第12話 どこまで行けば?
密集していた敵部隊のド真ん中に荷電粒子砲を撃ち込んで大穴を空けてやった所に、友軍の騎兵隊が物凄いスピードで突撃して行くのが見える。この分だと、あと数分で接敵するが、それまでに敵部隊が陣形を組み直す猶予は無さそうだ。
それと友軍の突撃に巻き込まれて一緒に蹴散らされるなんて冗談ではないから、オレはオーク兵どもの視線がエルフ騎士たちへ向けられた瞬間を見計らって包囲網の内側から素早く撤退した。
「これで街の方角から来た敵部隊は殲滅できそうね!」
もう用が無くなったトーテム……じゃなくてジパングを先に片付けてから、アリエル殿下と一緒にエルマ隊長たちの勇姿を見守る事にした。
いくらオークの体格が優れているとは言っても、さすがに騎馬と騎士鎧を合わせて軽く600キロを超えるような重量物が、風の精霊魔術を伴い時速100キロを超えるスピードで突っ込んで来たらタダでは済まないだろうな。
「格好良くて凄かったよ!」
オレは見てきた感想を素直に述べる。
エルフ騎士たちが馬の横から外したランスを一斉に構えて、まだ満足に隊列を組めずにいたオーク兵どもを貫く。そしてランスの先に突き刺さったままのオーク兵を持ち上げたかと思うと、そのままランスごと投げ捨て、通りすがりに蹄で踏み潰した敵兵に止めとばかりに長剣で斬り裂きながら駆け抜けて行く。
「圧倒的でしょ、我軍は!」
個々の強さを何よりも優先させるオーク兵との戦いにおいて、訓練を重ねて集団行動を徹底的に刷り込まれた軍の強さとは、これほどの差を生み出すのか。
歩兵に対して騎兵の優位性は認めるが、それで巨躯を誇るオーク兵約50体への激突は一方的に騎兵有利の展開を見せるが、それっでも敵兵で唯一のオーク兵指揮官だけは、まだ抵抗する意思を捨ててはいない。
そして敵の指揮官を見つけたエルマ隊長が、自身の剣を手にしたまま馬を降りる。
つい先ほどまでオレがオーク兵どもに囲まれていた同じ場所で、今度は敵の指揮官がエルフ騎士たちに囲まれる事態となっているのは、部下のオーク兵どもの多くが倒されて生き残ってたヤツラも逃げてしまったからだ。
戦いの最中、エルマ隊長が動きながら精霊に何やら語りかけると、彼女の白銀色の鎧に黄金の輝きが宿る。
それまで上級オークらしき敵の指揮官が繰り出す攻撃を、上手に避けたり逸らしたりしていたエルマ隊長だが、鎧が変色してから受け止める動作を入れて反撃に転じている所を見ると、あれは筋力強化系の魔法なのだろう。
最初のうちこそ『力vs素早さ』の戦いだったのだが、エルマ隊長の筋力が上がって力が同格になってしまえば、いくら上級オークと言えど敵に勝ち目など無かった。
もしこれが逆の立場だったら、エルフの女騎士の末路はラノベで良くある薄い本的なお約束が待ってるはずだが、速度で勝るエルマ隊長が一撃でオークの首を刎ね飛ばして、この戦いに決着を付けた。
こうして『前門の豚』は排除できたのだが、まだエルフたちを狙う『後門の豚』が残ってる上に、空の敵もその戦力は未知数のままだ。
「戦場から追いかけて来る追撃部隊には、まだ追いつかれる事は無さそうね」
ドローンによる周囲の警戒を再開してみたが、今のところオレとエルフたち近衛騎士が居る場所の周囲に敵影は確認されていない。
この先にあるモルタナの街までなら残す所あと50キロくらいの距離なので、全員が騎乗してる近衛騎士たちであれば、2時間くらいで到着できるだろう。
「それより、みんなお腹空かない?」
誰も通らない街道から少し離れて小休止を取る前に、辺りに散乱してる敵兵の死体を残らず穴に埋め終えた頃になると、先ほどまでの緊張感は既に解れていた。
また今回は攻撃側だったという事もあるが、近衛騎士たちは誰一人として重傷を負った者がおらず、休憩の時も明るい雰囲気が続く。
あとアリエル殿下の近衛隊は女性ばかりの女所帯なので、皆で休憩する場合に一人だけ男のオレは少し離れた場所で休んでいた。
J隊に居た頃もそうだったが、女性隊員たちが固まっている所へ誤って近づいてしまった時は、色々と気を使わなければならず気が休まらない場合が多かったからだ。
どの部隊の誰々だとか個人を特定するような事は極力言わないようにしているが、発言を誤解されたり、汗臭いと言われたり、身体が触れたりしたら大変な事になるから適当に相手をしていると、今度はバカにされたと怒り出す始末……。
J隊以外での生活を知らないオレは、これまでの経験から女性というものに余り接して来なかったから、今回のように人種の違う友邦の人たちから、これほど優しく受け入れて貰えると戸惑いを隠せない。
「カイセくんでいいよね? で、どこから来たの?」
「カイセ様、これ食べて!」
「フランこそ、ちょっと助けて貰ったからって気安く近づかないでよね」
「貴女こそ、もっと離れなさい!」
「ちょっと、そこどきなさいよ。カイセくんが休めないでしょ?」
まだ全員の名前と顔が一致しないからオレから声を掛けるのを躊躇ってるうちに、近衛騎士たちが集まって来て少々賑やかになっていた。
最初に近づいて来たエルメア副長を筆頭に、オレが最初に心臓マッサージをしたのがフランさんで、右肺を貫通していた鏃を処置してあげたのがフィーナさんだったかな? きっとAIに聞けば全員の名前をその都度答えてくれるけど、こうゆうのは徐々に覚えていけばいいと思ってる。
