第17話 救出作戦開始!
シナジア軍に捕まっていたエルフたちを救出した翌日、フィーメさんが連れて戻って来たエルフたちも合流したので、現在の近衛騎士隊はアリエル殿下を含めて100名以上の中隊規模にはなったが、これから魔王大戦の決戦場まで戻って行方不明者を探索するには、まだ十分な戦力ではない。
以前にアリエル殿下がシナジア軍の裏切りによって負傷し戦場から逃避行を続けていた時、彼女を確実に殺しておく為の追撃部隊として大隊規模の部隊が派遣されていた事を鑑みれば、こちらも同程度の戦力が欲しいところだ。
だが超小型核融合炉の能力を発揮出来るようになったアリエル殿下の攻撃魔法は更なる強化がなされており、まだ生体ユニットの搭載が必要とは言え重力影響下での機動戦闘が可能な改修を行ったモバイル・スーツがあれば、推進剤の残量に少々不安はあるが何か出来る事はあるはずだ。
「敵の騎馬を十数頭は確保できたから、今騎乗出来るのはざっと70名という所かしら。馬車に繋がってる馬を全て外せばあと24頭は確保できるけど、それだと水と食料を十分に運べないから──」
アリエル殿下の判断で近衛騎士から30名の勇士がオレの偵察オートと併走して、ここから決戦場までのルートを先行し後続する主力部隊の露払いを行う。勿論だがオレたち先行部隊の先には偵察ドローンを飛ばしておき、途中で負傷者を発見したら後続の馬車まで搬送する。
ここから決戦場へ向かう途中には放棄された開拓村があるそうなので、まだ井戸が使用できる状態なら、その場所を仮の拠点として占拠し、そこから周辺地域の探索を続けると言うのが大まかな作戦方針だ。
エルマ隊長たちがこれまで遭遇した敵部隊のうち、決戦場から追いかけてきたと思われるオークの大部隊とはまだ交戦していないが、今のところ周囲を警戒する偵察ドローンのカメラに敵影は映ってないから追撃を諦めて本隊へ戻ったものと仮定しておくが、頭の隅には残しておくべきだろう。
そして開拓村を目指して街道を進む途中で、数名のエルフ兵士を保護できたのは明るいニュースとして皆に笑顔を取り戻してくれた。
「よくぞ生き残ってくれました!」
アリエル殿下たちは喜びを隠せない感じだったが、途中で保護したエルフらは誰もが負傷しており、それなりに重傷者も居たが今は近衛騎士たちの手で手厚い治療が行われている。
オレの異次元格納庫から取り出した災害救難用の毛布で身体を覆い、体温が下がらないように処置を施した上で精霊魔術による治療を行いながら、意識がある者にはミネラルウォーターとカロリーブロックを手渡し体力の回復に努めて貰う。
「イヴリンとセレネアの2人には、この場に残って負傷兵4名の治療と護衛をお願いね。少し待てば本隊の馬車が追いつくから、負傷者を引き渡したら先行隊を追って来てちょうだい」
元々少なかった騎兵隊だが、それが更に減って現在は28騎になったとしても、この先で救助を待ってる味方のエルフたちが居る限り、偵察オートのタンデムシートに乗ってるアリエル殿下の意志は変わらない。
「カイセ、この先に少し大きな岩場があるから、そこから東へ向かってくれる? 街道からは少し外れちゃうけど、そっちの方が近道よ」
周りの騎馬に合わせて時速30キロくらいの低速で走っている今の状態なら、タンデムシートに居るアリエル殿下の声がちゃんと聞こえる。
「あそこの角を曲がればいいんだな、了解した。その先は道が無いけど、そのまま真っすぐ進めば何かありそうだな?」
まだこの辺りに敵影は無いとドローンからの報告映像で知ってるが、ここから進行方向を変えた先の方角から救助を求める声が聞こえたような気がした。もしかして、これがニュータイプの感というヤツか?
エルフたちの話では、風の精霊たちが離れた場所に居る仲間たちの声を運んでくれるから、少しくらい離れていてもお互いの意思疎通ができると聞いていたが、それでも距離が離れ過ぎてしまうと声が小さくなって聞き取り難くなるそうだ。
それでも風の精霊と特に高い適性と素養がある者については、声が聞こえないほど離れた場所に居る仲間の気配を感じ取る事が出来るレベルの者たちがいて、幸いこの近衛騎士隊では全ての者がその能力を持っていた……と言うより、風精霊の素養が高くなければ近衛騎士には成れないらしい。納得した。
偵察オートのスロットルを開けてエルマたち騎兵を引き離し更に加速する。風精霊たちの聲はまだハッキリと聞こえては来ないが、それでも聲がする方向だけは何となく把握した。
「うそ! カイセにも聞こえるの? 風の聲が──」
最初はバイクの風切り音だと思っていたのだが、ずっと耳を澄ましてるうちに言語で表せない何かを感じられるようになった。本当に何となくだが……。
《システムより報告。彼女たちの通信ですが、我がJ隊の通信規格であるdocodemoにおいて有史以前に使われていたと思われる1G規格をピアツーピア接続で使用してると判明しましたので、この古い技術を復元し通信を確保しました》
それでもバイクで走ってる時の風を切って進む最中も、聞こえて来る音の中に色というか映像にならないイメージみたいな情報が紛れ込んでいて、その色を聴く事で何処か特定の場所から呼ばれてるような気がした。
エルフは小さな子供の頃から脳の言語野とは別の部分で伝え、それを理解する能力を育ててきたのだと思う。まだこの通常言語とは違った意思伝達方法に慣れていないオレでは、何となくしか理解できていない。
もしこの能力を完全に自分のモノにできたら、J隊の皆から『ヤツはニュータイプか?!』なんて言われる事だろう。
でもオレが目指したいのは戦闘能力特化型の天パ野郎じゃなくて、人々との共感能力の向上を目指した銀髪ジェントルマンの方がいいんだけど……でも、そうなるとオレも死ぬ運命になるのか?
