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未来世紀から異世界へ! ~とあるJ隊員の活動記録~  作者: としょいいん


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20/21

第20話 ロボの話

 オレが狼獣人たちが監禁されてる古い家屋まで足を運んだのは、彼らに聞いておきたい事があったからで、それは魔王軍の情報と言うより『ロボ』と名乗る部族について確認しておきたい事があったからだ。


 オレが気になった『ロボ』とは、もちろんオレが大好きな巨大なロボではなく、かと言って地球の古いお伽噺に出て来る狼王の事でもないのだが、過去にその話にちなんで名付けられたプロトタイプの獣人強化兵が存在しており、彼らはアグレッサーとの試験戦闘中にMIA(作戦中行方不明者)となっていたはず。


 アグレッサーに取り込まれるとは文字通り肉体ごと喰われると言う意味で、つまり「オマエ、ウマソウ、オレサマ、マルカジリ」となった結末を意味する。


 それなのにオレの目の前には人の形と意識を保ったままアグレッサー因子を持たない、ノーマルな狼型強化兵の末裔だと思われる者たちだったので少しだけ興味が湧いた。


 こんな古い家屋の中に、狼型強化兵である獣人たちを押し込めても簡単に破られるのではないかと心配になるが、ヤツラの身体に巻き付けてあるロープには精霊の魔力が宿っているから大丈夫なんだとか。


 見張りをしていたエルフの兵士と軽く挨拶を交わして中へ通して貰うと、そこには10名ほどの狼獣人たちが全身グルグル巻きの状態で土間に転がされていた。

 今日の戦闘でオレが無力化した敵兵の数はもっと多かったはずなので、他の建屋にも同様に転がされているのだろう。


 建屋の中にも数名のエルフ兵が居て、オレがこれから尋問をすると伝えたら部屋から出て行った。多分だけど近衛騎士の誰かを呼びに行ったのだと思う。


 オレは先ほどの尋問で、最後まで反抗の意志を見せていた狼獣人の女に話しかけてみる。


「そう言えば名前をまだ聞いていなかったな」


「・・・・・」


 土間の上に縄でグルグル巻きにされたままの状態で寝た振りを続ける狼女だが、こいつの脳波と生体反応から覚醒状態である事を示している。


「おい、もう起きてるのはバレてるから返事をしろ」


「・・・・・」


 変身状態の時は簡素な下着と皮鎧を着けていたと記憶してるが、変身が解けて武装を没収されグルグル巻きにされたロープの下にはブラとショーツしか身につけておらず、荒縄の隙間から覗く白い素肌とか胸元とか生足なんかは直で見るよりかなりエロい気がするな。


「お前たちの部族にブランカと名乗る女性はいないか?」


「な! 何故それを!?」


 そんなのは狼型強化兵に関する資料を読んだ事があれば誰でも知ってる話で、ブランカ女史と言えば、この強化プロジェクトを研究・指揮した女性技術士官の名前で、この手の生体兵士関連の研究論文では必ず一度はお目にかかるほどの有名人だ。


 最初のうちは順風満帆だった強化兵士プロジェクトだったが、実戦テストを繰り返し実用可能だと判断される一歩手前まで進んだ時、ブランカ女史が突然プロジェクトの凍結を行い全てのデータを破棄して姿を消してしまったのだ。


 最初は強化兵士に拉致されたと見なされ、軍によって銀河宇宙中を捜索して回ったのだが結局は見つけられず、この不祥事を隠す為にアグレッサーとの試験戦闘中に行方不明と認定されて記録も抹消されたとバックアップサーバーの記録にあった。


 だが捜索に関わった全ての記録までは抹消出来なかったらしく、数年経ってからブランカ女史のメモや手記が発見されて、その後も色々な憶測が流れたが、この頃になるとアグレッサーとの戦争も佳境に入っており、もう誰も過去に凍結されたプロジェクトには興味を示さなくなっていた。


