第13話 ズッ友【アリエル】
最初の出会いは私の誤解でカイセを傷つける所だったけど、エルマたちが誤解だと教えてくれたから最悪の事態だけは避けられた。
エルマたちの話だとカイセは治癒術師なのに凄腕の暗殺者でもあるらしいから、私が魔法で作り出した氷の刃が、あと少しでも彼の首に食い込んでいたら瞬殺されるのは私の方だったと聞かされたけど、身体も細いし余り強そうに見えないから、まだ半信半疑で話半分くらいの気持ちで聞き流していたのよね。
だってアルカディア王国で召喚された勇者様は、もっとこう何て言うかギラギラしていて『俺TUEEEEEEEEEE!』みたいなオーラというか……圧力みたいなモノを感じたんだけど、カイセにはそれが全然無かったから……。
それに、いくら私の生命を助ける為だと言っても、お気に入りだったホワイトシルクの下着を勝手に切り開いて乙女の胸を見た罪は消えないからね!
でも知り合いでも無いのに、何の見返りも無く私達エルフを助けてくれた普人族には初めて会った気がする。
あの勇者様だって私達エルフの女性を見る目はエロかったから、いくら端整な顔立ちと優雅な立ち振舞いをしていても、普人族特有の煩悩みたいなものを感じて心の距離を置いていたはずなのに、あの目に見つめられてから何故か勇者様を助けて、人族連合に加盟しなくてはと考えるようになった。
それに魔王軍と正面からぶつかってる最中に、突然襲って来たシナージャの奴らは絶対に赦さないから。あいつらの紅色に金の縁取りがあるスケイルメイルを見つけたら、絶対にタダじゃおかないから覚悟しておく事ね!
それに私を背後から刺した暗殺者も黒尽くめの男だったけど、刺された時に振り返って相手が普人族だと知っていたから馬車のキャビンで目が覚めた時、目の前に青い服を着た普人族を見て、また次の暗殺者が来たと勘違いしただけなの。
それでも土下座して謝ったら直ぐに赦してくれたから、もしかして私の誠意がちゃんと伝わっていないような気がしたので何度も謝り続けた。
狭いキャビンの中で土下座すると、何故か何もしていないはずのエルマとエルメアまで一緒になって頭を下げてくれたんだけど、彼女たちの腰の鎧プレートが私の脇腹に当たってちょっと痛かったけど、そんな事を言える雰囲気じゃなかった。
そんな時、私たちの小隊を後から追いかけて来た騎士の一人がやって来て、1000人規模の敵オーク部隊があと100キロの距離まで迫ってると報告があって、そこで土下座は完了。ハイエルフの私が、オークなんかに感謝する日が来るなんて思ってもみなかったわ……。
エルマから今ここには50騎くらいの味方しか居ないと聞いたから、とてもじゃないけど迎え撃つなんて出来ない。それで近衛騎士の皆と話して、とにかく先を急ごうという案でまとまった。
これから逃避行を続けるから重くて速度が出ない馬車は廃棄するつもりだったんだけど、カイセが預かってくれると言って彼が『ハンガー』と呼んでる魔法の倉庫へ仕舞ってくれた。彼ってかなり大きなアイテムボックスの魔法を持っていたのね。
私が馬車から離した馬の背に鞍を乗せて準備をしてたら、カイセが『テイサツオート』とか言う面白そうな魔道具(?)に跨っているのが見えて、思わずその後ろに飛び乗ってしまった。
このテイサツオートと呼ばれるカイセの馬(?)は快適で、まるで空を飛んでるかと思うくらい速くて、それがどれくらいかと表現するなら、いつも私達が乗ってる通常の軍馬より3倍以上のスピードは軽く出ていたはずよ。
色はしょぼくれた深い緑色なんだけど、こんなに速いなんて見た目と中身は一緒じゃないのね?
