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未来世紀から異世界へ! ~とあるJ隊員の活動記録~  作者: としょいいん


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第14話 カイセもだいぶ判ってきたみたいね?

 オレがこの惑星で目覚めた時……と言っても、ほんの3日前の事なんだが、まさかこれほど早くアグレッサーとの本格的な戦いに身を投じる事になるなんて思ってもみなかった。


 今オレが一緒に行動してるアリエル殿下のエルフ小隊は、つい先ほど約100体ものオーク中隊を殲滅したばかりなのだが、今はモルタナと言う味方勢力下にある街を目指し警戒態勢を維持したまま街道を東へ向かって進んでいた。


 先ほど小休止していた時にドローンでこの先にある街道付近を偵察してから、そのままモルタナの街まで進めようとしていたところ前方から現れた一人のエルフ兵士を発見し、その後に保護すると街の状況が齎された。


 今のモルタナの街にはまだ味方の部隊が駐留しているらしいが、戦場で裏切り行為を行なったシナジア共和国とプロアシア帝国の部隊はとっくに引き上げてしまっており、アルカディア王国が残りの小さな国々の部隊を纏めて軍の再編をしてる最中だと判った。


 それでモルタナの街で後方から支援を行う為に残っていたエルフたちの部隊だが、人族同士が険悪な雰囲気になった時点でモルタナの街を離れ、街とは別の場所で本国からの支援物資を受け取る為の集結場所を設営するべく適当な場所を探していたのだが、人族連合から一方的に脱退した部隊からの襲撃を警戒していたところ戦場からアリエル殿下が負傷したと知ったらしい。


 そして100名のエルフ駐留部隊が、戦場からモルタナの街へ撤退して来るアリエル殿下と合流するべく行動を開始したが、その途中でシナジア共和国軍が街道封鎖をしており通して貰えなかった。

 なので事情を伏せたままでの説得は無理だと判断し、今は一刻を争う事態だと考えたエルフ部隊長たちは数敵劣勢にも関わらず強行突破を敢行した。


 部下たちの奮戦によって封鎖された街道を押し通ったエルフ兵たちだが、その先で今度はオーク部隊とも遭遇してしまう。


 普通に考えるとシナジア共和国とプロアシア帝国の二国によって、予め普人族の勢力圏内に潜伏させていた魔王軍の戦力を加えてから改めてモルタナの街を攻略し、そこを拠点として周辺にある町や村を制圧する計画でもしていたのだろう。


 これら自軍の数倍を誇る敵部隊を相手に、たった100名ほどしか居ないエルフたちが善戦できたのはちゃんとした理由があって、見目麗しいエルフ奴隷を高額商品として流通させる為に生かしたまま、尚且つ身体の欠損などをさせずに捕らえる必要があったからだと聞いた。


 魔王軍と結託した二国では、新たにエルフやドワーフそしてハーフリングなどの種族の人々に対して『亜人種』という蔑称を用いて、普人族が奴隷として扱っても良いという告示が出されており、これからは大手を振って奴隷商が闊歩する世の中へと作り変えて行くのだそうだ。


 結果として味方の数倍以上の敵軍に前後を挟まれたエルフたちに逃げ場など無く、たった一人を除いて他の皆は捕獲されるか殺されてしまったと報告を聞いた以上、まだ生き残ってるエルフたちを救出に行かない理由は無い。


「同胞たちが連れ去られたのが二時間くらい前なら、絶対に間に合うから!」


 アリエル殿下が近衛騎士たちに追撃を命じる。


 保護したエルフの話だと、彼らを襲った敵はシナジア共和国とプロアシア帝国で、どちらの部隊も200名以上の兵力は居るらしいから四捨五入しても50騎程度しか居ないアリエル殿下たちだけでは、さすがに真正面からの救出作戦は難しい。だが、条件さえ整える事ができればやれない事はない。


 先ほど全滅させたオーク部隊だが、アリエル殿下の搬送を行っていた近衛隊の先回りをするように移動していた事から、魔族の部隊にもエルフたちと同レベル程度の通信手段を持っている事が予想できるが、こちらに【風の聲】のアドバンテージが無くなったのは厄介な状況だと言える。


 軍事において通信技術とは、これの優劣で戦況が事も簡単にひっくり返される可能性を秘めるほどの重要機密であり、過去の歴史において通信技術で後塵を拝した側が勝利した記録はない。


