳は私達を鋭く睨み付けていた。
「扉の前で御話も何ですし、中へ入れて貰えませんか??」
「断る」
シシリョウがカエデの問いを秒以下の早さで跳ね除けてしまうが。
「皆さんお久し振りですね!! どうぞ中へ入って下さい!!」
「と、言う訳で失礼するな――」
「馬鹿みたいにデカイ乳の女!! 勝手に扉を開けるな!!!!」
既に故人であるのにも関わらず生者よりも元気溌剌な声を上げた色白姉ちゃんの言葉を受け取ると私達は何やら薬品の匂いが強烈に漂う部屋に足を踏み入れた。
凡そ十メートル四方の部屋の中央には触診台?? とでも呼べばいいのか。患者に治療を施す為の大きな台がドンと腰を据えて鎮座している。
正面奥にはこれでもかと薬品が詰められている棚、右手側には人の骨を模した人体模型、そして左手奥には今は消失してこの世からその存在を消失させたオンボロ屋敷の一階にあった姿見が丁寧に置かれていた。
そしてその姿見の中には余り会いたくない人物が喜々とした顔を浮かべて私達の顔を見つめていた。
「皆さん!! お久し振りですね!!」
「よ、よぉ……。あんたも元気そう?? でよ、良かったわね」
鏡の中で私達に向かってヒラヒラと手を振るソラアムに対してそう言ってやる。
一繋ぎの飾り気の無い服装は以前見た時と変わらず、その上に乗っかる顔は死人に相応しくない程にキラキラに輝いていた。
「幽霊じゃなくて魂だからそこまでビビる必要は無いだろ」
「ち、ちげぇし。これは……。そう、お腹が空いただけだしっ」
「だったらあたしの背中に隠れていないでちゃんと挨拶をしろ。よっ、久々だな」
ユウが右手をシュっと軽快に上げて彼女に陽気な挨拶を交わす。
「はいっ!! でも今日は一体どうしたんですか?? こぉんなジメジメした暗い場所に訪れて」
「ふむっ……。中々に興味がそそられる内容ですねっ」
「勝手に人の研究内容を覗くな!!!!」
興味津々といった様子で机の上の書類に目を通すカエデから己の研究結果を隠す事に奮闘している二人の小さな背を見つめつつ話す。
「良いじゃないですか少し位。それとあの骸骨達を使役する術式の基礎部分を見せて頂けます??」
「駄目に決まっているだろ!! 何だ貴様は!! 私の研究を邪魔しに来たのか!?」
「あ――……、その事なんだけどさ。カエデ、二人に説明してやってくれ」
グイグイと攻めて来るカエデに対し、後ろ足加重になって今にも研究材料一式を持ってこの部屋から逃げ遂せようとしているシシリョウ達に向かってユウが口を開いた。
「コホン、では端的に説明させて頂きます。今日、此処へ訪れた理由は…………」
もう間も無くやって来るであろう世界の終末、この大陸の南西に待機しているオーク共の大軍勢との死闘、そして先程提案した誘い文句をカエデがスラスラと話して行く。
その途中、話が長引きそうな雰囲気が漂い始めたので私はさり気なぁくユウの背嚢の中に手を突っ込んでおにぎりを掴もうとしたのだが……。
「……っ」
私の心を誰よりも深く理解している彼女は微妙な空気の変化をものの見事に察知してしまい、私の攻撃範囲から離れていってしまった。
ちぃっ!! あわよくば此処で美味しいおにぎりに有り付けるかと思ったのに!!
