第十一話
見渡す限り何もない草原を光征達は、馬車に乗って走っていた。
空は蒼く澄んでいて、雲も少ないいい天気なのだが、馬車の雰囲気は雲行きが少々怪しい。
それもそのはずで、今馬車の中には凛、光征、エルの順に座っており、前回のいざこざからか凛はエルに対してあまりいい感情を持っておらず、時折牽制するような視線を彼女に送っていた。
「山守君、今回の遠征は、君にとってはあくまでも訓練の一環なんだから無理しないようにね。」
「コウセイ、実際の任務中は私の指示に従ってもらうからな。そのつもりでいろよ?」
「・・・・・・。」
あまりの居心地の悪さに普段から口数の多い方でない光征は、さらに口を閉ざしてしまう。
2人からの圧力が強すぎるのだ。
「コウセイ、返事は?」
「・・・・・・はい。」
強引なエルの言葉に凛は、むっとした表情を作った。
凛とエルの一連のやりとりに周囲はひやひやと様子を伺っていたが、意を決して流はエルに話しかけた。
「今回の遠征は僕達にとっても初めての事だからなんだか落ち着かない感じがします。」
「そうですか。でも大丈夫ですよ。私も付いていますし噂に聞く貴方たちの実力ならば全く問題ないでしょう。」
「そうですか。なんだか少し安心しました。エルさんは、もう何度もこういう事してるんですよね?心強いです。」
「いえ、私なんてまだまだですよ。ベルベット団長に比べればひよっ子も良いとこです。もっと精進しないと」
流の言葉に少し笑みを浮かべながら、エルは答えた。
「でもいざとなったらしっかりと貴方方をお守りするので安心して下さい。」
「それは心強いです。ありがとうございます。」
「っていうか今回は泊まりがけって聞いてるし、楽しみだわ」
「確かに健一の言う通りだな。えっと確かシンっていう街に泊まるんだっけ?」
今回の遠征は、帝都ミッドガルドの南西にある森林地帯の魔物の討伐だ。何やら最近、原因は不明だか森の魔物が活発化しており近隣の村や街に被害が出てしまっている。
あの辺りに生息する魔物自体は、そう強い個体は存在していない為、ちょうど良い訓練になると騎士団の団長ベルベットが凛達に討伐の指示を出したのだ。
そしてエルもそこへサポート要員として騎士団員を連れて参加することになった。
先の勝負で負けた光征もエルとの約束があった為に今回の遠征に参加しているというわけである。
先ほどテンション高めに健一が言った通り、彼らにとって泊まりがけの遠征と言うのは初めての事なので
、どこか浮き足立った雰囲気がある。
「エルさんは、そのシンっていう街に行ったことあるんですか?」
幾分か雰囲気が穏やかになった事を感じて綾がエルに話しかけた。
「ええ。あそこは、良いところです。自然が豊かで観光資源も多い比較的大きな街ですよ。」
「へえ。楽しみだな。」
「確か着くのは、夕方くらいだよな?着いたらみなんで少し観光しよーぜ!」
「それいいね!」
年相応な表情を見せる彼らを見て、エルは先ほどまでの硬い表情を崩した。
「シンは、大きな円形状の街で中心には、街のシンボルとも言える巨大な噴水広場がある。私も見たことがあるが、あれは見物です。一度見ておいて損はないでしょう。」
「へえ、ありがとうエルさん!じゃあ街に着いたらそこに行ってみようよ!ね、凛?」
「う、うん。いいかもね。あの山守君も一緒にどう?最近私たち、あんまり話してなかったしさ。」
シンの街の話を聞いて少しそちらに興味が移ったのか凛も先程の機嫌の悪さは無くなっているようだ。
「そうだね。せっかくこういう機会なんだし一緒に行こうよ!エルさんもどう?」
「いや、私は遠慮しておくよ。コウセイ行ってきたらどうだ?」
おずおずと光征を誘った凛とは対照的に身を乗り出す勢いの綾にエルやコウセイは、少したじろいでしまった。
「ぼ、僕もちょっと遠慮しておこうかな。馬車って慣れなくてさ。着いたらすぐに休もうかと。」
「そ、そっか。残念だな。」
光征の返事を聞き、凛はぎこちなくうなづいた。
そんな2人の様子を健一は面白く無さそうに見ており、不満気に声を出した。
「なぁ、山守クンさ、なんかそういう態度ってないと思うよ?せっかくこっちが気ぃ使ってやってんだから。」
「・・・・・・悪い。」
「だからさ。前から言おうと思ってたけど、なんかその被害者ぶった態度がムカつくんだよね。」
「ちょ、ちょっと。」
「止めんなよ凛。こういう奴には、一回ちゃんっ言っておいた方がいいんだよ。みんなもそう思うだろ?」
「そ、そんな事ないよ。ね、山守君もあんま気にしなくていいから。宮里は、時々こう空気が読めないんだよね。」
召喚されてから今までの光征の協力的でない態度に不満を感じていた健一は、ここぞとばかりに光征に思っていたことをぶつけた。
大体が健一からしたら光征なんて本当にどうでもいい存在なのだが、何かと凛が彼を気にするので気に入らなかったのだ。
凛とエルが揉めた原因だって、元を正せば光征が無能だからこうなってしまったのだ。
ほんとに足手まといな奴である。
「っち。」
感情の読めない目でこちらを見つめられ、健一は更に苛立ちを隠せなくなり光征の胸ぐらを掴もうと手を伸ばさそうとしたが、それは流に止められてしまった。
「そこまでにしておけ、健一。ごめん、山守君。健一も悪気があるわけじゃないんだ。ただ、みんなで仲良くしたかっただけなんだよ。」
「そ、そうだよ!喧嘩は、良くないよ!みんな仲良くしよ?ね?」
一色即発の空気だったが、2人のとりなしでなんとか収まり健一は、浮かしていた腰を椅子にどかりと押し付け目を瞑った。
光征ももう謝ることはしないでそのまま腕を組んで黙りこくってしまった。
馬車内の空気は、再度重くなり他の4人が会話をする事はあっても2人が喋ることは無かった。




