第18話 ミリアリア隊救出!
魔王軍との決戦は、開戦当初の頃こそ人族連合に加わった各国軍の勢いが魔族たちより優勢を保っていたと思われたが、勇者が率いるアルカディア王国軍と呼応するエルファリア騎士団やドヴェルク戦士団などの部隊が突出する形になった時、その異変は起こった。
人族連合の軍が正面と左右の3方向から、魔族の軍勢に楔を打ち込むような形で突き刺さるタイミングを待っていたかのように、攻勢に加わった者たちの背後から雪崩込んで来た者たちが居たのだ。
その者たちは誰もが人族連合国の味方であったはずの者たちで、国の名を挙げるとシナジア共和国とプロアシア帝国の軍隊だった。
かの国々が人族連合を裏切り魔王軍へと寝返った理由はまだ明らかになっていないが、それ故に様々な憶測を呼ぶ結果となり、連合国の国々は皆が自分たちの隣で轡を並べて戦っている他国の軍を疑い始めた。
『隣国の奴らがいつ襲って来るかも知れない』などと考えるようになれば、もう戦争など継続できないと考えるのは奇しくも全ての国の共通認識となった。
これまでずっとお互いの代表者が集まり協議を重ねても至らなかった議論の一致が、この段階で初めて且つ最後の全会一致となったのは惜しまれる結果だと言える。
だが、これにより世界の命運は決っした。
どの国も自国の総力を結集して戦場へと送り出した軍隊だが、それが瓦解してしまったからと言って直ぐに立て直して再戦という訳には行かないほどの損害を被る事となり、国によっては軍の中心となる人材の多くを失い再建の見通しが立たない国もあった。
これらの状況を鑑みるに、これから世界の覇権を握るであろう魔族の国と、それに媚び諂って生き延びようとする国。後に残されたのは滅びゆく運命に向けて、それでも尚抗う意志を持つ者たちと、既に諦め己の悲運を嘆くだけの者たちだけであった。
そんな中にあってもエルフたちは戦い続ける道を選び、また今現在も大量に押し寄せて来る魔族と魔物どもに抗いながら撤退戦を繰り広げていた。
「負傷者を後方へ運び出せ!」
「衛生兵! 早く馬車を出せ! もうここは守り切れん!!」
開戦当初は二千人以上は居たはずのエルフたちが、今は何人残っているかすら誰にも判らない状況の中で、シナジア軍の急襲によって瀕死の重傷を負わされたハイエルフの王女が、この戦場から無事に離脱したと味方の全部隊に伝わる。
「最早ここに残る意味なぞ無い、全軍撤退じゃ!!」
戦い傷つき倒れた者たちを運び出す為に、食料と水以外の物資をほぼ全て捨て去った馬車が次々と駆け出して行くが、馬車が5台から10台に対して1小隊分の護衛すら付けられないのは、まだ戦える兵士の数が不足しているからだ。
ここで殿軍となり、後退して行く馬車と仲間たちを見送った者たちは、この敵だらけの戦場から徒歩で撤退しなければならないのだが、ここに残る誰もが最後の希望を失わないようにマクファージ師やミリアリア師など、普段であれば決して前線に来る事はない国の重鎮たちが最後まで居残り、そこで味方兵士たちを叱咤し、また激励して戦う意志を持たせ続ける役割を熟していた。
『姫様は無事離脱したようじゃの、そっちの状況はどうじゃ?』
マクファージ師が風精霊の聲を使い、この平原の反対側で戦っているであろう愛弟子に労いの言葉を届ける。
『こちらは既に戦場から撤退しつつあります。老師の部隊も早く後退して下さい!』
恩師がまだ健在だったと知り、風精霊に感謝の祝詞を贈ったのはミリアリアと呼ばれる魔導師で、彼女とその師匠であるマクファージの二人は本来なら王女殿下の監督者であり、エルフ全軍に命令を発する様な立場では無かったはずだった。
そんな二人が急遽軍を二つに分けて、それぞれが大隊を率いる事態になったのは王女殿下の身に何かあった時、代わりに軍を率いるべき大隊長クラスの者にも凄腕の刺客が放たれていて、シナジア共和国の軍勢が雪崩込んで来たタイミングで先に生命を落としてしまっていたから。
『儂はこのまま決死隊を率いてこの森に留まり、そちらの部隊のための時間を稼いでやろう。恐らくそれが最も多くの同胞たちを守れる唯一の方法じゃて』
『そんな! 師を置いて私だけ逃げ出せというのですか?!』
『逃げ出すのではない、生き残った者たちを国まで送り届けるのじゃよ。誰かがその役目を成さねばならぬ事くらい解っておろう。それに、こちらの者たちは皆快く了解してくれておるしな。じゃから早く行けと言っておろうが』
『老師!!』
戦場に選ばれた荒野の東側から南側にかけて、エルフの森とまではいかないが、そこそこ大きな森が広がっており、その森にはいくつもの街道が分岐して通っていた。
