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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
~ 第一部最終章 ~ 新たなる時を刻み始める世界
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第八話 何事にも息抜きは必要

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 この星の空気はいつから質量を持ってしまったのか?? と。現実では有り得ない妄想を駆り立ててしまう様な重苦しい空気が私達の間を隙間なく埋めて体全身を圧し潰す様に圧し掛かって来る。


 誰かが溜息を吐けば只でさえ重い空気に質量を加算させ、時折やって来る耳が痛くなる様な静けさがそれらに拍車を掛ける。


 恐らく、私達の状況を知らぬ者達がこの部屋に足を一歩踏み入れれば顔を顰めて上半身を仰け反るでしょうね。


 それだけ私達を取り巻く雰囲気と空気は暗い重量感を帯びているのだ。



 まぁそれは当然よね。


 私達はこの星の上に住む生命達の存続を賭けた死闘の話を進めているのだから。



「ふぅむ……。狼一族は八十名程度、ミノタウロスも同じ数か……。前線を維持する為にはもう少し戦力が欲しいが無いもの強請りをする程余裕は無い。これ、グシフォス。巨龍一族に増援要請はしたのか」


 クソ狐が眉を顰めて終始口を閉ざして思考を凝らしている釣り馬鹿に視線を送る。


「一応はした」


「「一応……??」」


 彼の言葉に対してイスハとフィロが同時に噛みつく。


 いつも釣りの事しか考えていないアイツの事だ。きっと適当に増援要請をしたのだと判断したのでしょうね。


「龍族の集まりの際に各種族に増援要請は確かにした。しかし、奴等は己の領土を守る為に必死だ」


「覇王の名でもそれは無理なの??」



 此処は淫魔の女王である私が鶴の一声を出すべき。


 そう判断して二人の女性から冷たい視線を向けられて若干居たたまれない顔を浮かべているグシフォスに話し掛けてやった。



「奴等は俺が口を酸っぱくして言っても他所の大陸の出来事だと考えている。龍一族の頂点に立つ俺の言葉を受けてもそれは変わらなかったぞ」



 はぁぁ――……。やっぱり人が持つべきものは人徳と信頼よねぇ。


 常日頃から釣りに現を抜かす馬鹿に付き従って死が付き纏う戦場に出ようとは思わないでしょう。



「はぁっ、やっぱりそうなっちゃったか。エルザード、ハンナ先生達はどうだった??」


「おい!! フィロ!! やっぱりとは何だ!!!!」


「クソ狐と一緒に頭を下げに行ったけどやっぱり駄目だったわ。彼はまだ人に対して不信感を拭えていないみたい」



 鷲の里に久し振りにお邪魔してハンナ先生に増援要請したけれども……。ものすごぉく怖い顔を浮かべて拒否されちゃたものね。


 そりゃそうだ。亜人の善の心を継承した普通の人間に血の繋がった家族と何ら変わりない大切な人を殺されてしまったのだから……。



「ヒクイドリ一族、軍鶏一族、烏一族も増援はちと厳しいと伺ったな。フィロ、南の大蜥蜴一族の増援要請はやはり厳しいか??」


「厳しいと言う以前に彼等は王都を守るだけで手一杯みたいよ?? 王都守備隊の連中や腕の立ちそうな人達も王都内の仕事で天手古舞って感じでしたもの」


 自分が愛する土地や人を守る事に専念したいのは頷けるけどさ、先生が目覚めたらその虚しい努力は気泡として消えてしまうのに何でそれを理解しようとしないのだろう。


 甚だ疑問が残るばかりだわ。


「フウタ先生とシュレン先生も力を貸せないって言っていたわね。何でも?? 頭領からの命令でカムリを動けないって」


 フィロが肩を竦めて話す。


「全くどいつもこいつも自分の事を優先しおって!! この星の存続を賭けた戦いだというのを理解していないのか!?」


 ボーが己の憤りを他者へ分かり易く示す為に今日一番の大声を放つ。


 その音の波の勢いは平屋の壁を微かに揺らす程だ。


「あなた、彼等の気持ちも汲んであげて下さい。自分が愛する者達を守る為に必死になっているんです」


 フェリスが怒り心頭のボーの右肩に優しく手を乗せる。


「むっ……。それは重々承知しているがやはりそれでも己の血を流さなければ運命は変えられないのだ」



 運命、か。


 ボーが何気なく放った言葉に自分の心がキュっと痛んでしまった。


 もしもあの時、今と変わらない力を持っていたのなら先生は優しい彼女のままだった。ダンも死ぬ事は無かった。そして大きくなったレイドと一緒に冒険をする筈だった。


 立ち上がれ無くなってしまう様な苦しい出来事の連続が私の運命だというのなら……。魔力が枯渇しても、体中の血液が流れ出てしまってでも変えてやる。


 絶対的な運命に立ち向かう為に私達は強くなったんだからさ。


 そうでもしないとダンに笑われちゃうって。



『ギャハハ!! 何だよ、エルザード。お前らしくないじゃないか』


 って、馬鹿みたいに口角を上げてさ。立ち塞がる巨大な運命の前で挫けそうになった私達を揶揄うのでしょうね。


 彼の幻の笑みを思い浮かべているとちょっとだけ元気が出て来た。



 よもや約三百年前の故人に対して力を貰えるとは思わなかったわね。でもぉ、此処はやっぱり想像よりも本物の匂いと温かさで傷付いた心を癒すべきよねっ。


 方々に飛び交う意見が熱を帯びて来る中、私はそっと静かに立ち上がって平屋の戸へと向かって行った。



「エルザード様。どちらへ??」


 グウェネスが私の背にちょっとだけ棘を含めた言葉を投げて来る。


 はいはい、此処から逃げる訳じゃないからそう邪険な声を出しなさんな。


「兵力の問題を少しでも解決しようかと思ってね。ちょっとだけ席を外すわ。会議の内容は後で聞かせて」


「畏まりました」


 グウェネスに、そして大魔の連中にヒラヒラと右手を振って平屋の戸を潜り抜けた。



「ん――――ッ!! はぁっ、うん。気持ち良い!!!!」


 平屋の中に充満する重い空気から一転。


 山の清涼な軽い空気に包まれると本当に爽やかな気持ちが心に生まれてくれる。


 超絶最強の魔法使いでもある私でも疲れを覚えてしまう空気ってどんだけ重たいのよ……。


 さてと!! 憂さ晴らし及び己の心を潤す為に私の旦那さんに会いに行こ――っと!!



