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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
~ 第一部最終章 ~ 新たなる時を刻み始める世界
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第三話 集う傑物達 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 空から降り注ぐ陽光の量及び強さは四ノ月に相応しいモノとなって地上で暮らす者達の体温を上げようと努めている。


 空の青と白の割合は好天と頷ける程であり俺達は平原よりも標高が高い山の中腹で嬉しい労働の汗を流しつつ狐の女王様から与えられた任務を達成しようとしていた。



「ふぅっ。アレクシアさん、そっち側を引っ張って貰えますか??」


 茶の地面に敷いている分厚い布の一方を掴んで俺と同じく汗を流しているハーピーの女王様に大変優しい口調でお願いした。


「はいっ!! よいしょ!! こんな感じですかね??」


「えぇ!! 完璧ですよ!!」


 彼女が黒ずんだ敷布を威勢良く引っ張ると一切の皺が消失。


「後は天蓋用の布を持ち運んで支柱を立てればいいのか」


 額に浮かぶ汗を男らしい所作で拭い去り訓練場の中央で横たわっている資材の山を見つめた。



 俺達が燦々と光り輝く太陽の下で作業している理由はこれから此処に訪れるであろう各種族のお偉いさん達の寝床を設置する為だ。


 素晴らしい朝食を堪能している時、師匠が俺の顔を確と見つめてこう仰った。



『よいか、レイド。もう間も無く此処へ各種族の族長が一堂に会す。お主達は…………』


『ガッフォッ!! ンバッハ!!!!』


『つまり儂らには奴等を丁寧に……』


『ジュビビッ!! シュババ!! ガラガッフォォォン!!!!』


『マイ!! もう少し静かに食え!! 師匠の声が聞こえないだろう!!』


『あぁ!? だったらテメェが外に出て行けや!! 私は雑魚共が残した御飯を全て食らう義務があるのよ!!!!』



 おっと、もう少し後でしたね。



『奴等は口喧しいが一応地位有る者達じゃ。客をもてなすのはこの地を治める儂の役割であり、それ相応の手厚い歓迎が求められる。お主らは族長達がこれから過ごす天幕の設置に取り掛かれ』


 食いしん坊の龍から箸の投擲を後頭部に受けた後、師匠から有難い任務を受け賜った。


 これから始まる大魔会議、だっけ??


