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未来世紀から異世界へ! ~とあるJ隊員の活動記録~  作者: としょいいん


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第10話 足なんて飾り……じゃなかった

 背後から敵部隊が迫る中、これから進む目的地すら安全かどうか確認が出来ないままだが、それでも前進すると決めたアリエル殿下に従い、約50騎のエルフ騎士たちが街道を進む。


 そしてアリエル殿下はと言うと……何故かオレが乗る『偵察オート』のタンデムシートに座って、先ほどから妙にご機嫌な様子?


 このバイクはオレがレベルアップした時に異次元格納庫ハンガーへ新たに配備された装備の一つで、欲を言えばホバータイプのバイクが欲しかったのだが、まだ下っ端のオレには、これで十分だというのが司令部の判断なのだろう。


「ヒャッホー! ほら、もっと早く飛ばしなさい! 私たちエルフは風に生きる種族なのよ!」


 緑一面の草原の中に一本の街道が伸びていて、その未舗装だがそれなりに踏み均された道路の上を、後ろに美少女エルフを乗せてオフロードバイクで駆け抜けて行く。


 それだけ聞けば『リア充め! 爆発しる!!』とお嘆きの諸兄から、オレのSNSへ誹謗中傷するカキコミが殺到して炎上する未来がチラリと垣間見えるが、その美少女の胸部装甲が極めて薄く空撮ドローンからのレーダー投影面積が限りなくゼロに近く、まるでステルス並みだ説明しても『持たざる者』たちからの批難の矛先を躱すには至らないだろうな……。


 あと、このバイクは飛ばないから。


 近衛騎士たちを置き去りにして、とにかく街道の先へと単独で進んで行くのは少しでも早く敵の情報を察知する為であって、絶対に我儘なエルフ王族を楽しませる為ではない。


「そんな細かい事ばかり言ってるとモテないわよ?」


 それこそ大きなお世話というヤツだ。


 オレには憧れの先輩が居て、今もその人一筋なんだぞ。


 だから休憩の時に白銀のプレートアーマーの脇からチラリと見えたエルフのお姉たちの白い素肌だとか、地面に座っていた時にM字開脚した太ももの付け根がチラ見えしただとか、そんなのに興味などあるはずが無い。あろうはずがないんだ。大事な事は2回言っておくのが常識だと聞いてる。


 だからシステムAIが勝手に録画してるであろう、あんな動画やこんなスクショなんて絶対に見てないからセーフでいいよな?

 あとフォルダのパスワードだけは絶対に破られないように気を使ってるし、もしオレの身に何かあった時は秘蔵用ストレージの中身が自動消去されるように設定してあるオレに死角など存在しない。


 話が逸れてしまったがオレたちは今、モルタナと呼ばれる普人族の街を目指して爆走中なのだが、エルマ隊長たちと離れて30分くらい先行しているから、道のりの約半分くらいの距離まで進んだ辺りに居る。


『システムより緊急連絡。この先約10キロの地点において、移動する98体の武装集団を偵察用ドローンが探知しました』


 ほーらやっぱり居やがった。今は何故その敵部隊が、戦線より後ろにあるはずの地点から迫って来てるのかは不明だが、約100体くらいなら中隊規模という所か。


 火気さえ使用出来ればオレ一人でも簡単に相手ができる人数ではあるのだが、刃渡りが30センチちょいしかないアーミーナイフだけでは流石にしんどいか?

 でも光学迷彩(ミラージュ)フィールドを展開すれば、最大で600秒間は姿を隠したまま一方的に攻撃できるから、移動時間を含めて一体6秒以内に処理すればギリで行けるかも知れない。


「どうかしたの?」


「やっぱり、この先に敵兵が居て、こっちに向かってるみたいだ」


「モルタナの街は大丈夫なのかな?」


「戦場からかなり離れた場所に敵部隊が居たが、それで必ずしも街が滅ぼされたという訳じゃないだろ」


「うん、そうだよね。それでどうするつもりなの?」


「どうしようか……」


 そのモルタナの街が既に陥落してるのであれば、ここから進路を変更して接敵しないルートを選べば良いのだが、まだ街に味方の部隊が生き残っているのなら合流すべきだろう。

 でもそのためには偵察ドローンを更に進ませて、街の様子を確認するまで結論は急がない方が良さそうな気がする。


 オレは『偵察オート』を街道から外れた草原の上に横倒しにし目立たないようにしてから、芝生っぽい雑草の上に身体を伏せて敵をやり過ごす事にした。勿論だがアリエル殿下もオレの横に居る。


 それから30分ほど待っていると、100体近い数のオークどもが駆け足でやって来るのが見えるが、10キロの距離を30分で走り切るなら時速20キロ巡航という事は、あのアグレッサーの進化種もオレと同等かそれ以上の強化個体だという事になる。


 敵影が最接近した辺りを見計らって光学迷彩(ミラージュ)フィールドを展開する。今度は隣に居るアリエル殿下の姿も誤魔化す必要があるから作動半径を少し大きく設定しておいた。


