第5話
「私のママを殺した奴、か……」
本多は、仕事をサボって、一人休憩室にいた。口うるさい拝金主義者の宮司は、今日は留守だから、問題はない。
本多の後頭部の中にある安物の簡易型電脳には無線機能がなく、電脳からネットに接続することができなかったため、自分の小型端末をつかって、朝からずっとシュリについて調べていた。
まず最初に驚いたのが、彼女の年齢だ。〈享年十四歳〉となっている。去年の事件のとき、ニュースで〝若い〟ことは知っていたが、まさか〝十四歳〟だったとは──十四歳なんてまだ子供じゃないか。
さらに驚いたのが、その優秀さだ。たしか「大学院に行っていた」とシュリは言っていたが、それは本当だった。十二歳のときに飛び級で大学院まで進学し、十三歳のときには物理学の分野で〈シュヴァルツシルト宇宙論におけるグラフ構造について〉という博士論文を書いている。
「なんちゅう才女だよ」
と、本多はおもわず口走ってしまった。
しかしその翌年、十四歳のときに、誘拐事件の被害者となった。身代金目的だった。事件は早期解決したが、発見されたときにはすでに死亡していたという。当該事件の犯人は、逮捕時に抵抗して、射殺されている。
シュリの母親〈真城カヲリ〉の死は、シュリの言った通り事実だったが、それは最近のことではなく、シュリを出産して数日後のことであった。死因は〝病死〟とだけで、くわしくはわからない。シュリは、〝真城コウタロウが母親を殺した〟と主張していたが、それを裏付けるような情報をみつけることはできなかった。
シュリの虚言の可能性もある。俺がクソガキに弄ばれているだけなのかもしれない、という疑念がつねにつきまとう。むしろ、そう考えるほうが正常な気がする。
(なら、なんでこんな必死に調べてんだよ、俺は)
と本多は自分自身にツッコんだ。
しかし結局、シュリの父親である〈真城コウタロウ〉についても調べてしまった。
真城コウタロウ──言わずと知れたカリスマ的実業家だ。学生時代に一人で起業した会社を成功させ、一代で世界規模のアンドロイド・メーカーにまで成長させたサクセスストーリーは、世界中のだれもが知っている話だ。誘拐殺人事件の前までは、頻繁にメディアに露出していた記憶があるが、事件後からは一切表舞台にはあらわれず、メディアから姿を消した。その状態は現在もつづいており、メディアに彼の名が出ても、現在の真城コウタロウの姿を見る機会は皆無に等しかった。
さらに調べると、〝鋭すぎる頭脳ゆえの冷酷さ〟〝強引な経営手腕〟〝社員や下請けに過酷を強いる残忍さ〟等の悪評も見受けられる。だがそれでも、〝自分の妻を殺した〟なんて情報は、噂にも上がってこなかった。
本多個人で調べられる情報といったら、せいぜいこんなものだった。
それよりも、シュリについて調べているうちに、あることに関連した記事をちょくちょく目にすることがあった。それは、〝東京都内で十代の少年少女の失踪事件や行方不明事件が多発している〟というものだ。それも身寄りのない子や貧困層の子供ばかりで、その数も百名にせまる勢いだ。当然、ヤクザやギャングによる人身売買や臓器売買が真っ先に疑われたが、被害者が孤児や貧困層なため、民間警察による捜査は進展せず、真相はいまだつかめていないそうだ。
そういえば、真城シュリも十代で誘拐された被害者だ。
そんななか、陰謀論といわれてもおかしくないが、妙に気になる記事があった。それは、〈ヒミコ教〉という新興カルト教団が未成年行方不明事件に関係している、というものだった。しかも、ヒミコ教信者に名をつらねる者のなかには、世界有数の資産家や著名人が含まれているという。つまり、カルト教団が富豪らに少年少女を提供する仕組みが存在する、という記事だった。子供たちの人生や尊厳すらも搾取する金持ち連中を想像して、本多は胸糞悪くなった。
信憑性の低いゴシップ記事だし、ふつうに考えるならフェイクだが、本多が見過ごせなかったのは、信者名簿の中に〝真城コウタロウ〟の名があったからだった。




