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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
~ 第一部最終章 ~ 新たなる時を刻み始める世界
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第十話 時に交渉は強引に その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 視界の全てを覆い尽くす白く重い霧が晴れると心がホッとする緑が眼前一杯に広がる。


 鼻腔に届く森の優しい匂い、肌を優しく撫でる微風、そして地面からふんわりと届く土の天然自然の香。


 その全てが常軌を逸した魔力に当てられてちょいとだけ強張っていた体全体の力を和らげてくれた。



 んぉ――。久々にこの森に来たけれども中々に良い場所じゃあないか。


 踏み心地の良い土の感触を楽しむ為、見方によっては無意味にも見える所作で土をポンポンと踏んでいると藍色の髪の女性が森の奥に向かって視線を向けた。



「マイ、ユウ。時間が惜しいので早速出発しましょう」


 カエデが少しのお出掛けに適したボケナスの鞄を右肩にかけ直して私達の方へ振り返る。


 あの鞄、確かボケナスが初給料で買ったって言ってた奴よね??


 彼女が趣味及び生き様とする読書。


 王都に寄っては必ずといって良いほどカエデは己の生き様を証明するかの様に図書館へと出掛けるのだがその際、あの鞄を必ず使用している。


 何でも?? 借りて来た本が数冊すっぽりと収まるから丁度良いのだそうだ。


 アイツも可哀想に……。自分の大切な所有物がいつの間にか勝手に使用され剰えその所有権が奪われそうになっているのだから。


「りょ――かい。ちゃちゃっと誘って帰ろうや」


「そうね。所でユウ、私を乗せて歩こうとは思わない??」


 赤子程度の大きさを容易に収容出来る背嚢を背負って移動を開始した我が親友の頼れる背に問う。


「蟻の目玉程も思わないね。偶には自分の足で歩けよ」


 ちっ、さり気ない流れで頼めば頷いてくれると思ったのに。だが優しい彼女の事だ。


 愛猫もうっとりするあまぁい声で頼めばきっと堕ちるでしょうね。


「ねぇ――……。ユウぅ、私ぃ。昨日からの世話役の労働で疲れているのぉ。だからぁ貴女のかっこよくてぇ逞しぃ……」


「カエデ、方向はそっちで合ってる??」


「以前、地下から脱出して今は朽ち果てている屋敷に戻って来ました。地下への入り口及びシシリョウさんの微弱な魔力を捉えていますので完璧に合っていますよ」


「そっか」


「無視すんなや!!!! この破廉恥無駄巨乳娘がっ!!!!」


 折角私が恥を忍んで声を掛けたってのに!! あんた達の総隊長である私の頼みを無視するとは一体何事か!!


 普段通りに歩くユウの尻に向かって強烈な張り手をブチかましてやった。



「いってなぁ……」


 土の中でぐっすりとおやすみになっている土竜さんの双肩がビクっ!! と上下する炸裂音が鳴り響くと同時にユウが此方に振り返る。


 いつもは柔和な角度で曲がる眉はこれでもかと鋭角に尖り、鼻頭の皺は最強の種族である龍一族をも慄かせる深い皺が刻まれている。彼女の性格を知らぬ者もこの顔を見れば怒り心頭であると秒で察知出来るだろうさ。



 顔こ、こっわ!! 親の仇を見付けた時よりもやっべぇ顔じゃん!!



「ユ、ユウが悪いのよ!? 私が話し掛けているのに無視するんだから!!」


「あたし達は此処へ遊びに来たんじゃないんだよ。お前さんの空っぽの頭でもそれ位は理解出来るだろ」


「ちぇっ、仕方が無いわね。今日だけはお、大人しく従ってあげるから私を先導する役目を与えてあげるわ」


「あっそ。カエデ――、そう怒んなって。これ位の絡みはいつものあたし達らしいだろ――」


「そうそう。焦って行動しても相手は逃げないからもっとゆっくり移動しなさいよね――」


 随分と前を先行していたカエデが此方へと振り返り。



『ふざけていないで早く行動して下さいっ』 と。


 言葉では無く顔と態度で示している彼女の下へと普通――の速度で向かって行った。



「んっふっふ――。お鍋でコトコトお野菜を煮込んで――。お肉をぶち込めば素敵な料理の出来上がり――っと」


「毎度毎度思うんだけど、その調子の狂う鼻歌止めね??」


「止めん!! ってかその背嚢の最奥に厳重に封印してあるお昼御飯用のおにぎり一式を私に預ける気は無い??」


「全く、これっぽっちも思わないね」


「辛辣ぅ!!!!」


 ユウと肩を並べて普段通りの日常会話を続け、藍色の髪をふっさふっさと左右に心地良く揺らしているカエデの後ろに続いて歩いていると海竜ちゃんがこの森の雰囲気に相応しい声量で口を開いた。



「御二人に尋ねたいのですが……。どうすればシシリョウさんを誘えると思いますか??」


 あっれま。カエデが珍しく私達に意見を尋ねて来たわね。


「美味しい御飯をたらふく食べられて!! 尚且つ好きなだけ暴れられると言えばきっと乗って来るわよ!!」



 戦闘前に沢山の御飯で腹ごしらえをして、にっくき黒き豚共を力の限りにぶっ飛ばし、戦いの連続で失った体力を補う為に好きなだけ飯を食い再び戦場へ舞い戻って行く。


 好きなだけ暴力を揮い、好きなだけ飯を食べられるとか理想的な状況じゃん。


 それに比べて私達ときたらどうだい??