 なのでエルフ≒魔族>普人族の公式が成り立つ場合、これから向かう先に居るシナジアだかプロアシアだか良く知らないが情報伝達速度の差で有利に立ち回れるのであれば、戦力の不利を少しでも補える可能性が高かったのだが、その望みは薄くなった。


 裏切り者の普人族を一切連れずにオーク部隊だけが先行してきた事から推測すると、アリエル殿下が負傷して戦場から避難した事を後方に居る普人族部隊はまだ知らない可能性が高く、保護したエルフ兵からモルタナの駐留部隊にその情報は伝えていないと聞いている。


 エルフの後方支援部隊の人数はキッチリ100名で現在99名の安否が不明となっているが、先の戦いによる被害を過去の事例を元に見積もるとしたら、約3割の死者と残り7割のうち半分以上の者たちが負傷してると仮定する事ができる。


 そうなると捕縛した70名ほどのエルフたちを半々にして複数の貨物用馬車に詰め込み、シナジアとプロアシアの部隊が今も自国方面へ向けて移動を続けているのだが、問題はエルフの捕虜たちも二手に別れて輸送されているという事だろうな。


 ただでさえ少ない味方の戦力を、これ以上分けて少なくしてしまっては4倍以上もの兵力差がある敵部隊を相手に増々勝ち目が無くなってしまう。


 アリエル殿下やエルマ隊長は先にどちらへ向かうか悩んでいたみたいだったが、とりあえずシナジア方面を目指してる敵部隊の方が近いと言う判断をしたみたいだった。


「カイセも一緒に来てくれるでしょ?」


「オレはここで別れるよ」


「え、なんでよ?!」


 アリエル殿下とエルマ隊長たち近衛騎士隊が先制攻撃を仕掛ける側になれれば、エルフより種族的に魔力が劣る普人族の部隊を相手に、そう簡単に負けるとは思えない。それに、ここから最短でシナジアの勢力圏を目指すなら森林地帯での奪還作戦になるはずだから、エルフの精鋭たる近衛隊が森の中での戦闘で普人族に遅れを取る事は無いはずだ。


 それに近衛騎士はたった50名ほどしか居ないがその全員が精霊魔法師であるのに対し、シナジアの魔術士は多くても10名程度しか居ないと聞く。これは普人族のうち魔術の素養を持つ者が10人から20人に1人くらいの割合しか居ないとされているから、200人程度の部隊であればおかしな数字ではないらしい。


 それと敵に気取られる事なく接近して上級魔法を先に撃ち込む事が出来れば、200人規模の中隊など指揮系統が混乱して戦うどころの状況では無くなるから、初撃で敵の部隊長やその小隊長クラスを何人か無力化する事が出来れば、逃げ出す兵士も居るから軍という体をなさなくなる。


 問題があるとすればエルフの人質を取られているから、襲って来たのがエルフだとバレてしまえば人質の生命を盾に取られて戦況が一気に不利になってしまう可能性だろうか。


 もしそんな状況へ追い込まれたら、最悪の場合エルフの捕虜全員を自分たちの手に掛けて殺してしまうそうだ。そうしなければこちらの身も危なくなるし、捕虜となった者たちをみすみす逃がしてしまい死ぬより辛い目に合わせない為でもあると説明された。


 特に子供や若い女性の場合は特に悲惨で、普人族の手から救い出せないと判断された場合は最優先で殺しに行くらしい。それは本人たちも普人族に捕まればどうなるか日頃から教えられていて、万一の場合には自分たちの方から味方に殺されやすいように行動するよう教えられている。


 一見してファンタジーにしか見えない前時代的な惑星だが、この地で生きる人達の覚悟はアグレッサーどもとの戦いに追われるJ隊での皆と比べて何ら変わりがない。


 誰かの生命を助けるために自分の生命を掛けなくてはならない。そんな不条理がまかり通るのは全宇宙共通の命題だと言える。


「オレは皆と別の方向へ移動してるプロアシアの部隊を追わせて貰うから、味方の捕虜たちを救い出せたら何処かで合流しよう」


 アリエル殿下は、そう言い出したオレを見て言葉に詰まる。


「私たちと一緒じゃダメなの?」


 アリエル殿下と近衛騎士隊なら絶対とは言わないが、かなりの確率でシナジア方面へ搬送中の同胞たちを救出する事ができると思うが、もしそれに時間制限があれば無理をしてしまう事もあるし、そうなれば最悪は失敗してしまう可能性も考慮しなければならない。


「だから片方はオレに任せてくれないか? 最悪でも足止めくらいはしてみせるから」


「なぜ知り合ったばかりの私達のために、そこまでしてくれるの?」


 何故かなんて考える必要は無かった。ただ彼女たちと一緒に行動していると、J隊の古巣に居るみたいな気がしたから、少しでも皆の力に成りたいと思ってしまったからだろう。


 オレは小さな子供の頃からJ隊に居る皆の姿を見ながら育ってきた。敢えて言うならそれが理由かな?