「何処に居るかなぁ――……。おぉ!! 居た居た!!」


 訓練場に向かって視線を向けると私の旦那さんは。


「マイ!! ユウ!! 洗い終わった毛布を運んでくれ!! それと使用済みの毛布も持って来て!!」


「私に命令すんな!!」


「お前さんはもう少し素直に話を聞け」


「いでぇ!! 何すんのよ!? もう少しで目玉が地面に落っこちて蟻の餌になる所だっただろうが!!!!」


 五月蠅い連中に細かい指示を与えつつ自分も労働の汗を流していた。



 あっ、やばっ。あの男らしい腕の中にすっぽりと収まって若干汗臭いシャツの香りで肺を満たしたいわね……。


 彼の男らしい姿が女の部分を多大に刺激してしまい、私は己の気配を一切合切消失させて彼の下へお邪魔させて頂いた。



「ん――……。この毛布は汚れていないけどやっぱり交換しないといけないよな??」


「――――。やっほ、レイド元気??」


「ギビヤァッ!?!?」


 私がレイドの腰にキュっと腕を回してくっ付いてあげると彼は体全体をビクっと上下させて素直な驚きを表してくれた。


 んふっ、この匂い好きっ。


「エ、エルザード!? 急にどうしたんだよ!! それに会議は!?」


「私だけ一時ちゅ――だん。今は淫らな力を補充ちゅ――」



 彼の背にムチュっと鼻をくっ付けてスンっと匂いを嗅ぎ取ると女の性をギュンギュン刺激してしまう汗と雄の匂いが肺を満たしてくれた。


 はぁぁん、駄目ぇ。これは女を駄目にしちゃう匂いじゃん。



「ったく……。そうやってふざけた態度が師匠達を怒らせるんだぞ??」


 彼がそう話すと頭を器用にくねらせて私を自分の肩越しに見つめる。



 こうして見て、直に感じると男らしい体付きはダン譲りで優しい顔付きと目元はマリル先生に良く似ているわね。


 あっ、後だっさい服選びも先生に似ちゃったのか。


 そこは似なくても良かったのにねぇ。



「おらぁっ!! テメェ等何しとんじゃ!!!!」


「先生。ふざけていないで離れて下さいっ」


 私の横着を秒で見付けた貧乳ちゃんと生徒が驚くべき速さで駆け寄って来る。


「別に良いじゃん。私疲れているんだし」


「そういう事を尋ねている訳では無いんです。会議はもう終わったんですか??」


 カエデがレイドと私に対して交互に冷たい視線を向ける。


「ううん、まだ継続中よ??」


「じゃあ何であんただけ出て来たのよ。休憩はまだ先でしょう?? ってかそこの屑野郎。さっさと離れないとテメェの頭蓋に風穴開けんぞ」


「分かっているよ!!」


 んぅっ、残念。私の荒んだ心を癒してくれる素敵な体が離れて行っちゃった。


「私が出て来たのはあんた達にちょっと仕事をして貰う為よ」


「「「仕事??」」」


 三名ほぼ同時に同じ方向に首を傾げて同じ台詞を放つ。


 あはっ、本当に仲が良いわね。


「あんた達がこの大陸で出会った魔物が居るでしょう?? ほら、え――と…………」


「あぁ、大蜥蜴達とシシリョウさんの事かな」


「そうそれ!! 今は少しでも戦力が欲しいからね。そいつらに増援要請を頼めないかなって」


 レイドの顔に向かってビシっと右手の指を向けてあげる。


「野盗である大蜥蜴の連中はお金をちらつかせれば何んとかなるかも知れないけど……。シシリョウさんはどうだろう??」


「何?? そいつはお金で動かないの??」


「くらぁい地下でじみぃ――な研究を続けている根暗な姉ちゃんだからねぇ。お金じゃ動かないかも知れないわよ??」


 マイが体の前で腕を組みつつ話す。


「面倒な話なら私が直接出向いても良いわよ?? ほら、従わないと辺り一帯を吹き飛ばすぞ――って脅せば従うでしょう」


「先生、それは流石に横暴過ぎます。シシリョウさんは私が説得しますので大蜥蜴さん達は先生が説得して下さい」


 私の生徒が普段通り四角四面の口調で言う。


「んっ、分かった。レイド、そいつらは何処に居るか分かる??」


「何処って……。この前会った時はメンフィスに続く森の中に潜んでいたし、今は何処に居るのか分からないな」



 メンフィスって確かイル教の教会が消失した事件があった街よね?? その街に続く森で大蜥蜴達が強盗を働きそして私の旦那さんが彼等を撃退した。


