第十二話
光征達が最初の目的地であるシンに着いたのは、丁度日が沈む直前だった。
真っ赤な夕日に照らされたその街は、確かに観光都市と言うに相応しい景観を有しており、誰しもがその光景に言葉をなくし感嘆のため息を着いた。
「きれい。」
そう呟いた凛の横顔は、夕日に照らされ一枚の絵画の様に様になっていた。
街の門をくぐる頃には、日も落ちかけており夕焼けの残滓に光征達は身を包まれながら今日の宿屋へと向かった。
馬車の中での重い雰囲気は、目的地に着いた事で幾分和らいでおり、光征はともかく健一は、他のメンバーとは、喋るくらいには機嫌を取り戻していた。
街のメインストリートを大所帯で歩く光征達は、注目の的で些か居心地の悪さを感じたが、宿に着きみんなそれぞれが部屋に入って仕舞えばそんなことも感じ無くなった。
ようやっと1人になれた光征は、さっそくベッドに身を投げ出し明日のことを考え始めた。
エルからは、無理をせずに実戦の空気を感じ取れればそれでいいと言われている。
しかし、今日の馬車でのやりとりを考え光征は、気が重くなるのを感じた。
凛の事だ。おそらく、彼女は召喚に巻き込まれた光征に負い目を感じており、それが原因で光征の事を気に掛けてくれるのだろう。
元々仲の良かった彼らのグループとは違い、今や光征は、完全に部外者の様な立ち位置だ。
それが彼女には、もどかしく感じてしまうのではないか。
でもはっきり言って余計なお世話だ。
事実、凛が光征を気にするのをよく思わない健一が先程の様に態度に出して来た。
今日の出来事が原因で、明日の任務にも影響が出るかも知れない。
光征の頭の中は、召喚された時の状態からあまり進歩していない。正直、何事かに手をつけれるような状態じゃないのだ。
また良くない考えがぐるぐると頭の中を周り始めた時にコンコンと控えなノックの音が、光征の耳に届いた。
誰だ?面倒だから放っておけば良いか。
そう判断し、居留守を決め込もうとしたのだが、その作戦はすぐに崩れてしまった。いきなりドアががちゃりと開き気まずそうな凛と目が合ったのだ。
「あ・・・・・・開いた。」
罰が悪そうに頭の後ろを手で押させながら、凛は部屋に入ってきた。
「え?」
「ご、ごめん。いや、ノックして見て反応無かったから、もしかして倒れてないかなって。ドアノブ回したら鍵がかかって無かったみたいで開いちゃった。」
「夕食までまだ2時間くらいあるし、疲れたから少し眠ろうとしてた。いきなり部屋に入って来るなんてちょっと失礼なんじゃない?」
迂闊だった。鍵を閉めるのを忘れるなんて大ポカをしてしまい光征は、勝手に入って来た凛に少し棘のある言葉を投げた。
「うん、ごめん。ちょっと強引だったかも知れない。でもこうでもしないと山守君、私と話してくれないでしょ?」
「別に、そんな事はないと思うけど。」
「そんな事あるよ。だって今までだって私達のこと避けてたじゃない?今日だって・・・・・・さ。」
凛は、たはははと笑いながら腕を後ろに組んで下を向いた。
そして上目づかいに顔を上げた。
「こんな状況だから言いたい事、言えない事あると思うけど私達は仲間なんだからさ。山守君が元気無さそうにしてるのを見るのは辛いよ。」
「・・・・・・そうか。仲間、ね。」
「そう、だよ。別に山守君も一緒に戦って欲しいとかそう言うのじゃなくてさ。私は、みんなが無事に元の世界に帰れたらいいなって思ってるんだ。ただ、やっぱり仲間って大事だなって考えてさ。辛いこととか楽しい事は、みんなで乗り越えて行きたいと思ってる。山守君は、今きっと辛いんだと思う。あんまり喋った事無いけど何となくそう感じたんだ。」
「森守さんは、優しいね。」
「そんな事ないよ。ただ、みんなを私の都合に巻き込んじゃってさ。その挽回をしたいだけなんだと思う。すごい、自分勝手なんだよ私。」
「そっか。まぁ、確かに強引な所はあるかも知れない。」
珍しく会話に乗ってきた光征の言葉に凛は、そうかもと口元に笑いを浮かべうなづいた。
そして、意を決したように光征の手を掴み引っ張り立たせる。
「だからさ!とりあえず、今から一緒に出掛けて見ようよ!」
「え、ちょっと⁈」
「ほら行こ!こんな可愛い女の子に誘われて断るなんて失礼だよ?」
戸惑う光征を更に強い力で引っ張りながら凛は、いたずらな笑顔を浮かべ、部屋を出た。
少し恥ずかしいのか光征を連れ出す凛の横顔は、ほんのり赤く染まっていた。
2人が宿から出ると辺りは、既に陽が沈んでおり街灯がポツポツと点灯し始めていた。
「エルさんが言ってた噴水に行ってみない?ここからだと歩いて行けるみたいだし。」
街のメインストリートの方へ少し歩いた辺りで凛は、光征にそう提案した。
光征ともう流石に手は繋いでいないが、目では逃げるなよと語っている。
「はぁ、別にいいよ。行ってみようか。」
「うん!」
光征は、諦めたように首を振り凛と一緒になって歩くのを再開した。
街は、すっかり夜の喧騒に包まれており観光都市らしく出店なんかもあり凛は、目を輝かせてそれらを眺めている。
「わぁ、なんか見たこと無い物が沢山あるね。」
凛は、そう言って首を忙しそうに動かしている。
「帝都では、こういう所行かなかったの?」
そんな彼女の様子が気になって光征は、質問をした。
光征の質問に振り向き凛は、答えた。
「うん。結構、訓練ばっかりだったからね。城の外に出る時もほんとんど馬車で素通りだったんだ。」
「そっか。」
「山守君も似たような感じ?」
「まぁ、そうだね。」
「そっか。」
会話が途切れると凛は、また物珍しそうに魔導具やこの街の特産品の店の前まで行って嬉しそうに商品を手に取ったりした。
僕もあんな感じだったのかな。
かつての召喚された当初の事を思い出し、光征は懐かしくなった。
もっともああいうのが珍しかったの最初だけで、後は訓練と戦いの記憶がほとんどなのだが。こういう穏やかな思い出は、この世界で過ごした過去の6年間でもあまり無かった。
それでも、今の無邪気な凛の姿を見てどこか過去の自分と重ねてしまい光征は、無性に恐怖を感じた。
こんな普通の女の子が、勇者としてこれから光征が辿ったあの戦いを繰り広げるのかと。
彼女の勇者としての力を光征は、知らないがまだまだ半人前も良いところだろう。神器の本当の力がどれ程の物か光征は、知らないが選ばれと言ってもすぐに圧倒的な力を持ってるいる訳では無いのはこれまでの凛の様子や彼女の周りの様子を見るに確かである。
彼女は、まだ魔族の恐ろしさも魔王の隔絶された力も知らない。これから待ち受ける困難を分かっていないのだ。
その考えに至った時、光征は自然と頭から血の気が引いていくのを感じた。




