第11話 モバイルスーツの性能とやらを……
オレとアリエル殿下が偵察オートに2ケツで10分くらい走ってみると、街の方面から進行して来たと思われるオーク兵どもの長い行列を発見した。
普通の人間から見れば、マラソン選手並みのスピードで走り続けられるオーク兵のスタミナに脅威を感じてしまうだろう。
オレたちからオーク兵どもを視認できると言う事は奴らからもこちらが見えてる訳で、当然だが直ちに進軍を停止して戦闘準備を始めたオーク兵どもが方陣を組もうと動き始める。
「通りがけに少し挨拶して行こうか」
「キツ~イのを一発お見舞いしてあげるわ!」
オレたちは盾と槍を持って小走りしてるオーク兵どもの一群に向けて一撃離脱を敢行するべく、偵察オートのアクセルを全開にして突っ込んで行く。
オレは異次元格納庫から取り出した890式アサルトライフルを左手で構え、向かい風の影響で狙いが定まらないまま三点オートで弾丸をばら撒いて行くが、目や口などの粘膜や首などの筋肉が薄い部分に命中しなければ、たった5.56ミリのNATO弾で相手を即死させるのは難しいと感じた。
この惑星へ来て初めての射撃をした感想だが、射出した弾丸の威力が通常と比べて弱かった印象だったのでAIに解析を頼んでみると、想定より火薬の威力減少と空気抵抗の増大によって弾丸の威力が落ちていた事が判明した。
『空気中に含まれるエーテル総量が想定以上の濃度と形状変化抵抗値を示しており、それが炸薬の酸化を妨げ燃焼速度と膨張係数に強い影響を及ぼしていると考察します』
要約すると、レベルアップで手に入れた念願の火気武装だが、この惑星上では威力がバーゲンセールって事で、この分だと9ミリのパラベラム弾を使用するSFP999小銃も期待薄だと言う事だろう。
火星宙域防衛戦でオレが以前使っていたモバイル・スーツを大破させてしまい、つい先ほど新型機を受け取ったのだが、それが宙域戦闘用のカスタム仕様機で地上ではただのトーテムポールだったし、そのうえ銃器類も役立たずとなると、最初から携行していた2本のアーミーナイフが現状では最強の武装という事になる。
「בהתבסס על הסכם מזמן, אנא העניק לי את כוחה של רוח הרעם בהזמנת רוח הרוח והמים.」(遥か古の盟約に基づき、風と水の精霊の招きにより雷精の力をお貸し下さい)
アリエル殿下が精霊魔法の詠唱を唱えると、オレたちの上空に放電現象が起こり始める。最初は小さな静電気みたいなパチパチという空気が弾ける音がしたかと思えば、それらが彼女の右手の先へと集まりハッキリと視認できるほどの大きさになると、直ぐに直視できないくらいの輝きを増す。
──カカッ!! バリバリ!! ズッドーン!!!