 会議の内容によっては此処で数日間過ごす恐れもある為、召集に応じた族長達が体をゆっくりと休める天幕を各組が汗を流しつつ設置している最中なのだ。



「ユウ!! あんたが馬鹿みたいな力で引っ張るからまた皺が出来ちゃったじゃん!!」


「お前さんの力が貧弱過ぎるからこうなったんだよ」


「あぁ!? 誰が蟻の力にも劣るだごらぁぁああ――――ッ!!」


 いつも通り五月蠅く騒ぐマイとユウの組は龍一族の天幕を。



「ふぅっ、これ位でしょうか??」


「えぇ、完璧だと思いますわ」


 真面目組の統率者並びに蜘蛛の女王様の娘さんの組は蜘蛛一族の天幕を。



「ねぇ、リュー。そっちに傾いているよ??」


「貴様が余計に動かすからこうなったのだ」


「あぁ!! そうやって全部私に責任を擦り付けるのは良くないと思うよ!?」


 人の姿で汗を流すリューヴ達は実の両親であるネイトさんとファールさんの天幕を。


「レイドさん、これ位で大丈夫でしょうかね??」


「完璧だと思います」


「へへっ、やりましたね!!」


 そして俺達は我が分隊の隊長である海竜、つまりテスラさんとフューリンさんの天幕を設置している最中なのです。



 残す天幕はラミアとミノタウロスと淫魔か……。


 あ、しまった。訓練場の中央にも日差し避け及び食料配給用の大きな天幕を設置しなきゃいけないんだった。


 もう直ぐ集合時間だから急いで設置しないと間に合わないぞ。それに我が分隊長の御両親が使用される天幕を設置しているのだ。


 完全完璧を越える完成されてぐうの音も出ない完成度で彼等を迎えなければならない。


「じゃあ自分は資材を……」


 太陽の光よりも眩い笑みを浮かべてくれたアレクシアさんにそう話して資材置き場に足を向けようとしたのだが……。



「此処もちょっと皺が残っていますねっ」


「……」


 アレクシアさんが四つん這いの姿勢で敷布の皺を伸ばしている姿が俺の足と心をこの場に留めてしまった。



 皺を伸ばそうとする右手を左右に懸命に動かすとこの星の重力に引かれた二つの双丘が柔らかそうに揺れ、シャツの隙間から覗く綺麗な淡い緑色の下着が俺の視界を拘束してしまう。


 浴場の掃除の時も思ったけど、も――少し警戒しても宜しいのじゃないのでしょうかね??


 俺の事を人畜無害の男と決めつけて信頼してくれるのは嬉しいのですけども……。


 次の段階に移ろうとしない我儘な足に移動の命令を送り、資材置き場に踵を返そうとした刹那。



「――――。事と次第によってはテメェを殺す」



「ひゃぁっ!?!?」


 直ぐ後ろから殺意に塗れたマイの声が俺の双肩を上下に揺れ動かしてしまった。


「あれ?? マイ、急にどうしたのですか??」


「鳥姉ちゃんよぉ。あんた、今。その無駄に大きく育ってしまった腹の立つ双丘を覗かれていたわよ」


「えぇ!?」


 さ、さ、さてと!! 自分には天幕の設置という仕事が残されていますのでね!!


 双丘に……、じゃあなくて!! 早急に動かないといけないのです!!



 マイの言葉を受けて素直な驚きを表す彼女から逃れる様に踵を返したのですが時既に遅し。



「レイドさん!! 今のマイの言葉は真実ですか!?」


「どわぁ!?」


 背に白き翼を生やしたハーピーの女王様に進路を妨害されてしまいそれは叶わなかった。


「怒らないから言いなさい!!」


 御免なさい、それはこれから怒りますよと言う物凄く簡単な意思表示を示しています。


「え、えっと……。自分は敷布の細かい皺を確認していました」


「はい!! 真面目で結構な事だと思います!!」


「それで視界に入った様な?? 入らなかった様な……。と、兎に角凝視した訳ではありません」


 俺に二歩詰め寄る彼女に対して一歩下がって話す。


「本当ですかぁ?? 昨日の浴場の掃除の時も私の体を舐める様に見つめて居た様ですし」


 舐める様にって……。


 アレクシアさんの中で俺という存在はそういう風に捉えられているのでしょうか??


「し、視界に入ったのは真実ですが舐める様には見つめていません」


「むぅ――……」


 男女間の通常あるべき距離では無く親しい仲若しくは恋人同士が構築すべき距離に詰め寄って来たアレクシアさんの可愛らしく怒る顔を直視出来なくなり、青が良く占める空に視線を送っていると訓練場の中央にとても大きな魔法陣が浮かび上がった。



 ま、不味い!! もう集合時間か!!



