第六話 接待者の辛さは誰にも分かってもらえない その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「ごめん!! お待たせ!!」
今もムッと眉を顰めているカエデの下に到着すると乱れた呼吸を整えていつも通りの覇気ある声を上げる。
「いえ、構いません。レイドは……。そうですね。あそこで無駄に五月蠅い声を放っている天幕に向かってそこのお酒を運んでくれますか??」
あそこ??
海竜さんの視線を追って件の天幕に視線を送ると、成程。
彼女が眉を顰めている理由がよぉぉく理解出来てしまった。
「グシフォス!! 乾杯の音頭は貴様に任せた!!」
「分かった。んんっ!! それでは久々の再会を祝して……。乾杯」
「「乾杯!!!! わはははは!!!!」」
もう既にお酒が入り始めたのか。
グシフォスさん達が占拠している天幕からは他の天幕から零れて来る音よりも数段上の音量が溢れ出ており、それは黒が目立つ様になって来た空へと向かって一直線に飛翔して雲を断つ勢いであった。
「了解。あのまま明るい雰囲気を保ってくれれば翌日の会議に影響を及ぼさないだろうし。全力で接待をさせて頂きますよっと」
中々の大きさを誇る木製の御盆に徳利を数本乗せて話す。
「私のお父さんは無下に扱ってもいいから」
「いやいや、テスラさんの頭脳が必要とされているんだ。それにお父さんに対してちょっと厳し過ぎじゃない??」
先程のカエデとテスラさんとのやり取りをふと思い出して言う。
「あれが普通」
そ、そうですか。これ以上家族間の会話に首を突っ込むと手痛いしっぺ返しが襲い掛かって来そうですので自分は与えられた任務を全うしましょうかね。
「それじゃ行ってきます」
「うん、有難う」
険しい顔は何処へやら。
分隊長殿から本当に柔らかい笑みを頂くと喧噪に塗れに塗れている天幕へと向かって少々重い足取りで向かって行く。
今のカエデの顔、破壊力抜群だったな。
あれを価値に表すとしたら時価数百万ゴールドは優に超えるでしょうねぇ……。
刻一刻と近付く喧噪の音の圧に負けぬ様、分隊長殿の餞別を心に刻んだ。
「失礼します!! お酒のお代わりをお持ち致しました!!」
キチンと閉じられている天幕の布を優しく捲ると同時に覇気のある声でそう伝えた刹那。
「……ッ!!」
酒臭ッ!!!!
俺の想像を余裕で越える酒の臭いが鼻腔に直撃した。
「おぉ!! レイドか!! 待っていたぞ!!!!」
「さあ此処へ座れ!!!!」
「あ、いや。自分はまだこれから各天幕に食事を配膳する役割がありますので……」
全力で接待をすると誓って数分後なのだが、天幕内に充満する酒の匂いがそれを早くも打ち砕いてしまいそうだぞ
「それは後で構わん!!!!」
「それでは失礼しますね……」
ボーさんとネイトさんの強引な誘いに従い、大変恐縮しながら天幕の敷布に正座をした。
「「「「……」」」」
あ、あのぉ……。今まで馬鹿みたいに騒いでいたのにどうして急に押し黙って俺の体をジロジロと見つめているのでしょうか??
「……っ」
獰猛な野獣に睨まれた草食動物の様に大変落ち着かない様子を醸し出しているとテスラさんが助け舟を出してくれた。
「御免ね?? レイド君。この人達、かなり強引な性格だからさ」
「あ、いえ。大丈夫です」
「まぁ先ずは飲め。話はそれからだ」
「は、はぁ……」
小さな御猪口に並々と注がれていく無色透明な液体を見つめ、ボーさんからお酒を受け取ると。
「い、頂きます」
お酒を恐る恐る口に含み、小さな御猪口を極力小さく見せようとして縮こまっている体の前に置いた。
「それで??」
「はい??」
いきなりそれでと尋ねられましても……。
自分はボーさんでは無いのでその先の言葉をもう少し足して頂ければ幸いで御座います。
「あぁ、すまんな。言葉足らずだったか。それで?? 貴様はもう既に俺の娘と関係を持ったのか??」
「め、め、滅相も御座いません!! ユウさんとは清く正しい関係を保っています!!」
い、いきなりそっちの話に持って行かないで下さいよ!!
「はは!! やはりそうだったか!! レイドは俺の娘達と関係を持ちたいんだよな!?」
「あ、いえ。ルーさんとリューヴさんともユウさんと同じく親しい友人として接しています」
「何ぃぃいい!? 貴様ぁぁああ!! 以前里で飲み明かした時、娘達を頂くと俺に言っただろうが!!!!」
「く、苦しいですぅ!!!!」
ネイトさんが男でも惚れ惚れしてしまう逞しい腕の先に生える両手で俺の首をグイグイと絞めつけて来る。
だ、大体!! 飲み会の時の記憶が一切合切消失してしまっているのでその返答には困るのですよ!!
「ははっ、そうか。やっぱりレイド君はカエデを選んでくれたんだね??」
「ガ、ガエデざんども……。以下同分でご、コフュ。ございまず!!」
グイグイと締め付けられている喉を懸命に開いて命辛々話す。
「えぇ――。それは困るな。レイド君とカエデの関係は凄く良好に見えるし。それに娘も満更でも無い感じだと思うんだけどね」
「ぞうなのでずが!? 自分はガエデさんではないのでぞれはうががいじれまぜん!!」
「うん、今日一日観察してたけどそんな感じだったよ。僕には見せてくれない顔を君にだけ見せていたし」
「ぐぬぬぅぅうう!! レイド!! 貴様は俺との約束を反故にする気か!?」
「ネイト!! お前に俺の息子をやる訳にはいかん!!」
「レイドは俺の息子だ!! お前の頭の中は相変わらず空っぽだな!!!!」
この際どうでも良いから早く手を離して下さい!!
