殺人鬼編 42話 タナトスからの幣物5
蟲を生み出し、操る特異能力……
それ単体ですら葉書お姉ちゃんを手こずらせた程の力か。おそらく、蟲達に『陰影舞踏』を搭載させているのだろう。
……私だけで捌けるか?
それに近距離戦に使える他の特異能力もあったとしたら、厄介。流石に特異能力の持ち主や柘榴みたく、完璧に効力を制御するのは理論的に不可能の筈だが、『調律』もある。特異能力の出力を上げることで本来の持ち主のそれを再現する可能性は大きい。油断はできない。
こちらも、『思考加速』から『過負加速』にギアを上げた方が良いか……?
「ご安心を〜『暴食ノ王』で『調律』は使えないので〜」
「……」
「何故使えないか、気になりますか〜? 気になりますよね〜!」
嬉々としてこちらへゆっくりと迫り来る柘榴を迎え撃つように私は構えを取る。
「使えないなら使えないで良いのよ。ただ、厄介だなって思っただけ」
「……ふふふ〜。流石です。どちらにせよどうでも良いという事ですね〜」
……どうでも良いは言い過ぎだけど、貴女は喋りすぎよ。その辺の蟲より素早く柘榴を叩けばそれで終わりというだけの話。
それに、貴女を狙うのは私だけじゃないそれを忘れたとは言わせないわよ。『汝の隣人を愛せよ』を解いたわね。翠ちゃんが貴女を狙っている事を忘れたの?
──『過負荷速』。
チラリと柘榴がスロウに口角を上げたのを見える。その表情は私を……いや私達を何かの策に嵌めたかのような、そんな気色悪い表情。
まさか、この状況で翠ちゃんへの攻撃……か?
私は咄嗟に翠ちゃんの方へ、五感を研ぎ澄ませ状況把握を行う。悪い予感通り、翠ちゃんに対して有象無象の蟲達が襲いかかっていた。どこから湧いた……? あれが産み出されるのは柘榴本体からだけの筈。『再始動』と言っていたことから、私と応対した時、蟲の動きを一時止めていた、若しくは元々の能力者に主導権を渡したのを再び戻したのだろう。
今すぐにでも翠ちゃんのカバーに行きたいところだが、私に対しても柘榴本体や蟲達の攻撃が始まっている。彼女を助けている余裕はない。
翠ちゃんには瞬間移動を行い、蟲達を撒く方法はある。それを使えば良いだけであるからすぐにコチラのカバーをできるはずだ。
……
…………いや、違う。
そもそも『暴食ノ王』を使った時点で翠ちゃんの位置を捕捉できる筈がない。翠ちゃんは一定のタイミングで狙撃ポイントを変えるくらい警戒心は強い。そんな中、翠ちゃんの位置を特定しようとすれば方法は限られる。
例えば、予めこの旧霊園一帯に蟲達をばら撒くとかだ。それで先程の特異能力発動と同時に号令をかけ虱潰しに翠ちゃんの探索を行い翠ちゃんの居場所を割り当てたのなら納得がいく。
これでは翠ちゃんは霊園外からしか狙撃が出来ない。いや、翠ちゃんの能力がバレていたとしたらここら一帯の狙撃ポイント全て蟲によって潰されていることも考えた方が良い。
翠ちゃんの戦闘力で蟲達に負けることは無いが下手に瞬間移動すれば蟲にやられてしまう。
カバーが来ないのは計算外。
『不味くなってきた……奥の手──『自死欲の翼』は護衛軍の皆んながいる中では使えない。
なら、こちらも『同調』と二つ同時の特異能力の解放を行う……
──『速度累加』+『僻遠斬撃』+筒美流奥義終ノ頁──攻戦術『百花繚乱』+対人術『鳥語花香』。
加速され、衝撃波として届く拳と『僻遠斬撃』に産み出された一撃二連の衝撃は幾重にも重なり、総数……数万といえるほどの飛ぶ打撃となっていく。その一つ一つが蟲達の動く先を捉え確実に一つ一つを撃墜していく。
圧倒的な物量と速度。それを持った数万もの乱打。ここら都市の一角を一瞬で更地にしてしまうほど高火力で、それでいて尚、目標物しか当たらないという正確な衝撃。
大ダメージを避けるには、別の特異能力を使わなければ不可能。さぁ、出しなさい……『陰影舞踏』か瞬間移動の能力を……!
その瞬間、柘榴は欠損した右手から影を出して、自分の体を影で防御する為に覆う。恐らく、柘榴が力動で防御する事ができるのは急ノ頁までの火力。だから、私の攻撃を防ぐ為に特異能力を使った。それはそれで此方にとって得策だ。
何故なら、私たちの筒美流は規格付けされている威力から逸脱するほどのものとなっている。それに私が使ったのは急ノ頁の一段階上である終ノ頁。喩え特異能力でも一秒も持たずにその影は私に破壊される。
自身の特異能力では捌けきれない事を知れば貴女は……
咄嗟に迫る私の姿を見て柘榴はすぐに次の動作へ入る。やはり最初から分かっていたのだろう……だが、
一瞬で柘榴の姿は私の視界から消える。瞬間移動の能力を使ったのだ。
だが、その種は割れている。移動先をいつも見ていたものね。翠ちゃんとの戦闘経験がまさかこんなところで役に立つとは思わなかった。
──筒美流奥義序ノ頁『風花』。
柘榴の移動先は私の背後から5メートルほどの上空。それは『鳥語花香』で予期した。
だから、私も空へ跳ぶ!
「捉えた……!」
筒美流奥義──対人術破ノ頁『花影』+舞空術急ノ頁『落花』。
柘榴の姿が見えると同時に、彼女の左太腿の付け根に私のミドルキックが炸裂する。肉が弾ける音と骨の折れる音。
「……ッ!」
「このタイミングじゃあ防御できないわよね! このまま再起不能になってもらうわ!」