「アレクシアさん!! 御免なさい!! 後で謝罪しますから――!!」


「約束ですからね――!!」


 今もプンスカと怒るアレクシアさんをその場に残し、此処に空間転移してくる族長達を親切丁寧に迎えなければならない己の仕事を優先して駆け始めた。



 さてと、誰が最初にやって来るのかしらね……。


 今も桁違いの魔力の圧を放つ魔法陣から少し離れた位置で小走りと羞恥から起こる動悸を鎮めながら待機していると、魔法陣の光量が収まりそこから二名の傑物が姿を現した。



「おぉ!! レイドか!! 久しいな!!!!」


「まぁっ、お久し振りですね」


「ボーさん!! フェリスさん!! お久し振りです!!」


 覇気ある声を上げてユウの御両親であるミノタウロスの族長と彼の奥様に対してキチンとしたお辞儀で迎えた。



「ほぉ……。レイド、貴様。腕を上げたな??」


 ボーさんが俺の体をまじまじと見つめた後、俺の右腕を大きな手で掴む。


 あ、相変わらず凄い力と圧だな。


 只腕を掴まれているだけなのに圧倒されちまうよ。


「お褒め頂き有難う御座います。ですが、ボーさんに比べれば自分等まだまだですよ」


「わはは!! そう謙遜するな!!」


「ど、どうも……」


 ボーさんが嬉しそうに俺の右肩をバンバンと豪快に叩くと目を白黒させてしまう。


「ふぅ――。久し振りに笑った気がするぞ。――――。それで??」


「はい??」


 急にそれで?? と問われても自分はボーさん自身ではありませんので真意を知りようが無いのです。


 取り敢えずありふれた返事を返して随分と高い位置にある彼の顔を見つめているととんでもない言葉が降り注いで来た。



「いつになったら俺の息子になるんだ」


「ブフっ!!」


 ま、またこの質問か!!



「じ、自分はこれからなすべき事が沢山あるのでそういった質問はちょっと……。それにボーさんは知っていますよね?? 自分が亜人の血を引いている事を」


「そんな些細な事に気を病む必要は無い。俺の息子になるべき男はお前しかいないんだ!! それを何故理解しない!!」


「い、痛いですぅ!!」


 この大陸で一、二を争う怪力無双さんに両肩を掴まれて前後に揺らされると激しい痛みが全身を駆け抜けて行く。


「いいかレイド!! 俺はお前を認めている!! そして俺の妻もお前を認めているんだ!!」


「ふふっ、レイドさん。夫は息子を欲しがっていますのでこの際、承諾して頂ければ幸いかと」


 優しい笑みを浮かべるよりも先ずは此方の身を案じるべきじゃないのでしょうか!?


