第九話 地獄の沙汰も金次第 その二
や、やばい!! 木々に激突する!!
このままじゃ確実に死んでしまうので必要最低限の受け身を取るべきだ!!
「う、受け身を……!!」
取り敢えず体を丸めて体の前で両腕を交差させるが……。ふとした疑問が湧く。
あれっ?? 受け身の姿勢ってこれで合っていたっけ??
いつもは地面と平行に吹き飛ぶ若しくは叩き付けられた時の受け身を取っているから……。この姿勢は不正解なのでは無いか??
頭の中で中々纏まらない受け身の姿勢に対して自問自答していると遂にその時が訪れてしまった。
「うげっ!?」
木の天辺にある枝が俺の腹部に素晴らしい攻撃を加え。
「あうがっ!?」
衝撃によって態勢を崩した俺の後頭部に硬い何かが激しい挨拶を交わし。
「ゴブフッ!?!?」
方向感覚を見失った体の側部に太過ぎる木の枝の昇拳の直撃を許し、そしてその数秒後。
「ダッバズ!!!!」
「うげばっ!?!?」
天然自然の硬度とは異なる柔らかい何かと四度目の会敵を交わした後、冷たい地面に生の鼓動を保ったまま着地する事が出来た。
「ぜぇっ……。ぜぇっ……。よ、良かった。い、生きてる……」
木々の合間から覗く空の青を見上げて心の水面に浮かぶ言葉を一切の装飾を加える事無く放ってやった。
エ、エルザードの奴め!! 何も空の上から俺を落とさなくても良いじゃないか!!
後で絶対文句を言ってやる!!!!
痛みに痛む体に付着した木の枝と葉、そして土汚れを払いつつ立ち上がるとこれまた妙な景色を捉えてしまった。
「は、はぁ!? テメェ!! 何で空から落ちて来やがった!!」
「気配を消して来たのか!?」
「こ、この野郎!! やる気ならヤってやるからな!!!!」
此処は恐らく彼等の拠点だったのだろう。
森の開けた空間の中央には先程まで使用していたと判断出来る燃え尽きた薪がユラユラと白き煙を放ちその傍らには煤に塗れた鍋が転がっている。
食料や生活雑貨が詰め込まれた木箱がそこかしこに乱雑に置かれ、皺が目立つ天幕が森の木々を抜けて届く風に揺られている。
食事をしたまま洗っていない食器類、刃こぼれした包丁、中途半端に片付けられた衣服に干しっぱなしの外蓑。
だらしのない生活態度に一言二言掛けてやりたいがそれはまたの機会にしましょうかね。
戦闘態勢を取った大蜥蜴達は何か切っ掛けさえあれば俺に向かって襲い掛かって来そうなのだから。
「あはは。ど、どうも御無沙汰しております」
取り敢えず当たり障りの無い笑みを浮かべてこれまで培ってきた処世術に倣ってこの場に合った挨拶を交わした。
「突然現れて何の用だ!!」
「もしかして俺達を捕まえに来たのか!?」
「そ、そうなるとあの赤髪もい、い、居るんだろう!? 何処に居やがる!! 出て来やがれ!!」
エルザードの奴め!!
大蜥蜴を見付けたのならそう言いなさいよね!!
いきなり俺を目的地に向かって投下して……。もしもそれで交渉が決裂したらエルザードの所為じゃないか!!
