第6話
「ヒミコ様、移動の準備がととのいました」
ドアの向こう側からくぐもった声がした。ヒミコは意識を物理層にもどし、
「わかりました。すぐに参ります」
と応じた。
最近、意図せず意識が抜けてしまうことが多くなってきた。物理層にとどまりつづけるのはそろそろ限界なのかもしれない。
ドアを開けると信者の一人が立っていた。信者のあとにつづいて建物を出ると、NEOTOKYO 下層の混沌とした世界がひろがっていた。まだ昼間だというのに欲望をもてあました人びとがストリートに溢れかえっている。
下層は身元を隠すのにはうってつけの場所だが、ヒミコは念には念をいれ、定期的に拠点を変えることで、追跡から逃れてきた。こんな潜伏生活をつづけてもう二十年以上になる。
ヒミコには、幼いころから神通力とよばれるものがあった。上位存在から神託をうける力だ。その力のせいで、幼少期から大人たちに利用され、搾取され、蹂躙されてきた。ヒミコの〝生身の部分〟はほとんど残されておらず、脳と脊髄以外のすべてをサイボーグ化し、生き延びてきた。
いまも彼らはみずからの欲望のために少年少女たちを蹂躙しつづけている。ヒミコは彼らの計画を阻止し、破壊するために活動してきた。だが、相手が強大すぎて、今日まで糸口すらつかめないでいた。目的を達成できずに終わるかもしれない、と絶望したことも数知れない。
しかしここにきて、一条の光が差した。
真城シュリ──
去年の誘拐殺人事件で死亡したマシロ・コーポレーションの社長令嬢。しかし、ヒミコは確度の高いある情報──事件は偽装であり、彼女はまだ生存している──を掴んだ。
おそらく彼女こそがこのおぞましいシステムを叩き潰す鍵。なんとしても見つけ出さなくては。
ヒミコは、NEOTOKYO 下層の喧騒をぬけ、次の潜伏先へいそいだ。