「じ、自分の意思よりも……。ウプッ!! ユウさんの意思を尊重すべきだと考えます!!」


「おぉ!! それもそうか!! ユウは何処だ!?」


「あ、あ、アッチです……」



 揺らされ過ぎて視界がグニャリと歪んでいるが取り敢えず、この常軌を逸した揺れから逃れたいが為にユウが居る方向へと向かって指を差した。



「よし!! それではユウの仕事振りを確認するとするか!!!!」


「あなた、レイドさんの肩から手を離して下さい。そろそろ限界が近いみたいですよ??」


「わはは!! そうかそうか!! ユウ!!!! 精進しているか――!!!!」


 ボーさんが俺の双肩から両手を放すと今も大粒の汗を流して天幕を設置している場所へと向かって大股で向かって行ってくれた。



 は、はぁ――……。や、やっと大地震が収まってくれた。


 一組目でこれ程の疲労感を与えて来るとは……。おそるべし、大魔の力。



「ユウ!!!! お前の意思表示を確認しに来たぞ!!」


「うふふ、ユウちゃん頑張っているわね」


「は、はい!? 急に何……。へっ!?!?」


 ユウがボーさんとフェリスさんの言葉を受け取ると茹で蛸さんも参った!! と言わんばかりに顔が真っ赤に染まってしまった。



 きっと自分の仕事振りを褒められて恥ずかしいのだろうさ。それに家族水入らずの雰囲気もそれに拍車を掛けているのだろう。


「おらぁ!! ユウ!! 支柱持って来たから手伝えや!!」


「あ、あぁ。分かった」


「ユウの母ちゃんと父ちゃん、久し振りね!!」


「おぉ!! グシフォスの倅か!!」


「あなた、マイさんはあぁ見えてもれっきとした女の子ですよ??」


「誰が男勝りを余裕で越えた逞しい女だごらぁぁああああ――――!!!!」



 あ、あはは。ユウも大変だな、五月蠅い人達に取り囲まれて。


 彼女が胸に抱く心労に対して同情の念を送っていると再び訓練場の中央に巨大な魔法陣が浮かび上がった。



「お久し振りです!! テスラさん、フューリンさん!! ネイトさん、ファールさん!!」


 強烈な光量が収まりそこから現れた四名に対して先と同じ様に礼儀正しいお辞儀で迎える。


「やぁ、久し振りだね。レイド君」


「はいっ!! お久振りです!!」


 テスラさんの柔らかい笑みを受け取ると心の強張りが少しだけ解れた気がした。


 深い青の長髪を後ろで纏め前髪は若干の蓬髪気味。


 カエデがいつも着用している白のローブをお召しになり俺の様子を物腰柔らかな様子で見つめている。



「わはは!! 久しいな!! レイド!!」


 ネイトさんの豪快な笑い声は相変わらずといった感じかな。


 歴戦の勇士をも慄かせる体躯の上に乗る顔の豪快な笑みは周囲に自然と明るさを齎し、黒っぽい灰色の髪はテスラさんの前髪と同じく少しだけ蓬髪気味だ。



「ど、どうも……」


 ネイトさんに右手をぎゅぅっと掴まれて己の雄度を測る様な握手を交わす。


 狼一族さん達はどうしてこうも力を比べたがるのでしょうかね?? 甚だ疑問が残る次第であります。



「娘がいつもお世話になっております」


 ヒューリンさんもテスラさんと同様、大変優しい口調と雰囲気で挨拶をして下さる。


 水色の髪はキチンと整い端整な御顔に浮かぶ笑みは人に朗らかな感情を与えてくれる。


「リューヴとルーは御迷惑を掛けていませんか??」


 そしてファールさんの笑顔も彼女同様、本当に柔らかいものであった。


「お世話になっているのは此方ですよ。カエデさんにはいつも頼りっぱなしで苦労ばかり掛けていて、リューヴさんとルーさんはいつも率先して隊の仕事を行っており皆は二人の行動に助けられています」



 いつも口喧しくギャアギャア騒ぐ者達をカエデの鶴の一声で収めなければあの人達は体力の限界が来るまで騒ぎ立てている事だろうし。


 戦闘の際にリューヴの戦いによって隊の士気が上がり、ルーの無邪気な明るさは隊の精神的支柱にもなっている。


 どれか一つでも欠けたら恐らく俺達の分隊は機能しないだろうさ。



「まぁっ、うふふ。そうなのですか。やはり由緒他正しき海竜の血を受け継ぐ子ですね」


「それはきっとフューリンさんの指導の賜物なのですよ」


「幼い頃からの指導が実を結んだのです。やはり私達の指導は間違っていませんでしたね??」


 ファールさんの声を受けて満更でも無い笑みを浮かべるフューリンさんがテスラさんの右肩にそっと手を添える。


「僕は殆ど何もしてないからなぁ。所で、カエデは何処かな??」


「あちらで天幕の設置作業に勤しんでいますよ」


 ネイトさんの素晴らしい雄度を堪能し終えると今も額に汗を浮かべて天幕の設置作業に取り掛かっている彼女を指差した。



「久し振りに挨拶でもしようかな。あ、でも邪魔だって言われそうかもね」


「あはは、親子水入らずという奴だと思いますので謙遜する必要は無いかと思われます」


「うん、そうかもね。それじゃ行って来るよ」


「俺も娘達の働きぶりを見て来るとするか!!!!」


「あなた、もう少し静かにして下さい。皆頑張って作業をしていますので。それじゃ失礼しますね」


「はい!! 失礼します!!」


 ファールさんの柔らかい笑みに向かって此方も彼女に負けない様に優しい笑みを浮かべて四名を見送った。



 ふぅっ……。これで此処に訪れたのはミノタウロスさんと海竜さんと雷狼さんの三種族。


 残すは龍族のグシフォスさんと各地で送迎に奔走しているエルザードと蜘蛛のシオンさん、そしてラミアのミルフレアさんか。


 たった三種族を迎えただけでこの疲労度……。全部の種族を迎える頃には疲労感に圧し潰されて地面に横たわっていないだろうか??


