殺人鬼編 40話 タナトスからの幣物3
「……まだ言うか。下らないわね、呆れた」
「ふふふ〜私の本懐を一発正解したそんな死神様には、貴女が知る筈のないであろう能力について教えて差し上げます〜」
柘榴は人差し指をそのまま顔に近づけて唇の下に当てると、空中を見つめるようにただ一点を見続ける。
……その方向は翠ちゃんが待機している場所。祖父でもない限り力動でそんなことは出来ない。特異能力による索敵か……? 不味い、このままではまた瞬間移動される。
私がそれを止めようと動こうとすると、彼女はふぅとため息を吐きつつ口を開いた。
「そんな野暮な真似はしませんよ〜。というか、できないと言ったところが正解ですかねぇ〜。死神さまも複数持ちだから判りますよね〜?」
特異能力を出力する脳の許容力。特異能力は『力動』と同様に、脳の演算と出力が重要になってくる。
無限に近いエネルギーの供給を持っている私だって頭を使いながら戦闘で使用できるのは同時に二つ、奥の手を使えば三つが限界だ。おそらく、『知能向上』で脳の許容量を増やしている。その効果でどれ程の補助ができるかは知らないが、限界が有るという発言から、彼女の持っている全ての特異能力を同時に使える訳ではなさそうだ。その為、彼女の発言が口から出まかせで出た嘘だとも思いづらい。
その仮定で話を進めるなら、『知能向上』・『死体操作』・『人格形成』三つの常用しなければいけない特異能力に加え、右腕を形成している『陰影舞踏』、翠ちゃんの位置を索敵した特異能力。
蟲を操っているのが樹教の幹部の方だと考えると彼女が現在使用している能力は最低でも合計で五つ。当てには出来ないが、それくらいは備えた方が良さそうだ。
「……成程。だが、解せないわね。複数の特異能力を理論上同時に使用可能だとしても、そのエネルギーはどこから来るの? いや、貴女の身体機能にそれを賄うだけの仕組みがあったとしても、いくら脳の演算処理を早くさせた状態を続ければ貴女の脳は疲れを累積させ直ぐに体力が尽きるはずよ。その能力の持ち主は常に出力を全開にしている訳ではないと言っていた。その筈なのに複数の特異能力を使うなんて燃費の食うやり方持つ筈がないと思うのだけど」
私がそれを言うと彼女は笑いながら、左半身全体をダランと脱力させ、左目を閉じ、右腕の影を消した。
「……まさか、私相手ならその千切れた右腕と片足で充分だとでも言うんじゃないでしょうね」
「いいえ〜。貴女を侮るほど私は強くないですから〜理由は今に判りますよ〜……」
弛緩した筈の左半身が糸人形のように吊り上げられピンと張る。間違いなく『死体操作』の効果。
だが、どういう事だ? 『死体操作』の再使用? 理由は? 能力を使う為の制約か?
左半身を完全に能力依存による操作に変更したのか? 何の為に? それで身体能力の向上するのか? それもあるだろうが……目的が別に見える。
それに陰を消したのは違う能力を使う為? それなら脳に負担はそのまま。
じゃあ、何故この状態が成り立っている?
もしかして、能力の中に『知能向上』による副作用を和らげる効果を持つものがある……?
それで、左半身を全部……否、右脳を休ませている?
──聴いたことがある。大昔、この世界が『死喰いの樹』に覆われる前の話、大海原と呼ばれる広大な海を渡るような習性を持つ鳥……燕や鴎などの渡り鳥は自身の体力を維持する為に脳を片方ずつ眠らせながら空を飛んでいたという。習性の名前は"半球睡眠"だったか……。
柘榴は今、その渡り鳥のような事をし、脳の半分は眠らせ、脳の片方を全力で回転させ、物理的に動かすことのできない部位は『死体操作』により作動させている。
「成程……器用ね。まさか、『死体操作』にそんな使い方があるなんて」
「えぇ〜。本人ですら知らないこんな素敵な使い方も工夫次第で出来るようになるんですよぉ〜。ちなみに、右脳を強制的に睡眠状態にしているこの力の名前は『強制睡眠』です〜」
「知らない特異能力ね。樹教の幹部の特異能力かしら?」
「そう思ってもらって構いませんよ〜」
全て両立させてるいるのも『知能向上』による作用だろうか?
5つの能力それぞれが全て相互作用を及ぼしている。やはり相性が良い。それに、『強制睡眠』……おそらくこれも他人に影響を及ぼす。もし、今の状態の彼女に直接触れれば強制的に眠らされるだろう。
近接戦闘は無理か……。
「まだ隠してる能力はある?」
「ないですよぉ〜。まぁ、貴女の性格なら隠していても疑うのでしょうけど」
「ええそうね。よく分かってるじゃない。じゃあそろそろ、殺し合いましょうか」