「ヒャッホー! ほら、もっと早く飛ばしなさい! 私たちエルフは風に生きる種族なのよ!」
生まれてからずっと誰かが側に居て、いつも王女らしく振る舞う事を望まれていたからか、自由に走り回るテイサツオートの後ろに乗っていると、これまで感じた事の無い開放感を味わった。
目を閉じれば本当に飛んでるみたい。
それなのにバイクは空を飛ばないとか、夢の無い話なんて聞きたくないの。
「そんな細かい事ばかり言ってるとモテないわよ?」
せっかくイイ雰囲気なのに。
「どうかしたの?」
そんな楽しい時間は直ぐに終わる。だって前方から敵が来てるって、カイセが『ドローン』って呼んでる魔道具が教えてくれたらしい。
「やっぱり、この先にもオーク兵が居て、こっちに向かってるみたいだ」
「モルタナの街はまだ大丈夫かな?」
「街がある方角から敵が現れたが、それが必ずしも街が滅ぼされたという訳じゃないだろ」
私が心細くそんな事を考えていると、カイセは出来るだけ明るい未来を示してくれる。
「うん、そうだよね。それでどうするつもりなの?」
「どうしようか……」
街道から少し横に離れた場所まで移動して、そこでテイサツオートを地面に倒してから私達もうつ伏せになり敵の部隊が通り過ぎるのを待つ。
敵のオーク兵が通り過ぎる街道が少し近かったんだけど、カイセが精霊魔法で光の結界を造り出して私達の姿を見えなくしているのに気付いた。
「ふ~ん、光の精霊をこんな風に使えば相手から見えなくなるのね」
光を屈折させて私達の後ろの風景を相手に見せてやる事で、背景と敵の間に居る私達を見えなくしているのを、光の精霊たちの動きを見て理解した。
「静かにしてくれ、音までは誤魔化せないんだからな」
「それなら大丈夫よ、風の精霊魔法で音と匂いを遮断してるから」
オークは鼻がいいから目眩ましだけだと気づかれてしまいそうだったから、私達の匂いと衣擦れの音が漏れないようにするくらいはやっておかないと出来る女には成れないのよ。
敵の数が思ってたより少なかったのを確認した私達は、今ここを通り過ぎて行ったオーク兵を殲滅する方向で作戦変更する。
「それでアリエル殿下のご希望は?」
「そうねぇ、巨大兵器で一掃する……みたいな?」
100体ほどのオークとは言っても、まともに正面からぶつかり合えば味方に少なからず被害が出てしまうから、攻城兵器で使用するような投石機みたいなモノがあれば、一撃でヤツラを吹き飛ばせるのにって思っただけなの。
それで私が思いついた事をつい口に出してしまっただけなのに、カイセは真剣に私のアイデアを元に何か考えてくれるから申し訳ない気持ちも勿論あるんだけど、今彼の頭の中に私の言葉が届いてるのを実感するのは何故か気分がいい。
私の顔を見て何かを聞こうとしてるけど、その内容が私にちゃんと伝わるか心配してるのが見てて判った。
「カイセ、どうかしたの?」
カイセが何でも出来るから気にもしなかったんだけど「今まで一度も教会で神様に祈った事が無くて、まだレベルが1のままなんだ」って聞いた時はビックリしたわ。
それに18歳って何よ、最初に会った時から確かに「若いな?」って思っていたけど、私より年下だなんて聞いてない。
私たちエルフは寿命が長いから、平均的に人族などの短命な種族よりレベルが高い傾向にあって、私もレベルだけなら99あるし近衛騎士のみんなも大体同じくらいだと思う。
それでレベルアップしたら新しい能力が手に入るかも知れないから、どこか近くにある教会の場所を教えて欲しいと言われたんだけど……。
「それなら今ここでやるわよ。こう見えても1級の聖女資格を持ってるから、わざわざ教会まで足を運ばなくても、信者の行いを神様に報告してその恩恵を受け取る橋渡しのような事も出来るのよ。すごいでしょ?」
1級聖女の資格は勇者パーティに参加する為に必要だと学校の教科書に書いてあったから、かなり前に取っていたのが幸いしたわね。
もっと尊敬してくれてもイイのよ?