「――――。と、言う訳で。戦力不足の解消を図る為に此処へ足を運びました」
「そ、その話は真実なのですか?? もう直ぐこの世界が終わるかも知れないなんて……」
ソラアムが己の口を両手で塞ぎながら話す。
「私達も話を聞いた時は正直寝耳に水だったわ。でも、亜人が復活すれば確実にこの世界は終わるみたいよ」
ユウの体の影から半身を覗かせて言ってやる。
「ふんっ、確証の無い荒唐無稽な話だな。そんな与太話、誰が一体信じるというのだ」
まぁそりゃそうなるわな。
信用している人物からそう言われれば素直に納得するかも知れんがアイツにとって私達は研究を邪魔する邪な輩なのだからね。
イスハ達と出会った当初、私達にこの話をしなかった理由がよぉぉく理解出来たわ。
「信じるも信じないも貴女が判断して下さい。ですが我々は世界の滅亡を防ぐ為に亜人の血を覚醒させた者を討伐しに城へと突入します」
カエデが右手をぎゅっと握りつつ話す。
「その話が真実だった場合、私達の存在自体が消えてしまうのですよね??」
鏡の中のソラアムが怯えた姿で話す。
「勿論です。この星に住む生命体全て処か星自体……。いいえ、宇宙そのモノが消滅してしまう恐れもあります」
「そ、そんな大規模な終焉が訪れるのですか!? シーちゃん。カエデさん達が態々此処に嘘を言いに来る訳も無いし、それに貴女の研究材料が手に入るのなら参加してみたらどうかな」
「よぉ、撫で肩姉ちゃん。その研究材料を使って一体何の研究をするのよ」
相変わらずユウの背中にピッタリくっ付きながら問う。
「彼女は私の新しい器を作ろうと日々机にしがみ付いているのですよ」
「器??」
「何と言えばいいのか……。端的に説明すると私の魂が入る為の人形と言えば良いですかね??」
「ふむっ、つまり人体の肉と骨で構成された肉人形ですね」
カエデがソラアムの言葉を受け取ると一つ頷く。
「馬鹿者。喋り過ぎだ」
「これ位いいじゃん!! だからさ、戦いに参加すれば世界の滅亡を食い止める事にもなるし研究材料も沢山手に入る。一石二鳥だよ」
「それはあくまでも私が生きて帰れた場合の話だ。オークの大軍勢を相手にするには此方の戦力が少な過ぎる」
ほぉん、机に向かったまま何やら書き綴っているが話の本筋は理解しているのか。
「貴女が考えているよりも我々の両親の力は膨大です。全てを信じろとまでは言いませんがどうか御助力願えませんでしょうか」
カエデが静かに頭を下げると。
「あたしからもお願いするよ」
「城の中の連中は私達が確実にブッ倒すと約束するわ」
カエデに倣って頭を下げたユウに引き続き静かに頭を下げた。
「はぁぁ――……。面倒な事件に巻き込まれるのは心底吐き気がするがこのまま此処で研究を続けていてもどうせしつこく来るだろうし」
シシリョウが双肩をガックシ落とすと改めて私達の方へ振り向いた。
「良いだろう、私の力を貸してやる。報酬は誰のものか分からない人間の遺体並びに四肢と臓物。それと慎ましい額の金だ」
「有難う御座います。報酬額の件については改めてお知らせしますね」
カエデが頭を上げて話す。
「あぁ分かった。私は研究で忙しいんだ。用を終えたのなら帰ってくれ」
シシリョウがそう話すと足元に絡みついて来る犬を払う様にシッシッと右手を振る。
「えぇ――!! 折角来てくれたんだから少し位御話しましょうよ!!」
「ソラアム。私は貴様の肉体を作る研究に忙しいんだぞ?? 今は一分一秒が惜しいのだ」
「私が直して欲しいのはそういう所だよ。じゃあ私達だけで御話しましょうか!! ユウさん!! マイさん!! もっとこっちに来て楽しい御話しましょう!!」
「いかん!!!!」
何でゆ、ゆ、幽霊と明るい会話に華を咲かせなきゃならんのだ!!
「えぇ!?!? どうして!?」
「こいつはビビりだからまだソラアムの事を怖がっているんだよ。ほら、あたし達が経験して来た楽しい話をしながらおにぎりでも食べようや」
ちぃぃいい!! 私の楽しみを人質に取りおって!!