その街道を通れば決戦場を突っ切るより早くここから退避する事が可能だが、逃げる時に道端にある樹木をイチイチ切り倒して敵の追撃を阻んでいては、逆に時間が掛かりすぎて追いつかれてしまう。
それに街道は一つだけでは無いので妨害工作に時間を取られると、別の街道から敵に回り込まれてしまう危険性も考えなくてはならない。
そう考えると、二つの部隊(もう大隊規模ではなくなったが)のうち一部隊を先に逃がしてから、残った部隊が敵の進軍を待ち伏せてその進行を遅らせる事ができれば、先に離脱した部隊は確実に逃げ延びる距離を稼ぐ事ができるだろう。
味方の指示をしながら、それでも最後まで師の声を聞きたいと願う弟子の声に対して、師は絶対に応答する事はしなかった。
師の声を聞いて迷いが生じ、もし先の部隊を他の者に任せて師の元まで戻られてしまっては、師がこれまでの長い間彼女を育てた意味が無くなってしまうからだ。
「これでミリアリア師が最後です、お急ぎ下さい!」
まだ生き残っていた隊長たちから背中を押されるように、彼女も戦場からの撤退を始める。
(老師、絶対に死なないで下さい! 必ずここに戻って来ますから!!)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
オレがその廃村に着いたのはドローンからの映像を受け取ってから、キッチリ10分後の事だった。
そこでは満身創痍とまではいかないが、無傷の兵士など一人も居らず全員が窶れた感じで疲れきっていたが、それでも壊れかかった建物を上手く遮蔽物として利用しながら、狼獣人の敵部隊と抗戦を続けていた。
もう過去の話になるが、嘗ての地球連邦にもA国やE国連合の他にもC国とか様々な国で、普通の人間より強力な筋力や瞬発力を持つ動物のDNAを組み込んだ強化兵士を創り出す実験が行われていた歴史があった。
それで実戦でのデータを集めるべくアグレッサーとの戦いに参加をさせた結果、逆にヤツラに喰われて強化したDNA情報を取り込まれてしまい、逆に敵の強化へ貢献してしまった苦い過去がある。
その後は敵味方の判別が難しくなるという理由から、獣人の強化兵が造られる事は無かったと聞いているが、人間以外の生物を取り込んで自分たちを強化出来ると知ったアグレッサーどもは更に脅威を増していった。
「ほら、カイセあそこよ!!」
アリエル殿下に背中を小突かれながら、味方が集中攻撃を受けている場所に向けて偵察ホバーを走らせるが、混戦しているお陰で余り目立たずに接近できそうだ。
「しっかり掴まれ!」
「な、キャー!!」
偵察ホバーの前輪をウィリーで持ち上げ、エルフ騎士と鍔迫り合いをしていた狼獣人の背中に前輪をぶつけて轢き倒す。危うく味方の騎士まで巻き添えになりそうになったが、そこはエルフ特有の反射神経で避けて貰ったので大事には至らなかった。
突然現れた見知らぬ偵察ホバーに跨ったオレたちを見て、最初は新たな敵かと警戒したエルフの騎士たちが手にしたロングソードを構えるが、オレの後ろに座ってるアリエル殿下の姿を見て動きが止まる。
結果として戦ってる最中に動きが止まったエルフ騎士が、別の敵兵に蹴り飛ばされて直ぐ後ろに居た味方を巻き込みながら吹っ飛んで行ったけど、オレは悪くないよな?
地面へ着地すると同時に、また別の狼野郎を後輪で吹き飛ばしてやったのだが、タンデムに座っていたアリエル殿下からは「もう二度とやらないように!」とキツイお叱りの言葉を頂いた。
「ここの指揮官は誰? アリエルが来たと伝えなさい!」
停止したままだと格好の的になるから、オレは偵察ホバーを二輪モードに戻して急発進させて次の敵兵をアクセルターンで弾き飛ばす。
ここまで見た感じだと味方のエルフ兵が300人くらい居て、敵の狼獣人もそれと同じくらいか少し多いくらいの戦力差だが、ここでも敵兵の動きは各個人による武勇頼みで突撃と撤退くらいしか命令系統がちゃんと整備されていないのが解る。
本来であれば5名ずつの分隊ごとに纏まって戦うエルフ兵たちの方が優勢で無ければおかしいのだが、所々に存在する敵の熟練兵に対処できていないのは、昨日からの溜まった疲労で活動限界を迎えているからだろうか?
「アリエル殿下!!」
「ミリアリア! 生きていてくれたのね!!」
オレは偵察ホバーの操縦をアリエル殿下と交代して、この辺りに居る敵の熟練兵を狩る為に行動を開始する。ちなみに殿下がバイクの操縦をさせろと煩いので、ここへ到着するまでにアクセルとブレーキだけは教えておいたが後は知らん!