まさかカイセも私が聖女の資格持ちでレベルアップの略式を執り行えるとは思っていなかったみたいで、彼の目が私をじっと見つめて何か考えてるような気がした。
「何か失礼な事を考えてませんか?」
「まさか。ソンナ事考エテナイヨ?」
「本当にそう?」
なんか急にカタコトっぽい話し方になったけど、まぁいいでしょう。ここで細かい事を言っても事態は改善しないからね。カイセがどの神を信じているかは知らないけど、略式の祝詞を小声で歌うように唱えてから彼に問いかける。
「それでカイセが信じる神様は、どの神様なの?」
私たちエルフなら森の神様か猟の神様に祈るのが一般的なんだけど、この世界で広く信仰されてるのは創世神様で間違いない。カイセは国の兵士だから戦神様かも知れないし、私の知らない国から来たと聞いてるから、もしかして私の知らない神様かも。
「オレの信じてる神様が居るとすれば、それはきっと八百万の神様だと思う」
「ヤオヨロズの神? そんなの聞いた事ないけど、カイセがそう言うならやってみるわ」
ヤオヨロズ神様なんて、これまで一度も聞いた事なんて無いけどカイセがそう言うならやってみてもいいわ。
結果は上手くいったけど、私にはカイセの身に何が起こったのか全然解らなかった。だけど、彼が新しい能力を試そうとしていたから、私も一緒になってそれを眺めていた。
小声でブツブツ何か話してるけど、ちっとも気持ち悪い感じはしなかった。それより私と一緒に居るのに他の誰かと話してるみたいで、ちょっと感じ悪いみたいな?
それで話の途中に聞こえてきたいくつかの単語から推測すると、私がしてあげたレベルアップによって新しい武器と言うか……兵器が送られてきて、今それを準備してるんだって。なので、もう少しだけ待ってあげるわね。
結果として、カイセが召喚した新兵器とは……実はただの置物だった。
正確に表現するとゴブリン神殿の奥にに秘蔵された古代の邪神像みたいな形をしていて、足は無かったけど手はちゃんと付いていた。
(もしかして、これがヤオヨロズの神様なのかしら?)
カイセはこれを『ジパング』と呼んでいたけど、何処か異国の響きがして不思議な感じがする。でもこれからオーク兵と一戦交えるのに邪神像にお祈りでもするのかしら?
「それで、カイセは一体何がしたかったの?」
この邪神像があれば敵を薙ぎ払えると聞いたので「今直ぐ攻撃したい」と伝えると、カイセと二人でまたテイサツオートに乗ってオーク兵たちを追いかけた。
テイサツオートに乗ってると流れる風を全身に感じて本当に気持ちがいい。私たちエルフは風が肌を撫でてくれる感触がとても好きで、この風に包まれて目を閉じてると、この残酷な世界の中でも小さな幸せを感じる事ができる。
私たちエルフは他種族から排他的だと言われるけど、これには私も同意ね。でも何処へ行っても争いが絶えないこの世界の本質を知ってしまったので、せめて自分たちだけは争いに消極的であろうと考え行動してるだけなのに、それが他者から見て傲慢だと言われても無視するしかないじゃない?
カイセの背中を見て感じたのは安心感。この人はきっと争いや差別、それに貧困などをほとんど見た事が無い世界からやって来たのだと思う。そうでなければ彼のような『お人好し』が生きて育っていけるはずが無いもの。
カイセの腰に腕を回してしがみついてると普段は考えないようにしている、あんなコトとか、こんなコトを考えてしまう。
「通りがけに少し挨拶して行こう!」
カイセの肩越しに前方を凝視すると、オーク兵がこちらに気がついて迎撃準備をしていた。風の圧力できっと顔と髪が酷いコトになってるわね。なんかカイセが黒い筒でパンパンしてるけど、あれは何の意味があるのかしら?