「ふ~ん、光の精霊をこんな風に使えば相手から全く見えなくなるのね」


 数多の光学迷彩技術のうち、光学迷彩(ミラージュ)フィールドは、自分の後方から差し込んで来る光を球形に近い多角形の中で反射を繰り返して自分の正面方向へと放出させる効果によって、自分の姿を隠蔽してしまう技術の事で、仕組みさえ解ればそれほど難しいモノではない。


「静かにしてくれ、音までは誤魔化せないからな」


「それなら大丈夫よ、私の精霊魔法で音と匂いを遮断してるから」


 やや離れた街道の路面を踏み締めて、走り去って行くオーク兵士どもの姿が徐々に小さくなってゆく。この先にあるモルタナの街の占拠を終えたのであれば、もっと兵数が多くなければおかしい気がするから、先ほどの部隊はエルフたちが知らないルートから送り込まれた可能性もあるな。


「それでアリエル殿下の方針は?」


「そうねぇ、巨大兵器で一掃する……みたいな?」


 なんで疑問形なのかイマイチ言ってる内容は良く判らないが、とにかくロマンを感じる。


 もしオレが重傷を負って運び込まれたオノゴロ・ベースでの改造手術が成功していれば、きっと今頃はメチャメチャカッコイイ巨大ロボのボディを手に入れて、迫りくるアグレッサーどもを千切っては投げ千切っては投げを繰り返し大活躍していたはずだ。


 でも待てよ? こう言っては何だが、あのチビでロリでMADなサイエンティストみたいな医者だか科学者だか良く知らない人だったけど、オレの手術が成功したとは聞いていないが、かと言って失敗した記録もメモリー内には残っていなかったはずだ。


『システムより報告があります』


『何かあるのなら、教えてくれ』


『マスターがインストールした異世界システム《MANDAM》には【経験値取得】の項目があり、現在の経験値から算出しますと複数回のレベルアップが可能な状況になってます。なので基地や母艦でのバージョンアップ処理を行えばステータスの向上と、昇級による新装備の配備が望めます』


 そう言った大切な事は最初に教えておいてくれよな。基本説明事項じゃないのか、それ。部隊で問題になっていたインフォームドコンセントの大切さを、まさか未開惑星に来てから思い知らされるとは複雑な気分だ。


 それでオレのレベルアップが可能だというのは解った。ただ問題はその次だ。


 こんな辺境の惑星上でJ隊の基地とか母艦なんてある訳無いし、存在もしない。せっかく教えて貰ったバージョンアップ処理だっけ? こんな何も無い平原で一体どうしろって話だよな。


 AIの説明だとオレが母艦まで戻らなくても、RPGなんかだと教会でレベルアップしてくれるものが多いと言ってるけど、これゲームじゃないから。ダメ元だったとしても一回くらいなら試してみても良いんだが、こんな所に教会なんて有る訳がない。あー……そう考えたら、急に何かメンドくなってきたな。


「カイセ、どうかしたの?」


 うちの残念AIとやり取りしている様を見て、何かあったのかとアリエル殿下が心配そうに聞いてくれるが、レベルアップについて聞いてみると……。


「それなら今ここでやるわよ。こう見えても1級の聖女資格を持ってるから、わざわざ教会まで足を運ばなくても、信者の行いを神様に報告してその恩恵を受け取る橋渡しのような事も出来るのよ。すごいでしょ?」


 少々アグレッシブな王族だと思っていたが、まさか聖女サマだったとは気づかなかった。


 ラノベとかマンガに出てくる聖女様は色々な意味で育っていたのだが、目の前のステルス胸はこれまでの常識を覆す稀有な存在だったという事か。見識を改めないといけないな。


「何か失礼な事を考えてない?」


「まさか。ソンナ事考エテナイヨ?」


「なんでカタコトなのよ?」


 それは異世界翻訳スキルの不具合だよ。あと神様にこれまでの報告をする為の儀式めいた祝詞を、文字通りサラっと唱えたアリエル殿下からの次の問いかけに返答に困ってしまう。


「それでカイセが信じる神様は、どの神様なの?」


 オレたちJ隊の者たちは正月に神社へ行って、2月にキリスト教の聖人を称えて義理チョコを貰うイベントがあって、3月には桃の節供を祝い、4月には神様に関係無く桜の花を愛でながら酒を酌み交わす。

 そして5月には端午の節句を祝って、6月はお彼岸があってお墓参りに行くから仏教なのかな? そして7月には七夕があるし、8月にはお盆があって先祖の霊が帰って来る。

 それから9月は十五夜があって月を見ながらまた酒を酌み交わして、10と11月は何かあったっけ? まあいい、それで12月になるとまたキリスト教の聖人を祝ってから、年末には学校の先生とかお坊さんまで走り回るとされてるけど、万物には八百万の神様が居てオレたちを見守ってくれているから、結局のところどれか一つの神様を信仰してる訳ではないんだよな。


 それでもどれか一つを選べと言われたら、オレはきっと八百万(やおよろず)の神様を選ぶと思う。


 科学の神様なんて聞いたこと無いと言われるかも知れないが、万物に神が宿るのであれば科学にも神様が居たっておかしくないだろ?


