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未来世紀から異世界へ! ~とあるJ隊員の活動記録~  作者: としょいいん


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第19話 厄介な捕虜

「話す事など何も無い! 早く殺せ!」


 廃村を襲っていた敵部隊を撃退してから、アリエル殿下とミリアリア師の二人が部下たちからの報告を聞く為、まだ辛うじて屋根と壁が残っていた幾つかの建物のうち比較的大きな家屋の中に集まっていた。


「お前たちエルフなんかに下げる頭は無いと言ってんだよ! 言葉も理解できないのか?」


 そこには荒縄でグルグル巻きにされた狼の耳と尻尾を持つ若い女が家の大黒柱に縛り付けられており、その女の全身には打撲と切傷の痕が赤黒く残っていて、まだ塞がっていない傷からは量こそ少ないが赤い血が滲んだ跡が今も生々しく残っている。


 その女の足元には3人の狼の耳と尻尾などの特徴を持つ敵兵たちが倒れたまま放置されており、柱の女と同じく胸の辺りから足首までグルグル巻きに拘束されていた。薄汚れているから良く見ないと判らないが、そのうち1人は女性のようだ。


 戦っている時は全身が獣毛で覆われ爪も長く伸びているみたいだが、今は耳と尻尾以外は普人族みたいな姿になっているのは、感情の高ぶりによって獣人特有の体内物質が分泌されると姿が変わる性質のためらしい。


「その臭いは!! 貴様だな、ロボたちをコソコソ背後から襲っていたのは!?」


 オレが部屋に入った途端、柱の女がオレに向かって叫び声を上げる。その女の言う通り、狼獣人の兵士たちを正面からではなく、光学迷彩(ミラージュ)フィールドを使用してコソコソ襲っていたのは合ってるので、ここで何か反論するつもりはない。


 オレがここで何か発言しても良いのか判断が付かなかったので、アリエル殿下へと目線を向けると彼女は小さく頷いてくれたので、狼獣人っぽい女……狼女に声を掛ける。


「戦争してるのに手段など選んでいられるかよ。お前たちは殺す相手にいちいち伺いでも立てているのか?」


「ロボたちは絶対に、そんな卑怯な戦い方はしない──」

「戦いに卑怯もクソもあるか。生きるか死ぬか、その二つしか無いんだよ」


 ロボと聞いて少しだけ親近感が湧いた気がしたが、オレが思ってる巨大ロボではないと思い直して緩みかけた表情を引き締める。ただの部族名だと判ってはいても、年頃の男の子はみんなロボが大好物だ。


 戦ってる時は敵だから全力で倒しに行くが、捕虜となった者には『銀河宇宙戦条約』による扱いが批准されており、我がJ隊もこの条約に即した行動を行うよう日頃から教育されてきたが、この保護惑星でもそれが同じかどうかまでは判らない。


 ちなみに、この『銀河宇宙戦条約』には『不必要な苦痛』を与える事も禁じられているため、オレが一撃で相手の首を狩り取って、一瞬で生命を奪うのはこの不必要な苦痛を長引かせないためでもある。


「アリエル殿下、少しいいか?」


 エルフたちにしてみれば、つい先ほどまで殺し合っていた憎い敵だが、このまま処刑しないのであれば捕虜としてケガの治療と食事を与える許可が欲しいと伝える。


 アリエル殿下の周りに居るエルフたちは、これまでずっと一緒に戦ってきたオレが一体何を言い出したのかと怪訝な表情を浮かべて、なぜ敵だった者に治療と食事を与えなければならないのかと理解に苦しんでいるみたいだが、その思いはアリエル殿下にも少なからず同様の思いがありそうだという事が見て解る。


 それと今ここに居る捕虜たちは、オレが背後から一撃を食らわせる時にナイフを持っていない方の左手で殴り飛ばした者たちだったらしく、早々に気絶して戦線離脱したお陰でこの戦闘が終わるまで生き延びたという事で、この場のルールに準じるならオレの獲物という見解になるらしい。


 その彼らが全身に負っている傷痕はエルフ兵士と戦っていた時以外に、ここまで運ばれる途中で激しく抵抗したから付いてしまったらしいが、それならまだ新しい切傷から流血しているのはおかしい気もするが、今それを指摘するつもりはない。


 このように明らかに一方的に振るわれた暴力が認められたとしても、それを行ったエルフ側の誰かも仲間や友人を殺された恨み故の行動であるなら、そのどちらかを一方的に悪と決めつける事はできないし、裁判所ならともかく戦場でそれをすべきではない。