 そんな不安を心に与えてくれる程に彼等の圧は桁違いであった。



「へぇ、前とは比べ物にならない程に魔力の容量が上昇しているね」


「カエデ。皆さんにご迷惑を掛けていませんか??」


「今は作業中ですので家族の会話は後でして貰えますかっ」


 天幕の天蓋の布を広げて皺を伸ばしているカエデが眉をぎゅぅっと顰めて御二人の会話を受け流し。



「おぉっ!! お前達!! 強くなったな!!!!」


「有難う御座います。これも日頃の鍛錬の賜物です」


「お父さん!! もうちょっと静かにしてよ!! 天幕の敷布に皺が出来ちゃうでしょう!?」


「あらあら……。前にも言った通り強くなるばかりじゃなくてもっと女性を磨かなきゃ駄目じゃない。そうしないとレイドさんは振り向いてくれませんよ??」


「お母さん!! 後でその点に付いて詳しく教えてっ!!」


 リューヴはネイトさんと何やら難しい顔を浮かべて会話を続け、ルーはファールさんと和気藹々な雰囲気で笑みを浮かべていた。



 久々の家族団欒の会話だからきっと否応なしに盛り上がっちゃうんでしょうねぇ。


 只、カエデさん?? もう少し眉の角度を柔和にしたら如何でしょうか??



「お父さん、そこ邪魔。敷布を踏んでる」


「あ、あぁ。ごめんね」


 実の父親であるテスラさんがカエデの覇気に四苦八苦していますからね……。


 カエデは自分の作業を邪魔される事が嫌いだからなぁ。


 私生活と友人関係に付いてあれこれ問う両親の姿と、十七歳という難しい年頃の若き女性の嫌気若しくは辟易を含めた態度。


 両者が醸し出す家族という複雑な雰囲気に向かって朗らかな視線を送っていると先と同じ要領で地上に一つの魔法陣が浮かび上がり、それから僅かに遅れて二つ目の魔法陣が浮かび上がった。