「ヤオヨロズの神? そんなの聞いた事ないけど、カイセがそう言うならやってみるわ」


 結果から言うと上手くいった。


 この惑星へ送り込まれた時はレベル1だったと記憶しているが、アリエル殿下の祝詞によって今はレベル15にまで上がっており、ステータスの上昇以外にも火気管制システムのアプデが行われ異次元格納庫ハンガーに890ハチキューシキアサルトライフルとか、SFP999(スリーナイン)小銃が配送されていた。

 オークみたいに身体の大きな筋肉ダルマを相手に、たった5.56ミリしかない弾丸にどれほどの効果があるかについてはオレも疑問を感じずには居られないが、それでも念願の射撃武器が手に入った。


 あとステータスの一番最後ににスキルなんかを表示してる部分があったのだが、そこで【モバイルスーツ・ジパング】という文字を見つけてしまった。


 『モバイル・スーツ』と言う名前の通りこれは携行式作戦用装備の事で、まぁ平たく言えば持ち歩き可能なパワードスーツみたいなものだな。

 なんで携行用なのかと言えば、左腕にあるコンソールとは別にブレスレット型のコントローラーを装着しておけば、いつでも召喚可能な便利なスーツなんだ。


 地球防衛軍を始めとする銀河連邦の星々では様々なモバイル・スーツが開発されており、各国の軍によって制式採用されるモデルも新旧合わせれば、バリエーションも豊富で覚えきれないくらいの種類がある。


 でも『ジパング』なんて機体名は初めて聞くから、きっとオノゴロ・ベースで開発中の機体だったのだろう。その証拠にステータス画面には『整備中』の文字が表示されたままになってる。


 それでもアリエル殿下の希望する『巨大兵器で一掃する』案を現実のものとするなら、モバイル・スーツの実戦投入は避けて通れない案件だ。


~~~これより脳内での通信~~~


『マスターからシステムへ。至急、モバイル・スーツの出撃を要請する。これはJ隊の名誉とロマンを掛けた最優先事項として処理して欲しいが行けるか?』


『システムより回答。現時点での開発進捗は80%です。通常であれば出撃は許可できない状態ですが、J隊のロマンの為という事でしたら許可を出すしかありません』


『すまない、恩に切る!』


 オレは左手首に嵌めた腕時計型コントローラーをタッチして、出撃の意思をシステムに伝える。すると異次元格納庫ハンガーの奥でまだ整備中だった機体が送信されて、身長約6メートルのモバイル・スーツが顕現する。


『これ、足が無いんだけど?』


 陸上戦闘用の人型兵器では必須とされる両脚部そのものが未完成なのか、腰部のアーマー部分が地面に直接お座りしている状態の機体が顕現する。


『足なんて飾りです、マスターにはそれが判らないのですか?』


『飾りじゃないだろ。だってここは重力がある地上だぞ?! どうやって移動するんだよ!!』


『マスターのサイコミュ能力は未知数ですので……』


『それサイコミュ関係なくない?!』


 オレは最後まで粘り強く、まるで銀行に立て籠もった強盗犯とネゴシエーションを重ねるようにシステムと交渉を続けてみたが、ソフトウェアならどうにでもなるがハードの場合は物理的にムリだと結論付ける。


~~~脳内通信ここまで~~~


 こうなったら偵察オートで無理やり牽引して引っ張って行って、この何処にも向ける事ができないオレの怒りをアグレッサーどもにぶち撒けてやるしかない。


 モバイル・スーツの首にワイヤーを引っ掛けて偵察オートの後部と接続する。唸れ300PS! 今こそ隠された実力を見せつける時が来たのだ!……なんて思っていた時期がオレにもありました。


 たった300PSぽっちのバイクで、身長6メートルで装備重量が6トン以上ありそうなモバイル・スーツを引っ張るなんて土台ムリな話だった。

 馬力もそうだけど始動トルクが全く足りていないのが明らかなのは、冷静になれば考えなくても判りそうな話なんだけど、レベルアップで心が舞い上がっていたのかな?


 結論として足は飾りじゃないし、月面基地で開発されていた『ジパング』は地上では使い物にならないから、このモバイル・スーツそのものが飾りなのでは? と言うオチがついた。いや、ついてしまったと言うべきか……。


 それでも地ベタに鎮座した状態でも両腕くらいは動かせると判ったので、それなら敵の正面まで出向いてそこで異次元格納庫ハンガーから取り出せば、固定砲台くらいにはなる……なるよな?


「それで、カイセは一体何がしたかったの?」


 それを今ここで聞くのか? 本当に空気が読めない残念エルフだな。そんな事だとオレからの王女サマ支持率が下がっても知らないぞ?


 オレはこれ以上心の傷を抉られない為に、先ほど頭に浮かんだ固定砲台で一掃する案を伝えたのだが、アリエル殿下の食い付きが想像以上だったので細かな検討は後回しにして、大筋はこの作戦方針で進める事をにした。


 そして今は偵察オートにアリエル殿下と2ケツして、オーク兵どもを絶賛追撃中だ。ヒャッホー!!

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