「前が見えんーー!!」
「はぁ? 何言ってるか聞こえないんだけどーー?!」
ホワイトアウトする視界の中で、オレはパッシブレーダーの反応のみを頼りにハンドル捌きと体重移動を行って偵察オートを走らせる。そう言えば二人共ヘルメットを被っていなかったから、風圧で顔が凄い事になってる。
「ちょっとぉ! 急に曲がったら危ないじゃないーー!?」
「んん? 何言ってるか全然聞こえないーー!!」
別に狙って意趣返しをしている訳ではなく、本当に聞き取り難いんだ。
偵察オートの駆動方式は電動モーターでこれ事態は静かなんだけど、とにかく風圧が凄い。これは宇宙で学んで知っていたけど、空気抵抗がこれほど強力だとは理解していなかったオレのミスだ。
せめてヘルメットさえ被っていれば無線で通信出来たのだが、今さら後悔しても始まらない。このような状況を、旧世紀の人々は『後のカーニバル』とか言ってたらしいが正直意味が判らない。やっぱ時代が違うと文化や価値観まで違ってくるのだろう。
いきなり放たれた閃光を伴った味方の攻撃によって、失われていた視界が徐々に戻ってきた。
満を持したオレの銃撃が非常に残念な結果となっていた為、味方を巻き込んだとは言えそれなりの戦果を残したアリエル殿下に対してクレームは付け難い。もしそれを口にして、相手の功績を妬んでいると考えられたら非常に厄介だからな。
「今倒せたのは10匹から20匹くらいかしら? もう一撃喰らわせてから後は近衛騎士たちに任せましょう」
オーク兵が使う投石紐の射程外まで逃れてから会話の為に減速すると、アリエル殿下から追撃を提案される。
彼女は風の精霊魔法を使って、こちらへ向かっているはずのエルマ隊長たちに急ぐように指示を出し、オレたちの再攻撃のタイミングに合わせて挟撃を行って、あのオーク兵どもをここで殲滅するつもりのようだ。
アグレッサーを倒せるならその手段に拘るつもりは無いが、先ほどの戦果では胸を張ってJ隊には戻れないと思ってる。
この地では役立たずになってしまったアサルトライフルを、こっそりと異次元格納庫へ仕舞ってから、陣形を整え終わったオーク兵どもが隊列を組んで近づいて来るのをチラ見し、オレに残された唯一の大量殺戮であるトーテムポールを召喚した。
このトーテムポールだが正式名称は携行用機動服と言って、機体名は『ジパング』と名付けられており、月の裏側にあるオノゴロ・ベースで開発中の機体が何らかの手違いによってオレの元へと配給された経緯を持つ。
ちなみに現在の機体完成度は80パーセントなので両足は無い。システムAIの説明では人間の脳波を増幅して機体各部の姿勢制御や兵装を操作する仕様となっており、オレの能力だと戦力評価は未知数だと言われた。
《マスターなら、きっと上手くやれますよ!》
AIの能天気な励ましを胸に、勇ましくコックピットへと乗り込んだオレの初戦闘が今始まる!
先ほどのアリエル殿下が放った雷撃魔法によって十数体の被害を被ったオーク兵どもだが、まだ奴らの戦意はこれっぽっちも衰えておらず、急に現れた身長6メートルを誇る『ジパング』を目にしても突撃などせず、慎重にこちらの動静を伺っているみたいだな。
「見せてやろう、我が軍のモバイルスーツの性能とやらをな!」
そうは言ったものの、アクセルペダルと操縦桿を動かしても機体に変化は見られない……。
《システムより連絡。攻撃するイメージを明確に機体に伝えて下さい》
え? イメージってどうやるんだ?
《両腕がセパレートの自律機動式レーザー兵器となってますので、本体から切り離してターゲットを目標に合わせて下さい》
とりあえず両腕を向けてロックオンすればいいんだな。
──ゴトリッ!!
なんでか知らないけど両腕の肘から先のユニットが地面に落下した……。もしかしてなんだけど、このワイヤーが繋がった両手って宇宙空間でしか動けないとかじゃ無いだろうな? まさかね。
《……》
「おいAI! 黙ってないで何とか言えよ!」
機体システム自体は動いてるみたいだから、地面に落っことした腕ユニットを敵に向ければ撃つくらいは出来るはず。オレはコックピットのハッチを開いて外へ飛び出した。
「お早いお帰りね?」
「それは嫌味か?」
「まさか」
アリエル殿下が先ほど放った雷撃を警戒しているのか、今もこちらの様子を慎重に伺ってるオーク兵どもだが、オレのモバイル兵器がただのトーテムポールだとバレてしまえば、きっと一斉突撃をかまして来るに違いない。
なので今は明後日の方向を向いてしまった両腕の攻撃ユニットを、一刻も早く敵方向へ向けて攻撃しなければならないと言うのに、先ほどの雷撃魔法一発だけで自分の仕事が終わったと思ってるアリエル殿下に構わず、オレは必死に足首を地面にめり込ませながら、これ一つで500キロ以上はありそうな腕ユニットを片方ずつズリズリと引きずって向きを変える。
オレのリアクターユニットであるDENドライブの出力を、チョイと上げればこれくらい何でもないのだが、ただちょっとだけ汗をかいてしまったのは作り出された余剰エネルギーを冷却するためだよ。
こうして砲撃準備が整えば、後は殲滅するのみ!