「キツ~イのを一発お見舞いしてあげるわ!」
カイセと一緒に居ると自分がハイエルフの王族だなんて忘れてしまう。私は国の民たちに愛され、そして慈しみの中で大切に育てられてきたせいか、いつも立派に振る舞うよう心がけてきた。いつも誰かに見られてると意識して行動してきた。
でも今なら他人の目とか、そんな些細な事なんて一切気にせずに行動できそう。
「בהתבסס על הסכם מזמן, אנא העניק לי את כוחה של רוח הרעם בהזמנת רוח הרוח והמים.」
これは遥太古の時代の言語で、私たちエルフが遠い祖先から受け継いできた、この世界に満ちる精霊たちと交信するための言葉。
これは古い盟約で精霊様に力を貸して貰える呪文で、いつもなら風とか水の精霊様にお願いして助けて貰っているんだけど、今日はその二つの精霊様に仲介をお願いして、より強力な雷精様の力を借りる事にしたの。すると──
──カカッ!! バリバリ!! ズッドーン!!!
いつもより数倍の威力で天空から一筋の稲光が落ちてきて、オーク兵たちのど真ん中へ落雷した。
「前が見えんーー!!」
目の前が急に光ったからカイセが驚いてるみたい。いい気味ね!
レベルアップする儀式の時に、私の(まだ小さいけど形が素晴らしくて将来きっとバインバインになる予定の)胸を見て残念そうにしていた恨みはまだ消えてないから。
「はぁ? 何言ってるか聞こえないんだけどーー?!」
実は、この疾風の中でも前方から届くカイセの声は、ちゃんと聞こえてる。聞こえてるけど聞こえないフリをしてるのは、ちょっとした意趣返しみたいなものよ。
でも前が見えないはずなのに、ちゃんと障害物を避けてるのはエライわね。後でヨシヨシしてあげよっと。
「ちょっとぉ! 急に曲がったら危ないじゃないーー!?」
「んん? 何言ってるか全然聞こえないーー!!」
くぅーー、これじゃさっきと逆じゃない! さっきと違うのは、カイセに私の抗議する声が本当に聞こえていないと言うこと。なんか特大ブーメランが突き刺さった気がして悔しい……。
オーク兵の一団の前を通り過ぎて与えた被害の状況を確認する。
「今倒せたのは10匹から20匹くらいかしら? もう一撃喰らわせて後は近衛騎士たちに任せましょう」
オーク兵が石を投げてきたから届かない場所までターンして、そこでテイサツオートから下りる。
『エルマ、エルメア聞こえてる?』
『『はい、聞こえてます』』
『今そっちから早駆けで20分くらい先の地点に居るわ。ここでカイセと足止めしておくから、敵の背後からランスチャージで蹴散らしてやって』
『『10分で駆けつけます!』』
近衛騎士たちが全員で協力し、風の力で加速する精霊魔法を使えば想定していた半分の時間で到着できる。そして移動の為に使用した精霊魔法の加速力を、そのまま騎馬の重量に任せて一気に突き破るつもりね。
エルマたちと話してる間にカイセがまた邪神像を召喚して、地面に落ちてる腕を引きずって何かしてるのが見えたけど何してるのかしら?
