第十三話
ふと頭に浮かんだ考えを光征は、拒絶するように目をきつく閉じた。
馬鹿馬鹿しい。
初代勇者の伝説では確か、単身で魔王討伐に挑み成功している。今はまだ成長途中なだけで、凛も時が経てばそれだけの力を手にする可能性があるはずだ。
だが、もし状況がそれを許さなかったらどうだろう。
凛が、成長しきる前に本格的な戦いに身を投じる様になれば否が応でも彼女は、光征が辿った道を行くことになる。それは、茨の道である。
でもだからって一体自分は、どうすればいいのだ。
「山守君?」
また黙り混んでしまった光征の様子に凛は、心配して声を掛けた。
「何でもない。ちょっと人混みに酔っただけ。」
「そっかなら良いんだけど。あ、そろそろじゃない?」
凛は、嬉しそうに声を出して前方を指差した。
光征もそれにつられて前を見ると確かにとても大きな噴水が見えきた。
噴水は、魔導具によるイルミネーションが施されおりキラキラと輝いていて見る者を魅了している。
「わぁ、すごいね!」
凛は、小走りに噴水へと近寄り目を輝かせている。
「君は、怖くないの?」
そんな凛を見て光征は思わず声を出した。
「・・・・・・怖いよ?でも私は、1人じゃない。みんながいるから。だから頑張ろうって思える。」
「それは・・・・・・君の傲慢じゃないか?」
「そうかも知れない。でも、それが私だから。」
凛は、強い意志を込めた瞳で光征を見つめた。
そんな凛の視線に耐えかねて光征は、顔を逸らした。何故だか責められているように感じたのだ。
「山守君は、私の事恨んでる?こんな事に巻き込んじゃって。」
「そんなことは・・・・・・。」
「そっか。優しんだね。」
そう言って彼女は、光征に笑いかけた。
「山守君もみんなも私がちゃんと守るよ。みんなで笑って元の世界に戻れるようする。」
そして光征にそう宣言した。
その姿は、今の光征には、眩しく見えてやっぱり彼女をしっかり見ること出来なかった。
無性に恥ずかしくなり光征が、凛に背を向けようとした時に聞き覚えのある声がした。
「あれ?凛いないと思ったらこんなとこにいたのかよ。」
「あ、ほんとだ!おーい。」
いつの間にか近くに来ていたらしい健一達は、凛に気づくと声を掛け合流しようと近寄ってきた。
そして凛1人だけでなく光征も一緒にいることに綾と流は、驚き健一は、不快感を示した。
「って山守君も一緒だったんだ?もしかして邪魔しちゃった?」
「ううん。そんな事ないよ。」
「凛、なんでそんな辛気臭い奴と一緒にいるんだよ。ほっとけばいいだろそんな奴。なー山守、凛は優しいからお前のこと気にしてやってるだけなんだからあんま勘違いすんじゃねーぞ。」
ついに健一は、光征を呼び捨てにし不機嫌な態度で睨みつけた。
「だから宮里は、なんでそんなに山守君に絡むかな?もういい加減そういうのやめようよ。」
凛は、うんざりと言った感じで健一を諭すがあまり効果は無いようだった。
「別に勘違いなんかしてないさ。じゃあ、僕は行くから。」
「っち。」
「宮里!あ、じゃあまた明日ね。今日はありがとう。」
光征は、これ以上健一に絡まれても面倒なのですぐにその場を離れる事にした。
凛のお礼の言葉を背に受けながら、元来た道を雑踏に紛れながら宿に向かって歩いて行った。
宿に戻ると丁度エルとはちあってしまい光征は、何処に出掛けいたかを聞かれた。
「そうかリン殿と。有意義な時間だったか?」
噴水を見に行って来た事を話すとエルは、少し嬉しそうにし、光征にそう尋ねた。
「まあまあでした。」
「うん。なら良かった。明日から実戦だからな。気をぬくんじゃないぞ。」
「分かっています。」
光征の返事に満足し、エルは自分の部屋に戻って行った。
光征も宿の食堂で手早く夕食を取ると部屋に戻る事にした。
部屋に戻り明日の支度も終え、ベッドに横になったがなかなか寝付けずにいた。
気がつくと今日の凛の様子が頭に浮かんで来るのだ。
結局、光征が寝付いたの深夜遅くの事だった。
朝早くにシンの街を後にし、光征達は、最近魔物の活動が活発になったと言われている問題の森林に辿り着いた。
まずは、エルが引き連れてきた騎士団員を森の調査に向かわせ魔物の群れを探すことになった。
それまでは、取り敢えず光征達は留守番である。
今回のターゲットは、狼の様な姿形をした魔物で鋭い爪と大きな牙が特徴の魔物だ。
光征も前回の召喚で何度も戦ったことがあるくらいには一般的な魔物で、群れると厄介だが、一体一体の力はそこまで脅威でなく、対処方さえ間違えなければそう大きな問題のない魔物である。
エルの言う通り充分な準備さえしていれば、新兵くらいの訓練にはもってこいの相手である。
「今回の魔物なんかちょっと様子がおかしいみたいなんだよね。」
「あー、なんか出現する数が多いらしいね。しかも、2、3の群れに分かれて人間を襲うらしいし。」
待っている間、沈黙に耐えかねたのか綾が口を開いた。
口ぶりから察するに少し不安を抱いている様子だ。
「油断しない方がいいな。」
「そうだね。ランク的にはあんまり高いわけじゃないみたいだけど。」
「ま、でも結局、俺たちの敵じゃないでしょ。今までだってそうだったしさ。」
健一は、そう楽観的に締めくくるとその場で軽く伸びをして、あくびをした。
健一の態度にみんな流されたのか、先ほどまであった張り詰めたような空気が薄れた。
凛達の会話を横で聞きながら、光征は落ち着かない様子であたりを伺っていた。
これは前からの癖で、実戦を前にすると光征は、その緊張を隠せないのだ。基本的に臆病者気質なのだろう、けどだからこそ光征は今までの死闘を潜り抜けてきたとも言える。
だが、そんなことなど知らない健一は、落ち着きのない光征を見て口に出すことはしなかったが、嘲りの視線を送っていた。