「それくらいなら私がやるわ。みんないいでしょ?」


 まさかアリエル殿下が治療を行ってくれるとは……実はちょっとだけ期待はしていたが、敵対ムード満々の中でエルフたちにそう言ってくれるとは思わなかった。けど助かる。


 オレが持ってる応急キットでも止血剤や湿布などの薬類は揃っているが、アリエル殿下の治癒魔術は傷の治りが早いから助けてくれると言うなら、その方が良いだろう。


(こっちの治癒魔法は、それこそ死体でなければ治してしまえるほどの医療レベルだからな)


 オレも彼女と同じようにナノマシン【SeyRay】を使えば似たような事は出来るとは思うが、まだ十分な経験も無く医療事故でも起こしたら取り返しがつかないので、これまで誰にも試した事がなかった。


 先ほどから土間に転がされたままの3人と、柱から解かれた狼女を新たに床に敷かれた白い布の上に並べて、アリエル殿下が順番に治癒の魔法を掛けて行く。


 柱の狼女は念入りに荒縄を追加して全身をグルグル巻きにしていた時に、ギャーギャー煩いので猿轡を嵌めても激しく抵抗するから、オレが馬乗りになって押さえつけAIドクターのコキリコ先生にARガイドで手順を教えて貰いながら鎮静剤を打ってやると、途端に大人しくなり床で眠ってしまった。


 戦闘形態でなければ犬耳と尻尾を付けたコスプレイヤーにしか見えないから、人型になったこいつらがアグレッサーのDNAを持ってるなんて誰も気が付かないレベルの擬態だな……と考えているうちに治療が終わっていた。さすがアリエル殿下、頼りになる。




《システムより報告。目の前に居る狼型強化兵士からアグレッサー固有のDNAは検出されませんでした》


『なに?!』


 オレは過去に行われた強化兵士の実戦プログラムに関する資料を読み込んでいたから、てっきりアグレッサーに取り込まれた末裔だと思い込んでいたが、システムAIの解析だとそうではなかったらしい。


 もしこの事実をもっと早い段階で知っていれば、先ほどの戦闘で狼獣人たちの死者が少なくなるように行動したかも知れないが、もう過ぎてしまった事だと諦める。





「エルマを呼んで、こいつらを閉じ込めておいて」


 4人居た捕虜たちはアリエル殿下の治療とオレの注射によって全員が眠ってしまったので、尋問するのは後回しにして、その前に指導的立場のエルフたちだけで今後の方針を話し合うという事だった。


 アリエル殿下の他にミリアリア師やエルマ隊長、それに副長を務めているエルメアさんが呼ばれると、伝令に出たイレーネさんはそのまま外に残り警備の任に着くと言っていたので、オレも退出しようとしていたら、ここに残って欲しいとお願いされた。


「それじゃ、始めよっか──」


 先ず最初にオレの事を知らないミリアリア師に、オレがアリエル殿下たちと一緒に行動する事になった経緯をエルマ隊長から説明して貰うと「よくぞ殿下を助けてくれました!」とメッチャ感謝された。


 ミリアリア師はアリエル殿下の教師として長年に渡り教え導いてくれた恩人たちの一人で、年齢こそかなり離れているけどエルフ特有の年齢不詳の若さから、この二人が並んでも年の近い姉妹か友人にしか見えない。


「この人族の、エルフを見る目は確かそうだな!」


 オレは素直な感想を述べただけなのだが、それでもミリアリア師への初印象は良いものとなったみたいだ。


 それでもオレが戦闘の真っ只中へアリエル殿下と一緒に偵察オートで飛び込んで来た時は、敵の援軍かと勘違いされるところだったが、タンデムシートに乗っていた殿下の顔を見て初めて味方だと気づいたと言ってたから、もしそのまま勘違いされていたら高レベルの攻撃魔法によるキツイ一撃を貰っていたらも知れない。


 それとミリアリア師は魔動工学の専門家で数々の発明を続けており、オレの偵察オートについては後日でいいから詳しく見せて欲しいと頼まれている。


 あと光学迷彩(ミラージュ)フィールドについても詰問されたが、そちらについてはSeyRayナノマシン・システムに関する事なので技術的な説明は難しいと考え、オレのユニーク・スキルだという事にしておいた。


 だからミリアリア師の中のオレのイメージは、魔動機械に跨って戦場を飛び回り友軍兵士たちの救護を行う異邦の衛生兵という事で納得したようで、光学迷彩(ミラージュ)フィールドと高周波振動ブレードの二つについても、外科手術に必要な設備と器具という事にしておいた。