『光学迷彩フィールド展開、アーミーナイフ高周波起動! 活動限界時間は600秒です!』
オレは周りの雑踏に紛れてフィールドを展開する傍ら、全方向から向けられる視線から姿を眩ませ狼野郎どもの狩りを始める。
今回は既に味方に死者が出ているので全力で敵を狩りに行く為、アーミーナイフを右手に逆手で持つが左手は不測の事態に対処できるようフリーにしておく。
敵の熟練兵は動きが素早くて一箇所に留まっていないので、そいつらを追いかける道中で無防備を晒しているヤツを見つけたら迷わずに殴り倒して行くが、今はスピード優先なので生死は問わず無力化を優先させる。
ブーンと小さく鳴る高周波ブレードの作動音は、この雑踏と雑音が響く阿鼻叫喚の戦場でなら誰にも気づかれる事無く、斬られた本人も地面に転がり落ちた自分の腕や足を見て初めて自分の身に何が起こったか知るだろう。
あと目の前に居る敵の腕とか足が突然ポロリしたからと言って、それほど騒がないでくれるとオレも嬉しいのだが、傷口から吹き出した血液に塗れて突然叫びだす味方のエルフたちには少し悪い事をしたかも知れないから後で謝っておこう。
あと当り所が悪く斬り殺してしまった死体を見て気付いたのだが、戦ってる最中は確かに狼型強化兵だったはずなのに、地面に転がった死体は何故か人間の姿をしていた。しかもスッパの状態でだ。ちなみに数は少ないが女性の身体も転がってるが倫理上は見なかった事にしておく。
うちの気が利くシステムAIから『録画しますか?』なんて確認を求めてくるが、オレには死体とヨロシクやるような趣味は無いし、これから新たな扉を開く予定も無いから、とりあえず『No』を選択しておいた。
それなのに『これは(録画ボタンを)押すな押すなってコトですね? ちゃんと判ってます(キリッ)』などと、オレの不安を煽るような事ばかり言って来るから、思わず光学迷彩フィールドの展開中だという事も忘れて危うく叫び出しそうになった。
大事な事だから2回言っておく。いくらエルフよりナイスバディな女性の身体が転がっていたとしても、オレには首の無い死体を愛でるなんて崇高な趣味は今後も絶対に、永遠に、ずっと、ネバーに無いからな。
《システムより了解。首があれば吝かではないと記録しました。オーバー!》
『オーバー!』じゃねぇーだろ『オーバー!』じゃ!! 本当にオレを注意散漫で殺す気か?!
《システムより連絡。血圧値が急上昇しています──》
全部お前のせいだよ!? この戦いが終わったら絶対に全システムの再チェックをしてやるからな。
システムからの精神攻撃によってSAN値を削られながらではあるが、周囲に居る者たちの動きを解析して未来予測位置をAR(拡張現実)表示してくれるから実はそれほど焦ってはおらず、姿を眩ませたまま狼野郎ども(一部女性あり)を狩り続ける作業に支障はなかった。
それでも狼野郎どものリーダー格みたいな個体の中には、見えないはずのオレの刃を受けるヤツが居て素直に狩られてくれないから困ったものだ。
「そこに居るのは誰だぁ?! 姿を見せろや卑怯者めぇ!!」
姿を見せろと言われてハイソウデスカと出てくるヤツなんて何処にも居ないだろう。
一撃で首を斬り飛ばせなかったのは悔しいが、相手を無力化するだけなら腕でも足でも何処を斬っても良いからな。あと卑怯なのは認めるけど、戦場では最後に立っていた者こそが正義だからな。
それでも音速で振るったオレのアーミーナイフの刃先の軌道が、光学迷彩フィールドの処理速度を越えてしまい光の屈折に乱れが生じたのが原因で、敵の狼野郎に刃の軌跡を見切られてしまったのだろう。
エルフの兵士が相手であれば、スピードで勝る狼獣人の方が翻弄する側に回るのだろうが、J隊屈指の教導隊に日頃から鍛え抜かれたオレには通用しない。
次の攻撃予測から相手の各部位が移動する未来位置に向けて、アーミーナイフを予め置いておくように突き出すと、右手首から先を無くしたにも関わらず、手首の骨が露出したまま渾身のストレートを打ち込んで来る闘志は大したものだが、ナイフを左手に持ち替えたオレの身体は既にヤツが放ったストレートと反対側に移動を終えていた。
右手が伸びきって左胸部分のガードがガラ空きになるのを見越して、心臓が向こうから来てくれる位置に右ストレートを打ち込んでやると、その振動でほんの瞬きする程度の時間だが相手の身体が硬直する。
その時既に納刀して空いた左手で敵の左腕を引き寄せながら懐に潜り込み、腕一本で背負った状況から投げを打ち、そのまま地面に叩きつけて相手の意識を刈り取る。
普通の人族なら内臓破裂で即死するレベルのコンボ技だが、この強化兵の身体はオレと同じかそれ以上に強靭みたいだから大丈夫だろう。たぶん。
たった一体の敵を相手に、これほど多くの時間を掛けていては終わりが見えなくなるが、オレが相手にした隊長クラス以外の敵兵どもについては、友軍の騎士や兵士たちが頑張ってくれるだろう。
そしてオレが狼獣人の隊長連中をほぼ無力化し終えた頃、エルマ隊の皆が村に到着して何度もランス突撃を繰り返し確実に敵の数を減らして行く。
この戦いも、そろそろ決着しそうだな。




