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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 41話 タナトスからの幣物4

 私は柘榴と7メートル程離れた場所で構えを取る。普段とは異なり右半身をあえて前に出し、左利き(サウスポー)のボクサーのような構えだ。頭の目の前に右の拳を置き、左は顎の辺りに構え、足は肩幅より少々広げ右足を前に構える。


 私は基本的に右利きだが、戦況に応じて構え方を変化することができる。


 これが所謂、筒美つつみ流舞空術の基本理念コンセプトである『どのような環境下でも徒手空拳で敵を屠る』というものだ。舞空術と呼ばれているのは筒美流を取得しようとする弟子の為に空中戦による立体的な動きを意識付けしより様々な環境下で応用させる為の祖父ししょうの思いから来ている。だから、必ずしも空中で使う技とは限らない。


 そして、その発展系に於ける地面に足を着いた状態での応用方法だ。


 ──筒美流急ノ頁……舞空術『花筵はなむしろ』。


 わざわざ私がこの構え方をしたのには勿論、柘榴の右腕の欠損が一番大きな理由となる。相手は右腕が無いのだから相手にとっての右側……つまり私から見れば左手側からくる攻撃は防御がし難くなる。その為、左利き(サウスポー)にする事で左手で重い攻撃を撃ち込むことが比較的容易となる。もし、これによって致命傷を与える事が出来れば上出来だが、この構えをするだけで別の大きな利点ができる。


 先程、彼女が消した『影の右腕』。右側からの攻撃を意識させる事でその影を自身の防御のために使わせることが出来れば、必然的に現在使用している5つのうちの特異能力エゴの一つを解除せざる負えなくなる。


 更に彼女が発動させている特異能力エゴの内三つは能力を複数同時に使う為に発動しなければいけない能力であるし、残り二つは『強制睡眠フォールスリーパー』とすいちゃんの位置を索敵している能力。


 前者の能力は私に近接戦闘をさせない為且つ自身の体力温存の為で、後者の能力は翠ちゃんは常に柘榴を遠距離から仕留められるように隙を窺っているため発動させているもので、どちらも強力故に、どちらか削れれば彼女の現状に於けるパフォーマンスは確実に落ちる。


 この構えを取るだけで、嵌ってしまえば柘榴の取る行動の選択肢全てに不利となる状況を仕込むことができる。


「ふふふ〜厄介ですねぇ〜。『強制睡眠フォールスリーパー』を他の能力に切り替えてしまえば脳に負荷がかかりますし、強制催眠の能力無しに貴女の近接戦闘を受け切れる余裕はないと思います〜。それに『love(汝の) my(隣人を) enemy(愛せよ)』を解除すれば遠距離から狙撃銃で狙っている色絵しきえ翠ちゃんの位置を把握できなくなります〜」


 ──『汝の隣人を愛せよ』……?


 ……文脈的に索敵の特異能力エゴか? いや、それよりも着目しなければいけない部分は教えてもいない翠ちゃんの氏名全てを言ったこと。


 白夜はくやくんとのやり取りの中でつい翠ちゃんの名前を出してしまった可能性も有るが、流石に私もあの状況ではフルネームでは呼ばない。白夜くんも性格上柘榴に人のことをペラペラと喋るような人ではない。ところかなめは知らないが、あの人の戦闘スタイルから戦闘相手に喋ることや暇なんてないだろう。


 何処から名前が漏れた……? 樹教か? いや、もし樹教から情報が漏れていたとして、それを私の動揺を誘うためだけにこの護衛軍に流通者が居ることを匂わすような事はしない筈。それに他の人を元々氏名全て呼んでいたならともかく、敢えて翠ちゃんだけを本名で言ったのは引っ掛かりを覚える。


 であるなら、何かしらの条件で『他者の名前を知る能力』も彼女は持っているはず。彼女は自身の能力を説明する癖があるからこれなら状況は成り立つ。


 そこから踏まえれば、『汝の隣人を愛せよ』という特異能力エゴの『本懐』は、他人の事を知りたいという欲求からきたもので、『他者の特異能力エゴと名前を知る特異能力エゴ』と『索敵の効果を持つ特異能力エゴ』……言い換えれば『相手の居場所を知る能力』は同一のものとして考えられる。


 つまり、『他者のことを知るということ』事が柘榴の特異能力エゴの本質であり、その能力は『他者の名前と特異能力エゴと居場所の特定』……否、考え付かないだけで他にも『他者の情報』に纏わる何かを特定する能力は有るだろう。そうであるなら彼女の体術を踏まえてもかなり厄介。


 そして、その能力だけでは他者の考えている思考と特異能力エゴにまで昇華するような『本懐』と『トラウマ』を知ることができなかったから、『人格形成フォーミングアイデンティティ』と『知能向上インテリジェンスインプルーブメント』を奪った。


 否、それを得ても尚完全に他者の感情と思考、行動は読める訳ではない。


 この状況下でさらに欲求を満たしたいと思った柘榴は、自分の身一人ではこれ以上同時に特異能力エゴを使えないと悟り、樹教の幹部の能力である『己の細胞を蟲に変化させ操る能力』を使用する事で外部に能力を出力させるシステムを作った。


 それが、今回の蟲の事件の発端と考えると全てが繋がる。そして彼女が次取るであろう行動は……


「『暴食ノ王(ベルゼブブ)』……さぁ、ワタシ達の可愛い可愛い子供達〜……。再始動して下さい〜」


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