そう言えば私がさっき「巨大な兵器で一掃できたら手間が掛からなくて楽だよね〜」みたいな話をしていたから、真面目なカイセが汗をかきながら何か面白い仕掛けをしてるだと考え、この後の展開を想像してしまう。
きっと今ならべてる邪神像の手から『呪いの何か?』が出て、あのオーク兵たちをどうにかしてくれるのだろう。
「薙ぎ払っちゃって!」
特に意味はなかったんだけど、結果的にはピッタリの言葉だったと思う。
だって私の雷撃魔法の数百倍……いや数万倍の熱量を感じる光の精霊たちが、地面に置かれた邪神像の左右10本の指先から極細の線を描き、空気と言うか空間そのものを超高温の何かで蒸発させてしまった。
そして当然だけど、その光の筋が走った延長上にあったもの全てをガラス状の何かに変えて……。
威力こそ、これまで見た事も感じた経験も無いほどの高出力だったものの、攻撃範囲はとても狭かったせいでオーク兵たちに大きな被害はあれど壊滅はしていなかった。
それでも私と邪神像の二度にわたる攻撃によって、当初と比べて戦力が半減したとは言え、まだ50体くらいのオーク兵は生き残っていた。
「カイセ、突撃して!」
カイセが召喚した邪神像がとても危険なものだと気づいたオーク兵たちが、一斉にこちらへ向かって駆け始めたのを見て彼に殲滅して来るよう命じる。私には命令権の無いカイセだけど、彼ならゴチャゴチャ言わずに従ってくれると思った。
あと数分すればエルマたちが駆けつけてくれるから、それまでの間だけオーク兵たちをここに留めれば、それだけで勝利が確定するはずだったのに……。
私がカッコつけて『突撃』なんて言葉を選んじゃったのが間違いだったのに、それを真面目に受け取ったカイセが本当に敵陣深くまで突撃してしまう。なんでそんな簡単に敵を踏み台にして一気に指揮官の所まで行けるのよ、普通は無理でしょ?
敵陣の中央に居たのは『ジェネラルオーク』と呼ばれる上位種で、たった100体ほどの群れを率いる指揮官にしては、やけに強力な個体だといえる。
そんな強敵と一騎打ちを仕掛けたカイセの周りを、絶対に逃さないとばかりに他のオークたちが囲んで行くのが見えた。これはマズったかも?
エルマたち、まだ到着しないのかしら? このままだとカイセがケガしちゃうから早く来て!
私の願いが通じたのか、視界の端に小さく見えた白銀の塊が一瞬で距離を飛び越すように大きくなり、そのディティールが確認できた時にはオーク兵の群れに突き刺さって行った。
「ちょ、待っ!」
あの場所には、まだカイセが居たはずなのに、そんな事はお構い無しで白銀色の濁流がオーク兵の群れを突っ切り蹂躙して行く。
でも将棋倒しみたいに次々と倒れて行くオーク兵の頭や肩を踏みつけて、大きく空中へジャンプして逃れたカイセが無事に着地するのが見えたので、ここでホッと一安心する。
私の無事な姿を確認したカイセが歩いて来るのが見える。
「これで街の方角から来た敵は殲滅できそうね」
「エルマ隊長たちの突撃、凄かったよ」
カイセがエルマたちを褒めて来れたのが嬉しくて、つい有頂天になってしまう。
「圧倒的でしょ、我軍は!」
そんな自慢をしてるうちに、エルマたちがサクッとジェネラルオークとオーク兵たちを蹴散らし、私とカイセが待つ場所へと集合して小休止の準備を始めたんだけど……。
「カイセくんでいいよね? で、どこから来たの?」
「カイセ様、これ食べて!」
「フランこそ、ちょっと助けて貰ったからって気安く近づかないでよね」
「貴女こそ、もっと離れなさい!」
「ちょっと、そこどきなさいよ。カイセくんが休めないでしょ?」
エルマとの話が少し長かっただけなのに、ちょっと目を離せば近衛騎士たちに囲まれたカイセのバカがヘラヘラしてるのが見えたけど、フツメンのくせにモテモテとか思ってないでしょうね?!
なんかムカついたから、ちょっとだけ雷撃でも落としてやろうかと悩んでいると……。
「お前たち、休憩は終わりだ。周囲の巡回警備に当たれ」
さっすがはエルマね。ちゃんと解ってるじゃない。
それで小娘どもが「ええーーー」とか言っちゃってるけど、上官命令に背くとか近衛隊ではありえないからね? ちゃんと解ってる? 左遷しちゃうわよ?
私が【あっち行けオーラ】で宮廷雀ならぬ近衛雀たちを追っ払ってると、カイセとエルマがお互いの功績を称え合って、何かイイ雰囲気を出しちゃってるんだけど……エルマ、そーゆーところよ!