「お前たち、休憩は終わりだ。周囲の巡回警備に当たれ」
「「「「「ええーーー」」」」」
「返事は?」
「「「「「はーーーーーーい」」」」」
彼女たちの誰かから手渡された紅茶の入った木のカップを持ったまま座っていると、最後にエルマ隊長がやってきて人払いをしてくれた。
「先ほどの強行偵察は見事だった。我々が突撃するまでに敵の密集陣形を崩してくれてるとは思わなかったぞ」
「隊長こそ最初のランスチャージから、最後の一騎打ちまでお見事でした」
オレとエルマ隊長は、まるで古くからの戦友のようにお互いを称え合う。
二人共戦いに身を置く者同士、一度別れたら再び相まみえるまで生きてる保証が無いからこそ、こういった一期一会を大切にする雰囲気みたいなものは、生まれや文化が違っていても共通する何かがあるのだとオレは信じたい。
「ふ〜ん、何かいい雰囲気ね、貴方たち。ま、いいわ。これからの話をしましょうか」
するとアリエル殿下がひょっこりやって来て、これからの話をしたいと言う事だったが、モルタナの街はもう目の前だし、街で部隊を整えてエルフたちの都を目指すのであればオレも同行させて貰い、そこで軌道エレベータがありそうな場所の情報を手に入れておきたい。
「カイセには、あのブーンって飛ぶやつで、この先にある街道の偵察をお願いしたいんだけど頼めるかしら?」
「それくらいなら、お安い御用だな」
オレは上空を警戒しているドローンを東の空に向けて飛ぶようAIに命じておく。
「それでね──」
もしモルタナの街が無事であれば其処を拠点として部隊を整えてから、後方から進軍して来る約1000匹のオーク大隊を迎撃したいと言うのが彼女の方針であり、可能であれば戦場となった場所まで戻り昨日の敗走で散り散りになった味方のエルフたちを一人でも多く救いたい。それがアリエル殿下の望みだった。
そうなるとオレの願いが暫くの間は叶わない事になるので、せっかく自分たちエルフを救ってくれたオレに対して申し訳なく思っているのが伺える。
「仲間を救いたいという願いに、後ろめたさを感じる必要はない」
今はオレが仲間たちの居る艦隊から逸れた状況だが、もし別の仲間の一人が戦場で行方不明になったとしたら、『一人はみんなの為に、みんなは一人の為に』をモットーとするJ隊全員が捜索活動に参加するだろう。
そうなると、さすがに刃渡り30センチちょいのアーミーナイフだけでは少し心許ない気がするから、近いうちに何か探しておかないといけないな。
まぁ剣であれ槍であれ正式に習ったことなど一度も無いが、アーカイブから過去の使い手さんのデータを引っ張ってくれば何とかなるだろう。
遠距離の射撃武器で銃が全く役に立たない世界なんて、現代から異世界へ行った主人公たちのアドバンテージが完全に無くなってしまうから、ラノベ執筆者たちが聞いたら口の端から泡を飛ばしてクレームが入るほどの案件だ。何たって物語が上手く転がらない。
オレの場合だと、追い詰められた主人公が最後の切り札として登場させたモバイルスーツの性能がアレだった件も含めて、もっかいちゃんと一から武装を見直しておかないといけないな。
《システムより報告。ジパングの性能は今のままで100パーセント発揮できますので!》
妙にジパングの肩を持つシステムAIには「100パーセントでアレかよ!」という言葉が喉元まで出かかってはいるが、J隊へ無地帰還するまでの間はコイツと仲良くやっていかないといけないからSAN値が少々削られるとしても、ここは理性で押さえておく。
話がまた逸れてしまったが、オレの気持ち的には一刻も早くJ隊へ戻りたいが、このままアリエル殿下たちを見捨てて行くのは気分が悪い。
聞けば、ここに居る近衛騎士たちの他にも多くの仲間たちがアリエル殿下の為に戦い、傷ついて倒れた者も多いと言う。
彼女たちエルフという種族をオークやゴブリンから見れば、仲間を増やせる絶好の苗床だという話だし、エルフを襲った人族の国の貴族たちにしてみれば最高級のナントカ奴隷という扱いになるらしい。
なぜそんな人族の国々と同盟なんか結んで魔族の軍と戦う決断をしたのはか理解に苦しむが、どのように言葉を選んでもアリエルたちエルフに対する批判だと受け取られてしまうから、これ以上の言及は敢えて避けた。
「それで他に何かして欲しい事はあるのか?」
いくら現代兵器が扱えるとは言っても、この惑星では従来の火気がほとんど役に立たないし、かと言って携行可能なレールガンなんてオレみたいな下っ端にはまだ配備される予定は無さそうだからな。
あと虎の子の決戦兵器であるモバイルスーツなんて、ただの置物くらいの価値しか無いと先ほどの戦闘で嫌というほど思い知った。いや、知ってしまったと言うべきか?
だから今のオレには、せいぜい偵察ドローンを飛ばすくらいしか利用価値はないはずだ。
「もうこの際だから率直に言うわね。カイセ、どうかこのまま私|……たちと一緒に来て欲しい」
勿論だが、一度『駆け付け警護』の約束をした以上、アリエル殿下と近衛騎士隊を安全な所まで送り届ける意思に変わりはないし、彼女たちが道中に残してきた仲間たちを救出したいと言うのであれば、それに力を貸すのも吝かではないつもりだが、きっとそう言う意味ではないのだろう。
「それで、どこまで行けばいいんだ?」
どこまで行けば良いのか解らなかったので、こちらも率直に聞いてみた。




