殺人鬼編 39話 タナトスからの幣物2
「じゃあ、さてと先程は所要さんの能力の妨害があったから満足に私の強みを活かせなかったのですが、私を殺したい死神さまの為に私の『願いの力』を教えちゃいます〜」
柘榴は人差し指を顔の前に出して何かポーズ取るようにして講釈を垂れ始める。
『願いの力』……特異能力のことを言っているのだろうか。
「……なんのつもり?」
「私〜やり方には拘りたいタイプの人間でして〜、人を殺すことも〜能力を奪うことも〜これからの運命も〜全部手の内を見せた上で仕込みを行いたいんですよ〜」
「理解できないわね」
次は何をする気だ。仕込み……? 私に特異能力の効果を説明することで発動の条件を満たすものでもあるのか。
「ふふふ〜別に理解できなくても構いませんよ〜。それにこれは力の制約なんかじゃなく私の慈善でやってるに過ぎないことです〜。それでお察しの通り、私は複数の『願いの力』を持っているんですよ〜。原理は私の感情を他の方々の感情で希釈する事によって産まれるストレスと快楽がタネになっているんです〜」
「……」
つまり、奴の身体につけられた他者の部位は特異能力そのものを発現させる機構になっている訳ではないという事だろう。
言わば肉の形をした『特異兵仗』。外付けの出力増量装置のようなものだ。幾ら移植した身体の部位破壊をしたところでその特異能力が無くなるという訳ではなく、出力の減衰にしかならないというわけだろう。勿論それでも大幅に戦いやすくはなる。が、油断に繋がるものにもなる。見た目だけでは判断できないという訳だ。
だが、この原理を理解できるのは経験した私くらいしかいないだろう。
そもそも、私も『速度累加』・『僻遠斬撃』・『痛覚支配』という三つの特異能力を持つ。その代償として、表情を失った訳なのだが、それは純粋にDRAGの使用により表情筋が他者の特異DAYNを含む細胞に置き換わった事で、私が表情筋に干渉できなくなったからだ。
当初、私はその置き換わった細胞が黄依ちゃんや衿華ちゃんの特異能力を引き起こしていると考えていた。しかし、青磁先生と瑠璃くんのお陰で判明した事があった。
特異DAYNを含む細胞は細胞分裂を起こさない事。つまりは増えない。そして減り続ける一方である筈の事。
一般的に人間の細胞は早くて一ヶ月、遅くとも200日程で入れ替わると言われている。その為、いずれこの三つの能力は使えなくなるものだと認識していた。しかし、現状弱体化どころか、日に日にその精度は増している。
その理由を説明する為に例え話にはなるが、幼少期補助輪無しには自転車を乗れなかった頃を思い出してほしい。最初は補助輪を取ってしまうと乗れなかった子供は転び、立ち上がり、そして重心の掛け方を学んでいく事で補助輪無しでも自転車を乗りこなせるようになっていく。
特異能力はそれとほぼ同じだ。言わば他者の特異DAYNというものは他者の特異能力を発動させるための補助輪に過ぎない。最初は他人の願いを知るのに『通過儀礼』と言う名の道筋が必要だ。それを通るにはどうしても他者の細胞という補助輪が必要である。しかし、一度でもそれを体験してしまえば人は特異能力者となる。あとは慣れと反復により自身の脳の出力でも特異能力を出せるようになるという訳だ。
それが柘榴が移植した部位を欠損したとしても特異能力を使える理由と同じなのであろう。柘榴が奪った特異能力の中には箱柳勇気くんの『人格形成』がある。それが『通過儀礼』の役割を果たすのだろう。
そして、私がこの事実に気付いた事も柘榴は当然、この思考の傾向を読む能力で把握済み。
が。あえて思おう。彼女の奪った特異能力のそれぞれの相性が良すぎる。
『人格形成』
『死体操作』
『調律』
『知能向上』
『陰影舞踏』
そして、
短距離を瞬間移動する能力。
蟲を生み出して操る能力。
未だ見ていない能力もあるのだろう。だが、今並べたものの中でも組み合わされば恐ろしい威力を発揮する。
そして、理解した。他者の特異能力を知る特異能力が奴の本懐。でなければ複数の特異能力を操る為のものここまで集めることは出来ない。
彼女は自己の感情を他者の感情で希釈する事を悦びとしている感情生命体だ。他人を知りたいという欲と言ったところが正しい表現だろうか。
「……流石、と褒めた方がいいですね〜。その思考に至るまで一秒もかからなかったのはもはや才能なのでしょうね〜。蘇芳ちゃんでもそこまで辿り着けませんでしたよ〜やっぱり似たもの同士似た考え方をするものなんですね〜」