戦果の自慢するなら、私の雷撃にも一家言あって然るべきでしょ? まぁいいわ。こんな余裕の無い発言が、どれくらい相手に引かれるかなんてもう過去に経験済みよ。
「ふ〜ん、何かいい雰囲気ね、貴方たち。ま、いいわ。これからの話をしましょうか」
そうそう、カイセより年上でお姉さんでレディの私なら、これくらい余裕を持って会話に臨んだ方が好印象をゲット出来そうよね。
会話の切っ掛けならカイセの魔道具でモルタナの街の偵察でも頼んでおけば、きっと快くやってくれるはず。
「それくらいなら、お安い御用だな」
「それでね──」
カイセと出会わなかったら、きっとあのまま命を落としていたはずの運命から戻って来た私だから解る。だから、このまま尻尾を巻いて逃げてはいけない。このまま私たちだけが逃げ帰ると、絶対に悪い方向へ未来が進んでしまう気がする。
でも今回の敗走で散り散りになった味方のエルフたちを一人でも救いたいという私の願いは、カイセの願いとは絶対に相容れない事も知ってる。
それでもカイセには『帰りたい場所』があって、私たちに協力してくれるのは、そのヒントとなる情報が私たちの王都にあるかも知れないから。
それでも優しいカイセは私たちに協力してくれると思うけど、でもそれは彼の守りたいという優しさに付け込むようで、とても卑怯で許されない行為に他ならない。
「仲間を救いたいという願いに、後ろめたさを感じる必要はない」
お人好しでバカで年下のカイセは、やっぱりそう言ってくれるのは解っていたけど、その言葉に安心してしまう自分が心底嫌になる。
カイセの故郷では『一人はみんなの為に、みんなは一人の為に』という言葉があって、彼はその信念を元に行動してるみたいなんだけど、でもそれなら私たちエルフの『みんな』は彼に何をしてあげられるだろう?
もしこれから行動する全てが上手く行って、エルフ国の王都まで辿り着いて、そこでカイセが望む何かをあげる事ができなかったら……。そう考える事で、私は生まれて初めて他人から向けられる信頼と友情が、これほどまでに責任を伴うものだと知った。
それなのに人の気も知らないで「それで他に何かして欲しい事はあるのか?」なんてお気楽発言を連発してくるから、この天然を相手に何と言い返せば良いのかと考えてテンパってしまう。
「もうこの際だから率直に言うわね。カイセ、どうかこのまま私|……たち一緒に来て欲しい」
何も言葉が浮かんで来なかったけど、それでも何か言わなければいけないと思い、それで出てきた言葉は自分でも何を言ってるのか理解できなかった。
カイセと一緒に居ると何故か安心するから、ここで別れてしまうのは嫌だと思った。私の生命を救ってくれたから感謝はしてるけど医師恋愛症候群とは関係無いと思う。たぶんね。
でも知り合ってからまだ一日も経っていないのに、ここでお別れするのがとても寂しく恥ずかしい気がして、それを素直に言葉にしたくなかった。
それで勇気を出して「一緒に来て欲しい」と口が動き始めた瞬間に、まるで告白するみたいだと焦った私は思わず「たち」を付け足してしまった。
いつかは去ってしまうのが判ってるカイセに対して、少なからず友情みたいな何かを感じている私は、本当は「ずっと」と言いたかったけれど、それを言えば彼を困らせてしまうと考えて脳が勝手に書き換えてしまった。それが「たち」だったの。あと「来て」じゃなくて「居て」が正解ね。
『ずっと友達で居てほしい』
ここまで考えてやっと纏まった私の思いは、まだちゃんと自覚できない感情によるものだったんだけど、お子ちゃまのカイセには伝わらないでしょうね。その証拠に──
「それで、どこまで行けばいいんだ?」
ほら、やっぱり。風の精霊よ……ちゃんと仕事しなさい!