「言っておくけど私はユウの背中から離れないからね!?」
彼女の腰にぎゅっと腕を回して背中ちゃんに鼻頭をムチュっとくっ付けて叫ぶ。
うんっ、さっきよりも汗の匂いが強くなってきたけどこれもまた良い匂い。
「あぁ!! 鬱陶しい!! テメェは母親に甘えまくる餓鬼か!!」
「わ、私はぜぇぇったいに離れんぞ!!!!」
この仕草が鼻に付いたのだろう。
ユウが私の体を右手でギュムっと掴んで引っぺがそうとするが私は彼女以上の力を振り絞ってそれに耐えた。
背の高い姿見の前で乱痴気騒ぎを続ける深紅の髪の女性と深緑の髪の女性。
「あはは!! 御二人共仲が宜しいですねぇ。私とシーちゃんの若い頃を見ているみたいですっ」
姿見の中の薄透明の女性がそれを見付けるとケラケラと軽快な笑い声を放つ。
「私はいつも無意味に接近して来る貴様に辟易していたがな」
「ちょっ!! 今の言い草酷くない!?」
「それが事実だからだ。後、貴様……。いい加減私の研究内容を盗み見しようとするのを止めろ」
「興味が湧くので止めません。と、言いますかまだ術式を見せて貰っていないのですが??」
「だから見せないと言っているだろう!! どいつもこいつも私の話を聞かないな!!!!」
いつもは鼓膜の奥が痛くなる程の静謐が漂う地下室はたった三名のうら若き女性を招いただけで闇が辟易する明るさと騒音に包まれていた。
「ちっ、しゃあねぇ。前に出てしまったから諦めるわ。ってな訳でユウ!! おにぎりを食べるわよ!!」
「あいよ――。カエデ、それとシシリョウ。おにぎりを取りに来て」
「シシリョウさんの分は私が持って行きましょう」
「だ、だから!! 出て行けと何度も言っているだろうが!! 貴様等の耳は腐っているのか!?」
静かな環境を好む一人の女性が即刻退出を願うものの。
「んぅっまっ!! 今日の塩加減も最高っ!!」
「だなぁ――。まっ、あたし的にはレイドが握ってくれたおにぎりの方が好みだけどさ」
「あぁそれ分かるわ――。これよりも微妙に大きくて食べ応えあるもんね」
「文句を言ったらメアさん達に叱られますよ?? はい、どうぞ」
「要らん!! 出て行け!!!!」
太陽よりも明るい光を放つ彼女達の前では懇願の二文字は掠れ消えてしまい否応なしに喧噪に巻き込まれてしまう。
絶望的な状況が眼前に迫ってもそれは彼女達の前では霞んでしまいその代わりに漠然的な希望が胸に宿る。
そう、彼女達が放つ希望の光は闇に包まれた道を照らしてより明るい未来へと続く道へと導くのだ。
只、その光には一つの問題点がある。
それはその光が明る過ぎて尚且つ頭痛の種を咲かせてしまう事だ。
静謐を好む者達はこの問題点を解決しない限り彼女達に追随して行こうとは決して思わないであろう。
その問題点はこれから先、約千年続くと言われている魔物の寿命が終焉を迎えるまで決して解決しない。この難題が解決するとなればそれは問題点を提示された者の心が折れたその時であろう。
希望に満ち溢れた光に包まれるのか、将又その光から顔を背けて闇に覆われるのか。
その二者択一に困惑し続けている一人の女性は頭の中に頭痛の花を満開にしたまま小さな部屋の中で苛まれ続けていたのだった。
お疲れ様でした。
今日はお出掛けした際に台湾ラーメンを食して来ました!! ピリっと辛いスープに良い感じに味付けされたミンチがまた美味しくて……。ラーメン単体では寂しいので餃子とチャーハンセットも頼み、午後からはお腹が膨れた状態でプロットを執筆していましたね。
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それでは皆様、お休みなさいませ。