い、意識が白み始めて来て現実世界に留めて置くのに必死なのですから!!!!
「お前達。いい加減に離してやれ」
「ちっ……」
「ゴホっ!! はぁ――……。有難う御座います、グシフォスさん」
覇王様の御声でネイトさんが首から手を離してくれると漸く肺に空気が行き渡り意識が明瞭になって来てくれた。
「ふんっ、貴様を助けた訳では無い。俺が聞きたかったのは……」
今度はマイとの関係かな??
アイツとは皆と変わらぬ関係を保っているとキチンとした態度で伝えましょうかね。
乱れた態勢を整え、改めてグシフォスさんの御言葉を待っていると。
「この大陸で一番良好な釣り場は何処だ」
「――――。はいっ??」
俺が予想した答えと百八十度違う問い掛けに思わず目をパチクリさせてしまった。
「ボーの里の近場は粗方制したからなっ。貴様はこの大陸で生まれたのだろう?? それなら良好な釣り場を知っている筈だ」
いや、それはグシフォスさんの主観であって釣りを好んでする人以外は良好な釣り場を知らないと思いますよ??
「え、えぇっと……。自分はランバートという田舎町で育ちました。その街の人から釣りに行かないかと誘われた時がありまして」
「ほ、ほぅ!!」
本当に釣りが好きなんだな。
この話題になると途端に前のめりになって聞く姿勢を持つし……。
「街から北へ凡そ数キロ移動した所に小川が流れて居まして。岩が点在する川は流れが強く、その人と釣りに興じたのですが生憎その日は坊主でしたね」
「ワハハハハ!! 何だ、やはり以前の釣果は偶然で貴様には釣りの才が無い様だな!!」
申し訳ありません。
恐らく、グシフォスさんよりかは多少あるかと思いますよ??
こんな事を言った日には首が両断されてしまいますので決して言えませんけども……。
「難易度的にはそこがお薦めかと。後、海釣りに興じたいのならイーストポート周辺での磯釣りもお薦めしますよ。そこの街の松葉亭という店の釜飯がまた絶品で……。例え釣れなくても美味しい魚を食せますのでいざこざが落ち着いたのなら是非とも訪れて頂けたらと」
「ふぅむ……、磯釣りか。潮の満ち引きに左右される難しい釣り場だぞ。潮汐の重要さに何度泣かされた事か」
それは潮汐では無くてグシフォスさんの釣りの腕前では??
そう言いたいのをグっと堪えて上下に首をコクコクと頷いた。
「良し分かった。明日は俺をそこへ案内しろ」
「い、いやいやいやいや!! 明日も会議があるんですよ!? それを蔑ろにしては駄目ですよ!!」
またこの人は!! どうして自分の都合をこうも優先させるのでしょうかね!?
フィロさんの苦労が良く分かりますよ!!
「その事か。勿論、会議が終わってからだ。貴様は俺をそこへ案内する義務がある」
御免なさい。自分には与えられた責務があるので釣り場にはご案内出来ません。
それにそんな事をしたらフィロさんが目くじらを立てて襲い掛かって来る恐れがあり、そのとばっちりによって骨の一本や二本がへし折れてしまう蓋然性があるのです。
「まぁそれは兎も角!! レイド!! 今日は俺達と飲み明かすぞ!!!!」
「それが良い!! 嫌な事は酒で忘れるのに限るからなっ!!」
「そうすれば何事も上手行く筈だッ!!!!」
それはお酒に逃げているだけで問題の根本的な解決には至っていませんよ??
そう言ってもボーさんとネイトさんは聞きやしないだろうし、此処は一つ。四角四面のテスラさんの隣に逃げちゃいましょう。
「それでは皆の者!! 杯を掲げろ!!」
ボーさんの指示に従い大変おずおずとした所作でまだお酒が沢山残っている御猪口を天幕の天井に向かって掲げた。
「乾杯ッ!!!!」
「か、乾杯……」
「宜しくね、レイド君」
テスラさんと御猪口を軽く合わせてお酒を飲み干すと酒特有の香が鼻から抜けて行った。
「ワハハ!! 今日は良い日だ!! 何せ娘の将来の夫と飲み明かせるのだからなっ!!」
「ボー!! だから貴様にはレイドをやらんと言っているだろうが!!!!」
「後数時間……、いや。朝方間近までかな?? そうすれば二人共寝静まる予定だからそれまで付き合ってね」
「は、はぁ……。体力と意識が続く限り頑張りますね」
テスラさんのちょっとだけ怪しい呂律にそう返事をすると余計な攻撃が襲い掛かって来ない様にダンゴムシさんも満場一致で合格点をくれる縮こまった姿勢を取る。
しかし、それは悲しいかな。
歴戦の勇士達には通じぬ様であり例え気配を消したとしても秒で発見されてしまう。
俺は酔っ払い達に四方八方を囲まれたまま孤立無援の状態で対応を迫られ続けていたのだった。
お疲れ様でした。
今日もいい天気だったのですがその分、奴等が暴れ回っていましたね……。早くこの季節が過ぎてくれと切に願いながらプロットを執筆している次第であります。
それでは皆様、引き続き良い週末をお過ごし下さいませ。