「薙ぎ払っちゃって!」
言われなくてもそうするつもりだったが、アリエル殿下の掛け声とタイミングが合ってしまった。
『ジパング』の両手にある合計10本の指先から荷電粒子を撃ち込んでやると、ただの皮革と金属で鎧われただけのオーク兵どもが、まるでアイスクリームのように溶けて蒸発するのが見えた。時間にして、ほんの2~3秒くらいかな。
オレたちが偵察オートで突っ込んで来ると考えた敵兵どもが対騎兵用のファランクス陣形になっていたのが災いし、両腕の指先に居たオーク兵どもを前衛から最後尾に居た者まで全員を貫通して蒸発させた。
敵の被害状況としては30体くらい殺ったか? でもアリエル殿下の雷撃より多かったと思うので、これで十分だろう。遭遇した当初は100体くらい居たオーク兵どもだったが、今はその半分程度にまで数を減らしている。
「カイセ、突撃して!」
つい「え、オレ一人で?」なんて女々しい事を言いかけたが、よく考えてみるとアリエル殿下もオレの庇護下に居ると考えられるなら、彼女を守るのはJ隊であるオレの任務だと言える。
『アーミーナイフを高周波モードで起動! 光学迷彩フィールドは不要だ!』
光学迷彩フィールドでオレの姿が見えなくなってしまうと、オーク兵どもがアリエル殿下の方に殺到してしまうからな。
オーク兵どもが並び立ち隣同士で盾を構えて互いの身体を守り合う。その体勢で長さ約3メートルほどの槍を構えて不用意に近づく者に対して、後ろの列に居る者たちとタイミングを合わせて突き込んで来るつもりだろう。
無造作に棍棒とかハンマーを振り回してくれた方が対処するのは楽だが、多数で隊列を組んだ所でオレが狩る側なのは変わらない。
突き出される槍の動きをAI解析によって数秒先までの軌道予測を行い、AR(拡張現実)表示で実際の視覚映像に重ね合わせてやれば、立体的に存在する安全地帯の場所が見えてくる。
オレはその安全地帯に向けて身体を潜り込ませるようにステップを踏み、時にはジャンプを繰り返しながら敵兵を斬り裂き、兵士の後ろに控えてる指揮官の元へと一気に距離を縮めて行く。
「Tegi wa Hitorija Donigagu Oze!!」(敵は一人だ、とにかく押せ!!)
「Goizu Hayaido?!」(コイツ速いぞ?!」
「Odewo Humidai ni jita?!」(オレを踏み台にした?!)
オーク兵どもの言葉はよく聞き取れないが、異世界システムをインストールしていたお陰でAIが同時通訳してくれる。
アリエル殿下から見れば楽そうに見えてるかも知れないが、強化ケブラー繊維で織られたJ隊の制服でなければ、今頃は身体中のアチコチが切り傷だらけになっていたはずだ。
オレがこうして大立ち回りを繰り広げていれば、トーテムポールのお陰で目立たなくなってるアリエル殿下の方にオーク兵の注意が向く事は防げると思う。
そして敵陣へ突撃した数分後には、この敵部隊を指揮する少し大柄な上級オーク兵と対峙する事になったのだが、オレと上級オーク兵を中心にグルリと囲むようにして、残りのオークたちが周囲の包囲を完成させて行く。なかなかいい動きだな。
ここで一騎打ちみたいな雰囲気が盛り上がるが、オレの仕事はここまで。
何故って、それは街道の先から白銀色の鎧を纏ったエルフの騎士たちが現れたからだ。