(……と言う事は、オレが敵の首を狩りまくってた姿は見られてなかったんだな)


 文明の発展が遅れた未開の保護惑星でオレが本気の戦いを挑めば、彼らには自分たちをも脅かす存在として警戒されるかも知れないから、これはこれで良かったのだろう。


 こうしてオレの紹介が無事に終わると、次は本題である部隊を再編成した後に、どのような行動方針によって作戦を進めて行くかという話題になる。


 この廃村は先の決戦が行われた場所から近いため、ここに留まり周囲に潜んでいるかも知れない味方兵士たちを集結させるにはリスクが高いという意見が多かったが、この廃村以外に手頃な駐屯地は他に無さそうだった。


 それでもここから半日の距離にある森の中で、彼らの大恩師であるマクファージ師が最後まで敵の進軍を阻んでくれていたと聞いたアリエル殿下は、一刻も早い老師の救出を望んだが今の戦力では現実的に無理だと判断せざるをえなかった。


 ちなみにミリアリア師が率いる部隊256名に、アリエル殿下の近衛隊30名と、ここで救出した兵士68名を足しても354名にしかならないし、後方から来る馬車隊の83名が合流しても437人しか居ない。これは最初にエルフの国から率いて来た人数の4分の1にも満たない。


「散り散りになった味方の兵士たちの行方ですが、あの森を生きて抜けられたのであれば必ず故郷がある東へと向かったはずです」


 エルマ隊長とエルメア副長の説明だと、軍や部隊が崩壊して統制が取れなくなった場合は速やかに戦場から離脱して後退し、その場合は必ずエルフの故郷である『精霊の森』がある方向へ向かって進み、道中で出会った者たちを保護しながら集結するようにと、兵士たちに教育してるという事だった。


 でもそれだとエルフの内情に少しでも詳しい敵が居れば、一度敗走させたエルフたちの撤退する方向が判ってしまうから、いくらでも掃討なり捕獲する事が出来ると言う事でもある。


 但しエルフたちには風の精霊の聲によって、お互いの情報を伝え合いながら行動する事ができるから、そう簡単には捕捉されないと言われれば確かにその通りなのかも知れない。


 敵のオークとかオーガに捕まったら死ぬまで苗床にされるし、普人族の奴隷狩りにでも捕まれば、こちらも死ぬまでナントカ奴隷に落とされるから、どちらの未来も暗鬱たるものになりそうだ。


 この惑星での一般的な常識として、エルフの騎士や兵士などの兵役には男女が半々くらい就いているというのが実情らしいが、捕虜になれば死んだ方がマシだと考える女性兵士が自死を選ぶケースや、女性兵士を逃がす為に男性兵士が生命を落とすケースなども多くあり、戦いに敗れた場合のエルフ兵士らの生存率は絶望的な数値になる事が多いらしい。


「エルマ。外に居る皆に交代で休憩を取るように指示してちょうだい」


「了解です」


 この廃村に留まるとすれば、敵の目から見て悪い意味で目印になってしまうが、この場所以外に部隊を駐留させられるだけの場所が見当たらない。


 たった350人程度とは言え騎士や兵士の部隊を養うには、それなりの量の食料と水が必要で、この廃村にはまだ使える井戸があり、元々は500人程度の村人が生活できるくらいの水量があった。

 食料についてはアリエル殿下や主だったエルフたちが、アイテムボックスと呼ばれる特殊な空間拡張魔法が施されたバッグを所持しており、その中にはまだ大量の食料が残されていたから当面の心配は無いそうだ。


 それにイザとなれば、オレの異次元格納庫ハンガー内にある非常食を全て供出してやれば、あと5日程度の作戦行動は可能だと思われる。


 このように時間が限られた状況ではあるが、まだ生存してる可能性のある兵士たちを救出しつつ、エルフ軍の撤退を指示して最後まで戦っていたマクファージ師とか言うじいさんの安否確認を済ませてから、エルフ本国まで帰還する手筈に決まった。


 もし勇者率いるアルカディア軍までが敗走していたら、もうこの周辺は敵の勢力圏内と言う事になるが、アリエル殿下の見込みではそう簡単に討ち取られるような腰抜けではないらしい。


 会議が終了してエルフの皆が明日からの強行作戦の準備の為、次々と建屋から退出して行くのを見送った後で、オレは捕虜となった狼獣人たちが監禁されている場所へと向かった。

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