「あ、いや実はですね。貴方達に頼みたい事があって此処に来たんですよ」
淫魔の女王様に対して沸々と湧く怒りを抑えつつ俺が此処へ来た理由を憤る大蜥蜴さん達に対して端的に説明してあげた。
「「「「頼みたい事??」」」」
「お、お前ぇ!! 藍色の髪の女は何処だ!!!!」
俺の言葉を受け取ると一部を除いた大蜥蜴達が大変仲良く同じ角度で首を傾げる。
外見は相変わらずイカツク恐ろしいけど剽軽な姿が多分に笑わせてくれるね。
後、御免なさい。聡明であられる海竜様は此処から南へ向かって百キロ以上離れた場所で己に与えられた任務を忠実にこなしているので居ませんよっと。
「何て言えばいいのかな?? 今、俺達が直面している問題に対して力を貸して欲しいと言えば伝わるかな??」
ハァハァと息を荒げて俺の顔を直視する個体の言葉を無視してその他大勢に向かって話す。
「いきなり現れて力を貸してくれと言われてはい、そうですかって力を貸す程俺達は馬鹿じゃねぇんだよ」
そりゃ御尤もです。
俺も君達がいきなり現れて力を貸せと言われたら先ず警戒するだろうし。
さて困ったな……。
これから始まる戦いについて何処まで話していいのかその判断に迷っていると皺が目立つ天幕の布が静かに開きそこから一人の女性が姿を現した。
「おやぁ……。いつぞやの色男じゃないか」
「デイナか。どうも御無沙汰しております」
俺の方へ向かって静かな足取りで向かって来る彼女に向かって静かに頭を下げた。
「知らない仲じゃないし、そこまで畏まる事も無いさ」
柔らかい黄緑色の髪は以前会った時よりも伸びて今は後ろで一つに纏めている。
切れ長の目は隙が無く少しだけ冷たい印象を人に与える顔立ちの中央に流れる鼻筋は相も変わらず、厚手の上着の中の黒シャツの胸元は女性らしからぬ開き具合だ。
「それで?? 私達に頼みたい用ってのは一体何だい??」
「えぇっとですね……。仕事の詳細は話せないですが俺達は今、血気盛んな人達を探している最中なのです。それから察して頂ければ幸いです」
「あはは、こりゃまた無茶苦茶な話だねぇ。仕事を頼みに来たのにその内容を話せないときたか。色男がどれだけ支離滅裂な話をしているのか分かっているのかい??」
えぇ勿論理解していますよ。俺がこの話をされたのなら間違いなく拒絶しますので……。
さてどうしたものかと思考を凝らしていると宙から淫魔の女王様が降って来た。
「じゃ――ん。世界最強の魔法使いの登場よ――」
「「「「うひょぉぉおお――――!!!!」」」」
「あんたがこの蜥蜴達を一手に纏めているの?? 早速本題に入るけどお金をあげるから私達に力を貸しなさい」
一人の美女によって超盛り上がる大蜥蜴さん達を他所にエルザードが厳しい顔を浮かべているデイナと対峙した。
「これはこれは……。とんでもない力を持った奴が降って来たね」
「で?? この話を受けるの?? 私、彼とこれから先の人生計画を色々と相談しなきゃいけないから時間が無いのよ」
え?? 何ソレ。そんな話は一切聞いていないんですけど??
「先ずは依頼の内容を聞いてから。それが筋ってもんじゃないかい??」
「あぁ、はいはい。仕事の内容は大量のオークを八つ裂きにする事。それだけで一人頭三十万ゴールドあげるわ」
「え!? そんなに貰えるの!?」
淫魔の女王様から提示された報酬に対して一体の大蜥蜴が直ぐに飛び付こうとするがデイナが冷静な表情のまま制した。
「馬鹿かい?? あんたは。目先の金に釣られるんじゃないよ。仕事は何時、何処で行うんだい?? 相手の戦力の規模及び戦闘の目的。危機に陥った時の援軍は居るのかそれとも単独で行うのか。さぁって、聞きたい事は山程あるけどそれでもそっちは話の全容を伏せたままなの??」
「ちっ、面倒ね……。いいわ、教えてあげる。あんた達もその無駄に大きな耳を必死に動かして聞きなさい」
エルザードが妙に鼻息の荒い大蜥蜴達に視線を向けると……。