 つまり、アイツ等はその周辺に居る可能性は薄い。



「じゃあ最初に会敵した北の大森林周辺に居るかも知れないわね。ほら、動物って元居た位置に戻ろうとする習性があるじゃん??」


「そんな単純にいくものかね」


 まぁ私も貴方の意見に賛成よ。


「でもそれしか手がかりが無いんだし。捜索して見付からなかったら増援要請はしなくても良いんだし??」


 さり気なぁく彼の右手に己の手を重ねようとしたのだが。


「ん、了解。じゃあ後は班分けか……」


 私の悪戯を瞬時に見破った彼は素早く、そして大変静かに此方から距離を取ってしまった。


「カエデの班は自由に決めていいわよ。私はレイドと一緒に捜索するから」


「はぁ!? 何であんた達二人で移動するのよ!!」


「広い森は空からの捜索になるわ。空を飛ぶ行為は貧乳ちゃんが想像するよりも物凄く疲れるから一緒に飛べるのは二人が限界。そして大蜥蜴達と面識があり尚且つ物腰柔らかくそいつらを説得出来るのは彼のみ。ほら、頭が空っぽで度を超えた貧乳の貴女でも簡単に理解出来るでしょう??」


「誰が残念絶壁空っぽ無念頭だごらぁぁああああ――――ッ!!!!」


 くすっ、こんなやっすい言葉の挑発に乗っちゃって。相変わらず組伏し易いわね。



「ふむ……。確かにそれは一理ありますね」


 カエデは私の言葉を受け取ると冷静に頭の中で己の考えを纏めていた。


「でしょう!? ってな訳でレイド。温かい恰好をして出発するわよ――」


「い、いやいや。本当に二人で行くの??」


 レイドがそう話すと今も深く思考を凝らすカエデに視線を送る。


「――――。背に腹は代えられません。レイド、申し訳ありませんが先生と一緒に彼等を捜索して説得して下さい」


 んふふ――。結局そうなるでしょう??


 大事の前の小事は見逃すべきって相場が決まってるのよ。


「ですが条件があります」


「「条件??」」


 今度は私とレイドが同じ方向に首を傾げて同じ言葉を放った。



「捜索時間は三時間に限定します。その時間内に帰って来ない場合、私がフィロさんやアレクシアと共に先生達を捜索します。これが条件です」


 ふむっ、三時間か……。絶妙な条件ね。


 三時間もあれば一回戦、いいや二回戦は可能……、って。いやいや違うでしょう??


 そういう行為は時間に追われたら絶対気持ち良くなれないしっ。



「いいわ、乗ってあげる」


「分かりました。レイド、分かっているとは思いますが……」


「は、はいっ。勿論です」


 物凄い圧を纏うカエデに詰め寄られると彼は目を大きく見開いて彼女を見下ろした。


「はいっ!! じゃあ各自行動開始――!! レイド、十分後に向かうからそれまでに用意しておいてねっ」


 愛しの彼に軽く右手を上げると私の荷物が置いてあるクソ狐の母屋へと向かって歩みを進めた。



「ボケナス!! 帰って来たら色々と問いただすからね!? 絶対嘘を付くんじゃねぇぞ!?」


「レイド。貴方の嘘は秒で看破出来ますので嘘偽りの無い報告をして貰いますからねっ」


「りょ、了解しました。準備に取り掛かりたいので移動しても宜しいでしょうか??」


「まだ駄目よ!!」

「駄目ですっ」


 あはは、あの二人。性格は全くの正反対だけど絶対仲が良いわよね??


 声を揃えて同じ言葉を叫んだのが良い証拠よ。


 気の合う友人は大切にしなきゃ駄目よ?? これは酸いも甘いも嚙み分けて来た大人からの金言ね。


「正座しろや!! 正座!!」


「頭が高いとは思いませんかっ??」


「二人共ちょっと横暴過ぎやしませんかね!?」


「あっ、そうだ。一応下着を変えて行こうかなぁ――っと!!」


 強力な力を持つ魔物でさえも恐れ戦く圧に恐れをなした彼が地面にキチンと膝を折り畳む姿を見届けると、私はこれから愛する人と共にお出掛けをする女性の軽やかで踵が弾む歩法で母屋へと向かって行ったのだった。




お疲れ様でした。


現在、後半部分の編集作業中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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