 なので地球防衛軍の公式見解としては、狼型以外の獣人強化兵たちと同じ運命を辿ったものと見做され、その後は予算の削減もあって獣種のDNAを用いた強化兵士研究プロジェクトを引き継ぐ者は現れなかった。


 だが一部の識者たちは、非人道的な研究に心が耐えられなくなったブランカ女史が、研究の成果と強化兵士を廃棄して生命を絶った……と考えていたみたいだが彼女の手記からは、そのような行動へと至る兆候は見られない。


 ブランカ女史の手記には、日々成長して行く狼のDNAを移植した新人類の発育状況と、それを愛でながら見守る彼女の感情の起伏について実に細やかな表現で記されており、あの文章を読んで非人道的な研究に心を痛めていたなんて、どう考えたらそんな結論に至るのか全く意味が解らない。


 生殖能力を持っていなかったはずの狼型強化兵の末裔が、こうして目の前に存在してる事に対し若干の違和感が無い訳ではないが、彼らがその後も幸せに暮らしているなら何も言う事はなかった。

 これは、あくまでオレの個人的な見解だが、ブランカ女史が自分で生み育てた狼型強化兵士に愛情を注ぎ続けた結果、恋に落ちた相手との子供が欲しくなり別の新天地を目指して軍から行方を眩ませたのではないか?


 その後の研究結果は目の前に居るコイツらの姿を見れば解ると言うものだ。


 ブランカ女史の研究は見事に実を結び、プロトタイプの狼型強化兵……彼女が名付けた『ロボ』との間に(恐らく試験管ベビーだと思うが)愛しい我が子たちを授かる事に成功し、その後は一族郎党を増やして行ったのだろう。


 もしかするとブランカ女史もオレがこの惑星へ送られて来た、あの古いストーンヘンジ型の転送装置を使ったのかも知れないな。




「オレはブランカ女史と同じ地球防衛軍に所属している者だが……」


「貴様が我らの始祖たる女神ブランカと同郷の者だと言うのなら、その証拠を見せて見ろ!」


 証拠かぁ……まぁ、そうなるよな。でもブランカ女史は確か特攻ガチ勢ばかりのAチームに所属していたが、彼女のようなインテリ研究オタクが脳筋ガチ勢と話が合う訳もなく、人間関係でトラブった末にJ隊へと転属された曰く付きの人物だったらしいが、残念ながらオレと直接の面識は無い。


 なので証拠を出せと言われても、彼女が着ていた制服もオレが今着てるブルーのデジタル迷彩とは別物だったと思うし、階級章も普通科のものとは違うはずだから、ぶっちゃけ証拠となるような何かは持ってないんだよな……。


 でも大丈夫だ。ブランカ女史が残してくれた手記の内容から、彼ら狼獣人の事はよく知ってる。


「もしかして、お前たちが変身する時『トランスフォーム』とか言ってないか?」


「な、なぜそれを?!」


 それさえ判れば後の事も大体判るぞ?


「あと、お前たちのリーダーの名前も当ててやろうか?」


「そんなのデ、デタラメに決まってる!」


「ロディマス」


「な、何故その名を?!」


「最初の第1世代の者たち全員がブランカ女史から『真の名』とやらを貰っていて、代々その名前と役割を受け継いで来たのだとしたら、差し詰めお前はアーシーと言った所か?」


「まさか貴様、いや貴方は女神が予言した我らの『シレイカン』なのか?」


「いや、残念ながらオレは司令官ではない。只の一自衛官だ。だが同じ部隊に所属する仲間で『ロボ』の力を信じる者でもある。今その戒めをほどいてやるから表に出ろ。そこでお前が納得する証拠を見せてやろう」


 オレはアーシーと思われる狼獣人を連れて建屋の外へ出ると、左手首のリングに触れて異次元格納庫(ハンガー)からモバイル・スーツを呼び出す。


「おお、これが女神の予言にあった『ロボ』なのか……」


 ふん、オレ様のジパングを見て存分に崇め奉るがいい。


「でも、良く見ると足が無いな?」


 このバカ! なんでそこに触れるんだよ! 普通は一目見てデリケートな話題だと気づくべきだろ? それに足なんて無くても、オレのジパング様は100パーセントの戦闘能力を発揮出来るんだよ!!