 べらぼうに強い滅魔達が待ち構えている城に突入して亜人の血を覚醒させてしまったボケナスの母ちゃんを殺さなければならない。


 出来る事なら……、私は地上部隊と共に行動したい。


 御飯につられている訳じゃないのよ?? だってさ……。私達はこの星を救う為に好いた男の血の繋がった母親を殺さなければならないのだから。


 私はボケナスが残りの人生を笑って居られる様にする為にこの力を揮うと決めた。しかし、現実は私の決意を紙屑の様にクシャクシャに丸めてしまう非情が蔓延っている



 私達が作戦を遂行して世界を救ったとしても彼は変わらず優しい目を私達に向けてくれるのだろうか??



 城に突入して自分の命が危険に晒されるのは一向に構わん、でも私はその事の方が気掛かりなのだ。


 ボケナスの心の奥底には今もきっと葛藤という二文字が渦巻きその精神を蝕んでいるのだろう。


 この御使いが終わったのなら今一度奴の覚悟を問うべきかしらね??


 あ、いやでも……。そう何度も確認していたら余計なお節介だと突っ込まれそうだし……。


 はぁ……、全く。やっぱり隊長は損な役割ねぇ。


 こうして何も無い森の中を歩いていても心配事がわんさか湧いて来るのだから。



「それはお前さんだけだって。ん――……。あの色白姉ちゃんは何か研究していたよな??」


「えぇ、人体構造に付いての研究でしょう」


「だったらぁ……、そうだな。オークと人間達が激突する戦場には目を背けたくなる人間達の死体が転がっているだろう?? 性別不明若しくは誰のモノか分からない体の一部を持って帰っても良いって伝えればどうだ??」


「ちょ、ちょっとユウ!! もう少ししたらお昼御飯だってのに食欲を低下させる様な話をするんじゃねぇ!!」


 大地の上に転がり積み上がった人間達の血に塗れた無数の頭蓋と五臓六腑の数々を想像すると胸焼けがしてしまう。


「それが事実だろ。それが駄目だったら話の本筋を隠してさ、このままだとお前さんが地下で研究している研究結果がパァになっちまうぞって説明したら??」


「ふむっ、大変理に適っていますね。私と同じ考えで安心しました」



「「……っ」」

『それだったら態々こっちに聞かなくても良かったんじゃね??』



 ユウと共にカエデの背に向かってちょっとだけ厳しい視線を向けていると彼女の体越しにあのくらぁい闇が蔓延る地下へと続く出入口が見えて来てしまった。



「おっ、変わっていないな。早速中に入るか」


「そうですねっ。早く地下の雰囲気を味わいたいのが本音ですっ」


 カエデがふんすっ!! と鼻息を荒げて今は硬く閉ざされている扉へと向かってキラキラで煌びやかな視線を向けた。


 カエデがいつもの魑魅魍魎、摩訶不思議大好きな雰囲気を醸し出すと私の心に暗雲が立ち込めてしまう。



 で、た、よ。


 海竜ちゃんのあの謎の高揚感は一体全体何処から湧いてくるのでしょうね。甚だ疑問で仕方が無いわ。


 カエデはこの世の謎めいた自然現象や未確認生物そ、そのゆ、幽霊とかの類が大好きだからねぇ。


 ま、まぁ私はそっち系が別に苦手って訳じゃないし尻窄んでいる訳じゃないのよ??


 只、物理が通じぬ相手が苦手だって事なの。



 はぁぁ――……。あそこって暗くてジメジメしてて陰湿だから足を踏み入れたくないのよねぇ。


 さり気なく体調不良感を醸し出して此処で待機出来ないだろうか??



「扉は施錠されていませんね。早速お邪魔しましょうかっ」


「あいよ――。ってかワクワクしているのは分かるけどもう少し静かに開けね??」


「う゛っ!? お、おかしいな。急にお腹が痛くなって来たぞぉ??」


 今にも魑魅魍魎がそこかしこに存在する闇の中に潜んでいる地下へ向かって突入しようとする二人に向かって大変分かり易い体調不良の声を上げるが。


「で、では突入しましょうっ!!」


 クソ真面目過ぎる海竜ちゃんは完全完璧に私の意見を無視して闇の中に姿を消し。


「あっそ」


 我が親友はまるで汚物を見る様な大変ちゅめたい視線で私の所作を見下した。



 し、し、し、辛辣ぅ!!


 親友が腹を抑えて蹲っているんだから少し位は気に掛ける姿勢を見せやがれ!!!!



「私がお腹を抑えて蹲っているのにその台詞はどうかと思うわよ!? あいたた……。持病の癪と腹痛がっ」


「あたし達のこれからずぅぅっと長く続いて行く人生の中でお前さんは腹を下す若しくは腹痛に苛まれる事は一生無いからな。ほら、阿保な芝居を打っていないでさっさと行くぞ」


「イヤァァアアアア――――!! 暗いのはイヤァァアア――――ッ!!!!」


 ユウが私の右足をムンズっと掴むとほぼ強制的に私の体を闇の中へと誘ってしまった。




お疲れ様でした。


これからお出掛けをしてから執筆を開始しますので、次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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