「お疲れ様です!! シオンさん!! グウェネスさん!!」


 先ず現れたシオンさんに頭を垂れ、続いて現れたエルザードと彼女の側近?? のグウェネスさんに対して四角四面のお辞儀を放つ。


「私の様な者に対して親切丁寧な出迎えをして頂き有難う御座います」


 シオンさんが俺と同じ所作で頭を下げ。


「エルザード様、レイド様の姿を良く御覧下さい。あれこそが礼儀という奴なのですよ」


 淫魔のグウェネスさんは無表情のまま女王様に対して苦言を呈した。



 女王様と違って側近のグウェネスさんは本当に真面目な感じがするな。エルザードも彼女を見習ってくれればもっと円滑に事が進むのに……。


 きっと俺達の目の届かない所ではグウェネスさんが女王様の私生活及び仕事に対する態度に難色を示してブツブツと重たい言葉でエルザードを咎めるのでしょう。


 グウェネスさんとエルザードが交わした何気無い会話と態度がそれを彷彿させた。



「知らなぁ――い。ってか、私に対してのお礼は無いのぉ??」


「今日の朝会ったばかりだろ??」


「あぁ――あっ!! 色んな人を迎えに行ったから肩が凝っちゃったなぁ!! 私、頑張っているなぁ――!!!!」



 いや、急にそんな事を言われましても……。



「分かったよ。作業を終えて時間が余ったのなら肩の一つや二つ、揉んであげます」


「やったねっ。駄目下でお願いしたら儲けちゃったっ」


「私が貴女に直して欲しい所はそういう所なのですよ……」


 あはは、グウェネスさんも大変ですよね。全く人の話を聞かない人が一族の頂点に立つと。



 真面目と不真面目。水と油。


 同じ淫魔の種族であぁも変わるものなのかと首を傾げているとシオンさんが柔らかい笑みを浮かべて俺の近くに歩み寄って来た。



「レイド様。お久し振りですね」


 黒き髪は頭上から降り注ぐ陽光を受けて煌びやかに輝き柔和な口角がこの景色に良く似合っている。


 前髪は以前見た時と同じ様にやや左に流して額を全て露出させており、その姿からしてアオイとの軋轢は完全に解消された様で何よりです。



「お久し振りです。如何お過ごしでしたか??」


「里の兵の練兵、西から攻め来るオークに対しての哨戒任務、更に執務に憤るフォレイン様の御機嫌伺い……。正直体が三つ程欲しい激動の日々を過ごしておりましたよ」


「そ、それは大変でしたね」


 はぁっと小さな溜息を吐いて右手で己の左肩を揉む所作を取った彼女に向かって労いの声を放つ。


「私は良い様に使われる可哀想な女なのです。所で……、随分と腕を上げた様ですね??」


「いえいえ。俺なんか全然ですよ。アオイさん達の方が上達したかと思われます」


 少し離れた位置で作業に精を出す彼女の背に視線を送る。


「左様で御座いますか。で、では私も他の方達と同じ様に久し振りの再会を祝おうとしましょうかっ」



 それではいってらっしゃいまし。


 いよいよ間近に迫った散歩に対して逸る飼い犬の様にそわそわしていましたし、アオイとの会話によっぽど飢えていたのでしょう。


 只、執拗に絡むと御主人様も辟易してしまいますので程々にお願いしますね??



「アオイ様、お久し振りですね」


「シオン!! 良い所に来ましたわね!! これから支柱を立てますのであそこの資材葉から支柱を持って来て下さいまし!!」


「私としましては支柱よりもアオイ様との会話を所望しているのですが??」


「そんな事は後でいくらでも出来ます!! 早く持って来なさい!!」


 あ、あはは。ほら、やっぱりね……。



 アオイの剣幕を受け止めても飄々とした姿を貫くシオンさんの姿に心を温められていると頭上からその温かさが余裕で吹き飛んでしまう力の塊が突如として生じた。



「ふんっ、貴様が出迎えか」


「お、お、お久し振りです。グシフォスさん……」


 遥か頭上から山の中腹に降り立った大きな龍に対して見方によっては怯えている様に見える所作で親切丁寧に頭を下げた。



「……」


「……っ」



 えっと……。何で俺の顔を何も言わずじぃぃっと見下ろしているのだろう??


 全てを畏怖させる龍の瞳は龍鱗と同じ様に赤く染まり口から僅かに覗く牙は岩をも容易く砕けるであろう鋭さを備えている。


 大空を統べる巨大な翼と堅牢な大地を穿つ野太い足。


 只何も言わずそこに立っているだけで他者を圧倒させる龍を前にしてしどろもどろになりながら視線をあちこちに動かしていると、漸くグシフォスさんが人の姿に変わってくれた。



「以前と比べると少しは成長したみたいだな」


 南の島であれだけ沢山鍛えたってのに……。まぁでも、龍族を統べる覇王である彼から見ればその成長は微々足るものであろうさ。



「有難う御座います。マイさん達と共に切磋琢磨を続けております」


「能書きは良い。俺が貴様に問いたいのは娘との関係……」


 俺よりも随分と背が高いグシフォスさんが此方に一歩歩み寄ろうとすると、彼の足を巨大な声が止めてしまった。



「おぉ!! グシフォス!! 久しいな!!」


「わはは!! 相変わらず釣りばかりしている様だと聞いたぞ!!」


「お久し振りですね。グシフォスさん」


 ネイトさん、ボーさん、そしてテスラさんが彼の下へと歩み寄り友として相応しい声を掛けている。


 師匠の御話によると彼等はその昔、肩を共に並べて鍛えそして考え方の違う師匠達と激戦を繰り広げていた。


 長きに亘る苦楽を共にした友人が目の前に現れたのだ。


 そりゃ陽性な声の一つや二つは出てしまうでしょうね。



 俺達もいつか……、そういつか。


 平和になった世界でグシフォスさん達みたいに笑い合える日が訪れるのだろうか?? 血の繋がった母親の血で染まる手でマイ達の手を取る事が出来るのだろうか??


 遠い未来は想像出来ないのが本音だが彼女達の未来の為にも今、俺が出来る事を成そう。


 それが今の俺に出来る唯一の事なのだから。



お疲れ様でした。


現在、後半部分を執筆中ですので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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