「それに何と言うか……邪神像みたいで敵っぽくないか?」


 お前の目は節穴か? 良く見てみろよ。あのチャーミングなモノアイに、頭部両側から突き出た赤いアンテナなんてセクスィー以外の何物でも無いし、やや角ばった上半身から流れるような流線型の大型スカートが融合したデザインは唯一にして無二の造形美しか感じないだろうが!!


 エロい人にはそれが解らんのだろう……まぁ良い。


 ブランカ女史はアグレッサーとの戦争が激化する事を予測し、主戦場から遠く離れた辺境惑星で強化兵士の研究と戦力増強を続けていたのだろう。そしていつか戦況が不利に傾きこの惑星まで敵の手が伸びてきた時に備えて、狼獣人たちの武装戦団を作り育ててきた。


 生物兵器学の権威であったブランカ女史ではあったが、モバイル・スーツなどの機械工学については一般的な知識しか持ってなかった彼女は、巨大変形ロボに憧れを持ちつつも、それを実現するだけの技術と設備を産み出すには至らず、こうして狼型強化兵士たちの育成に力を注ぐしか無かった……と言うのが実情に近いだろうか。


 ブランカ女史が組織した狼型強化兵の部隊には、もし単独でアグレッサーとの決戦で劣勢だと判断した場合、外宇宙に居る友軍に対し何かしらのメッセージを残しているとオレは考えた。


 そして、そのメッセージこそが奴らの言う『司令官』なのだろう。


 元を正せば、同じJ隊所属として共に戦う仲間であったはずの狼獣人たちだが、今はアグレッサーの因子を受け継ぐ魔王配下の敵として出会ってしまった以上このまま開放する訳にはいかない。


「同郷の誼(よしみ)というのなら、私の願いは仲間たちの即時解放だ!」


「何で捕虜のお前が、そんな偉そうに上から要求して来るんだよ!」


 話してるとなんか面倒になって来た……もうコイツら全員ふん縛ったまま、ここに放置しておけばいいんじゃないか?


 そして、また刃向かって来たら今度こそ殲滅してやれば少しは静かになるだろう。仏の顔も三度までと聞いた事はあるが、オレたちJ隊はデフォで無宗教だからそんなの関係無いし、裏切り者にはそれ相応の扱いというモノがある。


 するとオレの殺意が脳波を通してジパングに伝わったのか、両腕の指先が狼女の方に向いて荷電粒子加速機の駆動音がキュィーンと静かに聞こえて来る。


「と、とりあえず穏便な方向で協議しようじゃないか?」


「十分に穏便だろ? だって、お前まだ生きてるし」


「い、一族の命運を左右するような話は、族長である兄貴として欲しい」


 狼型強化兵士のリーダーと主なメンバーたちの名前は知ってるが、顔も見た事が無い相手と何を話せと言うのだろうか?


「お前が右手を斬り飛ばした男が居ただろ? そいつがアタシの兄貴だって言ってんだよ!」


 そう言えば、斬られて無くなった拳の代わりに右手首の骨で殴り掛かって来た猛者が居たのを思い出す。アレがコイツらのリーダーだったのか、道理で強いはずだ。


 オレは狼女を連れて、彼女の兄が何処に収用されているのか見張りのエルフに聞いてみると、「最後まで抵抗していた大男が居たので多分そいつの事でしょう」と言って直ぐに案内してくれた。


 それから狼女アーシーが兄のロディマスにオレの事を紹介すると、彼の口からも「お前がシレイカンなのか?」と質問を受けたが、オレは只の自衛官だと説明しておいた。


 ぶっちゃけジエーカンが何か理解してないみたいだったが、それでもオレがヤツラの信奉する女神ブランカと同じ世界の者だと解ってくれればそれで良い。

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