「せめて風の精霊魔法が使える者を一人だけ連れて行ってちょうだい」


 オレもナノマシンによって【風の聲】を聞く事は出来るが、まだ不慣れなため距離や遮蔽物があると正確に聞き取れないから、アリエル殿下の申し出は嬉しい限りだったが、その次に言われた内容に困憊する事になる。


「でも私以外の者を、テイサツオートの後部シートに乗せるのはダメよ!」


 それだと随行してくれる近衛騎士が駆る騎馬の走行速度に合わせて進める必要があり、プロアシア帝国の部隊に追いつくまでの時間を大きくロスしてしまう。


『システムより連絡。偵察オートにサイドカーを増設可能です。改造を行いますか? 【Yes or No】』


 すると待ってましたとばかりにシステムAIからの提案があり、この問題が直ぐに解決可能であると知ったので、アリエル殿下には彼女が言う条件で了解したと返答しておいた。




「こんなの聞いてません!?」


 だって言ってなかったからね、オレもついさっき知ったばっかだし……。


 近衛騎士隊から通信要員として随行してくれると紹介されたフィーメさんを、偵察オートの左側に増設されたサイドカー席へエスコートしていると、それを見たアリエル殿下が駆け寄って来てクレームを告げられた。


「後部シートに乗せたらダメだと言われたから、サイドカーを増設したんだけど?」


「こんな楽しそ……じゃなくて、危険な乗り物に部下を乗せるなんて、絶対に承服できません!」


 もう片足を跨いでいる途中のフィーメさんだったが、アリエル殿下の剣幕を恐れてスッと足を引っ込めるとエルマ隊長らの後ろに隠れてしまった。


「それなら途中までは進む方向が同じだから、最初にアリエル殿下が試乗して安全性が確認できたら部下を乗せる許可を貰うのでどうだ?」


「うん。そうね、それがいいわ。カイセもだいぶ判ってきたみたいね?」


 ええ、判ってきましたとも……貴女の扱い方が。


 それから近衛騎士隊の先頭を、妙にご機嫌なアリエル殿下と一緒に偵察オートを転がして行く。


「う~ん、ここも悪くないけど、やっぱりタンデムシートの方がスピードが出るから好みだわ」


 あとサイドカーの座席はバイク本体よりサスペンションが硬いから、乗り心地は余り良くないというのが一般的な感想として挙げられる。なので「もう安全性の確認はこのくらいでいいわ!」とアリエル殿下がお尻を擦りながらそう言い出すまでに、それほど多くの時間は掛からなかった。


 それでも「止めて、もうお腹いっぱいだから、これ以上は腰が痛──」などと意味不明の供述を繰り返すようになったのだが、オレとしてはちゃんと離隊する場所まで乗って頂かないと気持ちに整理がつかないので無視して最後まで走り続けた。


 そしてモルタナの街が見える場所まで進み、ここから近衛騎士小隊と別れて進むのでサイドカーに座ったままのアリエル殿下を抱え上げて下車させると何故か涙目で睨まれた。


 殿下から顔を背けた時、通信要員のフィーメさんがスッとサイドカー席へ座り込んでくれたので、オレも偵察オートに素早く跨がりスロットルを回して走り出す。


「あ、ちょ、待──」


 エンジンではなくモーター駆動方式なので、スーっと静かに加速を始めるとアリエル殿下がまた何か言ってきそうな気がしたので、「それじゃ行ってくる! みんなも気を付けて!」と一方的に声を掛けておく。


『だから、待ちなさいって言ってるで──』


 風精霊の聲まで使って待てと言われても、素直に停車しなかったのを詰られるだけなのでオレがスロットルを緩める理由にはならない。


『後でまた後ろに乗せるから、ここは素直に送り出してくれ』


『仕方無いわね、それなら気を付けて行ってらっしゃい。あとケガなんかしないでよね。じゃ!』


 アリエル殿下なりの気遣いと激励の言葉を胸に、オレとフィーメさんを乗せた偵察オートは最高速度まで加速を続けた。

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