「精霊の聲とやらはまだ良く解らないが、あっちの方角から助けを求める声が聞こえたような気がする」
でも確かな自信がある訳では無いから、先にドローンを急行させて状況を確認しておこう。
《システムより了解。偵察ドローンを急行させます!》
システムAIにはいつも助けられてるから感謝してる。ありがとな。そして数分後にドローンから送られて来た映像によって、この先にはまだ徹底抗戦しているエルフの一団が居る事を知る。
「カイセ、その場所まであとどのくらいかかりそうなの?」
オレが見てる偵察映像だが、新しいリアクターユニットの能力を使えるようになったアリエル殿下の網膜にも投影できるようになったので、彼女もリアルタイムで状況把握ができるようになった。
いくら偵察オートが騎馬より速く走れるとは言っても、空を飛ぶほどのスピードは出せないので「あと1時間くらい」とだけ答えてから、もしかしたら今言った半分以下の時間で到着出来る可能性を思いつく。
「アリエル殿下、以前にやって貰ったレベルアップの儀式をお願い出来ないか?」
「え、ここで? 今直ぐじゃなきゃダメなの?」
「もし頑張ってくれたら、30分以内に現着出来るかもだけど?」
「それなら任せて!」
道なき道とまでは行かないが、それでも障害物が多くて最高速度まで加速出来ないから、現在の巡航速度は時速100キロも出せていないけど、もし以前のレベルアップの時みたいにオレの階級が上がれば配備される装備ランクもアップするはず。
それまで腰に回されていたアリエル殿下の両腕が解かれて、今度は彼女の両手のひらがオレの背中に押し当てられる。
それまで押し当てられていた上半身とは違う手の感触によって、全く無いと思っていたアリエル殿下の細やかな部分が、実は若干だが膨らんでいたのだと理解する。
「何か失礼な事を考えてない?」
「まさか。ソンナ事考エテナイヨ?」
「なんでカタコトなのよ? ま、いいわ。ヤオヨロズの神様だったわね、ちゃんと上手くやるから待ってなさい──」
そしてアリエル殿下の手でレベルアップの儀式が終わると頭の中でファンファーレが聞こえた。
その後直ぐににオレの網膜へAR(拡張現実)表示されたリザルト画面には新しい装備などの配備報告が続々と映し出された。
オレはその中から希望する新装備が無いかテキストをスクロールさせながら『偵察ホバー』の文字列を探し続ける。
《システムより連絡。検索機能を使えば一発ですが?》
『やっぱAIには解らないか。こうやって一つずつ見ながら探して行くのが、情緒があって楽しいんだよ』
『それでカイセ、このテイサツホバーって何なの?』
『なんでアリエル殿下がJ隊の専用回線に割り込んで来られるんだ?』
『だって私もJ隊に入ったから、見えるに決まってるじゃない』
システムからの報告で、アリエル殿下の新しい心臓となったリアクターユニットを起動する際に、オレと同じ異世界システム『MANDAM』をインストールする為の条件として、日本国籍の取得と地球防衛軍・J隊への入隊が絶対条件だったらしく、結果として彼女はオレと同じ日本国民となり、J隊候補生となっていた。
そう言えばオレがフィーメさんと一緒にモバイル・スーツへ乗り込んで、プロアシア帝国の敵部隊と戦ってる最中に、そんなメールが送られていたのを今思い出した。
これからはJ隊の通信中に、アリエル殿下に関する失礼な通話はしないように心がけておかないとな……それと、彼女の胸部装甲に関する話題には触れていないからセーフか?
「アリエル殿下、ちゃんと掴まっててくれ!」
「解ったわ!」
レベルアップの儀式で離れていたアリエル殿下の上半身が再び密着して、オレの腰よりやや上の辺りに彼女の両腕が回されたのを確認してから、偵察オートを走らせたまま装備の換装を選択する。選ぶのはもちろん『偵察ホバー』だ。
地面の隆起した場所を狙ってそこから空中へとジャンプし、一瞬の浮遊感を味わった後に墜落ではなく前進の風を感じるようになる。
偵察ホバーの機体は、現在乗車してる偵察オートのKLX2500Jの前後輪が水平に変形し、車輪のホイールリムがフィン形状へと変更されて、それが高速回転して浮力を生み出し空中を移動出来るようになっている。
これは防衛費を削られた過去があって、機体をゼロから設計・製造するコストが掛けられず苦肉の策として民間に設計を委託した結果、現場の者たちからは名機と称賛された偵察ホバーが誕生した。
コスト削減上は、可変ギミックを取り払ってホバー専用の全後輪にした方が有利なのだが、一般のJ官に実装されたリアクターユニットの出力では、ずっとホバー状態で飛行するのは少し無理があって、省エネモードで運行したい場合に二輪形態で走行出来るのは大きなメリットだと受け取られたからだ。
そんな理由から偵察ホバーには変形タイプの他に固定タイプも生産されてはいるが、現場から求められるのは変形タイプが圧倒的多数を占めている。でも実は『省エネ走行』なんて採用理由としては2番めらしく、1番多かったのは『変形した方がカッコイイ』からだとJ隊では囁かれている。
ここからは地面の隆起や障害物なんて全て無視できるし、何なら周囲に点在する樹木や岩場より高く飛べるから、それこそ一直線に目的地まで飛んで行ける。
「アリエル殿下。目的地まで、あと5分になった。急いで戦闘準備をしてくれ!」
「わかった、私に任せて!」