「う、うぅん……」
あっ、俺を受け止めてくれたのはアイツだったのか。
白目を向いて地面に横たわる大蜥蜴さんを盛大に無視し、肝心要の部分を隠した依頼内容を伝え始めた。
「――――と、言う訳で。私達はあの城の奥に居る魔女を倒す為に今アレコレと作戦を練っているのよ。その為には少しでも戦力が欲しい状況。これで納得した??」
「ふぅむ、大筋は理解出来たさ」
「それじゃ……」
「話は最後まで聞きなよ、別嬪さん」
デイナがニヤリと嫌味な笑みを浮かべる。
あ、彼女に対してその態度は如何なものかと思います。
外見は物凄く美人ですが内面は傲慢な暴君様も顔を顰めて上半身をグっと仰け反ってしまう程の我儘な性格なのですから。
「はぁ?? あんた一体何様のつもり?? 私に対してそんな態度を取ってタダで済むと思っているの??」
「勿論、よぉぉく分かっているさ。あんたがその気になれば私達なんてアッ!! と言う間に消し屑さ。でも……。それは出来ないだろう??」
戦力増強を図っているのにその貴重な戦力を叩き潰すのは本末転倒だものね。
「ちっ、何が言いたのよ」
「万を越えるオーク共の足止めが私達の仕事。それは理解出来た。危険過ぎる仕事内容だからねぇ。前金で五十万ゴールド、戦いで生存したのなら五十万ゴールド、危険手当で三十万。更に武器防具と必要物資の調達に掛かったお金と治療費はそっち持ち。これが仕事を請け負う条件よ」
「はぁっ!? 人の足元見てんじゃないわよ!!」
「こちとら命を賭けて仕事に臨むんだからねぇ。これ位が妥当だろうさ」
「だとしても高過ぎる!! もっと現実的な額を提示しろ!!」
さてと、俺が出来るのは此処までだな。
この先は依頼主であるエルザードと請負人の代表であるデイナの価格交渉をのんびりと眺めていますか。
「よっ、久々だな」
「おぉ、元気そうだね」
大変御綺麗な二人の言い合いを眺めていると赤いマントを羽織った個体が気さくに声を掛けてくれた。
「姉御も、俺様達も大分強くなったけど……。お前も十分に強くなったんだな。以前会った時とはまるで別人じゃないか」
蜥蜴特有の縦に割れた瞳で俺の爪先から頭の天辺までジィっと見つめて来る。
「そうかな??」
比べる人達が傑物過ぎて強くなった実感が湧かないのが本音だ。
「あぁ、姉御も古代種?? だっけ。その力をほんの僅かに使えるようになったけど……。その力を使ってもお前とあの美人には敵わないだろうなぁ」
お褒め頂き有難う御座います。
ですがこれで満足する様では師匠達、そしてマイ達には追い付けませんので今の言葉を糧に更なる高みへと昇って行きましょうかね。
「だから高いって言ってんでしょう!? 耳腐ってんの!?」
「腐ってはいないさ。さぁさぁどうする?? 別嬪さん。折角見付けた戦力をみすみす見逃す手は無いよねぇ??」
森の開けた場所の中央。
そこで甲高い声を上げる別嬪さんとそれを飄々とした態度で流す一人の女性を眺めていると二人の話は一生平行線を辿り、決して交わらないのでは無いかという大きな杞憂を此方に与えて来る。
鼓膜の奥をキンっと貫く淫魔の女王様の憤る叫び声、森の優しい雰囲気に沿った優しい大蜥蜴の首領さんの声。
交互に鳴り響く声に辟易しつつ早くどちらかが折れてくれないかと決して叶わない安易な願いを心の中で唱え続けていた。
お疲れ様でした。
投稿がいつもより遅れてしまって申し訳ありませんでした。一気に書こうと考えていたので時間が予想以上に掛かっちゃいまして……。
さて、少し先の話ですが来月は魅力的なゴールデンウィークがありますね。
読者様達は連休中の予定を決めていますか?? まだまだ先の話をされても困るぜ、と。光る画面越しに声が聞こえて来ますが自分の場合は……。そうですね、無難に買い物と食事に出掛けようかなぁっと漠然敵に考えております。あ、勿論プロットも執筆しますよ?? その息抜きでって感じです。
それでは皆様、お休みなさいませ。




